.。改]恋愛成就の洞窟で。.
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#121 [桔妁]
 
と、そこに。

「そらやー!ばっちゃんから饅頭くすねてきたから食おう!!」

「…おぉ頼仲!いいところにやってきたじゃんか!!」

「は?」

――――

――


「わかった。つまり、おまいは繭に簪をあげたいというわけ。」

「そう!よろしくな!」

⏰:07/12/24 20:01 📱:SH903i 🆔:8vB3PghU


#122 [桔妁]
 
仕事の都合上、さらに繭を何日も家に一人にするのは危険と考えたので、頼仲にお使いを頼むことにした。

「三日で帰るけ!」

「まじかよ。」

余りに早いなと思いながら、天弥は頼仲に手を振った。


「さァ、今日から日にちをきちんと数えなくちゃな…。」

――――

⏰:07/12/24 20:04 📱:SH903i 🆔:8vB3PghU


#123 [桔妁]
 
三日後…。今日は十二月二日だ。

「……」

盛り上がった土の上で手を合わせる。

これは、仕事の"後片付け"だ。

と、草の外から人の影があった。

「誰ですかァ!!!」

裏返った声で、明らかにビビっていた。女か?

「怪しいモンじゃね-よ。」

そう言うと、返ってきたのは繭の声。

⏰:07/12/24 20:10 📱:SH903i 🆔:8vB3PghU


#124 [桔妁]
 
「天、弥?」

まさか、こんな夜に迎えに来るなんて思わないから、動揺して、

さっき頼仲からもらった簪を胸元から落とすところだった。

しかも、この仕事が繭にばれるのは嫌だ。

さらに慌てた俺だった。


そんな俺の事を知りもしない繭だから。

「迎えにきたんだ」

なんて言われたら恥ずかしい。

⏰:07/12/24 20:14 📱:SH903i 🆔:8vB3PghU


#125 [桔妁]
 
しかし、最近よくない噂の侍が居るようで、繭がよく無事だったと安心した。

だから叱ってやったのに。

天弥のほうが小さいから説得力が無いといわれた。


と、頼仲が女と家に来ていたようで。

あれほど言うなと言ったのに、繭に"お届け物"のことを喋ったようだ。

⏰:07/12/24 20:17 📱:SH903i 🆔:8vB3PghU


#126 [桔妁]
 
しつこく聞いてくる繭。

まぁ、あとで分かるんだから…って言ったらお見通しか。


冷たい木枯らしが、吹いていた。


.

⏰:07/12/24 20:19 📱:SH903i 🆔:8vB3PghU


#127 [桔妁]
 
その日の、夜の事だった。

「…何コレ?」

繭は俺に茶色い球体を渡してきた。

…イヤ、多分"アレ"ではないと思うが……

「コレなに?…やだなぁ!過去きて三年しか経ってないのに忘れちゃったの!?チョコボールだよ!!」

「は?……あ、あぁ!!」

⏰:07/12/24 23:00 📱:SH903i 🆔:8vB3PghU


#128 [桔妁]
 
ようやく、わかった。

チョコボールといえば…あのキョロちゃんの、あれか。

銀のエンジェル、三つ集めたのに…過去来てパァだったんだ、そういえば。

「で、これがなんだっていうんだ?」

⏰:07/12/25 00:00 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#129 [桔妁]
 
「ん-…。勿体ないから、一人で食べようかと思ったんだけどね……。あげる、よ。」

繭がチョコボールを差し出す。

「?」

タダでくれるなんて、なんか繭には有り得ないと思い、不思議に思っていた。

「ほ、ほら、クリスマスだと思って!!今、もう少しで雪降りそうじゃん!ね?」

けど、何故か今日の繭は素直に受け取れたから、俺も素直に受け取った。

⏰:07/12/25 00:06 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#130 [桔妁]
 
「…あ、ありがと……」

チョコボールって、食べるのにこんなに緊張しただろうか…。

俺はゆっくり口に運んだ。

「……あ!!」

「!!?ななな何だよ!!」

食べようと思ったら、繭が大声あげるもんだから口ん中に落っことしてしまった!!

⏰:07/12/25 00:08 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#131 [桔妁]
 
「し、賞味期限…平気かナ?」

「え、」

冷や汗かいたふうに笑う繭は、なんか憎めないが…

腐ったチョコだったら…どーするんだよ俺!!


「あ、来年の一月まで平気だ!あははっ!!」

口の中のチョコボールのことを気にしていたら繭がいった。

「な、なんだよ……。…ていうか…なんで本当に俺にチョコボールなんか?」

⏰:07/12/25 00:12 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#132 [桔妁]
 
そこがやはり疑問だ。

誰より食い意地のはった女だから、絶対に有り得ないのに……

「ん?…本当にクリスマスプレゼントだよ!」

そういう繭を、今日は信じようと思う。

「でもさ、普通…チョコはバレンタインじゃねーの?」

そこで、俺がチョコボールを食べながら、そうやっていえば。

⏰:07/12/25 00:16 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#133 [桔妁]
 
「いいじゃん!…ほんと、有り難うのひとつくらい言ってくれればいいのにっ!!」

がみがみ言う繭が楽しくて仕方ない。


こいつにとって、家族や友達に会えないのは不幸なのだろうけど、俺は繭に会えて、今までの三年間の不幸な日々が変われたから幸せだ。


本当のクリスマスの日には、きちんとプレゼントをあげよう。少なくとも、俺と過去に居て、楽しいと思える日が、ひとつでも増えるように。


.

⏰:07/12/25 00:21 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#134 [桔妁]
 
―Side繭――


夕刻―――…。

「静かでつまらない……。」

床に座っている繭だが、自分の心臓の音が聞こえるくらい静かで、つまらない。

と、収納スペースに一際古い箱があるのに気がついた。

「…金めのものかな……。小判とかならもらっちゃおー…」

興味本位で、箱に手をかけて、中を見た。

⏰:07/12/25 00:25 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#135 [桔妁]
 
「?服??」

それは、小さめのTシャツと短パンだった。

恐らく、というか確信を持ち天弥のだろう。

そして箱の底に、紙が入っていた。

手紙のようだ。

「…旅行楽しんでいらっしゃい……、おばあちゃんの言う事を聞くのよ。寂しくなったら、電話するのよ。」

お母さんの字だろうか。愛情が滲み出ているようだ。

⏰:07/12/25 00:29 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#136 [桔妁]
 
慣れた慣れたと、天弥は言っているだろうけど。

「天弥だって…帰りたい、よね…」

三年間、どんな思いだったんだろう。知らない土地で一人きりで…。

「よしっ!!元気つけてやらなくっちゃね!!」

私は、隠し持っていたチョコボールを鞄から取り出した。

「現代の味を食べさせてやろうかな!!」

⏰:07/12/25 00:31 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#137 [桔妁]
 
そう、私だって寂しいけど。

天弥が居たからだいぶ違う。

そのへんは、私だって分かってるんだから。

少しでも、繭が来てくれてよかったよ俺。とか思ってくれたらいいなって。


だから、まぁ…

早川先輩よりは下だけどね、天弥だって幸せでいて欲しいなって思うわけです。

―――

.

⏰:07/12/25 00:36 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#138 [桔妁]
 



通じていないようで

通じている


そんなふたりの

冬の始まりは

なんとなく

暖かかった。

⏰:07/12/25 00:39 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#139 [桔妁]
 
―第4章―

 ―新しい心の名前
   さようなら古い心――


.

⏰:07/12/25 00:41 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#140 [桔妁]
 
「お疲れ様、今日はあがりでいいよ。」

この店の主人の言葉は決まって定刻に。

「有り難うございます!」

私は、いつもとはきっと違う明るい声で言う。


だって今日はデートなんだから!

「…て、あれれ…天弥?」

⏰:07/12/25 01:40 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#141 [桔妁]
 
岩影に、天弥が居た。

「趣味悪いなぁ-。デートののぞき見?」

「………行くのか、本当に?」

私の厭味を無視し、天弥は聞いてきた。なんか、この顔は母性本能をくすぐるというか…。

でも今日は外せない!!早川先輩似の人とのデートは!

⏰:07/12/25 01:43 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#142 [桔妁]
 
「行くよ?…ていうか…天弥は、ど-したのよ?こんな時間に…」

「…仕事。」

そっけなく答える天弥に多少の苛々を覚える。

「ああ、ふ-ん。……あ、あの人だ!…じゃあ行く…」

足を一歩進めようとすると、不意に天弥が着物の裾を掴んだ。

「…やめとけ。」

そう私には聞こえた。…だが振り払って歩いていった。

⏰:07/12/25 01:48 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#143 [桔妁]
 
「本当にいらしたのですね!」

「俺が契りを破るとでも思ったか。…では、行くか。乗れ。」

前方に、馬――…。

しかも白馬!!!

王子様ァ!!!!


「チッ………」

二人が乗り、そして走りだす馬を追う少年が居た事は、誰も知らない。

⏰:07/12/25 01:54 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#144 [桔妁]
 


「そらや-……あれ、居ないんか?」

同時刻。頼仲とお雪が家にやってきたが、二人は居ない。

「折角一緒に呑もうとしたのにのう…。」

「何処へ行かれたのでしょう?」

頼仲は、持ってきていた酒を少し呑み、言った。


「まぁ…仕事でもやっとるんだろうねぇ……」

⏰:07/12/25 08:38 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#145 [桔妁]
 

「…ここ、ですか?」

繭がついたのは、町はずれの小屋の中だ。

中には高級そうな着物や、金銀財宝が置いてある。

「あぁ、今の宿泊場所だ。さぁ、座れ。」

「あ、有り難うございます…」

微笑んでくれると、やはりカッコイイ。

⏰:07/12/25 08:42 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#146 [桔妁]
 

「茶屋の娘…名は何と?」

出された飲み物は、お酒のようだった。まだ未成年だけど…早川先輩が出してくれたのだから…と、ちびちび飲む。

「私は繭と申します……あの…貴方は…」

「俺か?ナギだ。…まぁ、流れ者だから……………て…………るん……」


あ、れ……?

繭の意識は遠退いていった。いつの間にか、ナギさんの声も聞こえない。お酒の飲み過ぎ、にしては少な過ぎる量だし……

そんなことを考えている間に、完全に意識がなくなった。

⏰:07/12/25 12:55 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#147 [桔妁]

     お知らせ

・桔妁日常・
bbs2.ryne.jp/r.php/mynews/5249/

これからの情報や桔妁について...

⏰:07/12/25 21:01 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#148 [桔妁]
 
その頃…息を切らした天弥は町中に居た。

天弥の脚力は、並外れていた。だが、さすがに馬に追い付く事は不可能で…

「くそ…見失った……」

町に入った所で、馬を見失った。

「なんで繭を……………ん?」


急に、後ろから気配を感じた。

「天弥殿!!!!」

それはひとりの侍格好をした男だった。そして、天弥のよく知る人物…

「頼仲の兄上…?」

⏰:07/12/25 21:18 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#149 [桔妁]
 
頼仲とは打って変わった真面目な人柄の彼は、いつも何かと力になってくれる。

「弟から聞いたよ。今日"奴ら"が動いたんだって…。」

「…頼仲が?」

呼吸を直しながら俺は天弥は聞く。

「まぁ、正確には遊郭のお雪の客が漏らした話だが……今晩、娘を売って一儲けするらしい。」

娘…いわずと知れた、繭だろう。

「有り難うな…」

⏰:07/12/25 21:31 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#150 [桔妁]
 
場所の目星はついていた。

繭に出会ってしばらくのとき、村に現れた不貞な奴らの処理任務についた。

そのときに突き止めた場所は、町の端にある賭博場の地下だ。

取引はそこで行われるに違いない。待ち伏せればいいだろう。

「…じゃあ、俺は行く。」

そう頼仲の兄に別れを告げようとすると、彼は言った。

⏰:07/12/25 21:37 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#151 [桔妁]
 
「天弥殿は…変わったな。あの、繭殿のお陰だろうが……。余り、見失うなよ。」

それを聞いた天弥が、頼仲の兄の方を振り向いた時の眼は、冷えていた。とてもとても暗く…………。

年上の彼から見ても身震いをするような。

"これ"が天弥の職業なのだと、余計に実感させられる。


「……息を切らしていくな。負けるぞ。」

それだけを言うと、頼仲の兄は戻っていった。

⏰:07/12/25 21:46 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#152 [桔妁]
 

「………………。」

町の端の賭博場に急いだ。

まだ、間に合うか。奴らより先に繭を救わなくては。

過去世界での自分の苦しみを変えたのは繭だ。

いつの間にか、俺にとってかけがえのない人になった。

そう。とにかく、繭を…………


そんな気持ちとは裏腹に、冷酷な眼が言う。

⏰:07/12/25 21:50 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#153 [桔妁]
 
お前に幸せなどはない。

ささやかな自分の幸せさえも犠牲にしなくては、この職業はままならない。

でなければ、迷い死ぬ。

ただ頼まれた通りに、どんな奴らだろうと殺す…

それが"天弥"の新しい生き方であり、きれいごとに染まる事はもうできない、と。

過酷な生活の中で生き残るためには、リスクを背負わなくてはならないのだ、と。

⏰:07/12/25 21:55 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#154 [桔妁]
 
生活のために、ささいな幸せを、明け渡したのだ。

父も母も兄弟も友達も諦めた。

もう、自分が生きる事に全てを捧げようとした。

"神隠し"。

神がそう自分を定めたのは何故だろう。なぜ自分が。

通常の居るべき次元から離されて、そこに生きていたという跡を消された。

なら、ここで作ろう。自分は此処に居たのだと。

⏰:07/12/25 22:03 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#155 [桔妁]
 
たしかに自分は存在していたと、たくさんの魂にしらしめる。


間違いだ、分かっているのに。

過去に来た自分、此処に居る自分を認められない。

もはや自分が何なのかと、わからない。


だから、そうするしかない。

例え、嫌われても、かけがえのない者の前で血が舞おうとも。

⏰:07/12/25 22:09 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#156 [桔妁]
 

―――――
――




「……?」

ざわざわと、周りがうるさい。これが目が覚めた時の印象だ。

そして、暗い部屋のひんやりとした土の上に座っているような感覚で、なおかつ腕は縛られていた。

「なんでこんな…確か…」


そう、この場は間違いなく、天弥が読んだ場所である。

⏰:07/12/25 22:40 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#157 [桔妁]
 
「ナギさん……」

そうだ。ナギさんの小屋に入ったら…

意識がなくなったんだ…。


(腕が拘束されてるのは気分悪いなぁ…。

ていうかまさか……ナギさんが私を…?)


過去に来たんだから、ある程度の変な出来事は想定していたが…

⏰:07/12/25 22:47 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#158 [桔妁]
 
まさか、絶対いい人だと思ってた人がこんなことを……

っていうか結んで何しようとしてるの!?


繭が余裕をこいてめくるめく妄想をしていると、左側が明るくなった。

扉が開いたようだ。

⏰:07/12/25 22:51 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#159 [桔妁]
 
「目が、覚めたようだね?」

一瞬眩しくて分からなかったが、確かに早…じゃなくて、ナギさんだった。

「ナギさん、あのこれ…」

聞こうとした瞬間だった。


ナギさんの両脇から二人の男が現れた。

「出せ。」

二人の男に命じたナギさんは、一足先に部屋を出た。

⏰:07/12/25 22:55 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#160 [桔妁]
 
一抹の不安を感じずには……?


いいえ一抹なんて、そんな小さくない。


本能が、第六感が…?

分からないけれど。

私からは、汗が一滴垂れた。…じめじめした涼しい空間なのに……。

⏰:07/12/25 22:58 📱:SH903i 🆔:ooso8LXg


#161 [桔妁]
 
部屋の外も、薄暗い部屋だった。…言うなれば地下室。

「今日、皆に集まっていただいたのは他でもない。」

二人の男に取り押さえられていた私には、いつの間にか猿轡がされていた。

つまり何も喋れず、何事かと聞く事もできない。

そのうちに、上擦った声のナギさんが話し始める。

「今日は、私自らが出向いて会得した代物だ。」

(何……?)

二人の男たちを見ると、ニヤッと笑っている。

⏰:07/12/26 22:44 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#162 [桔妁]
 
「さぁ、大判三枚との交換だ!」

(…大判三枚……?)


皆、一様に息を呑むのが聞こえた。

今まで意識に止めなかったが、部屋には所狭しと目つきの悪そうな男が居る。

(どういう、こと……)

拘束されて、訳のわからない所に連れられて、あやしいおじさん達が居るのだ。

いいところではないだろう。

⏰:07/12/26 23:02 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#163 [桔妁]
 
「せめて大判一枚にしておくれよ。高すぎだろうね。」

「いくらなんでも三枚は無理じゃろうね、遊女よりもお高いだろう。」


しばらく静かだった空間がざわめきだした。

と、同時に繭は状況も掴めてきた。

(売られようとしてる?)

そ、そんなの!冗談じゃないっ!!

繭は急にテンパり始めた。ものすごく、あがいた。

⏰:07/12/26 23:07 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#164 [桔妁]
 
「……ほう…あの女、まだ動く元気があると…。不良品だな…?」

ひとりの男が呟いた気がする。

と、同時に周りが値下げコールをしてきているではないか。

「ええい!仕方のない!!…大判一枚、小番三枚で手を打とう!!」

(は!!??ななナギさん!?)

⏰:07/12/26 23:10 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#165 [桔妁]
 
私が驚く間に、三人の男が前に出た。

…私を買おうとする奴か……。

「ほほう…久しい顔ぶれだな。」

ナギさんは三人を目下に見ながら言っていた。



ああ、こんな訳のわからない連中に売られてしまうんだ…。

さっき、天弥は行くなって言ってたっけ…。言う事を聞けばよかった……。

⏰:07/12/26 23:15 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#166 [桔妁]
 
今更になり、後悔が頭中を駆け巡った。

涙も出た。


甘く見た自分が馬鹿だったなと…。今更では遅いとも。

(天弥、呆れてるだろうな。…俺が折角忠告したのによー、とか言って……)



と、悟り始めた時であった。

⏰:07/12/26 23:20 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#167 [桔妁]
 
部屋の奥…(否、恐らく入口部分だろう)から、火の手が上がった。

「な、なんだ……!!」

ナギさんも想定外らしく、慌てふためいている。

そして入口の男達から、じわじわと焼かれていく。

逃げる者も居ない。

入口も出口も、あそこのみなのだということだろうか…。

「だ、誰だ!?役人か!?」

ナギさんがそう言う頃には、異臭が漂って、周りは火の海だった。

⏰:07/12/26 23:24 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#168 [桔妁]
 
煙が、苦しい…。

というより、意識がまた薄れていくような気持ちだ。

目がチカチカして、なおかつ室内温度が高くて、釜戸の中ってこんな感じなのか。


と、次の瞬間。

(………っ!?)

目の前に居たナギさんから、赤い液体――もとい、血が飛び散り、首が消えた…。

時代劇もびっくりである。そして後ろには人影。

こいつが切った事は明白だろう…。誰かは、判らないが。

⏰:07/12/26 23:28 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#169 [桔妁]
 
そして、びっしょびしょの布が被せられる。


………と、いう所から、繭の意識は途絶えた。





気付いた時には、見たことのない部屋に居た。

⏰:07/12/26 23:31 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#170 [桔妁]
 
「…頼仲ー。こい。」

ぼんやりした意識の中、知らない男の人が頼仲を呼んでいることだけが分かった。

しばらくすると、頼仲が私の顔を覗きこんでいる。

「繭!よかった!!生きとってくれた!!」

そんなことを、いいながら。


ああ、そっか…私――。

あの時の状況が私の中にあらわれた。

⏰:07/12/26 23:35 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#171 [桔妁]
 
「――…天弥は、?」

頼仲くんの前で、失礼だったろう。いきなり天弥とは。

ただ、謝りたかったからなんだけれども。

言う事きかなくて、ごめんて。


「そらやか?……あいつなら…ちょっと怪我をして休んじょるよ。」

「え?け、怪我??…それに私はどうやって頼仲くんの所に…」

⏰:07/12/26 23:39 📱:SH903i 🆔:TpUAuREM


#172 [桔妁]
 
なんでも天弥は山菜採りの最中に、山から転がり落ちたらしい。

なので自宅療養中とのこと。

「…繭は……うちの前に倒れていたんよ。で、意識ないから預かったという訳じゃ。」

つまり、ここは頼仲くんの家ということか。


"誰か"が運んだのだろう。ナギさんの首を斬った"誰か"が。

⏰:07/12/27 14:20 📱:SH903i 🆔:troNYYyc


#173 [桔妁]
 
「と、面倒見てくれてありがとう!!…じゃあ、天弥が心配だから行くね!」

こうしちゃあいられない。私は元気な訳だし、天弥の看病でもしなくては。


「平気なんか!?」

頼仲が繭の身体を支えようとする。だが、繭の足はしっかり地についている。

「うん!じゃあね-!」

外を見ると、町の中のようだ。これなら一人でも帰れる…………。

⏰:07/12/27 14:24 📱:SH903i 🆔:troNYYyc


#174 [桔妁]
 
―――――


帰れる…………?

そんな訳ないだろ-っ!!!

町から村まで8キロあるのに、そんなにパパッと帰れる筈がないのだ。


「有り得ない-……。でももう5キロは歩いたよね…。」

そう、繭はがんばったつもりだった。だいぶ歩いたつもりだった……。

だが、実際は3キロしか進んでいなかった。

そろそろ途方に暮れる繭。

⏰:07/12/27 14:29 📱:SH903i 🆔:troNYYyc


#175 [桔妁]
 

と、向かいから人が歩いて来るではないか。

「……お…天弥ぁ?」

しかも自宅療養中の天弥だ!

腕に箱を抱えながら歩いて……いや、走っている。

向こうも繭に気が付いたようで、さらに速く走ってきた。

⏰:07/12/27 14:33 📱:SH903i 🆔:troNYYyc


#176 [桔妁]
 

「ま、繭かよ!!」

目を丸くして繭を見る天弥。

「や、ていうか…天弥、怪我は…?しかも服違うし、その箱は何…etc」

つっこみ満載の繭も、目を丸くしている。

⏰:07/12/27 14:35 📱:SH903i 🆔:troNYYyc


#177 [カナ]
面白いです☆★
頑張って下さい

⏰:07/12/30 22:40 📱:F703i 🆔:4Y81UAeU


#178 [桔妁]

カナさんありがとう!!

年末年始は忙しくて、あまり更新できないかもしれませんが、頑張ります

⏰:07/12/31 14:04 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#179 [桔妁]
 
「え、いや……これは…」

しどろまどろしているために、怪しい感じが滲み出ている。

「…まぁ、何があってもいいけど……凄い怪我じゃん!!なんで、休んでないのよ!!

感情に任せて怒鳴る繭に、背中の筋が伸びる天弥。

だが、その後は微笑みが止まらない。

⏰:07/12/31 14:12 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#180 [桔妁]
 
「な、何!?笑わなくたって…」

「いや、はは…なんでもね-よ…あはは!」

折角怒ってやったのに笑われるなんて…。

なんかいつでも上に見られているようで腹が立つ…。

「じゃあ、俺これ届けるから行くな!」

⏰:07/12/31 14:18 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#181 [桔妁]
 
「ど、どさくさに紛れて逃げるつもり!?」

まだ喚く繭の横を風のように走って通り抜ける天弥。


「ちょ…待って、よっ!」

間一髪、横を過ぎ去る前に繭は天弥の腕を掴んだ。

「……いぃッ!!!!」

ゴトン、と天弥の腕から木箱が落ちた。

⏰:07/12/31 14:27 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#182 [桔妁]
 
「あ、ごめ…」

掴まれているのとは逆の手で、地面に爪を立てる天弥。

その痛さを物語るには十分だった。

そこから繭が視線を掴まれた腕に移すと、そこに巻いてあった包帯(真っ白でなくて黄ばんでいる)が、ひらひらと外れていった。

「あ……」

天弥がそう一声、発したときにはもう、繭は見てしまっていた。

⏰:07/12/31 14:35 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#183 [桔妁]
 
痛々しい、火傷を負った腕を。


(火傷…?嘘、だって天弥は山菜を………)

はっと、繭は思い出した。

いつだったか。頼仲と遊んだ日の帰り道に、盗賊が死んでいて、その先に刀を持った天弥がいて。

そのときも、天弥は"山菜採り"と言っていた、と。

⏰:07/12/31 14:40 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#184 [桔妁]
 
(じゃあ、まさか…天弥は嘘をつくときに"山菜採り"って言うんだとしたら……)

では、この火傷はつまり…

「いや、や…違くて…な…」

苦笑いで弁解する天弥の事を、繭の目にはどう映っただろうか。

「ナギさんを斬ったのも、何人の人も焼いたのも、私を助けたのも……天弥、?」


否、多分、何も見えてはいないだろう。だって繭の目は、水で滲んでいたのだから。

⏰:07/12/31 14:46 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#185 [桔妁]
 
それを、後から見る影があった。

頼仲の兄だ。

繭が家に辿り着けるか心配で、こっそり後をつけていたのだ。



「……繭殿に、気付かれてしまいましたか…。繭殿がどう心変わりしてしまうか…。天弥殿、残念だったな…」

ぽつりとつぶやいた頼仲の兄は、町の方に向くと歩きだした。

後ろに感じる空気は、耐えられるようなものではなかった。

⏰:07/12/31 15:04 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#186 [桔妁]
 
―第5章―

 ――見えなくて、大きくて
 抱えきれない大切なもの。―


.

⏰:07/12/31 15:09 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#187 [桔妁]
 

「…繭が、おかしいんだ!」

ここは頼仲の家である。

そこに押しかけたのは、天弥だ。

雪降る中を走って来た天弥はあまりに寒々しく見えて、
普段は家に上がっても挨拶ひとつしない頼仲の兄が、今回ばかりは手ぬぐいを差し出してくれた。

「…で、繭がどうしたのじゃ。」

⏰:07/12/31 15:18 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#188 [桔妁]
 
「繭、なんか…寝てないみたいで……。体調が悪そうで…」

本気で心配しているようであったが、頼仲の兄がぽそりと言った。

「それは、天弥殿が殺し屋だってばれたから、だろう。」

「え、なんで頼弦(ヨシツル)がそんなこと言えるんだ?」


天弥は膝を抱えて、そこに頭を入れた。「兄上と呼びなさい」という頼仲の兄の声は、天弥に遠く聞こえた。

(…やっぱり、ばれたらやべーよな……。)

頭の中は数日前から、繭の潤んだ目の像を鮮明に映し出す。

⏰:07/12/31 15:34 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#189 [桔妁]
 
「………」

「……………すまん…」

頼弦が謝るが、空気はよどんだままだ。


「…や、でも!あれじゃ、そらやが言っていた"くらすめす"?のときに簪渡したら、機嫌もよくなるじゃろ?」

「…クリスマス、な。…でも、頼仲の言うことも一理あるかもしれねーな…」

天弥の目に、生気が戻りつつあった。

⏰:07/12/31 15:47 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#190 [桔妁]

来年もよろしくお願いします!!

紅白は見てませんでしたが
白組が勝ちましたね!!

私はよゐこの無人島SPを
見ていました!笑

本当、来年はさらに成長を
遂げて、皆様に小説を
お送りしたいと思います!

では、残り少し!!よいお年を!!

⏰:07/12/31 23:46 📱:SH903i 🆔:ioR6Y8w2


#191 [桔妁]
 
――――


「あ、あの…ま繭―…繭…」

夕刻。数日前までは華のある話が舞っていたはずの夕食時だ。

近寄るだけでピリピリしそうな空気の中心に居る主に、天弥は話し掛ける。

だが、主である繭は目も合わせてくれようとしない。

「…ま、繭………」


と、急に繭が立ち上がった。
繭は、家を飛び出して、走っていった。

⏰:08/01/01 02:07 📱:SH903i 🆔:a.l0GRvc


#192 [桔妁]
 


ただ一直線に、目指すのは崖の下へ――…。


降りしきる雪の寒さは、現代の北風よりも冷たく、身体に染みていった。

ひとつひとつの雪が、涙を流す言い訳となった。



だが、どの雪も繭の心にはかなわなかった。

⏰:08/01/01 02:18 📱:SH903i 🆔:a.l0GRvc


#193 [桔妁]
 

気が付けば、正面が壁…。

そう、崖の下だ。

繭は、崖を素手の拳でなんども殴るようにしていた。

ここ数日、繭はあることを思っていた。


(天弥は、ここで私を救ってくれて…ご飯もくれたし、現代同士で仲良くしてくれた……。

野蛮な連中とかエロ親父からもかばってくれてた…

⏰:08/01/01 02:24 📱:SH903i 🆔:a.l0GRvc


#194 [桔妁]
 
ただ、まさか人を殺すような人だとは思わなかった。

性悪なんだろうけど優しくて、どっか幼稚だけど暖かくて大きくて、そんな天弥が…。)

「……っ。…――帰してよぉ―。…いやだよいやだよ…私は、私は…」

そこへ、走って追い掛けた天弥の姿が崖の前に現れたが、繭の目に映る事はなく。

「いやだよ…。時代に流されて、人殺しになりさがるのは、嫌だよ……っ…。私も、変わる前に、帰してよ………!!」

天弥は、その場から動けなかった。

⏰:08/01/01 02:30 📱:SH903i 🆔:a.l0GRvc


#195 [桔妁]
 
気が付いたときに繭は、頼仲の家に居た。

意識を失った訳ではなく、うっすらしか記憶にないだけで、声をあげて泣いていたようだ。

しかも家に頼仲は居なく、その兄だったのだから迷惑極まりないだろう。


「……あ、あの…なんかすみませんでした…頼弦さん…」

落ち着いた時の繭は、隣に居た頼弦に深く謝った。

⏰:08/01/01 19:43 📱:SH903i 🆔:a.l0GRvc


#196 [桔妁]
 
「いや、いい…。だが、一言言わせてもらう…いいか?」

しゃくりがおさまり、自分の息遣いしか聞こえないことが少し恥ずかしいと思いながら、繭は頼弦の方を向き、頷いた。

「奴の…天弥殿の気持ちを、分かってやってはくれぬか…?

天弥殿は、生活のため、仕方なく…人斬りをしていたんだ。身寄りもなく、だからどうしようもなく…

幸せと引き換えにな…。」

⏰:08/01/02 00:04 📱:SH903i 🆔:V3Yv/f4g


#197 [桔妁]
 
隙間風が余計に寂しさを煽った。

繭には、その意味がよくわからなかった。


「仕方ない……。…天弥殿―。」

頼弦は扉に向けて天弥を呼んだ。

すると、外から雪を被った天弥が現れた。

それと同時に少し吹雪が入って来て、その寒さが伝わった。

⏰:08/01/02 17:02 📱:SH903i 🆔:V3Yv/f4g


#198 [桔妁]
 
「繭、っ…」

天弥は、繭の方に駆け寄った。


「俺、もう帰れないと思ったから……だからヤケになってた。

でも、もう…繭が来てからは…やめようと思って、上の方に言いにいったんだ…。

だけど、最後に極悪事件を任されて…。」

⏰:08/01/02 17:08 📱:SH903i 🆔:V3Yv/f4g


#199 [桔妁]
 
「言い訳は、いらない!!」

繭は、一生懸命に話す天弥を蹴飛ばした。

と、天弥の胸元から布の包みが落ちた。――簪だ。

繭は静かに、胸元から落ちた物を拾った。

「あ、ごめ……これ、何―…?」


いつの間にか、頼弦は部屋から居なくなっていた。

⏰:08/01/02 22:08 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#200 [桔妁]
 
「…や、これは、その……」

今出すべきではないことは承知であるそれは、繭の手へと渡り、布を開けられて、中身が見えてしまった。

「簪、何するつもりで…」

「いや、今日、現代でいうとクリスマスで…で…」

天弥は下を向いたまま答えた。

「つまり、クリプレ?……天弥が買ったの?」

⏰:08/01/02 22:13 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#201 [桔妁]
 
「あ、あぁ…うん。」

繭の空気が明るくなりつつありそうだと、天弥は顔を上げた、が。

「人殺しの、給料?」


それはそれは綺麗な簪であったのだ。

それが、天弥の給料だとしたら…つまり人殺しをした分の給料ということだ。

「受け取れない…」

⏰:08/01/02 22:16 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#202 [桔妁]
 


「それは平気じゃ!」

そこへ、聞き覚えのある声が響いた。

「「頼仲(くん)!?」」


「そらやの奴ァ、俺んところで働いちょるんよ!その少ない銭集めて買ったんじゃ!

だから繭、貰ってやってくれんか?」

なっ、と頼仲は天弥の肩をたたく。

⏰:08/01/02 22:21 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#203 [桔妁]
 
「じゃあ、もう…殺してない?…人は、殺さない?」

簪を見つめながら繭が言った。

天弥も頼仲も頷いた。


「そのかわり"此処"は過去なんだ。いつかやむを得ないときがある…。そのときは、許してくれ。」

「繭を守りたいから」

おい!!!!!誰が守りたいからだ!!」

⏰:08/01/02 22:27 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#204 [桔妁]
 
頼仲が口を挟んだことにより、なんとなく格好がつかない天弥はぶんむくれていた。

繭は、そんな二人を見て微笑み、簪を髪に刺した。そして天弥のほうへ駆け寄り、


「帰ろう?……なんか、ごめんなさい…でした。」

ばつが悪そうに繭が天弥に言い、手を差し出した。

⏰:08/01/02 22:31 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#205 [桔妁]
 
天弥は驚きながらも手を取り、頼仲に会釈した。

ぱしゃんと家の扉が閉まり、天弥と繭は帰っていった。

「あ-…繭が取られちったよ…。」

頼仲が繭に本気だったのかは知れないが、空しく響いた声は土壁が吸収した。



その後すぐに二人が雪まみれで戻って来て、明るくなるまで頼仲の家に居たのは、また違う話だ。

⏰:08/01/04 14:58 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#206 [桔妁]
 
―第6章―

 ――守るためにと
  男は泣いて剣を振る―


.

⏰:08/01/04 15:01 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#207 [桔妁]
 

「うわ-!こんなにいいんですか??」

冬、村に人が来る事は滅多にないそうで、お茶屋は休業中である。

だからと言う事で、お雪ちゃんに連れられて、お雪ちゃんの家(?)の年始の手伝いに誘われたのだ。(家というか…仕事場?)

そう、今はその手伝いが終わり、一番偉い人からお金を貰った所である。

⏰:08/01/04 15:09 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#208 [桔妁]
 
「あぁ、こんなに働いてくれたんだ。当たり前さね。」

姐御的なその人は、美人で気の強そうな人だ。

「有り難うございます!」

横ではお雪が腕をつつく。

「やりましたね!これでお着物を買って髪を結ってもらって…天弥様に…キャッ!」

めくるめく妄想を始めそうなお雪に、繭はため息をついた。

⏰:08/01/04 15:16 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#209 [桔妁]
 
「着物か…。そ-だねっ!あ-でも髪は……」

チラリ、と繭はお雪の髪を見る。

綺麗に時代劇的に結ってある髪がヅラじゃないと思うと、もはやそれは芸術であると見えた。

ただ、やはり抵抗がある。

そのために繭はいつもポニーテールなのだ。

「髪は、……私の国ではこうだから…いいかな、これで。」

苦笑いすると、お雪も頷いた。

⏰:08/01/04 15:20 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#210 [桔妁]
 
「まぁ、それでいいですよね!貴女らしいです!」

ふふ、と微笑むお雪に繭も微笑み返した。


と、奥からお雪の仕事仲間がやってきた。その人によると、客人らしい。

「繭を呼んでくれ、とお若い殿方が…」

あぁ、天弥が迎えに来たんだ。繭は立ち上がって姐御(違)に挨拶をする。

⏰:08/01/04 15:25 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#211 [桔妁]
 
「いいねぇ、色男が居るときた!…あたしらも負けてはられないねぇ!!」

「や、別に男って…え??や!!違いますけどっっ!!」

誤解ですよと必死に否定する繭に、姐御はニタッと笑う。

「また、いつでも遊びにきて!!歓迎するからさ!!」

⏰:08/01/04 15:29 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#212 [桔妁]
 
姐御がそう言うと、すくっとお雪が立ち上がり、

「玄関まで案内します」

と、連れていってくれた。

玄関先には天弥が居て、なんとも言えない平和な笑みで迎えてくれていた。

繭はお雪に礼を言い、天弥に駆け寄った。

すると、天弥は万遍の笑みで、こう言った。

「町に家を貰ったぞ!」

⏰:08/01/04 15:33 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#213 [桔妁]
 
「は!?」

「だから、一人暮らしのジーサンが死んでな、家が空いたからくれたんだよ!」

今年最後の、神様からのプレゼントみたいだ。

「家…ってことは、部屋が幾つかあるんだよね!?…ドアついてるんだよね!?」

繭は上擦った声で尋ねる。

これで、寒い寒い家とはお別れだと思うと嬉しくてたまらない。

「当たり前だろっ!!さ、荷物は俺が持ってったから、早く行こう!!」

⏰:08/01/04 15:38 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#214 [桔妁]
 


「うわ-!立派なモンじゃない!!」

居間と寝室と客間の三部屋ある家は、今時のマンションより立派だと思う。

居間にある囲炉裏を焚けば、今時期の冬もあったかいだろう。

「な!すげ-だろ!!」

「これで二人で同じ部屋に寝なくて済むね!!…私の部屋、寝室に決めた!」

「え」

⏰:08/01/04 15:43 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#215 [桔妁]
 
「や、寝室は寝室じゃネ?」

繭はププッと笑って天弥に言う。

「や、「ネ?」っていうか、年頃の娘としては違う部屋が当たり前じゃネ?…天弥がなんかしてきたら嫌だしー…」

早速、寝室に自分の荷物を運び込む繭。

愕然とする天弥は渋々、自分の荷物を客間に運んだ。

⏰:08/01/04 15:48 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#216 [桔妁]
 
(そ、そりゃ-頼仲とか、笹原とかに「よく我慢できるのう」とか言われてるけどなァ…別に、まだ平気じゃねーか…)

ぶつくさ言う天弥は、やはり納得が行かないらしい。


「さぁ、部屋に入れるもの入れたし…。頼仲と頼弦さん呼んで…―カウントダウンパーティーしよ!!」

打って変わってハイテンションの繭は、天弥に全力な笑顔を向けた。

「―…はいはい…呼びに行くよ…」

⏰:08/01/04 15:54 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#217 [桔妁]
 

―――――



大晦日パーティーは大成功を納めた。

今は明け方である。

頼仲はおちょこを握りながら眠っていて、天弥は飲み過ぎでハイテンション、頼弦は酔い覚ましにと外に出ていた。

繭は酒に抵抗があるので、玄米茶を飲んで過ごしていた。

「まゆー」

酔った天弥は、餓鬼んちょで可愛いげがある。

⏰:08/01/04 15:58 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#218 [桔妁]
 
が、ひっつかられると中々嫌なものなので、思わず繭得意の蹴りが飛び出してしまった。

「………ぐへ…っ」

何かが出たような音がしたが、気持ちが良さそうに眠る姿を見て安心した。


と、頼弦さんが戻って来た。

⏰:08/01/04 18:05 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#219 [桔妁]
 
「あ、外は寒かったんじゃないですか?」

繭は頼弦に柔らかい笑みを向けながら、ぬるくなった玄米茶を一気飲みした。

「や、寝正月だとあんまりだから、みんなを起こしに来たのだが…それ…」

「あひゃれ?」

頼弦が見たときには遅かった。

⏰:08/01/04 18:11 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#220 [桔妁]
 
「そ、そりゃあ頼仲が飲んでた酒だぞ……」

酒好きの頼仲が持ってきた中でも、自分専用だと言いはっていた強い酒を一気飲みしてしまったのだ。

運の悪い事に、玄米茶の隣にあったので仕方ないといえば仕方ないが…

そうこうしている間に、繭は意識を手放してしまった。

「結局皆……寝正月か…」

頼弦は繭の飲んでいた玄米茶を飲み干し、自分は壁によりかかり、眠りについた。

⏰:08/01/04 19:47 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#221 [桔妁]
 
次に繭が目覚めたのは、二日の夕方であった。

寝室で寝ているあたり、誰かが運んでくれたのだろう。

「頼弦さんかな…お礼言わなくっちゃ……」

と、半身を起こしたところで、家に人の気配がないことに気がついた。

戸が半分開いていて、居間の様子がわかった。

勿論、正月の後片付けはしてある居間は、誰も居なく、囲炉裏の火が寂しそうに瞬いていた。

⏰:08/01/05 00:16 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#222 [桔妁]
 

居間に出ると、微かながらに白粉と香袋(多分お雪さんのだろう)の匂いが鼻をくすぐる。

「何か、あったのかな…」

とりあえず、天弥の部屋である客間を覗く。

やはり居ない。

そして、確かに部屋の奥に立て掛けてあった刀がなかった。

念のために部屋を見回したが、やはりない。…余計に、嫌な予感がした。

⏰:08/01/05 00:21 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#223 [桔妁]
 
「……天弥…」

そのまま表に出て、宛も無く走った。ただ身体が進むままに走った。


気がつくと山に居た。

日はまだ冬で短く、もう西の地へと落ちていた。

東を見ると、暗闇が追い掛けて来ている。…星が、それこそ宝石のように輝いていた。

と、近くから金属が混じり合う、リアルな音が聞こえる。

⏰:08/01/05 00:27 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#224 [桔妁]
 
少し近くまで歩みよると、カチンと足に何かが当たった。

「…ん?」

拾い上げればそれは、小刀。血も何もついていない、輝く小刀だった。

そして、暗くなりつつあった視界が慣れてきた頃と同時に、目線を金属音の方へ向けた時、繭はその場に固まった。

「……!!」

そこには、生臭い臭いを漂わせて、一人の男を後ろに庇い複数の人と戦う天弥の姿があった。

⏰:08/01/05 01:22 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#225 [桔妁]
 
白い雪は多分、紅く染まっているんだろう。

庇われている人は動かない。



しばらく見ていると、一人が天弥にやられた。

それに恐れて、あとの人達は逃げて行った。


「………」

⏰:08/01/05 13:39 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#226 [桔妁]
 
繭はすかさず駆け寄る。

そして、天弥の目の前まで行った。


頬を思いきり叩こうと思った。

けど、天弥は泣いていて叩く気は、何故か失せた。

「…どうしたの?」

天弥の涙は、自分の涙も誘った。

⏰:08/01/05 13:48 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#227 [桔妁]
 
ふと、さっき庇われていた人の方に目が向いた。

天弥もそちらを向き、冷たい雪の上に、何の躊躇もなくしゃがんだ。


そして、庇われていた人からは息がもうないようで、ピクリとも動かない。

先程より暗いので、繭には誰かも解らない。


そこで、やっと天弥が口を開いた。

「…繭、これ、な…頼、仲…」

⏰:08/01/05 16:07 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#228 [桔妁]
 
繭は、耳を、天弥を疑った。

「頼仲くん…?え、ま、まさか…」

冗談っぽく笑うと、視界が暗闇に慣れた。

雪の上に、確かに見たのは…


本当に頼仲くんだった。

⏰:08/01/05 16:11 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#229 [桔妁]
 
「え、な、なんで…」

一日の朝方、確かに気持ちがよさそうに眠る頼仲を見たのに。

「ただ、酔っ払いに絡まれたんだよ…母親の、墓参りの途中だと、思う…。………ごめん、ごめん頼仲…」




天弥が頼仲を抱きかかえて謝るとき、繭は顔を反らさずにはいられなかった。

⏰:08/01/05 17:10 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#230 [桔妁]
 
――――




それから天弥は動かない頼仲を背負い、繭と山を下りた。


時は既に深夜に回っていたので余計に寒く、指はかじかんで、足は霜焼けで酷かった。


でも天弥はそんな事など頭中に無いだろう。

ただ、悔しさだけが腹を巡っていた。


繭は何も、励ましも、ましては話し掛ける事すらも出来なかった。

⏰:08/01/05 22:55 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#231 [桔妁]
 

天弥の涙は、渇いていた。


繭の涙は、出なかった。出す事さえも出来なかった。

ただ、隣で天弥におぶられている頼仲くんは、本当に眠っているようだった。

天弥の歩くリズムの振動が息遣いによく似ていたからだろうか。



二人は、何の会話も交わさずに町へと着いた。

⏰:08/01/05 23:01 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#232 [桔妁]
 
――――



頼仲の家に戻ったけれど頼弦は寝ていて、繭は起こすのが嫌だった。

それでも天弥が繭に起こせと言うので、泣きそうなのを堪えながら頼弦を起こした。


「――…繭殿??」

寝ていたらいきなり女が目の前に居たとなればびっくりだろう。

いかにも何も知りませんという顔の頼弦を見ると、繭はさらに心が痛んだ。

⏰:08/01/06 10:42 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#233 [桔妁]
 
「よ、頼弦さ-…ん……」

とうとう繭は泣き出してしまった。

「どうした、?」

繭の涙にただ事ではないと感じたが、また大形、天弥から逃げて来たのだろうというところだった。


「繭、お前……」

繭の泣き声を聞き、天弥が頼弦の部屋に来た。

頼弦はさらに目を丸くして二人を見た。

「二人共、こんな夜にどうした?」

⏰:08/01/06 10:47 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#234 [桔妁]
 
頼弦は部屋に明かりを燈した。

そこで頼弦の目に浮かび上がるのは、血に服を濡らした天弥と、泣きじゃくる繭だった。

これはやはり、ただ事ではないと感じた頼弦は言った。

「…今、父上が帰ってきているから話しを聞こう。……頼仲も呼ぶか?」

正月休みだから、父親が出稼ぎから帰っているのだ。

「…頼仲の兄上……そ、そのな…頼仲なんだけど、さ…」

⏰:08/01/07 13:04 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#235 [桔妁]
 
「ん?」

「頼仲…死ん…死んだ…」

頼弦は、天弥の言葉に目を丸める。


その、天弥の服に付く赤が頼仲のものかと言った。

「いや、数人の奴に、喧嘩を売られてたんだと、思う…」


天弥が頼弦の前で土下座をした。

繭も、頼弦もびっくりだ。

⏰:08/01/07 13:09 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#236 [桔妁]
 
「俺が行った時にはまだ、息があったんです!!…喋って、俺に、

"人は殺しちゃ駄目じゃ、酒に酔ってるだけじゃ、こ奴らは何も悪い事はない"

そうやって、言ってたんです。でも、

頼仲を救うためには、酔っ払いを消す他なかった…

でも、皆居なくなったとき…頼仲の息は、もう……

すいません…!!!すいません、すいません!!」

⏰:08/01/07 13:14 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#237 [桔妁]
天弥の話を聞く繭は、はっと気がついた。

足に当たった、あの小刀を。


あれは確か、頼仲のだ。

いつか一緒に遊んだ時、変な侍に向けていた。

繭がいるから、無駄な殺生はしないよ

そのときの、小刀だ。


そして気がついた。

頼仲は、本当に無駄な殺生はしない人なんだ。

⏰:08/01/07 13:18 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#238 [桔妁]
 

あのときの侍だって、その場だけの戦いだった。

真剣勝負じゃなくて。

今回も、酔っ払いなら、悪いのはその人自身じゃないって…お酒だったって。

だから剣は振るわなかったんだ。


だから、死にそうな時にも自分の志を、天弥に告げてたんだ……。

それでも、天弥は守る者を優先して、たんだ…

⏰:08/01/07 13:23 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#239 [桔妁]
 
―――――



その後、頼仲を墓に連れて行き、事は済んだ。

頼仲の父親は、泣き顔こそ見せなかったが、瞼の腫れからすると、相当泣いたに違いない。



「頼仲は、心の広い奴だった。――それでも、人を殺めぬ理由を

"わしは、無駄に殺しはせんよ。まァ、ただ自分が臆病なんじゃけどな"

と、臆病だからと申していた…。

そこが、仇になったのか、頼仲は本望だったのか…」

⏰:08/01/07 13:29 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#240 [桔妁]
 
誰に話しかけたのか、頼弦は空を向いていた。


そのあとは、お線香が空に昇るのを一同眺めていた。








.

⏰:08/01/08 17:49 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#241 [桔妁]
 
―第7章―

 ――昔話旅人さんの
    鬼道洞窟昔話―

.

⏰:08/01/08 17:58 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#242 [桔妁]
 

「繭、お前いい加減になァ…」

天弥は髪をかいて、面倒臭そうに欠伸をした。


季節は、雪解けの春。

小春日和でついついうたた寝の今日この頃。


「な、天弥だって薄情じゃない!?友達じゃん!」

私、繭は元気になれません。


頼仲くんにもらったハートのお守りをきゅっと握る。

⏰:08/01/08 18:05 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#243 [桔妁]
 
「もう、頼仲は居ないんだからさ。……前向け。前。

頼仲だって、望んでないと思う。こんなクヨクヨされるのは。」


分かる。

天弥の気持ちも、頼仲くんの気持ちも。

……うん。そうなんだよね…!!

「うん、分かった。…そーだよね!!頼仲くんも…ってアレ??

話聞けぇぇ!!!!



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⏰:08/01/08 20:33 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#244 [桔妁]
 
天弥は村外れへと歩いていく、旅人のような人にくぎづけだ。


そう!繭と天弥は久しぶりに村に居るわけである。


「ん?変わった人だね…」


村の端には鬼道の洞窟があるために、滅多に人は近づかないと天弥もよく言っていたが。

だが、旅人は奥へ奥へと進む。


いつの間にか無意識に二人も、奥へ奥へと尾行していた。

⏰:08/01/08 20:37 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#245 [桔妁]
 

「ちょ、なんで後つけてるの!?」


草村に隠れながら洞窟の前にいる旅人を指差し繭は小声で言う。


「馬ー鹿。だったら付いてくんなよ。……でも、なんかさ、珍しいじゃん。人が洞窟に居るのって。」

「確かにそうだけど…あれ?なんか…あの人こっち見てるよ?」



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⏰:08/01/09 15:16 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#246 [桔妁]
 
繭が旅人をチラ見した瞬間に、目が合った気がした。

「そんなはずないだろ…って………!!!」


そう言うと天弥は固まった。

しばらくして、しゃがみこんでいる繭の頭上に影がかかった。

それは紛れも無く人の影。

繭が上をむくと、旅人がにっと笑った。

⏰:08/01/09 15:21 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#247 [桔妁]
 

「え、あ、あれれれ…」

笠を被った旅人の顔は確認出来ず、余計に緊張させられる。

旅人は、透き通る声で二人に言った。

「お前ら、ここの村人か?」

確実にその声に少し酔いしれていた二人だが、しばらくしてからこくこく頷いた。

「そうか!!で…この洞窟の噂を知っているか??…私は、この事を物語にしたく来たのだが。」

⏰:08/01/09 15:26 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#248 [桔妁]
 
二人はブンブンと首を横に振る。

「二人とも何も喋らないとは、似た者夫婦だな!!」

あはははと笑うその声も、稟としていて美しい。

天弥もつられて笑っている。


「ん?夫婦じゃないですよ!!??」

笑いで掻き消され、繭の必死な声は届かなかった。

⏰:08/01/09 15:44 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#249 [桔妁]
 


「…―ていうか、そもそも…この洞窟の噂って、なにがあるの?」

しばらく笑っている二人を見ていた繭がそういうと、旅人がまた、にっと笑った。

「なんと、村人なら知っているかと思ったんだがな!!…中々心を引かれる噂があるんだよ!!」

天弥の方をむくと、俺も洞窟については知らないと首を振った。

「それじゃあ私が話してやろうか。」


旅人は繭達としゃがみ込み、洞窟の昔話を始めた。

⏰:08/01/09 15:49 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#250 [桔妁]
 
「この洞窟はな、名前の通りの"鬼の道"なんだ。恐ろしい鬼の国への通路となっているらしい。

"何らかの事"をすれば、道は開けるらしい―…まあその"何か"は今調べようとしているんだけども…

そしてその道が繋がった瞬間、ふいに暗闇に包まれ……いつの間にか、意識を失っているんだ。


目を覚ますと…すでに鬼の国に着いてしまっているそうだ。

⏰:08/01/09 20:17 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#251 [桔妁]
 
目が覚めると、沢山のお墓の並ぶ太い道があるそうだ。そして、遠くからは鬼の鳴き声が。

そうして、お墓の並ぶ道を段々と道を進んでいくと……鬼の都を見渡せるという話だ。

家屋がところ狭しと立ち並び、人々が慌ただしく働く。…人々は鬼の配下のようだ。

それに目を向けていれば、お次は巨大な大蛇が鳴きながら高速で駆け抜ける。


だが、鬼の姿は見当たらないというのが不思議なところだ。」

⏰:08/01/11 23:34 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#252 [桔妁]
 
話が終わると、旅人はよっこらせと立ち上がった。

「私はだな、この洞窟の外に行ってみたいんだよ。」


澄んだ声でそういった。


「え、だって鬼の国行って帰ってこれるの?」

繭がそう言い、ムードは少々崩れたが。


「まぁ、この話があるということは帰ってこれたから伝えているんだろう?」

旅人が話を元に戻せば、口端をあげて微笑んだ。

⏰:08/01/12 14:23 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#253 [桔妁]
 
「そこでだ!…私と共に洞窟の外へと行ってみたくはないか?」

繭と天弥の二人は顔を見合わせた。そして旅人に顔を向けた。

「いいですよ!!」

「あ、今回は…やめときます。」


繭が断り、天弥は思わずポカンと殴った。

⏰:08/01/13 18:18 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#254 [桔妁]
 
何するのよ!!

「お前、普通そこは参加だろ?」

天弥はキラキラ輝く目をこちらに向けている。

繭は一瞬どもったが…


天弥の誘いはしつこいために、しかたなく。

「う-ん…。あたしは入らないけどね?」

承諾したのだった。



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⏰:08/01/13 22:12 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#255 [桔妁]
 
―第8章―

 ――おばあちゃんの知人の
   蔵の奥から―


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⏰:08/01/13 22:14 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#256 [桔妁]
 
――――――――



「繭が居なくなってからもう半年以上か?」

「…………。」


繭の居た現代では、両親が心配に心配をしていた。

母はやつれていた。


テレビでも、もうとっくに顔を見せる事はなく、その存在は、天弥と同様に世界から薄れていた。

⏰:08/01/13 22:18 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#257 [桔妁]
 
繭の捜査をする上で、両親は天弥の両親にも会っていた。

だが、全く情報はなかった。



天弥の友達は現在中学三年生である。

彼等の中からも天弥の存在は確実に消えつつあった。

⏰:08/01/13 22:21 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#258 [桔妁]
 
しかし、立ち上がった人達は僅かながらに居たのだ。

警察にも見放されてきている二人に目を向けた者達……


――――


「ねぇ、今回の議題は?」

髪の長いおかっぱの少女が話し掛ける。その先には少年が。

気付けば丸い机を数人の生徒が囲んでいる。

⏰:08/01/14 09:50 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#259 [桔妁]
 
「今回は―…"神隠し"にしないかい?」

彼等は小さな町のある学校の生徒たち…

心霊非科学研究部のメンバーだった。

「神隠し…って去年の夏のですか?あれは没になったじゃないですか。」

「いや、それが調べてみたんだけど…。ミステリー…。きっと凄いことになる気がするんだよ。」

⏰:08/01/14 09:56 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


#260 [桔妁]
 

彼等は校内で、色々な意味で噂になっている。余り活動的な部活ではない為に、部員は四人。部費は常に赤字であるのは言うまでもない。


その部員達を詳しく説明するとしよう。

面白そうな事を見つければ"ミステリー"と言う部長。

気の強そうなおかっぱ頭の副部長。自称座敷わらし。

座敷わらしに連れられて、ひょんな事から部員になった二年生。元サッカー部員。

全ての雑務をなんなくこなし、違う波動をキャッチできる一年生の女子。

⏰:08/01/23 15:06 📱:SH903i 🆔:☆☆☆


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