―温―
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#606 [向日葵]
私は急な展開についていけず、渚と名のる女の子を凝視した。
女の子は変わらずににこにこしていて、握手を無理矢理してきた。
そして私の隣について海を眺める。

「綺麗でしょ?私もこの街が大好きなの。」


18の彼女は、18と思えない様な無邪気な表情でそう言った。
そんな彼女をうらやましくも思った。

私の中の無邪気な心は、どこかへ置いてきてしまったから……。

「貴方は、紅葉は、どうしてここへ来たの?」

⏰:07/10/07 19:53 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#607 [向日葵]
彼女の方を見ると、私の方は見ずに海を見ながら私に問いていた。

私はまた海に目を移して、青い海に映った静流の面影を見ながらぼそりと言った。

「何も考えたくなくなったから……。」

そう答えてからは、また黙った。
渚さんもそれ以上は何も聞いてはこなかった。

そこで思った。

ここに来るお客は、私の様なのが多いんではないかと。

源さんもそれを分かっていたからここに私を預けたのかもしれない。

⏰:07/10/07 19:58 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#608 [向日葵]
私にとって、有難いことだ。でなければきっと浮いて、注目を浴びていたことになるだろうから。

*********************

「父さん!」

父さんの部屋のドアをノックもせずに開けた。
しかし父さんの姿はなかった。
どうやら仕事に行ってるみたいだ。

頭をガシガシかいて、自分の部屋へと向かった。

携帯を見ても、センターに問い合わせても、電話もメールも何も無かった。
きっと気づかないてない上に電源も切ったままなんだろう。

⏰:07/10/07 20:02 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#609 [向日葵]
「はぁ……なんだよ……。」

こんなに想ってんの俺だけかよ……。

……いや、違うか。
紅葉も俺を想ってくれてたんだろう。
だからあんなに気をつかって、そして静かに身を消した……。

思い出さなければ紅葉が今までいたかどうかも忘れてしまいそうだ。

いなくなったのは今日の筈なのにもう一ヶ月ほど会ってない気分だ。

試しに電話をもう一度かけてみた。
でもやっぱり出るのはガイダンスの無機質な声だった。

⏰:07/10/07 20:07 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#610 [向日葵]
またため息を深々とついて携帯をパキンとたたんでベッドに身を沈める。

頼むから……

声を聞かせてくれ。
姿を見せてくれ。

もう一度、好きだと言わせてくれ。

胸の中がむしゃくしゃして、それから逃れたくなって目を瞑った。

いつの間に、紅葉が側にいることが当たり前になってたんだろう。

だから香月の彼女になってしまった時に、事の、気持ちの重大さに気付いたんだろうと思う。

⏰:07/10/07 20:18 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#611 [向日葵]
「情けな……。」

自分はどうして、いつも気づくのがこうも遅いんだろうか。

*******************

夕方になり、海に太陽が沈んで行くのを砂浜で見ていた。

砂浜はゴミが全然なく、とても綺麗だった為普通に座った。

あぁ……やっと一日が終わった。
なんだか長く感じた。
きっと朝早くから動いてるせいだろう。

意味もなく、砂を掴んでサラサラと落とすのを何回も繰り返した。

⏰:07/10/07 20:23 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#612 [向日葵]
こんな風にサラサラになって、どこかへ飛んでいけたなら、私は何に気負う事もなく生きていけただろうに……。

どこで歯車がズレてしまったのだろう。

「く―――れは―――!」

どこからか私を呼ぶ声が聞こえた。
すると私の部屋の窓から渚さんが身を乗り出して手を振っていた。

「ご飯だよ―――!」

私はそこまで叫ぶ元気などなかったから、立ち上がり、旅館の方へ行く事で肯定の意味を示した。

⏰:07/10/07 20:29 📱:SO903i 🆔:vgFsuTWk


#613 [向日葵]
ご飯って言っても私の食べる物は限られていた。
いくら前に静流宛てのケーキを食べてのけたと言ってもまだ体調事態は完璧ではない。
寧ろあのあと2、3日胸やけと吐気に襲われたぐらいだ。

渚さんは私と一緒に食事をとった。
お世話と言うより友達の様な感じで。
「血液型は?」とか「好きな漫画は?」とか他愛のないことを話してきた。

私は短文でしか返せなかったけど、渚さんは満足してくれたのか話ははずんでいった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

布団を敷いて、寝る準備が出来た。

⏰:07/10/08 01:17 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#614 [向日葵]
これからこんな生活が続くのかと思うと、あまり悪くないと思った。

ベランダがわりとなる海があるのが救いなのかもしれない。

電気を消そうとしたら、また最初みたいに渚さんが布団を抱えてやって来た。

「え……。まさか……一緒に?」

「そうよっ!悪い?」

悪いって言うか……。私は出来れば一人でいたい。

「だってアンタ一人にしとくとなんだか危ないんだもん。」

まるで私の心を読んだみたいに渚さんはそう言った。

⏰:07/10/08 01:21 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


#615 [向日葵]
電気を消して、私は布団へ潜りこんだ。

「アンタさ、悩みでもあるわけ?」

「なんで?」

「んー。暗いからっ。」

「ふーん。」

暗いっ……かぁ。

「若いくせに何うだうだ悩んでんだか!」

「……うるさい。黙って。」

これにはカチンと来てしまった。
何も知らないくせに、軽い事なんて言ってほしくない。

⏰:07/10/08 01:24 📱:SO903i 🆔:vo1b5URk


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