―温―
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#580 [向日葵]
「わがままを……聞いてくれて、ありがとうございました。」
すると源さんは、悲しそうな微笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。
「いつでも帰ってきてね。君は僕達の家族なんだから。」
家族……。
最初から源さんや静流は前から私がいたみたいに扱ってくれた。
それをとてもありがたく思う。
「行ってきます。」
私は源さんの方は向かずに戸を閉めた。
:07/10/02 23:35 :SO903i :P1FKxZVI
#581 [向日葵]
門を出て数歩歩いてからまた家を眺めた。
驚くほどの家のでかさ。
いつも自分が愛用していたベランダ。
いつも明るかったリビング。
水やりしていた花壇。
そして……あそこは静流の部屋……。
じって見つめる。
もしかしたら静流が止めにくるかななんて馬鹿な事を思いながら。
そんな事をしたら意味が無くなるのに。
どうしてだろう。
永遠の別れじゃない筈なのに、もう二度と会えない気がする。
:07/10/02 23:39 :SO903i :P1FKxZVI
#582 [向日葵]
でも、それでもいい……静流さえ幸せになってくれれば、それでいい。
そして私は歩き出した。
6月の早朝はなんだか湿っぽい。
遠くで新聞配達の音が聞こえる。
私のジャリジャリと言う歩く音が聞こえる。
その途端、胸が一杯になった。
涙がボロボロ流れ始める。
「―――っう……っ。ふうぅ……っっ!」
歩くのが何だかもどかしくて、私は走り出した。
:07/10/02 23:43 :SO903i :P1FKxZVI
#583 [向日葵]
「ハッ!ハァッ!!……んくっ……っ。」
泣いてるせいで、呼吸困難になりそう。
でも走り続けた。
幸せに憧れた。
幸せになりたかった。
もっと一緒にいたかった。
もっと一緒にいてほしかった。
でも私はそれほどの人間でもなく、自分が幸せに敏感なだけに人の幸せを奪うのはどうしても出来なかった。
ずっと頭の中で、そう唱えてた。
【俺は紅葉が好きだ。】
:07/10/02 23:47 :SO903i :P1FKxZVI
#584 [向日葵]
朝日が見え始め、その光を全身に目一杯浴びる。
静流。
私も好き。大好き。
ゴメンネ。
答えてあげられなくて。
静流……静流……。
「っうあぁぁ!!……ひっ!ハァッハァッ!!」
またね……って、言えない気がする。
だから
さようなら。
:07/10/02 23:50 :SO903i :P1FKxZVI
#585 [向日葵]
―会―
朝だ……。起きなきゃいけない。
今日も学校だ。
俺はぼんやりしながら体を起こした。
ふと、右手を見てみる。
何か感触が残ってるような。
:07/10/02 23:53 :SO903i :P1FKxZVI
#586 [向日葵]
それが何かなんて、検討もつかない。
そのまま視線を滑らすと、紅葉の布団に紅葉がいない。
彼女は確かにいつも早起きなのだが、起きたような布団の形はしていなかった。
敷いてそのままと言う感じだ。
もしかしたらまたソファーで寝てしまっているのかもしれない。
確認の為、俺は部屋を出た。
リビングに向かうと、シーンと静寂に包まれていた。
:07/10/03 00:00 :SO903i :RMOaFhzI
#587 [向日葵]
寝息のような音すら聞こえない。
でもとりあえず呼んでみる。
「紅葉ー?」
もちろん返事などなかった。
ソファーに一歩一歩近づいて行く。
何故だろう。
心臓が高鳴っていくのがわかる。
胸騒ぎと言ったらいいのだろうか。
予感は的中。
……紅葉が
いない……。
:07/10/03 00:07 :SO903i :RMOaFhzI
#588 [向日葵]
「……れは……?」
よたよたと後退して行き、ザッ!っと体を翻して父さんの部屋へ向かった。
階段をこけそうなくらい早く降りて、廊下を大股で走って行く。
ドンドンドンドン!!
俺は父さんの部屋のドアを思いっきり叩いた。
「父さん!父さん!大変だ!!」
俺がこれだけ混乱してるって言うのに、父さんはゆっくりとドアを開けた。
「父さん……っ?!大変だってば……っ!」
:07/10/03 00:17 :SO903i :RMOaFhzI
#589 [向日葵]
父さんは何故か無表情だった。
そこで俺は分かった。
「知ってんの……?紅葉いないこと……。」
父さんはゆっくりと頷いた。
俺は訳がわからなかった。何故?何故出ていく必要があったんだ?
俺のせい?
俺が好きだとか言ったから?
パニック状態になった俺の表情を読み取った父さんが言った。
「大丈夫。一人旅に出かけただけだから。」
「一人……旅?」
:07/10/04 00:58 :SO903i :InOsgAz6
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