―温―
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#636 [向日葵]
ホントは旅館の何かを手伝った方がいいんだろうけど、今日は土曜日。宿泊客が多い為、旅館はフル回転で動き回っていた。
「紅葉!」
襖を開けて、旅館の手伝いで忙しそうな渚さんが顔を出した。
「悪いんだけどさ、砂浜のゴミ拾いして来てくんない?私の日課なんだけど手が回んなくてさ!」
「ウン。分かった。」
そして渚さんはまた手伝いに行ってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ゴミ袋と、なんか挟むやつを持って砂浜へ。
:07/10/11 12:14
:SO903i
:fYkeSG8s
#637 [向日葵]
夏の風物詩、花火の欠片がちらほら落ちている。
そうか……もう七月だもんなぁ。
花火なんて、いつからやってないだろう。
そう思いながら、ペイッとゴミ袋へゴミを入れていく。
時々砂浜を見るのに飽きて、海を眺める。それを繰り返しながら、少しずつだがゴミを拾って行った。
その途中、立派な貝殻を発見。波の音が聞こえるか手を伸ばすと、違う手が先に掴んでしまった。
顔を上げてその手の人物に、私は目を疑った。
:07/10/11 12:18
:SO903i
:fYkeSG8s
#638 [向日葵]
「欲しいの?これ。」
久しぶりの低い声。
「……っ、し、ずる……。」
そこにはあの静流の姿があった。
変わらない柔らかい微笑みを浮かべて、さっき拾おうとしていた貝殻を骨張った大きな手で持っている。
「すっげー疲れたぁー!」
そう言いながら動揺を隠せない私をよそに体一杯背伸びをする。
「……っ。な、どーして……。」
「香月が教えてくれた。」
:07/10/11 12:23
:SO903i
:fYkeSG8s
#639 [向日葵]
教えないって言ってたくせに……っ。
でも私が聞きたいのはそういうんじゃない。
「ゴミ拾い?なら俺も」と言って袋を掴もうとした静流の手を私は振り払った。
「どーしてここに来てるの?!何で放っておいてくれないのっ?!」
「……言うと思った。」
静かに微笑む静流の顔は、口元に笑みを残したまま真剣な顔になった。
「好きだからだよ。」
「……っ。」
「紅葉が好きだ。だから、帰ろう?」
:07/10/11 12:28
:SO903i
:fYkeSG8s
#640 [向日葵]
私は居ても立ってもいられなくなって、ゴミ袋と挟むやつを放り投げて静流から逃れる様に走った。
「えっ?ちょ、紅葉っ?!」
靴が砂浜に埋もれそうで走りにくい。
私は走りながら靴を脱いで、暑くなった砂浜を走って行く。
「おい紅葉!待てってっ!!」
待つ訳がない。
会いたかった。
会いたくなかった。
来てくれた。
来て欲しくなかった。
:07/10/11 12:31
:SO903i
:fYkeSG8s
#641 [向日葵]
肯定と否定の気持ち、二つが胸の中で渦巻く。
早く旅館へ逃げ込まないとと思う前に、静流の指が、私の腕に絡んだ。
その表紙に私達は転んでしまって、波打ち際へダイブした。
おかげでビショビショ……。
「ハァ……ハァ……。」
「待てっ……て、言って……んだ、ろ……。」
二人とも息切れで、まともに喋れない。
それでも私は静流から早く離れたかった。
:07/10/11 12:38
:SO903i
:fYkeSG8s
#642 [向日葵]
一見端から見ればじゃれあってる様に見えるかもしれないけど、本人達にはそんなつもりはさらさらなかった。
静流から逃げようと試みるが、そんな事静流が許す訳なかった。
静流は私の腕を引っ張り、私を包みこんだ。
もちろん私は暴れた。
「や……っ!やだっ!静流やだぁっ!!」
「絶対もう離さないからな。」
「私じゃ……静流を……。」
:07/10/12 15:06
:SO903i
:a0mS0CVM
#643 [向日葵]
幸せになんか出来ない。
恐いの。
幸せに出来ない自分が。
愛されてしまう自分が……。
「お願い……双葉さんの元に」
「帰らないぞ!!」
いきなり大声を出されて、私はビクッとした。
静流は私の肩を掴んで自分から離し、至近距離で私を見つめた。
静流の目に、綺麗に小さな私が映っていて、思わず吸い込まれそうになる。
「俺はもう、紅葉じゃなきゃ嫌なんだ!何回好きって言わなきゃ気づいてくるないんだよっ!」
:07/10/12 15:10
:SO903i
:a0mS0CVM
#644 [向日葵]
「そ……な……。」
喉が乾ききってしまって上手く言葉が出ない。
「お前がそういう事に関して臆病になってんのは知ってる!でも俺は……お前が側にいないと……嫌なんだよ……っ!」
私は目を見開いた。
静流が私の頬を濡れた両手で包む。
「紅葉。好きだ……。誓うよ。お前を手放さないって……。ずっと側にいて?」
私の目からボロボロ涙が溢れる。
あぁ……ずっと求めてた。
温度がある、その言葉を。
:07/10/12 15:15
:SO903i
:a0mS0CVM
#645 [向日葵]
静流なら、信じられる。
もう迷う事はしたくない。
気づいた。私は幸せにすることを端から諦めていて、もう一度踏み出す事を恐れ、逃げていたんだ。
静流はいつでも、私に一歩踏み出す勇気をくれる……。
「ごめ……なさ……。勝手ばっかりして、ごめんなさい……。」
「紅葉……。」
静流の唇が、優しく私の唇に触れた。
今度は驚きでも何でもない。
:07/10/12 15:18
:SO903i
:a0mS0CVM
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