俺とコウの物語

ベンチに座り、しばらく幸子は俯いたまま何も話さなかったが、しびれを切らしたコウが煙草に火をつけると同時に重い口を開いた。

「実は昨日、電話かかってきてん…」

「誰から？」

「…わからんねやけど…内容が…」

「うん、内容が？」

「………あんたは嫌われてるって…」

「…は？」

あんたは嫌われてる？

あんたはって…幸子が？

俺の愛しいマイハニー幸子が嫌われてるやて？

そんな馬鹿な。

「…昨日何回も……」

何回も…？

「同じ番号から？番号でてたんやろ？」

「…非通知やってん…でも、声は同じやった…」

「その声に聞き覚えはありますか？」

煙草の煙を吐きながら、コウは眉間にしわを寄せた。

「…わからへん…」

「非通知で何回も…？」

俺は幸子を悲しませるのが大嫌いだ。

全く手掛かりもないが、その非通知の犯人に殺意が芽生えた。

「…くそっ……」

幸子は今にも泣きそうになっている。

「それは何時頃ですか」

冷静にコウは問う。

「夜の…８時頃から10分おきくらいにずっと…。途中で電源切ったから、それからはわからへんねやけど…」

10分置きにずっと…？

俺は得体の知らない非通知魔にイライラがつのった。

「…ほぅ。許せませんね。僕の幸子さんにこんな事をするなんて」

「…今なんて」

「僕のアイドル幸子さんにこんなひどい事をするなんて許せません」

「さっきアイドルて付けてなかったやん」

「忘れてました。志乃くん、あまり怒らないで下さいよ」

怒るわい！
あたかも幸子が自分のものみたい言い方しやがって。

「幸子は俺のやから」

「知ってますよ」

クスクス笑うコウの隣で、幸子は俯きながらも顔を赤らめた。

…なるほど。
コウのたくらみか。

幸子を暗い表情から少しでも救うために言ったようだ。

それでも許さないけど。

コウの頭を一発ぶん殴り、幸子に詳しく話を聞くことにした。

「…痛いです」

頭を押さえながらコウは俺に向かいぶつぶつと文句を言っている。

「やかましい」

コウを気にせずに幸子の話を聞く。

「急に鳴ったん。携帯が。ただ、一言だけ“あんたは嫌われてる”って…ずっとその一言だけやった。」

一言だけ…ずっと…

何か変や。

「その声もね、なんか機械音みたかった。普通の電話口の声じゃないみたいな…なんか怖かってん…」

「嫌われる心当たりも、もちろんないですよね？」

「当たり前やん！幸子が嫌われるわけないやん！」

馬鹿じゃねーのか！？

「志乃くん興奮しないで下さいよ、聞いただけですから」

聞く必要もないわ！
幸子が嫌われる理由なんてない！

「まぁ…幸子さんが嫌われる原因があるならば…嫉妬ですかね」