―温―
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#596 [向日葵]
「お前の誕生日の時、紅葉はケーキを買ってきててなぁ。」
腕組みしながら喋る香月に俺は小さく「え?」と返した。
「帰ってきてケーキを見つけたお前が気をつかわないように紅葉は一人で食べたんだ。」
「一人?」
「一人。」ともう一度言って香月は黙った。
俺の様子を見ているらしい。
一方の俺は呆然としていた。
:07/10/05 15:12 :SO903i :Xf33hPuo
#597 [向日葵]
食べれないのに……一人で、全部……。
「さらに、ついでのついでだ。」
「まだ、あるの?」
「あぁ。俺はお前と違って相談役もしてたからなぁ?」
それを聞いてグッと歯を食い縛った。
よく考えてみれば、自分は紅葉に何をやってあげたんだろうか。
「今思い出した事だ。紅葉はな、お前が自分を好きになってしまったら出ていくって言ってた。丁度そのケーキの件の時だ。」
:07/10/05 15:18 :SO903i :Xf33hPuo
#598 [向日葵]
血の気が引いていくのが分かる。
まさか自分が原因だったなんて。
でも何故俺は紅葉を好きになっちゃならなかったんだ……?
紅葉も俺を好きなら、それでいいんじゃないのか?
「紅葉はな。」
「ん?」
「優しすぎてんだよ。」
脳裏に紅葉の痛々しい笑顔が蘇る。
今なら、あの笑顔の意味が分かる気がした。
「自分のせいで、双葉ちゃんが悲しい思いをするのが嫌だったんだろうな。」
:07/10/05 15:22 :SO903i :Xf33hPuo
#599 [向日葵]
「だってそうだろ?」と香月は続けた。
「考えてもみろよ。あの子は捨てられたんだ。しかも自分が邪魔だと親に言われたんだろ?だから、邪魔者にならない様にいつも我慢してたんだよ。」
[私は不要じゃない!]
紅葉を拾って来た時、紅葉が叫んでいた。
「……俺……。」
その時からかもしれない。
紅葉が好きだったの。
放っておけなくて、危なっかしくて……でもどこか愛しくて……。
:07/10/05 15:27 :SO903i :Xf33hPuo
#600 [向日葵]
「お前は、よく紅葉を見てんのな……。」
いかに、今まで自分は自分の事しか考えていないかよく分かった。
香月に妬いて出ていけといったり、変な態度をとってケンカしたり、勝手に殴ったり……。
自分はどれだけ紅葉を傷つけたんだろう。
あの痛々しい笑顔以来、紅葉の心から笑った顔は…………見てない……。
ゴンッ!!
頭に激痛。
急な事に目の前にはチカチカ星が飛んでる気がした。
:07/10/05 15:31 :SO903i :Xf33hPuo
#601 [向日葵]
「ぃいっってぇぇ……。」
「だって殴ったもん。当たり前だろ。」
平然と言ってのける香月を頭を抑えながらキッと睨む。
その視線を涼しい顔でサラリと流されてしまった。
「落ち込んでる場合か。俺なんか何を言っても紅葉の心はお前ほど動かせないんだぞ。」
改めて思った。
「お前ってカッコイイよな。」
「だって人気あるもん。」
よく分からん答えだ。
:07/10/05 15:36 :SO903i :Xf33hPuo
#602 [向日葵]
**********************
プシュー……
「着いた……。」
新幹線で3時間。バスで2時間。計5時間の道のりに私はぐったりしていた。
目の前にはドでかい旅館。まるで千と千尋の●隠し……。
ついでに頭がデカイおばあさんとか出てくるのかしら……。
旅館のすぐ近くには海があった。
防波堤を越えれば砂浜があるだろう。
風が穏やかなので波は高くなさそうだ。
:07/10/05 15:40 :SO903i :Xf33hPuo
#603 [向日葵]
荷物置いたら後で出てみようかしら。
そう思いながら足を進め、旅館へ入って行った。
「……こんにちわ……。」
受付の人におずおず挨拶をした。
「あ、いらっしゃいませ。ご予約してますか?」
着物を来た四十歳くらいの女の人に、私はコクコク頷いた。
「えっと……源さんって、ご存知でしょうか?」
「あぁ!貴方ね!ようこそ、おいでくださいました。お部屋に案内しますね。」
:07/10/05 15:45 :SO903i :Xf33hPuo
#604 [向日葵]
部屋に案内される間、従業員の後ろを歩きながら私は館内を見渡した。
オレンジ色をした証明は家なんかにある蛍光灯よりホッと落ち着く気がした。
下の赤いフワフワした床は硬い石のような物よりも好きだなぁと思った。
やがてついた部屋は、一人じゃ勿体無いほどの広い部屋で、畳の匂いがすごくした。
目の前にはさっき見た海が見えた。
「何かありましたらお呼び下さいね。」
「あ……どうも……。」
:07/10/07 19:43 :SO903i :vgFsuTWk
#605 [向日葵]
スタンと戸が閉められて、部屋が静かになった。
窓を開けてみると、潮風が入ってきて、波の音が聞こえた。
「のどか……。」
「失礼しまーす!」
いきなり誰か入ってきて、私はバッと振り向いた。
そこには私服の背の高い女の子がいた。
「貴方が紅葉?」
「はぁ……。」
女の子はニコッと笑って私の元へやって来ると握手を求めているのか手を出した。
「私は渚!18!ここの旅館の娘で、貴方のお世話をすることになってるの!」
:07/10/07 19:48 :SO903i :vgFsuTWk
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