―温―
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#590 [向日葵]
「旅がしたかったんだって。心配しなくても、いつか帰ってくるから。」
いつか?
「いつかって……いつ?」
父さんは静かに微笑んで言った。
「いつか……だよ。」
つまり決まってない。
明日帰ってくるかもしれないし、1週間後に帰ってくるかもしれない。
それが、もし、何年も先だったら……?
俺は急いで階段を駆け上がり、携帯を手にした。
リダイアルで紅葉の番号を出し、電話をかけた。
:07/10/04 01:02 :SO903i :InOsgAz6
#591 [向日葵]
コールが鳴り続ける。
紅葉が出る気配が全くない。
プツッ
「!紅葉!今どこに」
{おかけになった電話は、電波の届かない所か、電源が入ってない為……}
携帯アナウンスに失望して、最後まで聞かないまま電話を切った。
どうして、こうなってしまったんだろう……。
*********************
段々と、景色が田舎になってきた。
見る限り、山、田んぼ、山田んぼ……。
緑一色しかない不思議な世界。
:07/10/04 01:06 :SO903i :InOsgAz6
#592 [向日葵]
ぼんやりと、初めて行く場所に向かっていた。
私は途中自販機で買ったミネラルウォーターを一口飲み、しばらく寝ることにした。
なんだか……目が重い気さえした。
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「紅葉が消えた?!」
今朝の出来事を香月に伝えた。
驚いている事から香月にも知らされていなかったらしい。
「何で消えるんだよ!意味分かんねぇぞ?!」
:07/10/04 01:10 :SO903i :InOsgAz6
#593 [向日葵]
「俺だって分かんねぇよ!!」
俺の荒けげた声に、クラスメイト何人かが振り向く。
香月は少しびっくりしていて目を見開いている。
「どこに行ったかとか……聞いてないのか?」
香月の言葉に、俺はうなだれて首を振った。
父さんからはただ一人旅だとしか聞かない。
何故俺には内緒だとか、何故行ってしまったとか、聞きたいのは俺の方だった。
「携帯にも繋がらないんだ……。メールも返ってこねぇし……。」
:07/10/05 14:59 :SO903i :Xf33hPuo
#594 [向日葵]
「おじさん、行き先知ってるんじゃないのか?」
「さぁ……。」
「「さぁ」っじゃねぇよ!イジイジしてる暇あるんだったら少しは行動して見ろよ!!」
……?
なんで俺が?
いや、行動するのには何も抵抗は無い。
寧ろ動きたくてウズウズしてるくらいだ。
「お前、何で俺の応援してんの?」
問いた時、香月はフゥ……と息を吐いた。
「お前ら、両想いだって知らなかったのか?」
:07/10/05 15:04 :SO903i :Xf33hPuo
#595 [向日葵]
頭の機能が、停止した。
真っ白になって、視界も何を見てるかなんて分からなかった。
紅葉が……?
だって俺が前、好きになる確率がないかと聞いた時、アイツは
[ない。]
……って……。
なら……どうして?
「ついでプラス、嫌味でお前にある事を教えてやろう。」
香月の声がしたのをきっかけに、俺は現実へ戻ってきた。
:07/10/05 15:08 :SO903i :Xf33hPuo
#596 [向日葵]
「お前の誕生日の時、紅葉はケーキを買ってきててなぁ。」
腕組みしながら喋る香月に俺は小さく「え?」と返した。
「帰ってきてケーキを見つけたお前が気をつかわないように紅葉は一人で食べたんだ。」
「一人?」
「一人。」ともう一度言って香月は黙った。
俺の様子を見ているらしい。
一方の俺は呆然としていた。
:07/10/05 15:12 :SO903i :Xf33hPuo
#597 [向日葵]
食べれないのに……一人で、全部……。
「さらに、ついでのついでだ。」
「まだ、あるの?」
「あぁ。俺はお前と違って相談役もしてたからなぁ?」
それを聞いてグッと歯を食い縛った。
よく考えてみれば、自分は紅葉に何をやってあげたんだろうか。
「今思い出した事だ。紅葉はな、お前が自分を好きになってしまったら出ていくって言ってた。丁度そのケーキの件の時だ。」
:07/10/05 15:18 :SO903i :Xf33hPuo
#598 [向日葵]
血の気が引いていくのが分かる。
まさか自分が原因だったなんて。
でも何故俺は紅葉を好きになっちゃならなかったんだ……?
紅葉も俺を好きなら、それでいいんじゃないのか?
「紅葉はな。」
「ん?」
「優しすぎてんだよ。」
脳裏に紅葉の痛々しい笑顔が蘇る。
今なら、あの笑顔の意味が分かる気がした。
「自分のせいで、双葉ちゃんが悲しい思いをするのが嫌だったんだろうな。」
:07/10/05 15:22 :SO903i :Xf33hPuo
#599 [向日葵]
「だってそうだろ?」と香月は続けた。
「考えてもみろよ。あの子は捨てられたんだ。しかも自分が邪魔だと親に言われたんだろ?だから、邪魔者にならない様にいつも我慢してたんだよ。」
[私は不要じゃない!]
紅葉を拾って来た時、紅葉が叫んでいた。
「……俺……。」
その時からかもしれない。
紅葉が好きだったの。
放っておけなくて、危なっかしくて……でもどこか愛しくて……。
:07/10/05 15:27 :SO903i :Xf33hPuo
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