―温―
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#216 [向日葵]
香月「静流が何か言ったなら本心なんかじゃない。」
紅葉「そんなの分かんない!きっと本心だから出て行けって言えたのよ!」
「本心じゃない。」
息を飲んだ。
時間切れだ。
もう手遅れ。
香月さんも手を離してくれない。
私はこのまま引き渡されるんだ……。
香月さん越しに香月さんの後ろを見れば、そこには傘をさしてる香月さんとは違って、ずぶ濡れの静流が立っていた。
:07/09/03 01:55 :SO903i :WQXhAmnc
#217 [向日葵]
静流「香月。ありがとう。」
香月「おう。じゃあまたな。」
私の手を引っ張って静流に近づけた後、香月さんは自分の家に向かって雨の中に姿を消した。
沈黙が流れる。
耳をつんざく雨の音とは別に、ドクドク言う私の鼓動が耳の奥で聞こえた。
早く……足動かさないと……。
私、また静流にとって邪魔な存在になる。
静流の顔がまともに見れなかった。
自分の足元ばかり。
足のサイズが一回りも二回りも大きい静流の足も見える。
:07/09/03 02:00 :SO903i :WQXhAmnc
#218 [向日葵]
静流「足……。」
静流の声に体が震えた。
同時に胸の奥がキンと痛んだ。
静流「血……出てる。痛い?」
声が出ない。
香月さんとは平気で話せたのに。
口を開いても、いつの間にか中はカラカラに乾いていた。
ぎしぎしする首をなんとか縦に振って、痛いと肯定。
静流は小さな声で「そっか…。」と呟いた。
そして再び沈黙が訪れる。
:07/09/03 02:04 :SO903i :WQXhAmnc
#219 [向日葵]
先に口火を切ったのは私だ。
なんとか口内を湿らせて言葉を紡ぐ。
紅葉「帰って……。」
未だ足元を見つめた私でも分かるくらい静流の視線が痛い。
紅葉「大丈夫。じ……さつしようだなんて考えない……し。どこかで……暮らすから。」
嘘。
本当はすぐにでもこの身を絶ってまた空にある極楽へ行こうと考えてた。
でも決して人が来ない所。そうすれば誰にも迷惑はかけない。
体はやがて……土に還る。
:07/09/03 02:09 :SO903i :WQXhAmnc
#220 [向日葵]
でも嘘をつかないと、きっと私が邪魔だとしても静流は私を離してはくれない。
だから嘘をついた。
静流は何も言わない。
ただ私を睨んでるか、見つめてるか。
もしかしたらさっさと行けって思ってるかもしれない。
それなら話は早いよね。
私が足をゆっくり半歩引いた時だった。
グイッ!!
紅葉「――――っっ!!」
静流は、私を抱き締めた。
:07/09/03 02:12 :SO903i :WQXhAmnc
#221 [向日葵]
紅葉「静流……。違う……。」
相手が違うでしょ?
そうするのは彼女よ。
私じゃない。
貴方が愛して止まない彼女よ。
邪魔者に……することじゃない。
私は静流の胸を押し返す。でも静流はビクともしない。
寧ろ少し力が増した気がする。
お願いだからやめて……。静流。
静流。
紅葉「静流…っ!離して……っ。」
:07/09/03 02:15 :SO903i :WQXhAmnc
#222 [向日葵]
静流は黙ったまま私を抱き締めている。
紅葉「どうしてよ…っ。出て行けって言ったじゃない!なのになんで……こんな濡れ……っ。」
言葉が続かなかった。
視界が滲む。
鳴咽で喉が詰まる。
息の仕方が分からなくなる。
紅葉「も……いいから。私なら、もう……いいから……。」
涙か雨だか分からない滴が頬を伝う。
そこで静流がようやく口を開いた。
静流「言ったじゃん……。」
:07/09/03 02:20 :SO903i :WQXhAmnc
#223 [向日葵]
かすれる声で私は「何を?」と聞いた。
静流は私を離して肩に手を置くと、顔の間近くで私を見つめた。
瞳に吸い込まれそうになる。
静流「見つかるまで探す……って。」
目を見開いた瞬間、何粒もの涙が落ちて行くのが分かった。
静流「あんな事言ってごめん。本心じゃない。それは信じて?俺は……紅葉が大切だよ。」
微笑む静流が見える。
痛い……。心臓が痛い……。
:07/09/03 02:24 :SO903i :WQXhAmnc
#224 [向日葵]
何故なら早足で脈を打ってるから。
そんな必要どこにもないのに。
だって静流の“大切”は、家族としてで、異性としてじゃないから。
でも、そんな言葉を言ってくれる静流が……
温かい微笑みをくれる静流が……私は大好きなんだ。
紅葉「邪魔…っじゃ、な、い……っ?」
しゃっくりと一緒に言葉を発するせいで子供みたいな泣き方になってしまう。
静流は微笑みをより一層深くする。
:07/09/03 02:28 :SO903i :WQXhAmnc
#225 [向日葵]
頭を撫でてくれると、また私を抱き締めてくれた。
静流「邪魔なんか思った事もないよ。」
静流の息遣いが耳元で聞こえる。
私は目を瞑って安心感に身を委ねた。
紅葉「ほ……と?」
静流「本当……。」
気持ちがこもってる。
大丈夫。
静流は私を邪魔なんて思ってない。
静流「足痛い?」
また静流が聞いた。
私はゆっくり頷いた。
:07/09/03 02:33 :SO903i :WQXhAmnc
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