孤独な天使
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#11 [なー]
とっさに曲がったのは、見覚えのない細い道だった。
しばらく歩くと右手に小さな本屋が見えた。

みちくさ書店。

その佇まいから、昔ながらのいわゆる町の本屋さんといった感じだ。

るりこは「みちくさ書店」の雰囲気に何となく惹かれ、寄ってみることにした。


「いらっしゃい。」
狭い店内には店主と思われる白髪の老人が、本の整理をしていた。

本棚に様々な本がぎっしりと並べられている。

⏰:12/08/03 13:36 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#12 [なー]
どれくらいそこに居ただろうか。

ふと時計に目をやった。
14時30分。

(あと一冊読んだら帰ろう。)

『自殺未遂』というタイトルがるりこの目に止まった。

(今の私にぴったりじゃん…。)

『自殺未遂』を手に取り読み始めた。

すると店の扉が開いた。

「いらっしゃい。」
「こんにちは。」
店内に入ってきたのは、るりこと同年代くらいの青年だった。

⏰:12/08/03 13:49 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#13 [なー]
「お母さん、大丈夫なんかい。」
「来月には退院できるかもしれないって。」

顔馴染みの客らしい。

「そうかい。それはよかったねぇ。」
「うん。早希も物凄く喜んでたよ。」
「そういや早希ちゃんに長いこと会ってないなぁ。元気にしとるんかい?」
「うん。中学でも陸上部に入って頑張ってるよ。」
「そうかい。小学校から今も続けよるんかぁ。感心やなぁ。早希ちゃんもう中学生なんやなぁ。」
「おじちゃんは何も変わってないね。」
「あははは。」

青年は小さい頃からみちくさ書店に通ってるらしい。
楽しそうに談笑している。


しばらくして青年は店内の本棚を物色し、るりこの隣に立った。

⏰:12/08/03 14:11 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#14 [なー]
「田中るりこさん…だよね?」

「へ?」

不意に声をかけられ、声が裏返った。

「あ、はい。そうですけど…。何で私のことを…?」

るりこはこの青年のことを知らなかった。

(同じ学校の人かな。同じクラスでもないのに何で私なんかのこと知ってるんだ?)

るりこは地味で目立たないタイプだ。
自分のことで噂が立つようなこともない。

「田中さんは気付いてないかもしれないけど、僕達良く会ってるんだよ。」

「ほら、田中さん図書室良く行くだろ?僕も良く行くんだ。それで田中さんの顔と名前覚えちゃった。」

「そうなんですか…。」

「あっ、僕3年E組の竹内っていうんだ。今度図書室で会ったら声掛けるよ。」

「あっ…はい。お願いします。」

自分とは違い、屈託のない笑顔。

るりこは目を合わせることができず、彼のバッグにぶら下がっているストラップをじっと見つめていた。

(困ったな…。早くあっち行ってくれないかな…。)

⏰:12/08/03 14:32 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#15 [なー]
グルルルゥ。

「ハッ!ごめんなさい!」

お腹が鳴った。
そういえば朝から何も口にしていないことに気が付いた。

「あははは。田中さんもお腹鳴るんだね。」

るりこは顔が真っ赤になった。

「あ、あの、田中さん…。これから暇?もしよかったら喫茶店にでも行かない?」

「え…は、はい。行きます。」



2人はみちくさ書店から歩いて5分程の距離にある「まりん」という喫茶店に入った。

(…竹内君、何を考えてるんだろう。)

会話はない。

るりこはいたたまれなくなった。

(竹内君、私なんかと一緒にいて楽しくないよね…。)

「あのっ。私、やっぱり帰ります。すみません。」

「どうしたの?用事でも思い出した?」

⏰:12/08/03 16:12 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#16 [なー]
「あの…私、ダメなんです。他人とこうして向かい合ってると…その、緊張してしまって…。上手く話せないんです。」

(うわぁ。何言ってるんだ私。変な奴と思われたかなぁ。)

ちらっと彼を見る。

「緊張したっていいんじゃない。」

「え?」

「僕はそんなこと気にならないけどね。」

「上手く話そうとなんかしなくていいよ。僕はありのままの田中さんといたい。」

(あれ、なんだか気持ちが楽になっていく…。)

「あ…ありがとうございます。」

「けど無理はしないでね。せめて何か食べてからにしなよ。」

彼は微笑みながらテーブルの隅の呼び鈴を鳴らす。

「ベリーパンケーキひとつ。」

⏰:12/08/03 16:22 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#17 [なー]
「まりん」を出ると辺りはすっかり暗くなっていた。


「送ってくよ。」

「ありがとう。」

2人は歩調を合わせてゆっくりと歩く。
まるで別れを惜しむように。

(帰りたくないなぁ。)

帰り道も特に何を話す訳でもなく、ゆっくりと歩いた。
沈黙が心地よい。

つい先日、自殺未遂をしたとは思えぬくらい穏やかな気持ちだった。

「あそこが私の家。」

「そうなんだ。家の前まで送っていくよ。」

「ありがとう。けどもうここで大丈夫。」

「そうか。気をつけて。」
「竹内君もね。今日はありがとう。」

(不思議だ。目を見て話せる。)

「こちらこそ。じゃ。」

2人は別れを交わし、別々の方向に歩き始めた。
頬に当たる風がやけに冷たく感じた。

⏰:12/08/03 16:33 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#18 [なー]
いつもおどおどしていて、他人の目を気にして自然体でいられない。
思っていることを口に出せずヘラヘラ笑ってごまかし、いつも心の中にモヤモヤができる。
NOと言えない。嫌われるのが怖いから。

そんな偽りだらけのるりこが、竹内といるときだけ本当の自分でいられる気がした。

それから竹内と学校以外で会う回数も多くなった。

(早く会いたい。)
(もっと一緒にいたい。)

この感情が恋だと気付くのにそう時間はかからなかった。

⏰:12/08/03 16:41 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#19 [なー]
そして2人は付き合い始めた。

「るりこちゃん、学校終わったら僕んち来ない?親、いないから。」

るりこは返事に迷った。
(え、部屋に行くってことは…つまり…そういう事になるんだよね…)
いくら恋愛経験の乏しいるりこでも、男と女が部屋に2人っきりということがどういうことかはわかる。
(けど…竹内君なら…)

「う、うん。行く。」

⏰:12/08/03 16:47 📱:N03B 🆔:☆☆☆


#20 [なー]
「お邪魔します。」

思っていたより小さくて古い家だった。

「ここが僕の部屋。適当に座って。」

狭い部屋だが想像通り綺麗に片付いてた。

ベッド、机、本棚、必要最低限のものしか置かれてない殺風景な部屋は男子高校生の部屋とは思えない。

「僕、お茶入れてくるね。」

好きな異性の部屋に一人きり。
いろいろと探ってみたい気持ちをぐっと抑えた。
特にベッドの下が気になる。

(竹内君だって男の子だもん。いやらしい本の一冊や二冊、持ってて当然だよね。)

ベッドの下を覗いてみる。

(あれ、ない!やっぱりベッドの下なんてベタすぎるよね。)

ふとベッドの上に目をやる。

(竹内君のベッド…。いつもここで寝てるんだよね。どんな匂いがするんだろう。)

るりこはよからぬことを考えた。

枕に顔を埋め、思いきり息を吸い込んだ。

(竹内君…スゥ。あぁ、いい匂い。男の人の匂い。たまらない。)

⏰:12/08/03 17:04 📱:N03B 🆔:☆☆☆


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