.。改]恋愛成就の洞窟で。.
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#1 [ぱる.。+]
:07/09/10 07:15 :SH903i :tbKD4FSE
#2 [ぱる.。+]
私の名前は時枝繭。
今は夏休みの中盤に差し掛かったところ。
そして私は田舎のおばあちゃんの家に泊まりに来ています。
都会に居ると、たまに田舎に憧れたりしちゃうから。
「………。」
「………。」
…………日暮しが鳴いている。
:07/09/10 15:48 :SH903i :tbKD4FSE
#3 [ぱる.。+]
「…おばあちゃん。」
食卓の静寂を破ったのは私の方から。
「なんだい、繭ちゃん?」
おばあちゃんは微笑み、私を見て返してくれた。
おばあちゃんが食事の時に静かなのは、いつもは喋る相手が居ないからかも。
:07/09/11 16:34 :SH903i :yH.K3jE6
#4 [ぱる.。+]
それでもきちんと答えてくれるおばあちゃんが何となく嬉しかったりして。
…と、そんなおばあちゃんに会うのも田舎に泊まるのも楽しみだったけど。
私が此処に来たのはもうひとつ理由がある。
「この辺にね、[恋愛成就]の洞窟があるって聞いたんだけど…」
そう!大好きな早川先輩との恋愛を成就させたくて私は来たのです!
:07/09/11 16:39 :SH903i :yH.K3jE6
#5 [ぱる.。+]
「あぁ、あれかね。…昔から有名だからねえ…。
恋は愛じゃない、
恋と愛は真逆。
但し、恋愛となれば
繋がりを持つ。
なんて変な言い伝えみたいなものがあるんだよ。」
…結構素敵な言い伝え。さすが、恋愛成就の隠れた名所だと思う。
:07/09/11 16:47 :SH903i :yH.K3jE6
#6 [ぱる.。+]
「そう、そこ!…近いなら明日行ってもいい?」
「あぁ、いいよ。…でもねえ、ちと草むらを歩くから。明日はおばあちゃんの用意する服を着て行きなさいな。」
私が持って来た服はミニばかり。
おばあちゃんの服…なんか和服しか来てるイメージないけど、借りるかな…
「わかった!有り難う!ご馳走様!!」
:07/09/17 16:38 :SH903i :MxS/zels
#7 [ぱる.。+]
私は床につくと、ケータイを開いた。
薄暗い部屋の中で開いた液晶画面の光は、私の目を刺す。
私は、手慣れた手つきで画像フォルダを開く。
「…早川先輩、やっぱり格好イイィ-!」
以前情報部の友達に頼みに頼んでもらった隠し撮り画像。
:07/09/17 16:51 :SH903i :MxS/zels
#8 [ぱる.。+]
や、隠し撮りとかまでいくとストーカーじみてるかもしれない。
そこを思うと少し自分に引くけど…でもやっぱり。
「明日は絶対恋愛成就だな♪」
片思いの少女とは、こういうものじゃない?
あれ、私だけ?まあいいや。
(う-ん!どんなところなんだろうっ!)
:07/09/17 16:54 :SH903i :MxS/zels
#9 [ぱる.。+]
「ほいさ!完成だよ!」
「き、きついよ…?」
案の定、着せられたのは和服。
ま、予想通りって言う訳だ。
「ちぃっと位はきついモンさ。根性だよ。」
根性…。昔の人は、服一枚も根性だったんだ。凄い。
:07/09/17 16:58 :SH903i :MxS/zels
#10 [ぱる.。+]
「根性、か…。ところで、おばあちゃん、今何時…」
朝ご飯を食べたまでは、違和感無かったんだけれども、外を見ればまだ薄暗い。
もしかして、相当早起き?
「ん、今は6時半さよ。…ちと遅いねえ。」
時計が無いじゃん…。何故時間が分かるのですか!?
:07/09/17 17:03 :SH903i :MxS/zels
#11 [ぱる.。+]
「え、じゃあまだ出かけるのは早いかな…?」
さすがに6時半だと、早いような気がする。…外は霧かかってるし……。
「そうさねえ…。うん、まあ近いし平気だとは思うけど、好きにしなさいな。」
「じゃあ、それまで和服の着付け教えて!」
.
:07/09/17 19:42 :SH903i :MxS/zels
#12 [さく]
応援してます☆★
頑張って下さい!!
楽しみにしてます。
:07/09/27 17:19 :SH902iS :☆☆☆
#13 [ぱる.。+]
うひゃあ..ろんぐ放置ッ..!!
ものすごくすみません!!
更新!!
:07/10/09 01:34 :SH903i :JE1I2vBk
#14 [ぱる.。+]
――1時間後―
「うぅっ…出来ない―…」
おばあちゃんは熱心に教えてくれていた。…でも、私は物覚えがもの凄く悪い子なのです。
「…まぁ、まぁ…さぁ、あと一息だよ!!!」
おばあちゃんは、やっぱり熱心に教えてくれた。
私がマスターするのは、後1時間後の事―…。
―プロローグ終―
:07/10/09 01:42 :SH903i :JE1I2vBk
#15 [ぱる.。+]
―第1章―
―嗚呼、愛しき貴方とは
中々、壁が多く――
.
:07/10/09 01:44 :SH903i :JE1I2vBk
#16 [ぱる.。+]
「行ってきま-す♪」
私は草履を履く。
こうなれば足元まで雰囲気を出して、とことん大和撫子になりませう!!!!!
「いってらっしゃいな……、と-、近場なのに荷物が多いんだねぇ、繭ちゃんは。」
おばあちゃんは私の持つ和風の鞄に目配せをする。
:07/10/09 01:48 :SH903i :JE1I2vBk
#17 [ぱる.。+]
幸い、今回持参した鞄は和柄なので、和服でもぴったりなのだ。
中は勿論…
女の子グッツだらけなのだ☆(半分嘘なのだ☆)
「いいの!今ドキの子の癖なの♪」
私は家を飛び出す様な勢いで家を出た。
:07/10/09 01:51 :SH903i :JE1I2vBk
#18 [ぱる.。+]
「…早川先輩ィイ♪もう少しですよぉ♪♪」
…ニヤニヤしながら歩く私は、もはや変態なのか…?
いやいや!恋する女の子は皆そうだよね。
と、ある地点で私の足は留まる。
「え…草村は?…あれ、森?」
目に止まるは森。雰囲気が悪い訳じゃないけれど森。
:07/10/09 01:55 :SH903i :JE1I2vBk
#19 [ぱる.。+]
「虫だらけじゃん、森……」
私は虫が嫌いです。
私の中には、
森=毛虫=甲虫=蜘蛛
とゆ-方程式があります。
でも、こんなハードルは想定内な恋する女の子なのである。
「ふふふ♪アー●の虫よけ(携帯用)登場!!」
:07/10/09 01:58 :SH903i :JE1I2vBk
#20 [ぱる.。+]
田舎のおばあちゃんの家という訳だから、勿論用意していた虫よけグッツである!!
(アー●は蚊だけしか避けないような気もしますが)
「ふふふん♪こんなハードル低すぎよ♪♪」
恋する女の子は強いんです、いやいや、まじで。
:07/10/09 02:00 :SH903i :JE1I2vBk
#21 [ぱる.。+]
恋する女の子は、ある意味ストーカーかもしれません。
あれ?私だけかなぁ?
普通、好きな人の住所と両親の名前と下着の色と、使ってるワックスとかシャンプーリンス、放課後の日課やベットの下のあれこれ……以下略
知ってるんじゃない?
あれ?私だけなのかなぁ?
:07/10/09 02:04 :SH903i :JE1I2vBk
#22 [ぱる.。+]
それからそれから、私と先輩の結婚生活まで考えますっ♪
お帰りなさい貴方♪
何になさいます?
ご飯?お風呂?
そ・れ・と・も♪
キャ――――♪
と、繭が妄想の最長を上げた瞬間だった。…歓喜の悲鳴は叫びに変わった。
:07/10/09 02:07 :SH903i :JE1I2vBk
#23 [ぱる.。+]
「キャ―――――!?」
私、繭は落ちていました。
おばあちゃんは言っていた。「草村が少しある」と。
でもね、少し歩いただけで崖なんて…―
私の意識は、飛びました。あぁ、死ぬのかな、私。
けれど思うは貴方のこと。
―死のハードル高すぎですよ神様…。
せめて、生かして下さいよぉ…
:07/10/09 02:11 :SH903i :JE1I2vBk
#24 [ぱる.。+]
「…………。」
気が付くと川でもなく、御花畑でもなく、古ぼけた家の中に居た。
申し訳なさそうに上にかかる布、何処からか撫でる風が心地よい。
「…死、んだわけじゃない…?」
むくりと起き上がろうとした時である。
右足に激痛。
「………痛ァッ!!!!」
:07/10/09 22:21 :SH903i :JE1I2vBk
#25 [ぱる.。+]
―…考えてみれば。
私は崖から転落した訳だから当たり前と言えば、当たり前、か。
というか、足以外今の所すべて無傷なのは、殆ど奇跡ではないか…?
私は、痛みを堪えゆっくりと起き上がり、足を見る。
「………」
丁寧に、日本手ぬぐいのような布で止血がしてある。…木の枝で固定もしてある。
:07/10/11 00:11 :SH903i :ajRZbal2
#26 [ぱる.。+]
間違いなく、誰かが手当てをしてくれた跡だ。
「崖の下の、村の人かな…」
繭は、とりあえずまた横になる。
…待っていれば、家の主が帰ってくるだろうし、家に通る風は眠気を誘う。
繭は静かに、ゆっくりと意識を落としていった。
:07/10/11 00:16 :SH903i :ajRZbal2
#27 [ぱる.。+]
・
◇
・
気付けば、烏が鳴き交わしていて、空はオレンジ色に輝いている。
ふと、家の中に目をやれば、和服の人が囲炉裏の前に座っている。
「……あ、の…」
私が呼ぶ声と同時に、人は振り返った。
…同じ歳位の男の子だろうか、彼はこちらに歩みよる。
:07/10/11 00:20 :SH903i :ajRZbal2
#28 [ぱる.。+]
「…起きたか」
その男は、目が鋭い…言えば目つきの悪そうな、すこし背の低めの人だった。
私は問い掛けに小さく頷く。
「二日寝てたんだ、あんたは。…今、雑炊は食えるか?」
また私は、小さく頷くが慌てて聞く。
「あ、あの、」
:07/10/11 00:23 :SH903i :ajRZbal2
#29 [ぱる.。+]
「何?」
チラりとこちらを向かれる。
「や…。ありがとう…」
「……。」
……何故無言!!!!!
やりにくい、助けてくれたのはありがとうですが、やりにくい……!
しばらくすれば、お雑炊をこちらに持って来た。
:07/10/12 07:20 :SH903i :W00sXFiA
#30 [ぱる.。+]
中を箸で混ぜてみる。
お湯が多く、米らしいものが入っていない...。
アワ、ヒエというもの、みたいな感じ。
おばあちゃんの近所は貧困に悩んでいるのか..。
試しに口に運ぶ。
味付けは、シンプルに塩。
「……。」
正直に、まずい。
:07/10/13 08:05 :SH903i :Hv.9eWTE
#31 [ぱる.。+]
繭はそれを口に流し込み、とりあえずお礼。
「助けてくれて、ありがとう…ございます…。」
すると目つきの悪い人は繭の隣に座り、ため息を付きつつ言った。
「さっき、聞いた。…それとさ、お前、服買わない?」
「え?」
私は、ふと自分の服を見る。…折角、おばあちゃんが着せてくれたのに、ボロボロだ。
:07/10/14 20:08 :SH903i :af55k7C2
#32 [ぱる.。+]
「え、あ、」
「…じゃあ、待ってろ。」
繭は呆気にとられるだけだ。
目つきの悪い人は、表に出ていってしまった。
「…………あの-…」
繭の小さな声は、木造の建物が吸い込んでいった。
:07/10/14 20:16 :SH903i :af55k7C2
#33 [ぱる.。+]
「折角おばあちゃんに借りたのにな…」
改めて服を見ると、崖から転落しただけあって結構ボロボロであった。
借り物をこんなにしてしまうなんて、さすがに罪悪感を感じる。
ただ、そんな中でも自分の命が助かったのは奇跡的だったのではと思う。
:07/10/23 12:53 :SH903i :i/kZHN5c
#34 [ぱる.。+]
ふと、部屋の隅に目をやれば、自分の和柄の鞄が置いてあった。
自分と一緒にあの人が持って来てくれたんだろう。
中身を確認するべく、繭は這いながら鞄に手をやる。
携帯とその電池パックは鞄の中で分列されていて、眼鏡は割れていて。
転落の衝撃の強さを物語っている。
:07/10/23 12:58 :SH903i :i/kZHN5c
#35 [ぱる.。+]
おまけにお財布も小銭口が空いているものだから、鞄の中身は散らかっている。
仕方なく繭は、鞄の整理に取り掛かった。
「携帯無事かなぁ……」
財布の中に小銭をしまい込み、眼鏡の破片などは仕方なく眼鏡ケースに保管。
携帯の電池を入れて、電源ボタンを押す。
「…………駄目か…」
:07/10/23 13:03 :SH903i :i/kZHN5c
#36 [ぱる.。+]
さすがに携帯は死んだらしくて、仕方なく繭は携帯を鞄にしまい込む。
それからは相当に暇で、ただ部屋を流れる風は気持ちがよくて。
繭はまた、しばしの眠りに落ちるのであった。
:07/10/23 13:07 :SH903i :i/kZHN5c
#37 [ぱる.。+]
「……い、おい〜…」
聞き覚えの無いその声で目が覚めると、鋭い目がまず先に視界に入る。
そこで、あぁそういえば私は看病されてたんだっけと繭は思い出す。
「あ、寝てましたか私…」
そう言い上半身を起こすが早いか、目の前に見えるのは薄紅色の和服。
:07/10/23 13:13 :SH903i :i/kZHN5c
#38 [ぱる.。+]
「…あ、これ……」
本当に、この人は和服を買ってきた、ようだ。
着れるか?と聞いてくる彼に私は、
着れないっていったら着替えさせちゃうのかよ、
とか、少し余裕をこきながら、着れますと答えた。
すると、彼は外へと出ていってくれた。
気を利かせてくれたのだろう。
:07/10/23 23:22 :SH903i :i/kZHN5c
#39 [ぱる.。+]
突然ながらお知らせ。
この度、ハンネを変えます。
ぱる.。+ → 桔妁(きなこ)
理由は、新しくはじめたHP
でのハンネに合わせようと
思う、という勝手事ですが、
どうか
これからもお願いします。
:07/10/23 23:27 :SH903i :i/kZHN5c
#40 [桔妁]
私は今寝転がっていた、一段高いところに座り、和服を着替えた。
座って、地に触れる足の鼓動が痛い。
(そういえば、こんなん買ってもらって、しかも初対面で……悪い、よね…?)
しっかり着替えてからそれを思う私は馬鹿だと思うが。
「着替えたか?」
しばらくすると、彼が入って来た。…そういえば、彼、彼と呼んでいて名前も知らない。
:07/10/23 23:32 :SH903i :i/kZHN5c
#41 [桔妁]
「あの、こんな和服貰っちゃって…しかも、名前知らない人に……」
「…あ、これは貰い物だからいいよ。……名前、言ってなかったっけ?」
買ってくるっていったの誰だよ!!貰い物かよ!!
それにっ!
「名前は、まだ聞いてませんし、ちなみに私も言ってません、よ?」
:07/10/23 23:36 :SH903i :i/kZHN5c
#42 [桔妁]
「そうだったか、」
首を傾げて言う彼は少し可愛さがある。目は怖いが。
「俺、は…天弥(ソラヤ)って言う。」
変わった名前、だけど聞いたことのあるような名前。
「天弥さん、…私は、時枝 繭です。」
普通に自己紹介なのに、こんな情景は新鮮ですこし照れる。
:07/10/23 23:43 :SH903i :i/kZHN5c
#43 [桔妁]
天弥は繭を見て驚いている。
「時枝、繭――…苗字、あるのか?」
「は?」
私は首を傾げるしかなかった。
そして、唐突な質問を続ける天弥。
:07/10/24 11:56 :SH902iS :vEfPNceo
#44 [桔妁]
「…―今、何年何月何日?」
「え、平成1X年の8月12日、ですが。」
すると天弥は嬉しそうな、また悲しそうな顔をして言った。
「…落ち着いて、聞いて。……此処は過去だよ。」
私は、こいつが何をいったのか、意味こそ分かるが馬鹿にした。
:07/10/24 12:02 :SH902iS :vEfPNceo
#45 [桔妁]
「…はい?」
「そりゃ、信じらんないかもしんないけどな……。」
ドッキリだろうか、それにしても真剣な天弥……
「天弥……」
ふと思った。いや、思い出した。
:07/10/24 12:14 :SH902iS :vEfPNceo
#46 [桔妁]
ミゾウラ ソラヤ
溝浦 天弥。
彼の事を全く知らないといえば嘘になる。
繭は、中三という事もあり、卒業研究に取り組んでいる。
テーマは[神隠し]
そして資料を漁る中、出て来た一人の名前…天弥。
:07/10/25 21:30 :SH903i :5/L4oiLw
#47 [桔妁]
彼は三年前の夏、当時十二歳の時に、田舎に遊びに行ったきり帰らず、
しかも、当時の事件を目撃した彼の祖母は、天弥は目の前で消えたと言うのだ。
祖母は、今はこの世に居ないが、あの頃は少し頭にきていたみたいで、"目の前で消えた説"は消滅したのだが。
その後、一時期は300人体制で捜すも見つからず、今では風化しつつあるのか…
:07/10/30 07:52 :SH903i :ruBS5tUk
#48 [桔妁]
その、天弥が今目の前に居るのだ、
そう思えば此処が過去というのはよく理解出来る。
信じられないけど。
でも、神隠しされた彼と同じ所に居る私も神隠しにあったのだろう…。
「…じゃあ、此処は何処?」
:07/10/30 07:55 :SH903i :ruBS5tUk
#49 []
続き楽しみにしてます(*pq・v・*)
:07/11/05 01:44 :N701i :xXpN/Zrk
#50 [桔妁]
ろんぐ放置ごめんなさい。
こっちは話の構成を考えるのが
なぜか進まず。。
これからはビシバシ更新です
:07/12/14 18:32 :SH903i :mTWrr0Hk
#51 [桔妁]
「此処か?此処は…鬼道村。」
「キドウムラ?」
「はぁ、鬼の道の村って事。……でも繭って、本当に現代人なのかよ。」
「なっ、失礼な!!」
いきなり知らない所(過去)に連れて来られてしまってテンパってる少女(なんか冷静だけど)に、何と言う言葉を。
:07/12/14 18:51 :SH903i :mTWrr0Hk
#52 [桔妁]
「まぁ、まぁ。それよりさ、なんで急に俺の話を信じてるの。」
「……新聞で見たからです-。神隠し少年だって、騒がれてましたよ-っ。」
自分より大人な対応(?)に、繭は若干負け惜しむような言い方で言った。
「嘘。すっげ-じゃん俺。テレビに名前出ちゃったのかよ。」
「そっちかよ。現世に残した家族の心配くらいしなさいよ…。」
:07/12/14 19:35 :SH903i :mTWrr0Hk
#53 [桔妁]
(てゆーか、テレビじゃなくて新聞だしなぁ。あ、テレビでもやってたかな?)
「そういう繭も、自分の心配をしろよな-。」
ため息混じりに天弥が言えば。
「あぁ、そうだよね!?…どうやって帰ればいいの!?」
急に青ざめる繭であった。
:07/12/14 19:40 :SH903i :mTWrr0Hk
#54 [桔妁]
しばらくしないうちに、空は闇に喰われかけていた。
部屋には蝋燭の明かりだけ。外ではひぐらしが鳴いている。
目の前にはくさいイノシシ鍋。ほうけている私に天弥はどうした?と聞いてきたけど、首を横に振った。
(ああ、昨日の夜とおんなじなのに……。)
なのに時空が、違うのだ。
:07/12/14 19:46 :SH903i :mTWrr0Hk
#55 [桔妁]
(早川先輩のために来たのに、帰れないんだ、もう。
嗚呼、大人びた15歳の天弥とも壁を感じるし、会えない早川先輩にも大きな壁……
こんな大きな試練のある恋をした人は居ないよね。私だけだよ……)
―嗚呼、私はどうなるの…?―
:07/12/14 19:49 :SH903i :mTWrr0Hk
#56 [桔妁]
―第2章―
―楽しむ過去LIFE?―
.
:07/12/14 19:55 :SH903i :mTWrr0Hk
#57 [桔妁]
気付けば、朝だった。
――目を開けたら、お母さんが目の前に居た。
ああ、あれは意識がなかったときの、私の夢だったんだ―――…。
「……なんてワケないんだよね…。これは現実なんだよ…。」
今この太陽の明るさ具合は、ちょうど昨日崖から落ちたのと同じくらいだった。
:07/12/15 07:42 :SH903i :u/O9biFY
#58 [∴ナ‐
頑張ってください
:07/12/15 13:38 :W43H :JTZsX2Nw
#59 [桔妁]
:07/12/15 17:32 :SH903i :u/O9biFY
#60 [桔妁]
「…………。いない…?」
ふと、繭は周りを見渡した。天弥が居ない。
「天弥さ-ん…。」
こんな未開の地に一人なのだ。例え知らない人だろうと、同類が居る事は心の支え。いなくなると心配である。
「…うう-………」
そんな唸り声を上げたときだった。
:07/12/15 18:00 :SH903i :u/O9biFY
#61 [桔妁]
「そらや-っ!今日こそ団子屋小町の小夜ちゃんを……あれ?おまいさん、誰じゃ?」
(あなたが、だれです?)
玄関口から現れたのは、薄汚れた少年だった。
と、同時に裏口から声がした。
「「俺なら此処だ-!!!!!」」
「あ、天弥さんの声。」
:07/12/15 18:15 :SH903i :u/O9biFY
#62 [桔妁]
そのすぐ後に、天弥の姿が声の方から現れた。
「あぁもう、今日は行かな……あ、繭起きたのか。」
手に魚を持っているところを見ると、朝ごはんの準備をしていたようだ。
「あ、天弥さん。おはようございます。」
「…あぁ-、なんかそのお嬢さんみたいな喋り方やめろ。普通でいい。」
:07/12/15 20:47 :SH903i :u/O9biFY
#63 [桔妁]
お嬢さん?繭は首を傾げた。そして、すぐに気がついた。
(敬語の事?…あぁ、当時12歳のままで学問が終わってるからか…)
「う、うん分かった……て、いうか……
「おい!わしを忘れとるよな、お前ぇら…」
そう、そう。この人は誰なんだか……。気になりますよね、あれ?私だけ?
:07/12/15 20:58 :SH903i :u/O9biFY
#64 [桔妁]
「ん?…あぁ繭、こいつ
「わしは、頼仲(自称)という者じゃ!よろしくな、繭!」
彼の、第一印象はこうだ。
人の話を聞け。
それと同時に、いい人という感覚はある。
「…ははぁ、よろしく。……ていうか何、その目は。」
:07/12/15 22:05 :SH903i :u/O9biFY
#65 [桔妁]
「いや-、そらやもこんな女子を見付けるとは。中々のめっけもんだァ!…でも繭よ、絶対わしの方がいい!」
「え?」
ああ、それからこの人、きっと凄く女好きなんだろうな、と繭は感じずには居られなかった。
「……もう俺、ぶっちゃけコイツ嫌だ。」
頼仲の女好きには、天弥もため息モノらしい。
:07/12/15 22:10 :SH903i :u/O9biFY
#66 [桔妁]
(頼仲さんの目は、女見ると輝くんだろうな……。っていうか天弥!!
"ぶっちゃけ"って大分古いからね。…さすが当時12歳だよ……)
「は-あぁ-………」
「何じゃ繭、そのため息は。」
「ううん、なんでもないよ。」
たしかに、こんな人ばっかりじゃあ、現世に帰る希望はなくなるかもしれない。
:07/12/15 22:15 :SH903i :u/O9biFY
#67 [桔妁]
それから、幾分か時は経った。
半月、いや一ヶ月は経ったのだろう。
―――
――
―
「繭-!」
(来た…団子屋小町んとこ行けばいいのに……)
しばらく頼仲は繭を標的にし、誘い続けていた。
:07/12/15 22:18 :SH903i :u/O9biFY
#68 [桔妁]
「でもさ、もう怪我治っただろ。一回位付き合ってやれよ。」
なんてことを言うのかこの男!!
「一回位って!!!あんたね-!私には一途に好きな人が………――ァアア!!!!」
繭は、忘れていた。早川先輩を。
「うるさいな-。今のは頼仲よりうるせぇババァ。」
:07/12/15 22:22 :SH903i :u/O9biFY
#69 [桔妁]
最近、この小学生のまま途絶えた天弥のコミュニケーションにも、やっと慣れた所だ。
「うるさ…!?あぁ、分かりましたよぅ!いいもんね!美味いモノ、たくさん食べてやるんだからっ!!」
それでこんな返答をする私も、天弥並に下がったのかなと、最近思う。正直泣きたい。
「頼仲くん、町に行きたいな-、私っ♪怪我の快気祝いってことで。」
:07/12/15 22:28 :SH903i :u/O9biFY
#70 [桔妁]
「けっ、何が快気だかなァ?横に伸びる病にかかるぞ。」
「うるせ-ジジィ。」
こんな感じで、なんとなく過去の生活が成り立ってきた。
―――順応していた。
:07/12/15 22:31 :SH903i :u/O9biFY
#71 [桔妁]
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「おばあちゃん、本当に繭は、あの森を抜けて左へ行ったの?」
「そのはずだけどね…繭ちゃん………。」
「おねぇちゃん、帰ってこないの-?」
【ニュースの時間です。少女が消えてから、今日で一ヶ月です。一説では、三年前にもあった神隠しと関連していると見て、迷宮かと………】
:07/12/15 22:36 :SH903i :u/O9biFY
#72 [桔妁]
「繭の奴、電話も繋がらないし、メールの返事も無い…。」
「早川部長、心配じゃないんですか、一応部員だし。」
「……まぁ、それなりに。」
「時枝は、依然として捜索が続けられている。皆も情報があったら先生に言うんだ。わかったね。」
:07/12/15 22:39 :SH903i :u/O9biFY
#73 [桔妁]
「天弥と同じような子が出るなんて……あの村は何なんだ……」
「神隠しだって。」
「繭ちゃんが?見つかるといいんだけど。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
順応している繭に対して、現世では日本国内で知る者は居ない程の話題になってしまっていた。
:07/12/15 22:43 :SH903i :u/O9biFY
#74 [桔妁]
―――
――
「…頼仲くん。町って、いつ着くの?」
しばらく歩いていた二人だが、中々町には着かない。
「あれれ-、おまいさん。町の女じゃないのかい?鬼道村から町までは二里あるんだけどな。」
「二里!?」
二里といえば、たしか8キロメートルくらいだっただろうか。確か小学生の時に習った気がする。
:07/12/16 14:33 :SH903i :tZ4U.oSM
#75 [桔妁]
だから天弥が町に行くと言う日は、朝早く出て日が落ちた後帰ってくるのだろう。
「…あぁ-私、村の崖の上から来た者だから……。分からなくて。」
「何、おまいさんもか!」
急に声をあげられたので、少し驚く繭。
「あ、いや。天弥もわしが偶然、鬼道洞窟の近くに居たときに助けたんじゃ。…まぁ、見つけたのはわしで助けたのは父上だがの!」
:07/12/16 14:39 :SH903i :tZ4U.oSM
#76 [桔妁]
あんな餓鬼拾う位なら、繭みたいなべっぴんを拾いたかったと笑う頼仲だ。
「…へぇ、そうだったんだ。……ていうか、鬼道洞窟って何?」
鬼の道の洞窟なのだ。相当な言い伝えがあるに違いない。
といっても繭はそんなものには何の興味がないので、ただの話題の種なのだが。
「あァ、あそこか?あそこァちょっとした昔話みたいなものがあるね。」
:07/12/16 14:45 :SH903i :tZ4U.oSM
#77 [桔妁]
「昔話?……むっ」
急に口を塞がれた。
「繭、向こうから誰か来る。」
しばらく二人で固まっていると、本当に誰かが来た。……侍みたいな人が。
しかも、相当お怒りの御様子。
:07/12/16 14:50 :SH903i :tZ4U.oSM
#78 [桔妁]
頼仲は、すたすた繭の手を引き、足をすすめた。だが、侍の言葉で足をとめる。
「今お前ェ-、睨んだよなァ?…んだ!野郎が!!」
頼仲は、侍の方を向いた。
威勢のいい奴だなぁ、しかも自意識過剰…。
繭は少し呆れ顔で見ていた。が。
:07/12/16 14:54 :SH903i :tZ4U.oSM
#79 [桔妁]
「んだ餓鬼がアァァ!!」
急に刀を頼仲に振って来たではないか。
これにはさすがに繭も青ざめる。
「キャアアアア!!!」
だが、頼仲はそれをするりとかわして、逆に短刀を侍に向けた。
:07/12/16 14:57 :SH903i :tZ4U.oSM
#80 [桔妁]
「お侍さん、間違えちゃいけんよ。わしはもう19だ。なめるな。
だが…今日は繭が居るから無駄な殺生はせんよ。…鬱憤が溜まっているなら遊郭にでも行けや。」
頼仲はそういって短刀を侍から離すと、繭の方へ駆け寄った。
侍は、すぐに森の中へと姿を消した。
「さぁ、町までは後少しじゃ!」
:07/12/16 15:03 :SH903i :tZ4U.oSM
#81 [桔妁]
「う、うん。」
「何じゃ-?ちょっとか男前で惚れたか?」
繭は、はぁとため息を付いた。
無邪気に笑う彼は十九歳だったのか、と。
そして意外と強いのねと。
「まぁ、絶対惚れないけど。」
そう繭が呟けば、次は残念そうなため息が隣から聞こえた。
:07/12/16 15:08 :SH903i :tZ4U.oSM
#82 [桔妁]
「ま、まだ食うのか!?」
「うん♪あ、あれも-♪」
町に着いた私達は、早速回り歩いた。
特に、何故か頼仲くんはお金持ちで、色々と食べたり買ったりしてくれた。
「いや、さすがに限界があるってもんだ!!…っておい!」
私は遠慮なく頂いていた。
:07/12/17 01:49 :SH903i :VoPBYhWg
#83 [桔妁]
「あ、あれ何だろ?」
町を進んでいくと、雑貨屋のような店があった。
「…お守り屋じゃ-。胡散臭い石っころに願掛けしたい種類が書いてあるんだけどな。」
頼仲は乗り気ではないが、此処は女の子!
繭も例外はなく、お守りだのおまじないだのという類に弱いのだ。
:07/12/17 18:31 :SH903i :VoPBYhWg
#84 [桔妁]
「…こんなんでいいんか?」
どうしても欲しかった私は、他にはもう欲しがらないからこれを買ってと頼んだ。
「仕方ないな。はい、おじちゃん。この子に一つ。」
頼仲がそういっている間に私は石を選んでいた。
「……あ、おじさん、この石がいい!!」
:07/12/17 18:34 :SH903i :VoPBYhWg
#85 [桔妁]
「なんでェ、ケツみてェな石がいいんか。…で、入れたい文字はあるかいねェ?」
ケツみたいな石とは、失礼な。…私が選んだ石は、ほのかにピンク色で、さらにハート型の石である。
ここに"恋愛"って掘ってもらえば最高だと思う。
「ええ-、じゃあ恋愛って書いて下さい!」
私は紙に恋愛の二文字を書いた。ついでにハート型も。間違えて逆さまに書かれたら嫌だったから。
:07/12/17 18:41 :SH903i :VoPBYhWg
#86 [桔妁]
それが出来上がるまでに、一時間程かかるらしいので、私達は茶屋でのんびりしていた。
「頼仲くんって、十九歳だったんだね…。全然わからなかったよ…。」
「そうか?皆には歳相応だと言われるがな。………というか、繭は凄いよなァ。」
他愛もない話をしているときに突然、繭は凄いと言われてきょとんとした。
:07/12/17 18:45 :SH903i :VoPBYhWg
#87 [桔妁]
「…そらやだよ。あいつァ、他の人間とあんなに話をしないからな。
…わしとおまいさんと……それ以外は会話しちょるのを見た事はないな。」
そりゃあ、そうだろう。小学生にしていきなり過去へと連れていかれたのだ。
心を閉ざしてしまっていても不思議はないだろう。
その点で、頼仲くんの場合は天弥を助けたから話してくれるんだろう。そして私は同じ神隠し仲間だから。
:07/12/17 18:49 :SH903i :VoPBYhWg
#88 [桔妁]
「…天弥も色々あるんだろうなぁ……。あ、あの-…鬼道村に縁結びの洞窟って、あったりしない?」
ここ最近、忙しすぎて全然探せなかった洞窟。頼仲くんは何か知っているだろうか。
そう思った、が。
「ん?そんなん鬼道村にはないな。」
「え、嘘だァ!!」
「いやいや本当さ。」
:07/12/17 18:53 :SH903i :VoPBYhWg
#89 [桔妁]
「な、なんと…」
じゃあ、相当浅い歴史のモノだったと言う事か。
恋する乙女の為の昔ながらの縁結びスポットじゃなかったのか!
「そ、そうなんだ…ありがとう…!!」
御利益があるかと思ったのに!過去に連れて来られてまで田舎に来たのに…
「何、落ち込んでるんじゃ-?」
「ううん、なんでもないよ-ん……」
:07/12/17 19:49 :SH903i :VoPBYhWg
#90 [桔妁]
―――
――
―
「わぁ、おじさん有難う!」
日も西の山に消えかけて、空は紫色だ。
「おぉ-、ごっつい手の割に、ちっこく掘るんだな-!!」
おじさんからお守りを貰って、帰り道を歩いていると、遠くから悲鳴が聞こえた。
「盗賊共かの。誰か侍が倒してるのかもな。」
:07/12/17 19:54 :SH903i :VoPBYhWg
#91 [桔妁]
特に気にもせずに(盗賊の死体にはびっくりだったけど)道を歩いていたらだ。
一里塚のところに、天弥が居た。しかもボロボロで。
「何があったんスか…」
私がちょっと聞くと、山菜採りだと言った。
「刀持ってるんだね-。」
私がちょっと聞くと、届かない高さの山菜を採るためだと言った。
「あ-!おまい、繭居ないと寂しいんじゃろ-!弱いのう!」
:07/12/17 19:59 :SH903i :VoPBYhWg
#92 [桔妁]
そうやって頼仲がからかうと、天弥は鞘で頼仲を殴った。
頼仲は頭を押さえている。
「ねぇ、あの盗賊さぁ…」
私が聞けば、天弥は。
「知らないね。大体さ、平成生まれの子供が人なんて斬れません。怖いです。これは山菜専用です。」
なぜか天弥は敬語で答えていた。
:07/12/17 20:03 :SH903i :VoPBYhWg
#93 [桔妁]
そこで、頼仲は私に耳打ちをした。
「盗賊が繭に手ェ出したら困るから倒したんじゃろ-ねェ。
繭は美人だから盗賊に何されるか分からないから。…惚れてるな。」
「な、」
あははっと笑う頼仲くんって、結構分からない子だと思った。(子っていうか19なんだけどね…)
:07/12/17 20:07 :SH903i :VoPBYhWg
#94 [桔妁]
それから、三人で手を繋いで帰った。私は右で頼仲くんは真ん中で天弥は左。
なんか、お月様が優しかった。
「なんだかんだ、楽しいんじゃない、かな?」
「お前、帰りたくね-のかよ。」
「繭は他所に行っちゃ駄目じゃ!わしの嫁…うっ!」
腹にクリーンヒット。
まぁ、今も楽しまなくっちゃだよね!
:07/12/17 20:11 :SH903i :VoPBYhWg
#95 [桔妁]
―第3章―
――鬼道村でお勤め。
私、茶屋小町です。―
.
:07/12/17 20:16 :SH903i :VoPBYhWg
#96 [桔妁]
「……第一回、居候会議ィ〜。」
「わ-い!…って、なんじゃそりゃ。」
気付けば紅葉が真っ盛りだった。皆は中間テスト中くらいか。
突然だが、溝浦家では会議が行われています。
「ど-もこうもね-んだよ!繭、てめぇ食い過ぎ!!」
「…え、えへ♪」
:07/12/17 20:19 :SH903i :VoPBYhWg
#97 [桔妁]
昔の人っていうのは、平均身長が物凄い小さい。
だから食事も少ないのだが。
来日(違う)したばかりの私は、ばりばり未来人なので食欲旺盛だ。
天弥は過去に来てからだいぶ経つので少ない量に慣れたのだという。
「食費が大変だ!俺、そろそろ強盗するかも。本当危ないなァー。
…ってなわけで!!!!」
.
:07/12/17 20:24 :SH903i :VoPBYhWg
#98 [桔妁]
「アルバイトね……。働かざる者食うべからず…ってやつですか。」
私は、村の中心部のお茶屋で働く事になった。
「ここは旅人も多いからね。楽しいよ。」
店長っぽい人(主人かな)は優しそうでなによりだ。
「すいません、最中と緑茶を…」
早速お客だ。たしかに身なりが旅人な人。少し……臭い…。
:07/12/17 20:29 :SH903i :VoPBYhWg
#99 [桔妁]
「か、かひこまひました〜♪」
近くに居るとツーンとする。
わかるだろうか、皆には。
―――
――
―
「つかれたァ…」
気付けば一日中働いていた。まぁ、疲れたといえど、私はお茶を運ぶだけなんだけど。
:07/12/17 20:32 :SH903i :VoPBYhWg
#100 [桔妁]
「ただいま…」
家に帰ると、最近会っていなかった頼仲が居た。
それと他に女の子も。
「お帰りんしゃいな繭!」
「頼仲くん、久しぶり。……で、この人誰?」
女の子は、多分私と同じ位の年齢だろう。
…化粧などしていてよく分からないけれど。
:07/12/17 20:35 :SH903i :VoPBYhWg
#101 [桔妁]
「わしの行きつけの遊郭の子じゃ-。今日は仕事が休みなようでね、連れてきた。」
「こんにちは、繭様。」
小さくお辞儀をするその子は、確かに、営業スマイルかもしれない。
「やだなぁ、繭でいいよ!…私、女の子の友達できるの初めてだから嬉しいなっ♪」
するとその子はにこりと笑ってくれた。次は自然な笑顔で。
:07/12/17 20:40 :SH903i :VoPBYhWg
#102 [桔妁]
「私、雪と申します。このような職についている故に、友が居なくて…私も、嬉しいです。」
「お雪、よかったなァ!繭はすごくやさしいぞ!!……と、今日は帰らねば…。」
さっき会ったばかりなのに、いきなり別れを言われた。
まだ天弥も居ないのに、この人は何をしに此処へ来たんだろうか…。
「ん?わしは今日、届けものをしただけじゃ。…じゃ、今から仕事だし、行く。」
:07/12/19 16:34 :SH903i :Anl.jzJU
#103 [桔妁]
「お届けもの?」
すると、なにやら頼仲はドキッとしている。私にばれてはいけなかったかのように。
「ま、まァそれは天弥に聞けばいい。わしらは行く!じゃあな!」
「あっ、では、また…」
私が首を傾けて考える間に、二人は出ていってしまった。
「何だ、あの人……まぁ、お雪と友達になれたし…ま、いっか-♪」
:07/12/19 16:39 :SH903i :Anl.jzJU
#104 [桔妁]
時計もない部屋の中、風もない村は、静かだった。
自分の心臓の音が聞こえる位…。
「天弥は何やってんだろ……遅いな-っ……」
退屈と空腹に痺れを切らした私は、外に出た。近くまで天弥をお迎えしようと思って。
――ガサガサッ
「はひ!?」
暗い道を歩いていると、いかにも…のような音がした。
:07/12/19 16:43 :SH903i :Anl.jzJU
#105 [桔妁]
「…だ、だれですかァ!!」
裏返った声で聞くと、帰って来た声の主は、意外な人だった。
「怪しいモンじゃね-よ。」
「…天、弥?」
「その声、繭!?ちょ、ま、お前、こっちにくるなよ!!」
「…?うん?」
立ちションでもしてるのかな…。そりゃあ見られたくもないでしょうが……
:07/12/19 16:46 :SH903i :Anl.jzJU
#106 [桔妁]
「なんで繭が此処に居るんだ?」
草村から出てきたのは、泥だらけの天弥。
「や、暇だったから天弥のお迎えを…ていうかなんで天弥は泥だら
「馬鹿!」
「は!?」
:07/12/19 16:48 :SH903i :Anl.jzJU
#107 [桔妁]
助けに来てやったのに馬鹿呼ばわりですか、私…
「夜道に女一人は危険だろ!?」
何を言い出すかこの男。…そりゃあ街灯もない暗い道だけど……そんな、馬鹿って…
「背ぇ低いから、説得力ない…。むしろ、天弥のほうが危ないよ?(笑」
思わず、(笑)を使ってしまうほど、にやけずにはいられなかった。
:07/12/19 16:52 :SH903i :Anl.jzJU
#108 [桔妁]
「そ-じゃね-よ……。ま、いいけどさ…んじゃ帰っか。」
何か、隠しているような気がした。女の勘ってやつでそれは不確かだけれども、そんな感じがした。
「…あ-あ……帰る帰るって…私達の帰るところって、どこなんだろう…」
不意に口をついて出た言葉は、夜の闇に溶けた。
冷たい木枯らしが吹いていた。
:07/12/22 23:01 :SH903i :o7i/uv3A
#109 [桔妁]
「…あ、そ-いえば…頼仲くんがお届け物を天弥に渡したらしいよね?あれ、何?」
夜道歩いている時に、先程のことを思い出した。
「ん?………あ、あれ…?あれ…まァ何でもいいじゃね-か!」
こいつ、また隠しているな……と、これも女の勘ですが…。
――繭が届け物の中身を知るのはこれから少し、先のこと…。
:07/12/22 23:08 :SH903i :o7i/uv3A
#110 [桔妁]
――約2週間後―
秋の紅葉は、本当にあっという間だった。
今は、どの葉も散ろうとしている。
そして繭のバイトの腕もあがって、さらに茶屋小町と呼ばれて、それはそれはモテていた。
「お繭、今晩一緒に町で呑まねェかい?」
:07/12/22 23:13 :SH903i :o7i/uv3A
#111 [桔妁]
「や、や…私のような身分では-…」
言い寄るのは親父ばかり…。かわすのにも一苦労と言ったところだ。
(どこの時代もおじさんってエロいなぁ…)
うまくかわしたつもりでも、ボディタッチしてくる客もいる。
お店間違えてるのではないでしょうか……
「ちょ、やめ
「オイコラそこのおじさん!!」
:07/12/22 23:16 :SH903i :o7i/uv3A
#112 [桔妁]
「なんだ餓鬼?」
「天弥…」
こんなとき、たまに天弥が来て救われる。
縋る目で天弥をみると、いつもなんだかんだ助けてくれる。
こういう優しさは好ポイントなのだけど。微妙に性悪なところは苛々する。
「助けてくれてありがとね!!んじゃ!あっちの旅人さん待たせてるから!」
「………。あぁ、うん。」
:07/12/22 23:20 :SH903i :o7i/uv3A
#113 [桔妁]
「…何、その微妙な反応は。」
「…いや、御礼に茶をいれたりとかねェのかなって。」
こういう、ちゃっかりした部分で、ポイントは下がる…。
やっぱり早川先輩以上はいないなぁ…。
「あとでいれてあげるよ…。…んじゃ、待ってて!」
呆れた笑顔を天弥に向けた後に、旅人の顔を見た。
「………!」
:07/12/22 23:23 :SH903i :o7i/uv3A
#114 [桔妁]
(早川先輩そっくり…!!)
居た、今ここで…早川先輩に並ぶ者が!!
「おおお待たせしました!…ええええと、お疲れでしょうから最中を添えさせてもらいました!よよ、よかったらどうぞ!!」
「?あ、あぁ有り難う。」
純粋に笑って下さるのも、早川先輩そっくりっ!!!
:07/12/24 11:14 :SH903i :8vB3PghU
#115 [桔妁]
「旅をしてるんですか?」
早速隣をキープ!!幸い、他のお客は居ない!(天弥は論外)
「あぁ。…江戸から少し、用があってな。…しかし、このような村にこんなに美しい娘が居るとは…中々だな。」
ちょ、早川先輩!(違う)今私を美人と言いましたァ!?
「けっ!どの辺が美人なんだかね-??」
こうなれば、そんな天弥の厭味も聞こえない。
:07/12/24 11:22 :SH903i :8vB3PghU
#116 [桔妁]
「しかし、本当に村娘も捨てたものではないよ…。今日の夜、どうだい?村のことを教えて欲しいんだ。」
「……………。」
天弥が二人の方を睨む中、繭はすごい笑顔で
「えぇ!!ははははい!是非!」
顔を赤らめ笑顔で言った。
「じゃあ、仕事が終わったら迎えにいくよ………」
天弥は、さらに睨んだ。…早川先輩似の男を。
:07/12/24 19:31 :SH903i :8vB3PghU
#117 [桔妁]
X'mas 番外編―第3.5章―
―チョコレートは
バレンタインだろ――
.
:07/12/24 19:36 :SH903i :8vB3PghU
#118 [桔妁]
「たるたるーるーるるー…♪」
訳の分からない歌を歌いながら、仕事が休みの天弥は家の掃除をしていた。
ちなみに、天弥の職が何かとはまだ明らかではない。決して作者がまだ考えていないからとか、そういうのでもない。←
「たるたるーん、るーん…ん?」
天弥の目に偶然繭の鞄が入りこんだ。そして、彼も悪気は無かったのだが…
:07/12/24 19:44 :SH903i :8vB3PghU
#119 [桔妁]
「…これ、あれか?けいたいでんわ……。」
中身を見てしまいました。しかも、携帯電話ときてしまえば、中々珍しいのであって…。
「おぉ-!!お父さんが持ってたなァ…。電源……ここか…あれ、付かない……あ、ついた!!!!!」
繭がやったときはつかなかったのに、ついたのだ。
「すげ……TV画面なんて何年振りだ…」
と、カレンダーをみると。
:07/12/24 19:52 :SH903i :8vB3PghU
#120 [桔妁]
「十一月三十日……」
もう、十二月になるのか、と思った。正確な日にちが分かるだけで、涙が出そうだ。
それと同時に十二月といえば。
「クリスマス…懐かしいな。」
という考えが浮かぶ訳で。
「繭にプレゼントでもあげようかな……」
なんて考えたのであった。
:07/12/24 19:57 :SH903i :8vB3PghU
#121 [桔妁]
と、そこに。
「そらやー!ばっちゃんから饅頭くすねてきたから食おう!!」
「…おぉ頼仲!いいところにやってきたじゃんか!!」
「は?」
――――
――
―
「わかった。つまり、おまいは繭に簪をあげたいというわけ。」
「そう!よろしくな!」
:07/12/24 20:01 :SH903i :8vB3PghU
#122 [桔妁]
仕事の都合上、さらに繭を何日も家に一人にするのは危険と考えたので、頼仲にお使いを頼むことにした。
「三日で帰るけ!」
「まじかよ。」
余りに早いなと思いながら、天弥は頼仲に手を振った。
「さァ、今日から日にちをきちんと数えなくちゃな…。」
――――
―
:07/12/24 20:04 :SH903i :8vB3PghU
#123 [桔妁]
三日後…。今日は十二月二日だ。
「……」
盛り上がった土の上で手を合わせる。
これは、仕事の"後片付け"だ。
と、草の外から人の影があった。
「誰ですかァ!!!」
裏返った声で、明らかにビビっていた。女か?
「怪しいモンじゃね-よ。」
そう言うと、返ってきたのは繭の声。
:07/12/24 20:10 :SH903i :8vB3PghU
#124 [桔妁]
「天、弥?」
まさか、こんな夜に迎えに来るなんて思わないから、動揺して、
さっき頼仲からもらった簪を胸元から落とすところだった。
しかも、この仕事が繭にばれるのは嫌だ。
さらに慌てた俺だった。
そんな俺の事を知りもしない繭だから。
「迎えにきたんだ」
なんて言われたら恥ずかしい。
:07/12/24 20:14 :SH903i :8vB3PghU
#125 [桔妁]
しかし、最近よくない噂の侍が居るようで、繭がよく無事だったと安心した。
だから叱ってやったのに。
天弥のほうが小さいから説得力が無いといわれた。
と、頼仲が女と家に来ていたようで。
あれほど言うなと言ったのに、繭に"お届け物"のことを喋ったようだ。
:07/12/24 20:17 :SH903i :8vB3PghU
#126 [桔妁]
しつこく聞いてくる繭。
まぁ、あとで分かるんだから…って言ったらお見通しか。
冷たい木枯らしが、吹いていた。
.
:07/12/24 20:19 :SH903i :8vB3PghU
#127 [桔妁]
その日の、夜の事だった。
「…何コレ?」
繭は俺に茶色い球体を渡してきた。
…イヤ、多分"アレ"ではないと思うが……
「コレなに?…やだなぁ!過去きて三年しか経ってないのに忘れちゃったの!?チョコボールだよ!!」
「は?……あ、あぁ!!」
:07/12/24 23:00 :SH903i :8vB3PghU
#128 [桔妁]
ようやく、わかった。
チョコボールといえば…あのキョロちゃんの、あれか。
銀のエンジェル、三つ集めたのに…過去来てパァだったんだ、そういえば。
「で、これがなんだっていうんだ?」
:07/12/25 00:00 :SH903i :ooso8LXg
#129 [桔妁]
「ん-…。勿体ないから、一人で食べようかと思ったんだけどね……。あげる、よ。」
繭がチョコボールを差し出す。
「?」
タダでくれるなんて、なんか繭には有り得ないと思い、不思議に思っていた。
「ほ、ほら、クリスマスだと思って!!今、もう少しで雪降りそうじゃん!ね?」
けど、何故か今日の繭は素直に受け取れたから、俺も素直に受け取った。
:07/12/25 00:06 :SH903i :ooso8LXg
#130 [桔妁]
「…あ、ありがと……」
チョコボールって、食べるのにこんなに緊張しただろうか…。
俺はゆっくり口に運んだ。
「……あ!!」
「!!?ななな何だよ!!」
食べようと思ったら、繭が大声あげるもんだから口ん中に落っことしてしまった!!
:07/12/25 00:08 :SH903i :ooso8LXg
#131 [桔妁]
「し、賞味期限…平気かナ?」
「え、」
冷や汗かいたふうに笑う繭は、なんか憎めないが…
腐ったチョコだったら…どーするんだよ俺!!
「あ、来年の一月まで平気だ!あははっ!!」
口の中のチョコボールのことを気にしていたら繭がいった。
「な、なんだよ……。…ていうか…なんで本当に俺にチョコボールなんか?」
:07/12/25 00:12 :SH903i :ooso8LXg
#132 [桔妁]
そこがやはり疑問だ。
誰より食い意地のはった女だから、絶対に有り得ないのに……
「ん?…本当にクリスマスプレゼントだよ!」
そういう繭を、今日は信じようと思う。
「でもさ、普通…チョコはバレンタインじゃねーの?」
そこで、俺がチョコボールを食べながら、そうやっていえば。
:07/12/25 00:16 :SH903i :ooso8LXg
#133 [桔妁]
「いいじゃん!…ほんと、有り難うのひとつくらい言ってくれればいいのにっ!!」
がみがみ言う繭が楽しくて仕方ない。
こいつにとって、家族や友達に会えないのは不幸なのだろうけど、俺は繭に会えて、今までの三年間の不幸な日々が変われたから幸せだ。
本当のクリスマスの日には、きちんとプレゼントをあげよう。少なくとも、俺と過去に居て、楽しいと思える日が、ひとつでも増えるように。
.
:07/12/25 00:21 :SH903i :ooso8LXg
#134 [桔妁]
―Side繭――
夕刻―――…。
「静かでつまらない……。」
床に座っている繭だが、自分の心臓の音が聞こえるくらい静かで、つまらない。
と、収納スペースに一際古い箱があるのに気がついた。
「…金めのものかな……。小判とかならもらっちゃおー…」
興味本位で、箱に手をかけて、中を見た。
:07/12/25 00:25 :SH903i :ooso8LXg
#135 [桔妁]
「?服??」
それは、小さめのTシャツと短パンだった。
恐らく、というか確信を持ち天弥のだろう。
そして箱の底に、紙が入っていた。
手紙のようだ。
「…旅行楽しんでいらっしゃい……、おばあちゃんの言う事を聞くのよ。寂しくなったら、電話するのよ。」
お母さんの字だろうか。愛情が滲み出ているようだ。
:07/12/25 00:29 :SH903i :ooso8LXg
#136 [桔妁]
慣れた慣れたと、天弥は言っているだろうけど。
「天弥だって…帰りたい、よね…」
三年間、どんな思いだったんだろう。知らない土地で一人きりで…。
「よしっ!!元気つけてやらなくっちゃね!!」
私は、隠し持っていたチョコボールを鞄から取り出した。
「現代の味を食べさせてやろうかな!!」
:07/12/25 00:31 :SH903i :ooso8LXg
#137 [桔妁]
そう、私だって寂しいけど。
天弥が居たからだいぶ違う。
そのへんは、私だって分かってるんだから。
少しでも、繭が来てくれてよかったよ俺。とか思ってくれたらいいなって。
だから、まぁ…
早川先輩よりは下だけどね、天弥だって幸せでいて欲しいなって思うわけです。
―――
―
.
:07/12/25 00:36 :SH903i :ooso8LXg
#138 [桔妁]
―
―
―
―
―
―
通じていないようで
通じている
そんなふたりの
冬の始まりは
なんとなく
暖かかった。―
―
―
―
―
―
:07/12/25 00:39 :SH903i :ooso8LXg
#139 [桔妁]
―第4章―
―新しい心の名前
さようなら古い心――
.
:07/12/25 00:41 :SH903i :ooso8LXg
#140 [桔妁]
「お疲れ様、今日はあがりでいいよ。」
この店の主人の言葉は決まって定刻に。
「有り難うございます!」
私は、いつもとはきっと違う明るい声で言う。
だって今日はデートなんだから!
「…て、あれれ…天弥?」
:07/12/25 01:40 :SH903i :ooso8LXg
#141 [桔妁]
岩影に、天弥が居た。
「趣味悪いなぁ-。デートののぞき見?」
「………行くのか、本当に?」
私の厭味を無視し、天弥は聞いてきた。なんか、この顔は母性本能をくすぐるというか…。
でも今日は外せない!!早川先輩似の人とのデートは!
:07/12/25 01:43 :SH903i :ooso8LXg
#142 [桔妁]
「行くよ?…ていうか…天弥は、ど-したのよ?こんな時間に…」
「…仕事。」
そっけなく答える天弥に多少の苛々を覚える。
「ああ、ふ-ん。……あ、あの人だ!…じゃあ行く…」
足を一歩進めようとすると、不意に天弥が着物の裾を掴んだ。
「…やめとけ。」
そう私には聞こえた。…だが振り払って歩いていった。
:07/12/25 01:48 :SH903i :ooso8LXg
#143 [桔妁]
「本当にいらしたのですね!」
「俺が契りを破るとでも思ったか。…では、行くか。乗れ。」
前方に、馬――…。
しかも白馬!!!
王子様ァ!!!!
「チッ………」
二人が乗り、そして走りだす馬を追う少年が居た事は、誰も知らない。
:07/12/25 01:54 :SH903i :ooso8LXg
#144 [桔妁]
「そらや-……あれ、居ないんか?」
同時刻。頼仲とお雪が家にやってきたが、二人は居ない。
「折角一緒に呑もうとしたのにのう…。」
「何処へ行かれたのでしょう?」
頼仲は、持ってきていた酒を少し呑み、言った。
「まぁ…仕事でもやっとるんだろうねぇ……」
:07/12/25 08:38 :SH903i :ooso8LXg
#145 [桔妁]
「…ここ、ですか?」
繭がついたのは、町はずれの小屋の中だ。
中には高級そうな着物や、金銀財宝が置いてある。
「あぁ、今の宿泊場所だ。さぁ、座れ。」
「あ、有り難うございます…」
微笑んでくれると、やはりカッコイイ。
:07/12/25 08:42 :SH903i :ooso8LXg
#146 [桔妁]
「茶屋の娘…名は何と?」
出された飲み物は、お酒のようだった。まだ未成年だけど…早川先輩が出してくれたのだから…と、ちびちび飲む。
「私は繭と申します……あの…貴方は…」
「俺か?ナギだ。…まぁ、流れ者だから……………て…………るん……」
あ、れ……?
繭の意識は遠退いていった。いつの間にか、ナギさんの声も聞こえない。お酒の飲み過ぎ、にしては少な過ぎる量だし……
そんなことを考えている間に、完全に意識がなくなった。
:07/12/25 12:55 :SH903i :ooso8LXg
#147 [桔妁]
:07/12/25 21:01 :SH903i :ooso8LXg
#148 [桔妁]
その頃…息を切らした天弥は町中に居た。
天弥の脚力は、並外れていた。だが、さすがに馬に追い付く事は不可能で…
「くそ…見失った……」
町に入った所で、馬を見失った。
「なんで繭を……………ん?」
急に、後ろから気配を感じた。
「天弥殿!!!!」
それはひとりの侍格好をした男だった。そして、天弥のよく知る人物…
「頼仲の兄上…?」
:07/12/25 21:18 :SH903i :ooso8LXg
#149 [桔妁]
頼仲とは打って変わった真面目な人柄の彼は、いつも何かと力になってくれる。
「弟から聞いたよ。今日"奴ら"が動いたんだって…。」
「…頼仲が?」
呼吸を直しながら俺は天弥は聞く。
「まぁ、正確には遊郭のお雪の客が漏らした話だが……今晩、娘を売って一儲けするらしい。」
娘…いわずと知れた、繭だろう。
「有り難うな…」
:07/12/25 21:31 :SH903i :ooso8LXg
#150 [桔妁]
場所の目星はついていた。
繭に出会ってしばらくのとき、村に現れた不貞な奴らの処理任務についた。
そのときに突き止めた場所は、町の端にある賭博場の地下だ。
取引はそこで行われるに違いない。待ち伏せればいいだろう。
「…じゃあ、俺は行く。」
そう頼仲の兄に別れを告げようとすると、彼は言った。
:07/12/25 21:37 :SH903i :ooso8LXg
#151 [桔妁]
「天弥殿は…変わったな。あの、繭殿のお陰だろうが……。余り、見失うなよ。」
それを聞いた天弥が、頼仲の兄の方を振り向いた時の眼は、冷えていた。とてもとても暗く…………。
年上の彼から見ても身震いをするような。
"これ"が天弥の職業なのだと、余計に実感させられる。
「……息を切らしていくな。負けるぞ。」
それだけを言うと、頼仲の兄は戻っていった。
:07/12/25 21:46 :SH903i :ooso8LXg
#152 [桔妁]
「………………。」
町の端の賭博場に急いだ。
まだ、間に合うか。奴らより先に繭を救わなくては。
過去世界での自分の苦しみを変えたのは繭だ。
いつの間にか、俺にとってかけがえのない人になった。
そう。とにかく、繭を…………
そんな気持ちとは裏腹に、冷酷な眼が言う。
:07/12/25 21:50 :SH903i :ooso8LXg
#153 [桔妁]
お前に幸せなどはない。
ささやかな自分の幸せさえも犠牲にしなくては、この職業はままならない。
でなければ、迷い死ぬ。
ただ頼まれた通りに、どんな奴らだろうと殺す…
それが"天弥"の新しい生き方であり、きれいごとに染まる事はもうできない、と。
過酷な生活の中で生き残るためには、リスクを背負わなくてはならないのだ、と。
:07/12/25 21:55 :SH903i :ooso8LXg
#154 [桔妁]
生活のために、ささいな幸せを、明け渡したのだ。
父も母も兄弟も友達も諦めた。
もう、自分が生きる事に全てを捧げようとした。
"神隠し"。
神がそう自分を定めたのは何故だろう。なぜ自分が。
通常の居るべき次元から離されて、そこに生きていたという跡を消された。
なら、ここで作ろう。自分は此処に居たのだと。
:07/12/25 22:03 :SH903i :ooso8LXg
#155 [桔妁]
たしかに自分は存在していたと、たくさんの魂にしらしめる。
間違いだ、分かっているのに。
過去に来た自分、此処に居る自分を認められない。
もはや自分が何なのかと、わからない。
だから、そうするしかない。
例え、嫌われても、かけがえのない者の前で血が舞おうとも。
:07/12/25 22:09 :SH903i :ooso8LXg
#156 [桔妁]
―――――
――
―
「……?」
ざわざわと、周りがうるさい。これが目が覚めた時の印象だ。
そして、暗い部屋のひんやりとした土の上に座っているような感覚で、なおかつ腕は縛られていた。
「なんでこんな…確か…」
そう、この場は間違いなく、天弥が読んだ場所である。
:07/12/25 22:40 :SH903i :ooso8LXg
#157 [桔妁]
「ナギさん……」
そうだ。ナギさんの小屋に入ったら…
意識がなくなったんだ…。
(腕が拘束されてるのは気分悪いなぁ…。
ていうかまさか……ナギさんが私を…?)
過去に来たんだから、ある程度の変な出来事は想定していたが…
:07/12/25 22:47 :SH903i :ooso8LXg
#158 [桔妁]
まさか、絶対いい人だと思ってた人がこんなことを……
っていうか結んで何しようとしてるの!?
繭が余裕をこいてめくるめく妄想をしていると、左側が明るくなった。
扉が開いたようだ。
:07/12/25 22:51 :SH903i :ooso8LXg
#159 [桔妁]
「目が、覚めたようだね?」
一瞬眩しくて分からなかったが、確かに早…じゃなくて、ナギさんだった。
「ナギさん、あのこれ…」
聞こうとした瞬間だった。
ナギさんの両脇から二人の男が現れた。
「出せ。」
二人の男に命じたナギさんは、一足先に部屋を出た。
:07/12/25 22:55 :SH903i :ooso8LXg
#160 [桔妁]
一抹の不安を感じずには……?
いいえ一抹なんて、そんな小さくない。
本能が、第六感が…?
分からないけれど。
私からは、汗が一滴垂れた。…じめじめした涼しい空間なのに……。
:07/12/25 22:58 :SH903i :ooso8LXg
#161 [桔妁]
部屋の外も、薄暗い部屋だった。…言うなれば地下室。
「今日、皆に集まっていただいたのは他でもない。」
二人の男に取り押さえられていた私には、いつの間にか猿轡がされていた。
つまり何も喋れず、何事かと聞く事もできない。
そのうちに、上擦った声のナギさんが話し始める。
「今日は、私自らが出向いて会得した代物だ。」
(何……?)
二人の男たちを見ると、ニヤッと笑っている。
:07/12/26 22:44 :SH903i :TpUAuREM
#162 [桔妁]
「さぁ、大判三枚との交換だ!」
(…大判三枚……?)
皆、一様に息を呑むのが聞こえた。
今まで意識に止めなかったが、部屋には所狭しと目つきの悪そうな男が居る。
(どういう、こと……)
拘束されて、訳のわからない所に連れられて、あやしいおじさん達が居るのだ。
いいところではないだろう。
:07/12/26 23:02 :SH903i :TpUAuREM
#163 [桔妁]
「せめて大判一枚にしておくれよ。高すぎだろうね。」
「いくらなんでも三枚は無理じゃろうね、遊女よりもお高いだろう。」
しばらく静かだった空間がざわめきだした。
と、同時に繭は状況も掴めてきた。
(売られようとしてる?)
そ、そんなの!冗談じゃないっ!!
繭は急にテンパり始めた。ものすごく、あがいた。
:07/12/26 23:07 :SH903i :TpUAuREM
#164 [桔妁]
「……ほう…あの女、まだ動く元気があると…。不良品だな…?」
ひとりの男が呟いた気がする。
と、同時に周りが値下げコールをしてきているではないか。
「ええい!仕方のない!!…大判一枚、小番三枚で手を打とう!!」
(は!!??ななナギさん!?)
:07/12/26 23:10 :SH903i :TpUAuREM
#165 [桔妁]
私が驚く間に、三人の男が前に出た。
…私を買おうとする奴か……。
「ほほう…久しい顔ぶれだな。」
ナギさんは三人を目下に見ながら言っていた。
ああ、こんな訳のわからない連中に売られてしまうんだ…。
さっき、天弥は行くなって言ってたっけ…。言う事を聞けばよかった……。
:07/12/26 23:15 :SH903i :TpUAuREM
#166 [桔妁]
今更になり、後悔が頭中を駆け巡った。
涙も出た。
甘く見た自分が馬鹿だったなと…。今更では遅いとも。
(天弥、呆れてるだろうな。…俺が折角忠告したのによー、とか言って……)
と、悟り始めた時であった。
:07/12/26 23:20 :SH903i :TpUAuREM
#167 [桔妁]
部屋の奥…(否、恐らく入口部分だろう)から、火の手が上がった。
「な、なんだ……!!」
ナギさんも想定外らしく、慌てふためいている。
そして入口の男達から、じわじわと焼かれていく。
逃げる者も居ない。
入口も出口も、あそこのみなのだということだろうか…。
「だ、誰だ!?役人か!?」
ナギさんがそう言う頃には、異臭が漂って、周りは火の海だった。
:07/12/26 23:24 :SH903i :TpUAuREM
#168 [桔妁]
煙が、苦しい…。
というより、意識がまた薄れていくような気持ちだ。
目がチカチカして、なおかつ室内温度が高くて、釜戸の中ってこんな感じなのか。
と、次の瞬間。
(………っ!?)
目の前に居たナギさんから、赤い液体――もとい、血が飛び散り、首が消えた…。
時代劇もびっくりである。そして後ろには人影。
こいつが切った事は明白だろう…。誰かは、判らないが。
:07/12/26 23:28 :SH903i :TpUAuREM
#169 [桔妁]
そして、びっしょびしょの布が被せられる。
………と、いう所から、繭の意識は途絶えた。
気付いた時には、見たことのない部屋に居た。
:07/12/26 23:31 :SH903i :TpUAuREM
#170 [桔妁]
「…頼仲ー。こい。」
ぼんやりした意識の中、知らない男の人が頼仲を呼んでいることだけが分かった。
しばらくすると、頼仲が私の顔を覗きこんでいる。
「繭!よかった!!生きとってくれた!!」
そんなことを、いいながら。
ああ、そっか…私――。
あの時の状況が私の中にあらわれた。
:07/12/26 23:35 :SH903i :TpUAuREM
#171 [桔妁]
「――…天弥は、?」
頼仲くんの前で、失礼だったろう。いきなり天弥とは。
ただ、謝りたかったからなんだけれども。
言う事きかなくて、ごめんて。
「そらやか?……あいつなら…ちょっと怪我をして休んじょるよ。」
「え?け、怪我??…それに私はどうやって頼仲くんの所に…」
:07/12/26 23:39 :SH903i :TpUAuREM
#172 [桔妁]
なんでも天弥は山菜採りの最中に、山から転がり落ちたらしい。
なので自宅療養中とのこと。
「…繭は……うちの前に倒れていたんよ。で、意識ないから預かったという訳じゃ。」
つまり、ここは頼仲くんの家ということか。
"誰か"が運んだのだろう。ナギさんの首を斬った"誰か"が。
:07/12/27 14:20 :SH903i :troNYYyc
#173 [桔妁]
「と、面倒見てくれてありがとう!!…じゃあ、天弥が心配だから行くね!」
こうしちゃあいられない。私は元気な訳だし、天弥の看病でもしなくては。
「平気なんか!?」
頼仲が繭の身体を支えようとする。だが、繭の足はしっかり地についている。
「うん!じゃあね-!」
外を見ると、町の中のようだ。これなら一人でも帰れる…………。
:07/12/27 14:24 :SH903i :troNYYyc
#174 [桔妁]
―――――
―
帰れる…………?
「そんな訳ないだろ-っ!!!」
町から村まで8キロあるのに、そんなにパパッと帰れる筈がないのだ。
「有り得ない-……。でももう5キロは歩いたよね…。」
そう、繭はがんばったつもりだった。だいぶ歩いたつもりだった……。
だが、実際は3キロしか進んでいなかった。
そろそろ途方に暮れる繭。
:07/12/27 14:29 :SH903i :troNYYyc
#175 [桔妁]
と、向かいから人が歩いて来るではないか。
「……お…天弥ぁ?」
しかも自宅療養中の天弥だ!
腕に箱を抱えながら歩いて……いや、走っている。
向こうも繭に気が付いたようで、さらに速く走ってきた。
:07/12/27 14:33 :SH903i :troNYYyc
#176 [桔妁]
「ま、繭かよ!!」
目を丸くして繭を見る天弥。
「や、ていうか…天弥、怪我は…?しかも服違うし、その箱は何…etc」
つっこみ満載の繭も、目を丸くしている。
:07/12/27 14:35 :SH903i :troNYYyc
#177 [カナ]
面白いです☆★
頑張って下さい
:07/12/30 22:40 :F703i :4Y81UAeU
#178 [桔妁]
カナさんありがとう!!
年末年始は忙しくて、あまり更新できないかもしれませんが、頑張ります
:07/12/31 14:04 :SH903i :ioR6Y8w2
#179 [桔妁]
「え、いや……これは…」
しどろまどろしているために、怪しい感じが滲み出ている。
「…まぁ、何があってもいいけど……凄い怪我じゃん!!なんで、休んでないのよ!!」
感情に任せて怒鳴る繭に、背中の筋が伸びる天弥。
だが、その後は微笑みが止まらない。
:07/12/31 14:12 :SH903i :ioR6Y8w2
#180 [桔妁]
「な、何!?笑わなくたって…」
「いや、はは…なんでもね-よ…あはは!」
折角怒ってやったのに笑われるなんて…。
なんかいつでも上に見られているようで腹が立つ…。
「じゃあ、俺これ届けるから行くな!」
:07/12/31 14:18 :SH903i :ioR6Y8w2
#181 [桔妁]
「ど、どさくさに紛れて逃げるつもり!?」
まだ喚く繭の横を風のように走って通り抜ける天弥。
「ちょ…待って、よっ!」
間一髪、横を過ぎ去る前に繭は天弥の腕を掴んだ。
「……痛いぃッ!!!!」
ゴトン、と天弥の腕から木箱が落ちた。
:07/12/31 14:27 :SH903i :ioR6Y8w2
#182 [桔妁]
「あ、ごめ…」
掴まれているのとは逆の手で、地面に爪を立てる天弥。
その痛さを物語るには十分だった。
そこから繭が視線を掴まれた腕に移すと、そこに巻いてあった包帯(真っ白でなくて黄ばんでいる)が、ひらひらと外れていった。
「あ……」
天弥がそう一声、発したときにはもう、繭は見てしまっていた。
:07/12/31 14:35 :SH903i :ioR6Y8w2
#183 [桔妁]
痛々しい、火傷を負った腕を。
(火傷…?嘘、だって天弥は山菜を………)
はっと、繭は思い出した。
いつだったか。頼仲と遊んだ日の帰り道に、盗賊が死んでいて、その先に刀を持った天弥がいて。
そのときも、天弥は"山菜採り"と言っていた、と。
:07/12/31 14:40 :SH903i :ioR6Y8w2
#184 [桔妁]
(じゃあ、まさか…天弥は嘘をつくときに"山菜採り"って言うんだとしたら……)
では、この火傷はつまり…
「いや、や…違くて…な…」
苦笑いで弁解する天弥の事を、繭の目にはどう映っただろうか。
「ナギさんを斬ったのも、何人の人も焼いたのも、私を助けたのも……天弥、?」
否、多分、何も見えてはいないだろう。だって繭の目は、水で滲んでいたのだから。
:07/12/31 14:46 :SH903i :ioR6Y8w2
#185 [桔妁]
それを、後から見る影があった。
頼仲の兄だ。
繭が家に辿り着けるか心配で、こっそり後をつけていたのだ。
「……繭殿に、気付かれてしまいましたか…。繭殿がどう心変わりしてしまうか…。天弥殿、残念だったな…」
ぽつりとつぶやいた頼仲の兄は、町の方に向くと歩きだした。
後ろに感じる空気は、耐えられるようなものではなかった。
:07/12/31 15:04 :SH903i :ioR6Y8w2
#186 [桔妁]
―第5章―
――見えなくて、大きくて
抱えきれない大切なもの。―
.
:07/12/31 15:09 :SH903i :ioR6Y8w2
#187 [桔妁]
「…繭が、おかしいんだ!」
ここは頼仲の家である。
そこに押しかけたのは、天弥だ。
雪降る中を走って来た天弥はあまりに寒々しく見えて、
普段は家に上がっても挨拶ひとつしない頼仲の兄が、今回ばかりは手ぬぐいを差し出してくれた。
「…で、繭がどうしたのじゃ。」
:07/12/31 15:18 :SH903i :ioR6Y8w2
#188 [桔妁]
「繭、なんか…寝てないみたいで……。体調が悪そうで…」
本気で心配しているようであったが、頼仲の兄がぽそりと言った。
「それは、天弥殿が殺し屋だってばれたから、だろう。」
「え、なんで頼弦(ヨシツル)がそんなこと言えるんだ?」
天弥は膝を抱えて、そこに頭を入れた。「兄上と呼びなさい」という頼仲の兄の声は、天弥に遠く聞こえた。
(…やっぱり、ばれたらやべーよな……。)
頭の中は数日前から、繭の潤んだ目の像を鮮明に映し出す。
:07/12/31 15:34 :SH903i :ioR6Y8w2
#189 [桔妁]
「………」
「……………すまん…」
頼弦が謝るが、空気はよどんだままだ。
「…や、でも!あれじゃ、そらやが言っていた"くらすめす"?のときに簪渡したら、機嫌もよくなるじゃろ?」
「…クリスマス、な。…でも、頼仲の言うことも一理あるかもしれねーな…」
天弥の目に、生気が戻りつつあった。
:07/12/31 15:47 :SH903i :ioR6Y8w2
#190 [桔妁]
来年もよろしくお願いします!!
紅白は見てませんでしたが
白組が勝ちましたね!!
私はよゐこの無人島SPを
見ていました!笑
本当、来年はさらに成長を
遂げて、皆様に小説を
お送りしたいと思います!
では、残り少し!!よいお年を!!
:07/12/31 23:46 :SH903i :ioR6Y8w2
#191 [桔妁]
――――
―
「あ、あの…ま繭―…繭…」
夕刻。数日前までは華のある話が舞っていたはずの夕食時だ。
近寄るだけでピリピリしそうな空気の中心に居る主に、天弥は話し掛ける。
だが、主である繭は目も合わせてくれようとしない。
「…ま、繭………」
と、急に繭が立ち上がった。
繭は、家を飛び出して、走っていった。
:08/01/01 02:07 :SH903i :a.l0GRvc
#192 [桔妁]
ただ一直線に、目指すのは崖の下へ――…。
降りしきる雪の寒さは、現代の北風よりも冷たく、身体に染みていった。
ひとつひとつの雪が、涙を流す言い訳となった。
だが、どの雪も繭の心にはかなわなかった。
:08/01/01 02:18 :SH903i :a.l0GRvc
#193 [桔妁]
気が付けば、正面が壁…。
そう、崖の下だ。
繭は、崖を素手の拳でなんども殴るようにしていた。
ここ数日、繭はあることを思っていた。
(天弥は、ここで私を救ってくれて…ご飯もくれたし、現代同士で仲良くしてくれた……。
野蛮な連中とかエロ親父からもかばってくれてた…
:08/01/01 02:24 :SH903i :a.l0GRvc
#194 [桔妁]
ただ、まさか人を殺すような人だとは思わなかった。
性悪なんだろうけど優しくて、どっか幼稚だけど暖かくて大きくて、そんな天弥が…。)
「……っ。…――帰してよぉ―。…いやだよいやだよ…私は、私は…」
そこへ、走って追い掛けた天弥の姿が崖の前に現れたが、繭の目に映る事はなく。
「いやだよ…。時代に流されて、人殺しになりさがるのは、嫌だよ……っ…。私も、変わる前に、帰してよ………!!」
天弥は、その場から動けなかった。
:08/01/01 02:30 :SH903i :a.l0GRvc
#195 [桔妁]
気が付いたときに繭は、頼仲の家に居た。
意識を失った訳ではなく、うっすらしか記憶にないだけで、声をあげて泣いていたようだ。
しかも家に頼仲は居なく、その兄だったのだから迷惑極まりないだろう。
「……あ、あの…なんかすみませんでした…頼弦さん…」
落ち着いた時の繭は、隣に居た頼弦に深く謝った。
:08/01/01 19:43 :SH903i :a.l0GRvc
#196 [桔妁]
「いや、いい…。だが、一言言わせてもらう…いいか?」
しゃくりがおさまり、自分の息遣いしか聞こえないことが少し恥ずかしいと思いながら、繭は頼弦の方を向き、頷いた。
「奴の…天弥殿の気持ちを、分かってやってはくれぬか…?
天弥殿は、生活のため、仕方なく…人斬りをしていたんだ。身寄りもなく、だからどうしようもなく…
幸せと引き換えにな…。」
:08/01/02 00:04 :SH903i :V3Yv/f4g
#197 [桔妁]
隙間風が余計に寂しさを煽った。
繭には、その意味がよくわからなかった。
「仕方ない……。…天弥殿―。」
頼弦は扉に向けて天弥を呼んだ。
すると、外から雪を被った天弥が現れた。
それと同時に少し吹雪が入って来て、その寒さが伝わった。
:08/01/02 17:02 :SH903i :V3Yv/f4g
#198 [桔妁]
「繭、っ…」
天弥は、繭の方に駆け寄った。
「俺、もう帰れないと思ったから……だからヤケになってた。
でも、もう…繭が来てからは…やめようと思って、上の方に言いにいったんだ…。
だけど、最後に極悪事件を任されて…。」
:08/01/02 17:08 :SH903i :V3Yv/f4g
#199 [桔妁]
「言い訳は、いらない!!」
繭は、一生懸命に話す天弥を蹴飛ばした。
と、天弥の胸元から布の包みが落ちた。――簪だ。
繭は静かに、胸元から落ちた物を拾った。
「あ、ごめ……これ、何―…?」
いつの間にか、頼弦は部屋から居なくなっていた。
:08/01/02 22:08 :SH903i :☆☆☆
#200 [桔妁]
「…や、これは、その……」
今出すべきではないことは承知であるそれは、繭の手へと渡り、布を開けられて、中身が見えてしまった。
「簪、何するつもりで…」
「いや、今日、現代でいうとクリスマスで…で…」
天弥は下を向いたまま答えた。
「つまり、クリプレ?……天弥が買ったの?」
:08/01/02 22:13 :SH903i :☆☆☆
#201 [桔妁]
「あ、あぁ…うん。」
繭の空気が明るくなりつつありそうだと、天弥は顔を上げた、が。
「人殺しの、給料?」
それはそれは綺麗な簪であったのだ。
それが、天弥の給料だとしたら…つまり人殺しをした分の給料ということだ。
「受け取れない…」
:08/01/02 22:16 :SH903i :☆☆☆
#202 [桔妁]
「それは平気じゃ!」
そこへ、聞き覚えのある声が響いた。
「「頼仲(くん)!?」」
「そらやの奴ァ、俺んところで働いちょるんよ!その少ない銭集めて買ったんじゃ!
だから繭、貰ってやってくれんか?」
なっ、と頼仲は天弥の肩をたたく。
:08/01/02 22:21 :SH903i :☆☆☆
#203 [桔妁]
「じゃあ、もう…殺してない?…人は、殺さない?」
簪を見つめながら繭が言った。
天弥も頼仲も頷いた。
「そのかわり"此処"は過去なんだ。いつかやむを得ないときがある…。そのときは、許してくれ。」
「繭を守りたいから」
「おい!!!!!誰が守りたいからだ!!」
:08/01/02 22:27 :SH903i :☆☆☆
#204 [桔妁]
頼仲が口を挟んだことにより、なんとなく格好がつかない天弥はぶんむくれていた。
繭は、そんな二人を見て微笑み、簪を髪に刺した。そして天弥のほうへ駆け寄り、
「帰ろう?……なんか、ごめんなさい…でした。」
ばつが悪そうに繭が天弥に言い、手を差し出した。
:08/01/02 22:31 :SH903i :☆☆☆
#205 [桔妁]
天弥は驚きながらも手を取り、頼仲に会釈した。
ぱしゃんと家の扉が閉まり、天弥と繭は帰っていった。
「あ-…繭が取られちったよ…。」
頼仲が繭に本気だったのかは知れないが、空しく響いた声は土壁が吸収した。
その後すぐに二人が雪まみれで戻って来て、明るくなるまで頼仲の家に居たのは、また違う話だ。
:08/01/04 14:58 :SH903i :☆☆☆
#206 [桔妁]
―第6章―
――守るためにと
男は泣いて剣を振る―
.
:08/01/04 15:01 :SH903i :☆☆☆
#207 [桔妁]
「うわ-!こんなにいいんですか??」
冬、村に人が来る事は滅多にないそうで、お茶屋は休業中である。
だからと言う事で、お雪ちゃんに連れられて、お雪ちゃんの家(?)の年始の手伝いに誘われたのだ。(家というか…仕事場?)
そう、今はその手伝いが終わり、一番偉い人からお金を貰った所である。
:08/01/04 15:09 :SH903i :☆☆☆
#208 [桔妁]
「あぁ、こんなに働いてくれたんだ。当たり前さね。」
姐御的なその人は、美人で気の強そうな人だ。
「有り難うございます!」
横ではお雪が腕をつつく。
「やりましたね!これでお着物を買って髪を結ってもらって…天弥様に…キャッ!」
めくるめく妄想を始めそうなお雪に、繭はため息をついた。
:08/01/04 15:16 :SH903i :☆☆☆
#209 [桔妁]
「着物か…。そ-だねっ!あ-でも髪は……」
チラリ、と繭はお雪の髪を見る。
綺麗に時代劇的に結ってある髪がヅラじゃないと思うと、もはやそれは芸術であると見えた。
ただ、やはり抵抗がある。
そのために繭はいつもポニーテールなのだ。
「髪は、……私の国ではこうだから…いいかな、これで。」
苦笑いすると、お雪も頷いた。
:08/01/04 15:20 :SH903i :☆☆☆
#210 [桔妁]
「まぁ、それでいいですよね!貴女らしいです!」
ふふ、と微笑むお雪に繭も微笑み返した。
と、奥からお雪の仕事仲間がやってきた。その人によると、客人らしい。
「繭を呼んでくれ、とお若い殿方が…」
あぁ、天弥が迎えに来たんだ。繭は立ち上がって姐御(違)に挨拶をする。
:08/01/04 15:25 :SH903i :☆☆☆
#211 [桔妁]
「いいねぇ、色男が居るときた!…あたしらも負けてはられないねぇ!!」
「や、別に男って…え??や!!違いますけどっっ!!」
誤解ですよと必死に否定する繭に、姐御はニタッと笑う。
「また、いつでも遊びにきて!!歓迎するからさ!!」
:08/01/04 15:29 :SH903i :☆☆☆
#212 [桔妁]
姐御がそう言うと、すくっとお雪が立ち上がり、
「玄関まで案内します」
と、連れていってくれた。
玄関先には天弥が居て、なんとも言えない平和な笑みで迎えてくれていた。
繭はお雪に礼を言い、天弥に駆け寄った。
すると、天弥は万遍の笑みで、こう言った。
「町に家を貰ったぞ!」
:08/01/04 15:33 :SH903i :☆☆☆
#213 [桔妁]
「は!?」
「だから、一人暮らしのジーサンが死んでな、家が空いたからくれたんだよ!」
今年最後の、神様からのプレゼントみたいだ。
「家…ってことは、部屋が幾つかあるんだよね!?…ドアついてるんだよね!?」
繭は上擦った声で尋ねる。
これで、寒い寒い家とはお別れだと思うと嬉しくてたまらない。
「当たり前だろっ!!さ、荷物は俺が持ってったから、早く行こう!!」
:08/01/04 15:38 :SH903i :☆☆☆
#214 [桔妁]
「うわ-!立派なモンじゃない!!」
居間と寝室と客間の三部屋ある家は、今時のマンションより立派だと思う。
居間にある囲炉裏を焚けば、今時期の冬もあったかいだろう。
「な!すげ-だろ!!」
「これで二人で同じ部屋に寝なくて済むね!!…私の部屋、寝室に決めた!」
「え」
:08/01/04 15:43 :SH903i :☆☆☆
#215 [桔妁]
「や、寝室は寝室じゃネ?」
繭はププッと笑って天弥に言う。
「や、「ネ?」っていうか、年頃の娘としては違う部屋が当たり前じゃネ?…天弥がなんかしてきたら嫌だしー…」
早速、寝室に自分の荷物を運び込む繭。
愕然とする天弥は渋々、自分の荷物を客間に運んだ。
:08/01/04 15:48 :SH903i :☆☆☆
#216 [桔妁]
(そ、そりゃ-頼仲とか、笹原とかに「よく我慢できるのう」とか言われてるけどなァ…別に、まだ平気じゃねーか…)
ぶつくさ言う天弥は、やはり納得が行かないらしい。
「さぁ、部屋に入れるもの入れたし…。頼仲と頼弦さん呼んで…―カウントダウンパーティーしよ!!」
打って変わってハイテンションの繭は、天弥に全力な笑顔を向けた。
「―…はいはい…呼びに行くよ…」
:08/01/04 15:54 :SH903i :☆☆☆
#217 [桔妁]
―――――
―
大晦日パーティーは大成功を納めた。
今は明け方である。
頼仲はおちょこを握りながら眠っていて、天弥は飲み過ぎでハイテンション、頼弦は酔い覚ましにと外に出ていた。
繭は酒に抵抗があるので、玄米茶を飲んで過ごしていた。
「まゆー」
酔った天弥は、餓鬼んちょで可愛いげがある。
:08/01/04 15:58 :SH903i :☆☆☆
#218 [桔妁]
が、ひっつかられると中々嫌なものなので、思わず繭得意の蹴りが飛び出してしまった。
「………ぐへ…っ」
何かが出たような音がしたが、気持ちが良さそうに眠る姿を見て安心した。
と、頼弦さんが戻って来た。
:08/01/04 18:05 :SH903i :☆☆☆
#219 [桔妁]
「あ、外は寒かったんじゃないですか?」
繭は頼弦に柔らかい笑みを向けながら、ぬるくなった玄米茶を一気飲みした。
「や、寝正月だとあんまりだから、みんなを起こしに来たのだが…それ…」
「あひゃれ?」
頼弦が見たときには遅かった。
:08/01/04 18:11 :SH903i :☆☆☆
#220 [桔妁]
「そ、そりゃあ頼仲が飲んでた酒だぞ……」
酒好きの頼仲が持ってきた中でも、自分専用だと言いはっていた強い酒を一気飲みしてしまったのだ。
運の悪い事に、玄米茶の隣にあったので仕方ないといえば仕方ないが…
そうこうしている間に、繭は意識を手放してしまった。
「結局皆……寝正月か…」
頼弦は繭の飲んでいた玄米茶を飲み干し、自分は壁によりかかり、眠りについた。
:08/01/04 19:47 :SH903i :☆☆☆
#221 [桔妁]
次に繭が目覚めたのは、二日の夕方であった。
寝室で寝ているあたり、誰かが運んでくれたのだろう。
「頼弦さんかな…お礼言わなくっちゃ……」
と、半身を起こしたところで、家に人の気配がないことに気がついた。
戸が半分開いていて、居間の様子がわかった。
勿論、正月の後片付けはしてある居間は、誰も居なく、囲炉裏の火が寂しそうに瞬いていた。
:08/01/05 00:16 :SH903i :☆☆☆
#222 [桔妁]
居間に出ると、微かながらに白粉と香袋(多分お雪さんのだろう)の匂いが鼻をくすぐる。
「何か、あったのかな…」
とりあえず、天弥の部屋である客間を覗く。
やはり居ない。
そして、確かに部屋の奥に立て掛けてあった刀がなかった。
念のために部屋を見回したが、やはりない。…余計に、嫌な予感がした。
:08/01/05 00:21 :SH903i :☆☆☆
#223 [桔妁]
「……天弥…」
そのまま表に出て、宛も無く走った。ただ身体が進むままに走った。
気がつくと山に居た。
日はまだ冬で短く、もう西の地へと落ちていた。
東を見ると、暗闇が追い掛けて来ている。…星が、それこそ宝石のように輝いていた。
と、近くから金属が混じり合う、リアルな音が聞こえる。
:08/01/05 00:27 :SH903i :☆☆☆
#224 [桔妁]
少し近くまで歩みよると、カチンと足に何かが当たった。
「…ん?」
拾い上げればそれは、小刀。血も何もついていない、輝く小刀だった。
そして、暗くなりつつあった視界が慣れてきた頃と同時に、目線を金属音の方へ向けた時、繭はその場に固まった。
「……!!」
そこには、生臭い臭いを漂わせて、一人の男を後ろに庇い複数の人と戦う天弥の姿があった。
:08/01/05 01:22 :SH903i :☆☆☆
#225 [桔妁]
白い雪は多分、紅く染まっているんだろう。
庇われている人は動かない。
しばらく見ていると、一人が天弥にやられた。
それに恐れて、あとの人達は逃げて行った。
「………」
:08/01/05 13:39 :SH903i :☆☆☆
#226 [桔妁]
繭はすかさず駆け寄る。
そして、天弥の目の前まで行った。
頬を思いきり叩こうと思った。
けど、天弥は泣いていて叩く気は、何故か失せた。
「…どうしたの?」
天弥の涙は、自分の涙も誘った。
:08/01/05 13:48 :SH903i :☆☆☆
#227 [桔妁]
ふと、さっき庇われていた人の方に目が向いた。
天弥もそちらを向き、冷たい雪の上に、何の躊躇もなくしゃがんだ。
そして、庇われていた人からは息がもうないようで、ピクリとも動かない。
先程より暗いので、繭には誰かも解らない。
そこで、やっと天弥が口を開いた。
「…繭、これ、な…頼、仲…」
:08/01/05 16:07 :SH903i :☆☆☆
#228 [桔妁]
繭は、耳を、天弥を疑った。
「頼仲くん…?え、ま、まさか…」
冗談っぽく笑うと、視界が暗闇に慣れた。
雪の上に、確かに見たのは…
本当に頼仲くんだった。
:08/01/05 16:11 :SH903i :☆☆☆
#229 [桔妁]
「え、な、なんで…」
一日の朝方、確かに気持ちがよさそうに眠る頼仲を見たのに。
「ただ、酔っ払いに絡まれたんだよ…母親の、墓参りの途中だと、思う…。………ごめん、ごめん頼仲…」
天弥が頼仲を抱きかかえて謝るとき、繭は顔を反らさずにはいられなかった。
:08/01/05 17:10 :SH903i :☆☆☆
#230 [桔妁]
――――
―
それから天弥は動かない頼仲を背負い、繭と山を下りた。
時は既に深夜に回っていたので余計に寒く、指はかじかんで、足は霜焼けで酷かった。
でも天弥はそんな事など頭中に無いだろう。
ただ、悔しさだけが腹を巡っていた。
繭は何も、励ましも、ましては話し掛ける事すらも出来なかった。
:08/01/05 22:55 :SH903i :☆☆☆
#231 [桔妁]
天弥の涙は、渇いていた。
繭の涙は、出なかった。出す事さえも出来なかった。
ただ、隣で天弥におぶられている頼仲くんは、本当に眠っているようだった。
天弥の歩くリズムの振動が息遣いによく似ていたからだろうか。
二人は、何の会話も交わさずに町へと着いた。
:08/01/05 23:01 :SH903i :☆☆☆
#232 [桔妁]
――――
―
頼仲の家に戻ったけれど頼弦は寝ていて、繭は起こすのが嫌だった。
それでも天弥が繭に起こせと言うので、泣きそうなのを堪えながら頼弦を起こした。
「――…繭殿??」
寝ていたらいきなり女が目の前に居たとなればびっくりだろう。
いかにも何も知りませんという顔の頼弦を見ると、繭はさらに心が痛んだ。
:08/01/06 10:42 :SH903i :☆☆☆
#233 [桔妁]
「よ、頼弦さ-…ん……」
とうとう繭は泣き出してしまった。
「どうした、?」
繭の涙にただ事ではないと感じたが、また大形、天弥から逃げて来たのだろうというところだった。
「繭、お前……」
繭の泣き声を聞き、天弥が頼弦の部屋に来た。
頼弦はさらに目を丸くして二人を見た。
「二人共、こんな夜にどうした?」
:08/01/06 10:47 :SH903i :☆☆☆
#234 [桔妁]
頼弦は部屋に明かりを燈した。
そこで頼弦の目に浮かび上がるのは、血に服を濡らした天弥と、泣きじゃくる繭だった。
これはやはり、ただ事ではないと感じた頼弦は言った。
「…今、父上が帰ってきているから話しを聞こう。……頼仲も呼ぶか?」
正月休みだから、父親が出稼ぎから帰っているのだ。
「…頼仲の兄上……そ、そのな…頼仲なんだけど、さ…」
:08/01/07 13:04 :SH903i :☆☆☆
#235 [桔妁]
「ん?」
「頼仲…死ん…死んだ…」
頼弦は、天弥の言葉に目を丸める。
その、天弥の服に付く赤が頼仲のものかと言った。
「いや、数人の奴に、喧嘩を売られてたんだと、思う…」
天弥が頼弦の前で土下座をした。
繭も、頼弦もびっくりだ。
:08/01/07 13:09 :SH903i :☆☆☆
#236 [桔妁]
「俺が行った時にはまだ、息があったんです!!…喋って、俺に、
"人は殺しちゃ駄目じゃ、酒に酔ってるだけじゃ、こ奴らは何も悪い事はない"
そうやって、言ってたんです。でも、
頼仲を救うためには、酔っ払いを消す他なかった…
でも、皆居なくなったとき…頼仲の息は、もう……
すいません…!!!すいません、すいません!!」
:08/01/07 13:14 :SH903i :☆☆☆
#237 [桔妁]
天弥の話を聞く繭は、はっと気がついた。
足に当たった、あの小刀を。
あれは確か、頼仲のだ。
いつか一緒に遊んだ時、変な侍に向けていた。
繭がいるから、無駄な殺生はしないよ
そのときの、小刀だ。
そして気がついた。
頼仲は、本当に無駄な殺生はしない人なんだ。
:08/01/07 13:18 :SH903i :☆☆☆
#238 [桔妁]
あのときの侍だって、その場だけの戦いだった。
真剣勝負じゃなくて。
今回も、酔っ払いなら、悪いのはその人自身じゃないって…お酒だったって。
だから剣は振るわなかったんだ。
だから、死にそうな時にも自分の志を、天弥に告げてたんだ……。
それでも、天弥は守る者を優先して、たんだ…
:08/01/07 13:23 :SH903i :☆☆☆
#239 [桔妁]
―――――
―
その後、頼仲を墓に連れて行き、事は済んだ。
頼仲の父親は、泣き顔こそ見せなかったが、瞼の腫れからすると、相当泣いたに違いない。
「頼仲は、心の広い奴だった。――それでも、人を殺めぬ理由を
"わしは、無駄に殺しはせんよ。まァ、ただ自分が臆病なんじゃけどな"
と、臆病だからと申していた…。
そこが、仇になったのか、頼仲は本望だったのか…」
:08/01/07 13:29 :SH903i :☆☆☆
#240 [桔妁]
誰に話しかけたのか、頼弦は空を向いていた。
そのあとは、お線香が空に昇るのを一同眺めていた。
.
:08/01/08 17:49 :SH903i :☆☆☆
#241 [桔妁]
―第7章―
――昔話旅人さんの
鬼道洞窟昔話―
.
:08/01/08 17:58 :SH903i :☆☆☆
#242 [桔妁]
「繭、お前いい加減になァ…」
天弥は髪をかいて、面倒臭そうに欠伸をした。
季節は、雪解けの春。
小春日和でついついうたた寝の今日この頃。
「な、天弥だって薄情じゃない!?友達じゃん!」
私、繭は元気になれません。
頼仲くんにもらったハートのお守りをきゅっと握る。
:08/01/08 18:05 :SH903i :☆☆☆
#243 [桔妁]
「もう、頼仲は居ないんだからさ。……前向け。前。
頼仲だって、望んでないと思う。こんなクヨクヨされるのは。」
分かる。
天弥の気持ちも、頼仲くんの気持ちも。
……うん。そうなんだよね…!!
「うん、分かった。…そーだよね!!頼仲くんも…ってアレ??
話聞けぇぇ!!!!」
.
:08/01/08 20:33 :SH903i :☆☆☆
#244 [桔妁]
天弥は村外れへと歩いていく、旅人のような人にくぎづけだ。
そう!繭と天弥は久しぶりに村に居るわけである。
「ん?変わった人だね…」
村の端には鬼道の洞窟があるために、滅多に人は近づかないと天弥もよく言っていたが。
だが、旅人は奥へ奥へと進む。
いつの間にか無意識に二人も、奥へ奥へと尾行していた。
:08/01/08 20:37 :SH903i :☆☆☆
#245 [桔妁]
「ちょ、なんで後つけてるの!?」
草村に隠れながら洞窟の前にいる旅人を指差し繭は小声で言う。
「馬ー鹿。だったら付いてくんなよ。……でも、なんかさ、珍しいじゃん。人が洞窟に居るのって。」
「確かにそうだけど…あれ?なんか…あの人こっち見てるよ?」
.
:08/01/09 15:16 :SH903i :☆☆☆
#246 [桔妁]
繭が旅人をチラ見した瞬間に、目が合った気がした。
「そんなはずないだろ…って………!!!」
そう言うと天弥は固まった。
しばらくして、しゃがみこんでいる繭の頭上に影がかかった。
それは紛れも無く人の影。
繭が上をむくと、旅人がにっと笑った。
:08/01/09 15:21 :SH903i :☆☆☆
#247 [桔妁]
「え、あ、あれれれ…」
笠を被った旅人の顔は確認出来ず、余計に緊張させられる。
旅人は、透き通る声で二人に言った。
「お前ら、ここの村人か?」
確実にその声に少し酔いしれていた二人だが、しばらくしてからこくこく頷いた。
「そうか!!で…この洞窟の噂を知っているか??…私は、この事を物語にしたく来たのだが。」
:08/01/09 15:26 :SH903i :☆☆☆
#248 [桔妁]
二人はブンブンと首を横に振る。
「二人とも何も喋らないとは、似た者夫婦だな!!」
あはははと笑うその声も、稟としていて美しい。
天弥もつられて笑っている。
「ん?夫婦じゃないですよ!!??」
笑いで掻き消され、繭の必死な声は届かなかった。
:08/01/09 15:44 :SH903i :☆☆☆
#249 [桔妁]
「…―ていうか、そもそも…この洞窟の噂って、なにがあるの?」
しばらく笑っている二人を見ていた繭がそういうと、旅人がまた、にっと笑った。
「なんと、村人なら知っているかと思ったんだがな!!…中々心を引かれる噂があるんだよ!!」
天弥の方をむくと、俺も洞窟については知らないと首を振った。
「それじゃあ私が話してやろうか。」
旅人は繭達としゃがみ込み、洞窟の昔話を始めた。
:08/01/09 15:49 :SH903i :☆☆☆
#250 [桔妁]
「この洞窟はな、名前の通りの"鬼の道"なんだ。恐ろしい鬼の国への通路となっているらしい。
"何らかの事"をすれば、道は開けるらしい―…まあその"何か"は今調べようとしているんだけども…
そしてその道が繋がった瞬間、ふいに暗闇に包まれ……いつの間にか、意識を失っているんだ。
目を覚ますと…すでに鬼の国に着いてしまっているそうだ。
:08/01/09 20:17 :SH903i :☆☆☆
#251 [桔妁]
目が覚めると、沢山のお墓の並ぶ太い道があるそうだ。そして、遠くからは鬼の鳴き声が。
そうして、お墓の並ぶ道を段々と道を進んでいくと……鬼の都を見渡せるという話だ。
家屋がところ狭しと立ち並び、人々が慌ただしく働く。…人々は鬼の配下のようだ。
それに目を向けていれば、お次は巨大な大蛇が鳴きながら高速で駆け抜ける。
だが、鬼の姿は見当たらないというのが不思議なところだ。」
:08/01/11 23:34 :SH903i :☆☆☆
#252 [桔妁]
話が終わると、旅人はよっこらせと立ち上がった。
「私はだな、この洞窟の外に行ってみたいんだよ。」
澄んだ声でそういった。
「え、だって鬼の国行って帰ってこれるの?」
繭がそう言い、ムードは少々崩れたが。
「まぁ、この話があるということは帰ってこれたから伝えているんだろう?」
旅人が話を元に戻せば、口端をあげて微笑んだ。
:08/01/12 14:23 :SH903i :☆☆☆
#253 [桔妁]
「そこでだ!…私と共に洞窟の外へと行ってみたくはないか?」
繭と天弥の二人は顔を見合わせた。そして旅人に顔を向けた。
「いいですよ!!」
「あ、今回は…やめときます。」
繭が断り、天弥は思わずポカンと殴った。
:08/01/13 18:18 :SH903i :☆☆☆
#254 [桔妁]
「何するのよ!!」
「お前、普通そこは参加だろ?」
天弥はキラキラ輝く目をこちらに向けている。
繭は一瞬どもったが…
天弥の誘いはしつこいために、しかたなく。
「う-ん…。あたしは入らないけどね?」
承諾したのだった。
.
:08/01/13 22:12 :SH903i :☆☆☆
#255 [桔妁]
―第8章―
――おばあちゃんの知人の
蔵の奥から―
.
:08/01/13 22:14 :SH903i :☆☆☆
#256 [桔妁]
――――――――
―
「繭が居なくなってからもう半年以上か?」
「…………。」
繭の居た現代では、両親が心配に心配をしていた。
母はやつれていた。
テレビでも、もうとっくに顔を見せる事はなく、その存在は、天弥と同様に世界から薄れていた。
:08/01/13 22:18 :SH903i :☆☆☆
#257 [桔妁]
繭の捜査をする上で、両親は天弥の両親にも会っていた。
だが、全く情報はなかった。
天弥の友達は現在中学三年生である。
彼等の中からも天弥の存在は確実に消えつつあった。
:08/01/13 22:21 :SH903i :☆☆☆
#258 [桔妁]
しかし、立ち上がった人達は僅かながらに居たのだ。
警察にも見放されてきている二人に目を向けた者達……
――――
―
「ねぇ、今回の議題は?」
髪の長いおかっぱの少女が話し掛ける。その先には少年が。
気付けば丸い机を数人の生徒が囲んでいる。
:08/01/14 09:50 :SH903i :☆☆☆
#259 [桔妁]
「今回は―…"神隠し"にしないかい?」
彼等は小さな町のある学校の生徒たち…
心霊非科学研究部のメンバーだった。
「神隠し…って去年の夏のですか?あれは没になったじゃないですか。」
「いや、それが調べてみたんだけど…。ミステリー…。きっと凄いことになる気がするんだよ。」
:08/01/14 09:56 :SH903i :☆☆☆
#260 [桔妁]
彼等は校内で、色々な意味で噂になっている。余り活動的な部活ではない為に、部員は四人。部費は常に赤字であるのは言うまでもない。
その部員達を詳しく説明するとしよう。
面白そうな事を見つければ"ミステリー"と言う部長。
気の強そうなおかっぱ頭の副部長。自称座敷わらし。
座敷わらしに連れられて、ひょんな事から部員になった二年生。元サッカー部員。
全ての雑務をなんなくこなし、違う波動をキャッチできる一年生の女子。
:08/01/23 15:06 :SH903i :☆☆☆
#261 [桔妁]
それぞれの名前は、
吉原 望(ヨシハラ ノゾム)
七塚 舞子(ナナツカ マイコ)
椎名 慶(シイナ ケイ)
柳園 奈緒(リュウエン ナオ)
雪のしんしん降る中で、彼等が動く事を決定する。
「では、一月以内に資料を調べますね。」
柳園が言えば、三人は真っ直ぐな目で見て頷いた。
:08/01/26 20:58 :SH903i :☆☆☆
#262 [桔妁]
―
―――
寒い――…
この言葉が切実に伝わるかは定かではない。が、実際に繭には辛いものであった。
囲炉裏はあるが隙間風は体の部分を冷やして、それがまた辛いものであった。
春始めになったといつか告げていたが、それはつかの間の晴れ続きだったに過ぎないようだった。
「天弥は旅人と村長の所だしな…うう、寒い…」
:08/01/26 21:13 :SH903i :☆☆☆
#263 [桔妁]
―
――――
「村長――…」
「おっさん…」
旅人と天弥は村長を丸い目で見た。
「…ま、昔の話だがな…」
村長はキセルを吹かしながら七輪を突いている。
「兄さん!!凄い話じゃないですか!!!!」
:08/01/27 22:17 :SH903i :☆☆☆
#264 [桔妁]
天弥は異世界への思いを深く馳せていた。
「そうだな…。村長、ありがとう!!」
二人はお辞儀をして家を出た。外に出ると雪が降ってきそうな風が吹いていた。
「風強い…早く帰って暖まりましょう、兄さん!」
天弥は親しみをこめ、旅人を兄さんと呼んでいた。
旅人は頷くと、天弥の手を引き走った。
:08/01/27 22:22 :SH903i :☆☆☆
#265 [桔妁]
手を握られた天弥は驚いた。旅人の手は冷たく華奢だったからだ。
(兄さん、寒いんだ…)
天弥はそんな風に思い、早く囲炉裏に当たらせてあげたくて、走るスピードをあげた。
「!?ちょ、天弥!!」
その早さに戸惑う旅人。
と、ふいに向かい風が吹いた。
:08/01/31 23:55 :SH903i :☆☆☆
#266 [桔妁]
ばさっ…と取れたのは旅人のかぶっていた笠である。
同時に、旅人の頭に束ねられていた長い黒髪が姿を現した。
切れ長の目も光を浴びていた。
そういえば旅人の頭、さらには表情までもを見た事がない天弥であるが、驚いた。
まさか、まさか。
「え…に、兄さん……!」
どこからどこを見ても、旅人は女でしかなかった。
しかも、美人ではないか!
:08/02/01 11:33 :SH903i :☆☆☆
#267 [桔妁]
「!!!」
驚いた天弥は、何やら聞き取れない事を言い、走りさってしまった。
旅人は、ぽかんと天弥を見ていた。
「…いつ私が、男だと申したろうか…。」
笠を拾いかぶると、とぼとぼと天弥の家へ向かうのであった。
:08/02/01 11:39 :SH903i :☆☆☆
#268 [桔妁]
――
がらりと、扉が開き冷たい風とともに天弥が立っていた。
「ああ!天弥!!…本当、寒かったんだから…っ……どしたの?」
ぽかーんと、何か大切なものを抜かれたような顔をしている天弥が気になり、繭は言った。
「旅人兄さんが…美女に……兄さんがァアア」
この狭い空間を走って繭の前へと行き、天弥は叫んだ。
:08/02/01 11:43 :SH903i :☆☆☆
#269 [桔妁]
「…??旅人のお兄さんがどうかしたの?」
多少呆れ顔で見る繭に、天弥は少し気持ちを落ち着けたのか、囲炉裏の火に当たり始めた。
「いや、それが…あの人、兄さんじゃなくて…。」
何故か、もじもじしている天弥。と、そこに旅人が帰ってきた。
:08/02/01 23:25 :SH903i :☆☆☆
#270 [桔妁]
「む、天弥は帰ってたか…」
繭は旅人の方を見る。これと言って異変はない。
「あの…なんかでも天弥が変なんですけど……」
繭は客間を指さして苦笑いをする。
天弥はというと、先程扉が開いた時点で、"嘘だーーーァ"と叫んで自室である客間に隠れてしまっていた。
「いや、なんか私を男だと勘違いしていたらしくてな…」
:08/02/03 07:29 :SH903i :☆☆☆
#271 [桔妁]
旅人は笠を取って、髪を解いた。
そしてニッと笑う。
「改めて、私は東家 暁(トウヤ アキ)と言う者だ。」
切れ長の目、揺れる黒髪、白い肌、華奢な体………ああもう、いうならば美人という他にないということである。
「暁さん…ですか。でも、なんでこんな…洞窟なんか気にしてるんですか?」
:08/02/04 22:24 :SH903i :☆☆☆
#272 [桔妁]
こんなに綺麗な人なのだ。洞窟に恋するよりも、もっといい事があるだろうに。
「いや、私は旅人というか…書物におさめたくて来たのだが…。」
「そうなんですか…」
つまり、今の時代でいえば"駆け出しの作家"みたいな感じなのだろう。
すると旅人…もとい暁は立ち上がり、荷物を纏めた。
「天弥に伝えておいてくれ。…明日は寒いだろうから休んでくれと。」
:08/02/05 11:46 :SH903i :☆☆☆
#273 [桔妁]
返事をする前に旅人は去って行った。
しばらくすれば天弥が出て来た。
「…ああ、暁さんね、うん。」
何かを一人で納得している。その姿はまさに生気が抜けたっていう感じで、見てて笑えた。
「んでも、天弥、急にどうしたの?暁さんが女だから何だっていうの……。」
はぁ、と繭はため息をつく。
:08/02/05 11:51 :SH903i :☆☆☆
#274 [桔妁]
ため息をついたまま天弥の耳に、目を向けた。
赤い。赤いッ!!
そうか。と、繭はそこで全てを確信した。女の勘は鋭いものだ。
ことに、恋愛事となれば尚更である。
「そっかー、暁さんに恋しちゃったか♪」
:08/02/05 11:54 :SH903i :☆☆☆
#275 [桔妁]
天弥は瞬間に目を見開いた。ほんの冗談(でもないけど)だったのに面白い反応。
確かにあの容姿では、女の私でも緊張してしまう。
笠に隠れていて今まで分からなかったが、そうとうな美人だった。
それは天弥が惚れてしまうのも無理は無いな、と繭は胸の内で思ってから、自室にこもった。
少し、苛立って。
:08/02/09 15:34 :PC :1P02R/pA
#276 [桔妁]
―
――――
「部長ー。――吉原部長―!」
三年生の教室に、少し幼い声が響く。
吉原は教室の外から呼びかける柳園の方へ笑顔で向かった。
「部長、調べ終わりましたよ。」
そう言って柳園は資料を吉原に渡した。
:08/02/09 15:40 :PC :1P02R/pA
#277 [桔妁]
「おお!沢山調べたね。」
そう言いながら、束になった資料をパラパラと見る。
と、ある写真の付いているページで手を止めた。
「二人の人間が神隠しに遭った村か…。成程、古い家屋ばっかりだね…。」
:08/02/09 15:44 :PC :1P02R/pA
#278 [桔妁]
柳園はついつい首を傾げた。
部員なってもうすぐ一年が経つが、この男の目の付け所がいまいち分からない。
そんな柳園を見て吉原は微笑んで言った。
「今日の昼休みは部室集合だ。慶を呼んでおいてね。」
:08/02/09 15:48 :PC :1P02R/pA
#279 [桔妁]
「はい、じゃあ七塚先輩は部長が声をかけるんですね。分かりました。」
部長の言いつけに素直に頭を下げて、柳園は教室を後にする。
吉原はそんな柳園を見届けた後、少し興奮気味に教室内の自分の席についた。
:08/02/09 15:52 :PC :1P02R/pA
#280 [桔妁]
「それじゃあ、今日昼休みにまで皆に集まってもらったのは―――」
昼休み。吉原が声高々に皆にそうつげようとしたときだ。
「あの、部長。」
「なんだ?」
慶が口を挟んだことで、少し冷めた吉原。
「七塚センパイ、来てないんですけど。」
:08/02/09 15:57 :PC :1P02R/pA
#281 [桔妁]
「――あ。呼び出し忘れてたよ…」
柳園は、くすくすと微笑む。
あの後結局柳園は七塚の所へ顔を出した。そして昼休みの事を話したのだが。
彼女は今日は用事があるからと言っていた。
だから今此処に来ることはないのだ。
それを吉原に話したときは、すごく安心した顔をしていた。
:08/02/09 16:01 :PC :1P02R/pA
#282 [桔妁]
「と、本題に戻らねばね。……皆、明日からの連休は空いてる??…空いてるな。」
部長は早速話題を元に戻せば強制的に、明日からの連休を空いているものとした。
「や、俺ちょっと用事――…」
そんな慶の言葉は無視で、どんどん話は進められた。
勿論今出席していない七塚も、連休は空いていることになった。
:08/02/11 01:26 :SH903i :☆☆☆
#283 [かな]
あげ〜☆
:08/03/24 22:37 :F703i :Hn3ykPUM
#284 [我輩は匿名である]
>>283かなさん
ありがとうございいます!
長い間放置で申し訳ございませんでした!
更新!!
:08/04/02 18:08 :PC :ybBNixPo
#285 [桔妁]
――――
―
「ったく部長は…明日はサッカーの試合観戦があるってのに!」
慶は家の自室にこもって、明日にあるサッカーの観戦チケットを愛おしそうに眺めていた。
これは数時間後に友達へと手渡される。勿論、部で田舎へ行くためにそうなってしまったのだ。
:08/04/02 18:14 :PC :ybBNixPo
#286 [桔妁]
「小遣いだって残り少ないから前借りだしな…」
本当に何故自分はそんなオカルト部に居るのかが今更ながら不思議でならなかった。
ただ、明日に迫った小旅行のために身体だけは準備をしていた。洋服などがリュックの中に詰め込まれていく。
そしてその後、無事にチケットは友達の手に渡り、夜は更けていくのであった。
:08/04/02 18:21 :PC :ybBNixPo
#287 [桔妁]
―翌日――
「先輩!七塚先輩が来てませんよ!?」
「ん?あれ?」
朝。幸いにも気候は暖かく、絶好(?)の旅行日和であった。
そして慶だは分かった。七塚はズル休みをしたのだと。
:08/04/02 18:24 :PC :ybBNixPo
#288 [桔妁]
というわけで、人数がただでさえ少ないオカルト部は一人欠席という事で三人での課外活動となった。
「さぁ、ミステリー開始だね。」
部長の変な掛け声と共に、僕等は田舎から更に田舎へと行く電車に乗り込んだ。
―
―――――
:08/04/03 01:53 :SH903i :☆☆☆
#289 [桔妁]
―――
―
ここ三日前から俺は何故か繭に苛々をぶつけられている。
「なぁ繭、おかわり。」
「…それ位自分でやりなよ、」
ご飯のおかわりを頼むだけでもそんな事を言われ(いつもなら笑顔でやってくれていた)ため息をつかれる始末。
「…何故!?」
:08/04/03 01:58 :SH903i :☆☆☆
#290 [桔妁]
「お前達の痴話喧嘩のためにあるのではないぞ、此処は。」
此処は見慣れた頼弦の家だ。
そこでため息をつく頼弦の前に、天弥は胡座をかきそっぽを向いていた。
「違う。喧嘩じゃね-よ。一方的だぞ。」
そう言う天弥に気付かれぬように苦笑いをしてから言う。
「きっかけは多分お前だろう?繭は理由無しには怒るまいからな。」
:08/04/03 02:46 :SH903i :☆☆☆
#291 [桔妁]
「そう、だけどなー…」
頼弦がそう言う事は一理ある。繭は滅多に理不尽な理由で怒ることはない。
「けどさ、なんか俺したか?してないぞ?」
「……馬鹿だな。」
「は?」
頼弦が何らかの理由を察知してか呆れて言った。分からず天弥は声をあげるだけだが。
:08/04/03 02:51 :SH903i :☆☆☆
#292 [桔妁]
「頼仲とは全然違う奴だからなお前は。…少し奴に取り憑かれてみればいいだろうに。」
ため息混じりに頼弦が言えば。そこで扉がカラカラと音を立て、開いた。
「天弥、は居るか?…あぁ、そこに居たか。」
美人な物書き、暁の登場だ。笠によって隠れた白い顔はある意味では男も女もどきりとする。
:08/04/03 02:59 :SH903i :☆☆☆
#293 [桔妁]
「天弥殿、もう行くのか。」
この女の事は頼弦も少し知っていた。…というか天弥から聞かされていた。だからこれから洞窟について調べるのだということも分かった。
そして繭が何故怒っているのかも多少。
「あぁ。うん。」
「…………。それでは…今日の夜は一緒に呑まないか?…終わったらこっちに戻ってくれ。」
それに、繭殿には言っておくと付け加えた。
:08/04/03 03:04 :SH903i :☆☆☆
#294 [桔妁]
頼弦が呑みに誘うとは珍しい。というか初めて。
なので何故か断れず頷いて、天弥は家を出た。
残された頼弦も家を出る準備をした。
「いつから世話焼きになったのだかな…。まぁ家で痴話喧嘩の話をされるのも嫌だしな。」
そう呟けば草履を履き、繭の家へと向かった。
:08/04/03 03:08 :SH903i :☆☆☆
#295 [桔妁]
「くそ。天弥のあほんだら!………ひまだ…」
トントン、
「!」
繭が暇にして過ごしていれば、扉を叩く音が聞こえた。
それはよく知る頼弦であったので繭は快く出迎えてお茶を出した。
頼仲に比べ落ち着いた物腰の頼弦はやはり大人、といった感じで毎回少し緊張する。
:08/04/03 03:13 :SH903i :☆☆☆
#296 [桔妁]
「相変わらず美味い茶を有難う。……時に…天弥殿を阿呆んだら、と言っていたようだが、何かあったか?」
「は、…聞こえてたんですか!」
ニコリ、と微笑む頼弦さんは兄貴分のようで隠し事は出来ない雰囲気にさせた。
「いや、ただ暇だったので…」
けれどもこのモヤモヤっとする気分を悟られたくはなくて苦しいけれど笑顔でそう言った。
:08/04/03 03:18 :SH903i :☆☆☆
#297 [桔妁]
「そうかい?何かあるなら仏にでも愚痴をたらせば良い。…あ!」
「は!!」
ふいに頼弦は繭の後ろを指差した。
繭ははっと後ろをむき、その隙に頼弦は繭のお茶に酒を混ぜた。
いつぞやの正月のときの酒よりも酷いのを少し。
これは、頼弦の作戦であった。……青臭い二人の為の。
:08/04/03 03:22 :SH903i :☆☆☆
#298 [桔妁]
――
―
「暁さん、今度は何かあったんですか?」
横から顔を伺うようにして天弥が暁に尋ねた。
暁はそんな天弥に対し、くすくすと笑いながら言った。
「嫌だな、兄さんでもいいぞ??」
悪戯っぽく言う声はやはり透き通っていて美しい。
:08/04/04 00:52 :SH903i :☆☆☆
#299 [桔妁]
「えぇ!?…いや、あのときは失礼しました!」
初めて女だと気付いた日から比べればほとぼりは冷めていたので今では普通の対応は出来た。
それよりも今は素っ気ない繭についての方に思考回路は動いていた。
「……今日はだね、ほれ。物語の名前を考えたんだ。」
少しぽやっとしている天弥に対し、暁は一枚の紙を渡した。
:08/04/04 00:58 :SH903i :☆☆☆
#300 [桔妁]
「…ん?……お伽村、鬼国の書、……?」
そこには綴られた沢山の本の題名たち。
この中から一つに絞るのであろう。余り達筆すぎて天弥には読みにくい。
「…うわー、こりゃ完成が楽しみですね、兄さ…暁さん!」
そう言えば暁は目を細めて微笑んだ。
「完成したら天弥と繭に一番に見せてやろう!」
:08/04/04 01:04 :SH903i :☆☆☆
#301 [桔妁]
―――――――
―
その頃、電車に五月蝿いノイズがかかり、五月蝿い声が響いた。
吉原たちの目指す駅を言う声だった。
そしてそんな声のかかる一時間前、柳園は夢を見ていた。
そう、彼女の特異能力ともいえる異波動を掴んだ事によって見る夢の事…。
:08/04/04 01:08 :SH903i :☆☆☆
#302 [桔妁]
柳園の目の前には倉が。
そして彼女は知らずのうちにその中へと侵入することを許されて、中にいた。
そこに広がるのは薄暗い中に微かに光る太陽の光と、時たまに舞う埃、沢山積まれた雑貨たちであった。
ただそのどれにも、柳園は目に止めはしなかった。
ただ一番上に忘れられたように置かれた、その本だけを除いては。
:08/04/04 01:13 :SH903i :☆☆☆
#303 [桔妁]
「…これが、今回の……」
それを手にする所で、柳園は慶に肩を揺すられて目を覚ましてしまった。
「慶、駅着いたの?」
夢見後の柳園は少し人格が変わる。…先輩の慶にも容赦なしに素っ気ない無表情な顔で、冷酷に言い放つ。
「…何か、見たのか?」
それを知る部員は特に何もおかしいとは思わない故に言葉を続けた。
:08/04/04 01:17 :SH903i :☆☆☆
#304 [桔妁]
「ん、部長…。本でしたよ。なんかボロボロな倉の中に置かれた。」
徐々に戻りつつある自意識の中で、その夢の記憶を辿り、柳園は言った。
「早速、ミステリー?」
くくっと嬉しそうに部長は微笑んだ。慶は明らかに冷たく、部長を見た。
「…もしも部長が部長じゃなかったら蹴りたいっス。」
そして無邪気な部長にそんな言葉を浴びせた。
:08/04/04 01:22 :SH903i :☆☆☆
#305 [桔妁]
―――――
―
寒い、寒い夕方だった。
なのに身体はポカポカしていて、家に居る所ではなかった。
そしてそれに付け加えて苛々の止まらない繭はとうとう家を出た。
「外なのにポカポカするっ………」
向かうは無意識ながらにきちんと意志を持ち、頼仲の墓であった。
:08/04/04 01:25 :SH903i :☆☆☆
#306 [桔妁]
死人に口無し。
頼弦に話すのも何か恥ずかしいので頼仲の所へ向かい、独り言を喋ろうと思っていたのであった。
――――
―
暁と別れ、再び落ち合った頼弦に酒を持たされて言われた。
「…天弥殿、今日は月が綺麗だから外で呑もう。」
そんな話は繭の知らない事。
:08/04/04 01:29 :SH903i :☆☆☆
#307 [桔妁]
―――…。
「…ははは、何か変だよねぇ…ごめんね、頼仲くん…」
繭はといえば、頼仲の墓前で泣き笑いをしていた。
気が付けば、夏が過ぎ秋が流れて冬を越してきていた。
一周分の季節を此処で、過去で過ごしてきていた。
皆と、天弥と。
:08/04/05 00:19 :SH903i :☆☆☆
#308 [桔妁]
「…早川先輩、もう表情が思い出せないんだもん…」
しばらく色々と繭は墓石(大きな岩だけど)に語りかけていれば、不意に後ろに気配がした。
繭はそちらの気配を確認しようと振り向こうとした。
だが、驚きの声によりそれは止められた。
「振り向くな、」
「―――…!?」
:08/04/05 11:28 :SH903i :☆☆☆
#309 [桔妁]
―――――――
――
「寒っ!!頼弦山ん中に用事があるとか言ってたけど…何だ?」
しばらく二人で呑んでいた訳であるが、突然頼弦は山の中へと入って行った。
確かそっちは頼仲の墓…。
「俺放って、弟の墓参りか!?」
いても立ってもいられなくなってきた天弥は墓へと向かった。
:08/04/05 11:43 :SH903i :☆☆☆
#310 [桔妁]
――
―――――――――
(そん、な…)
繭は言われた直後から微動さえ出来ない状況に居た。
「そうそう、振り向いたら、いけんよ?……繭、」
少し、訛ったような口調が繭の耳に入ってくる。
「な、…よ、頼仲くん……!?」
:08/04/05 12:18 :SH903i :☆☆☆
#311 [桔妁]
繭の心臓は以外にも静かに、静かに動いていた。
「何、泣いとるんじゃ?…やっぱり天弥じゃなくて、わしにしておけば、繭は泣かさないのに。」
「い、いやだな…頼仲くんはもう死んじゃってるし…。」
不思議と、普通に話が出来た。
…頼仲の声は少し低く聞こえたが、温かいものであった。
:08/04/05 12:25 :SH903i :☆☆☆
#312 [桔妁]
「あははは!!死んじゃってるからって、そりゃあそうじゃけど!」
「……はは、」
そんな繭の少し後ろの木の上、そこに頼仲の正体は居た。
(…頼仲の声、難しいな…)
誰より頼りになる兄、頼弦だ。
:08/04/05 14:30 :SH903i :☆☆☆
#313 [桔妁]
(だけどこうして、成功すれば繭殿と天弥殿がもう泣きに来ないからな…もう少し頑張ろう…)
実はきちんと、頼弦がここまで繭と天弥を応援するには理由があった。ただ、泣きに来られたら迷惑だという理由が。
それからしばらく繭の愚痴を静かに聞いていたが、
「…じゃけど、そらやは繭を好いてるのは丸分かりじゃ!」
:08/04/05 14:36 :SH903i :☆☆☆
#314 [桔妁]
「は!?」
耐え切れてとうとう核心をついてしまった。
「そりゃあ確かに頼仲くんは浮遊霊みたいにして天弥の様子を探ったりするけどさ……」
「いやいや、これは本当!…都ではこれを恋というらしいのじゃけど、つまり天弥は恋して愛してるんと思う!」
:08/04/05 14:44 :SH903i :☆☆☆
#315 [桔妁]
[何、言うんじゃ!違う!]
「!?」
それを言った直後だ。不意に、頼弦の真後ろから声が聞こえた。
「……な、天弥殿!!」
それは今まさに頼弦に追い付いて山に来た天弥だった。
:08/04/05 14:48 :SH903i :☆☆☆
#316 [桔妁]
「?」
急に聞こえなくなった声にしばし不安を覚える繭。
(なな何故天弥殿が!)
(だって頼弦遅かったからね?…それより!繭に何を吹き込んでるんですか?)
ニタニタと、見せた事もないような表情で頼弦に問い掛ける。
そして答えは聞かず、自分は木から飛び降りた。
:08/04/05 21:43 :SH903i :☆☆☆
#317 [桔妁]
「繭。」
はっ、と繭は振り向いた。
その向こうに、見慣れた小柄な少年が立っている。
「…天弥…!?」
さ、最悪!!!聞かれた!?今までの全部聞かれた!?
繭はみるみるうちに頭が熱くなるのを自覚した。
:08/04/05 21:46 :SH903i :☆☆☆
#318 [桔妁]
「怒ってるだろうけど…ちょっと聞いて?…前に頼仲にされた"恋愛話(コイアイハナシ)"について。」
「は!?」
まさか天弥からそんな恋やら愛やらの話が出るなんて!!
「き、聞いてたの!!!」
「…いいから聞いて。」
:08/04/05 21:49 :SH903i :☆☆☆
#319 [桔妁]
――――――――
なぁ、都じゃ最近好きな女子が出来たら[恋した!]と言うらしいんじゃー!
いや、知ってるけど?
でもな、こっちじゃ近くに住んでる夫婦たちが互いに[愛してる]と言うんじゃ。
うん、それで?
……それ、わしは間違っとると思うんじゃ。
うん、何で?
:08/04/05 21:57 :SH903i :☆☆☆
#320 [桔妁]
恋と愛は真逆!海に例えれば、恋は浅瀬じゃ。愛は深海。
浅瀬には魚が沢山居て、つまり皆が見ている環境、皆が知っとる中での戯れ事じゃ。
深海には、灯なんてものはなくて、存在するものも手探りで探し合わなくちゃならん。けど逆に"自分達しか知らない世界"になる。
つまり、愛は心の臓が高鳴るそれとは違うんじゃ。
:08/04/05 23:33 :SH903i :☆☆☆
#321 [桔妁]
ただし、恋と愛は恋愛となれば繋がるんじゃ。ある星では恋愛という単語が存在するらしいからのう。
浅瀬から深海まで知らんと、愛と恋は別物なんじゃ。
……俺にはさっぱりだな!
―――――――――
「―…っつうのが頼仲の話…。」
天弥は頭をポリポリ掻きながら繭の放をちら見した。
視線は繭がぼんやりと入る程度まで下を向いている。
:08/04/05 23:44 :SH903i :☆☆☆
#322 [桔妁]
繭はと言えば、頭の中で記憶の影がちらっと動いていた。
私は、頼仲くんの話を"知っている"――…
「……!」
そうだ、あれは確か恋愛成就の洞窟の、言い伝え!!
「……そっか、そうなんだ…」
「?」
:08/04/07 02:58 :SH903i :☆☆☆
#323 [桔妁]
恋愛の神様は、きっと昔から私の側にいた。
私は天弥の方へと、立ち上がり、振り向き、走った。
「……天弥、!」
「は?」
天弥は分からないと言った表情で繭を見た。
「……何?」
「…天弥は、どっち?」
:08/04/07 03:02 :SH903i :☆☆☆
#324 [桔妁]
「な?」
「……恋と、愛なら!」
繭は若干顔を赤らめてはいるが、元から気の強い方なので目線は天弥へと向けられるまま、恥ずかしがる事もなく問う。
「どっち、?」
「………じゃあお前は。」
逆に聞かれれば繭はしばし悩み、言った。
:08/04/07 03:06 :SH903i :☆☆☆
#325 [桔妁]
「…………―両方!!!」
「―…んだよ、欲張りだな…。さすが繭だな。」
きらきらと笑う繭に吹き出して天弥は言った。
「……でも、ま、俺も両方がいいかな…なんてな。」
「……あはは!天弥だって欲張りじゃん!!……?」
不意に、繭は倒れかかった。……酒の効果だった。
―――――――――
――
:08/04/07 03:09 :SH903i :☆☆☆
#326 [桔妁]
――――…。
慶は天井の蜘蛛の巣をぼんやりと眺め、言う。
「寒いですね、部長…」
部長は何にも見えずにぼんやりと答える。
「あ、あぁ…」
柳園は思わずくしゃみが出てしまった。
「………クチョン!」
朝。朝日が綺麗な田舎の駅。
寝袋が三つ並んでいた。
:08/04/07 03:12 :SH903i :☆☆☆
#327 [桔妁]
「なんでホテルとかホテルとかホテルとか予約しないんスか!?」
持ってきたおやつのチーカマを慶はかじり、吉原を見た。
慶が問う理由は、慶自身も確信を持ち、わかっている事であった。
「…赤字ですよ、ね、先輩。」
「なるべくね、コスト削減?みたいな………」
の割に自分達は、なんかぬくぬくした服ばかりを着ているのに腹が立つ慶。
:08/04/07 03:16 :SH903i :☆☆☆
#328 [我輩は匿名である]
:08/04/07 03:31 :SH905i :8aXwg6ZU
#329 [桔妁]
?(・ω・)
:08/04/12 03:05 :SH903i :☆☆☆
#330 [てぃ-◆tr.t4dJfuU]
あげケx
:08/04/13 09:55 :auCA3A :n.GeXkaU
#331 [さちほ]
あげ\(^^)/x
:08/04/13 16:48 :W51P :/vzgfFLU
#332 [桔妁]
あげあげ有難う
ございまーすっ
!!
頑張っていきます(・ω・)ノ
更新
:08/04/14 22:46 :SH903i :☆☆☆
#333 [桔妁]
「いやですね。野宿だって事くらい、予測してたんじゃないですか?」
むぅ、そう言われると……それは慶の頭の片隅にはあった訳で。
だから何も言い返せない訳で。
「……………。」
チーカマをかじる速度を急速に早め、ふてくされてみるのであった。
:08/04/14 22:50 :SH903i :☆☆☆
#334 [桔妁]
………昼。
慶やその他メンバーはなんとかきちんとした食事にありついて、そしてその食後であった。
「はぁ、微妙なうどんだったね。あれはミステリー………」
「いや、だから定食を勧めたじゃないっすか!!何、ねばねばうどんって!!」
少々難有りの人も居たけれど、その他は普通にお腹を膨らませられた。
:08/04/14 22:54 :SH903i :☆☆☆
#335 [桔妁]
「と、そんなことはどうでもいいんだ。…村へ行こう!」
吉原のスイッチはここで入れ代わった。これは部活動を本格活動させるという意である。
「…地図はこれだ、さぁ慶!」
テンションの上がる吉原はなにかが違う。分からないが。
慶は渡された地図を、最大の集中力で約五秒見つめた。
そして、村へ続くであろう道を三秒見つめる。
:08/04/14 22:58 :SH903i :☆☆☆
#336 [桔妁]
「……………こっち、っすね。ここからなら十五分かかりませんよ!走れば!」
すぱっと指を差し、慶は言った。
そう、つまり。慶がこんな部活に居る訳といえばそれだった。
周りの風景と地図を数秒見比べただけでルートがわかるという"人間カーナビ"。
逆に、八秒で全てがわかるから、本物のカーナビよりも使えるかもしれない。
:08/04/14 23:02 :SH903i :☆☆☆
#337 [桔妁]
「ご苦労。さすが、絶対土地勘だね。」
ニッと笑う吉原は方向音痴だから、その笑みからは尊敬の意もとれる。
それから三人は小走りをしだした。
走って十五分、つまり小走りなら二十分くらいだろう。
たまに歩きながらも、着実に村に向かって近づいていった。
:08/04/14 23:06 :SH903i :☆☆☆
#338 [桔妁]
―――――――――
――
「――…繭さん、繭さん」
朝になり昼になり、すっかり寒そうな繭は囲炉裏の前に寝かしていた。
ただしかし、起こさない訳にもいかないので、つんつん突くのであった。
(…ていうか俺達は、よく考えたら昨日――…)
そんな繭をつつきつつ、天弥は逆に目覚めないでとも願っていた。
:08/04/14 23:09 :SH903i :☆☆☆
#339 [桔妁]
(考えたら恥ずかしーんじゃねーか!!?)
天弥の頭の中はそればかりが巡っていた。
「あああ、愛してる、なんて、なぁ!?」
おかしいだろう、と頭に手を当て言い、やり場のない気持ちを押し込んだ。
だが残念ながら繭にはそれが聞こえたようで、うぅ、と声をあげ薄目を開けていた。
:08/04/17 00:28 :SH903i :☆☆☆
#340 [桔妁]
「あ、天弥……………っ!」
ふいっと顔を背ける繭は同じ気持ちであろう。ただ天弥は起きた繭に対してはクールに接することにした。
「おはよ、う…」
様子を伺いながらの挨拶。クールにするはずがこうなってしまっている。
「おおはよう!…運んでくれたんだね?有難う!」
そんな上擦る繭の声からすれば、怒りや憎しみがないのはすぐにわかった。
:08/04/17 00:32 :SH903i :☆☆☆
#341 [我輩は匿名である]
:08/04/22 07:15 :SH905i :YinhVAd.
#342 [桔妁]
安価有難うです
!
更新します
:08/04/23 14:51 :SH902iS :☆☆☆
#343 [桔妁]
「いやいや、おいてけぼりにするのも…あれだから。」
上擦る繭の声に答えれば、急に繭は立ち上がった。
「……洞窟、行こ!!」
「は…?」
天弥はといえば、しばらく恋人同士ーみたいな、そんないちゃいちゃをしてみたかったわけだったが。
繭は急いで用意すると、口が半開きの天弥を引っ張り出した。
:08/04/23 14:56 :SH902iS :☆☆☆
#344 [桔妁]
家の前には、暁が居た。しばらく前から待っていたようで、その手は冷たそうであった。
「あぁ、おはよう二人とも。」
にっ、と微笑む暁は気取るわけでもなく、いつみても綺麗だ。
そして、暁は二人を見比べてニヤニヤと笑う。
「?」
繭と天弥はそんな暁に首を傾げるばかりだった。
:08/04/23 15:01 :SH902iS :☆☆☆
#345 [桔妁]
「いやぁ、お前たちの事を本に書いたらおもしろいだろう、とな!」
そう言い、端の揃っていない紙の束を二人に手渡す。
「……え、どういう事ですか?」
そこには色々と書いてあったが、何しろ昔の文字。二人には読めなかった。
―――――――――
―――
:08/04/23 15:04 :SH902iS :☆☆☆
#346 [桔妁]
「……これ、なんですけど…」
歩きながら、柳園は吉原に一枚の紙を差し出した。
「ん?…昔の雰囲気漂う本が沢山?」
そこには、白黒の書が五冊程並んだ写真がプリントされていた。
「そうなんです。それで、この左から二冊目の本なんですが。…"男女鬼穴物語"って書いてあるんです、多分。」
:08/04/27 22:11 :SH903i :☆☆☆
#347 [食]
:08/09/24 08:44 :SH905i :PrKIzmOA
#348 [桔妁]
しばらく休んでました!;
色々と事情があったもので..
マイペースになっておりますが
これからも&これから見て下さる方々も、
よろしくお願い致します。
:08/11/15 19:26 :SH906i :☆☆☆
#349 [桔妁]
「男女鬼穴…?何だ、それは。」
「もう、資料見てないんですか??…鬼穴…そこ、今は恋愛成就の洞窟とされているんです。」
柳園は本の題名、そして夢を頼りにそれを部長に言った。部長は、それを部長なりに読み取ったらしい。
「成る程、じゃあその本を探そうか。…昔の文章は読めるね?」
その質問に柳園は大きく、はい!と答えた。
:08/11/15 19:34 :SH906i :☆☆☆
#350 [桔妁]
――しばらく歩いていると、資料で見知っている景色が見えてきた。皆、一緒に周辺の家屋を見て回る。
と、柳園がある家屋の、倉の前で立ち止まった。
「あ―…此処よ。」
それだけで部員は分かった。ポイントになるその本がここにあるのだ、と。
そして、繭の祖母の家であることを知るのは少し先のこと。
:08/11/15 19:40 :SH906i :☆☆☆
#351 [桔妁]
一同は繭の祖母に暖かく迎えられた。家の中も暖かく、さらに食事まで分け与えてくれた。
「さぁ、たんと食いさね!こんな山奥までまぁ!」
「うぉぉ!暖かいご飯!ありがとうっス!」
慶なんて泣きながら食べている。そんな中、吉原は本題に入った。
「御祖母様の、蔵についてなのですが。」
にこりと、彼女は笑って、了解してくれた。
:08/11/15 19:47 :SH906i :☆☆☆
#352 [桔妁]
蔵を見た柳園は何故か愕然としていた。
「―違う、」
そしてただ一言、そう言った。
「な、似てる家屋だからか?柳園でも外れるときがあるんだな!」
慶は笑いながらそう言う。柳園は悔しくて泣きたくなった。
「――はぁ…、御祖母様、他に蔵のある家はこの村に幾つありますか?」
:08/11/15 19:52 :SH906i :☆☆☆
#353 [桔妁]
部長は目前にしたミステリーのカケラをまた引き離された落胆で、溜息をつきつつ聞いた。
「あるよ、何なら私が貰い受けた他の蔵でも見せますよ?」
また彼女は笑顔で言ってくれた。
「あ、溝浦天弥の、祖母の家…とか――?」
そんな慶の呟きは、当たっていた。
:08/11/15 19:56 :SH906i :☆☆☆
#354 [桔妁]
その第二の蔵に入って辺りを調べるという名目で漁る。
「…此処は多少、日当たりがいいんですね。」
吉原の他愛ない会話に繭の祖母は笑顔で答える。
と、柳園が一冊の本を見つけた。
それは、心霊非科学研究会の全員が求めていた本、
「男女鬼穴物語―――…!!」
:08/11/15 21:17 :SH906i :☆☆☆
#355 [桔妁]
―第9章―
――そして
僕等は知った―
_
:08/11/15 21:21 :SH906i :☆☆☆
#356 [桔妁]
――――――――
――――
「男女物語?」
繭は達筆なのか違うのかよく分からない文字のそれを、ようやくそうやって読んだ。
「そう!なかなかの出来だと思っているよ!何しろ頼りになるお兄さんが教えてくれたのだからね!」
笠から覗く口がニッと笑う。
「…書物?繭とか俺の名前ばかりじゃないですか?」
じっと中身を読んでいた天弥が不思議そうに暁の顔を見た。
:08/11/15 21:27 :SH906i :☆☆☆
#357 [桔妁]
「だから二人の物語だからだよ!」
暁はそれを乱暴に天弥から受け取る。するとそこに、何故か頼弦もやってきた。
「暁殿、それが完成か?」
きっと暁の言う兄さん、とは彼であると繭は確信をもって思うのだった。だって暁さんの笑顔が輝いてる。
「書けました!いやもう!本当に恋物語そのままのような二人ですね!」
小説(?)を語る様子を嬉しそうに語る暁、そこにまた繭は女の勘も見た。
:08/11/16 17:15 :SH906i :☆☆☆
#358 [桔妁]
(あ、暁さんはきっと頼弦さんに……)
私達の事を聞いているうちに、恋に落ちたに違いない。頼弦さんは気がきくし、落ち着いた物腰だし、恋する要素ならいくらでもあるのだから。
「…―じゃあ、私達も洞窟行こうか!二人の邪魔しちゃあ悪いし!」
気を遣ったつもりだったが、逆に赤くなり黙る暁さんを見て少し楽しくなったりして。
(可愛いな、)
率直にそう思えた。
:08/11/16 17:23 :SH906i :☆☆☆
#359 []
:09/09/08 23:54 :SH904i :ajjfHzhk
#360 [我輩は匿名である]
まさか私が数年前に書いていたものがまだあるとは…(゜_゜)
:13/05/15 00:37 :ISW16SH :qcnVGiJI
#361 [○○&◆.x/9qDRof2]
(´∀`∩)↑age
:22/10/02 03:26 :Android :Ltpo.xA.
#362 [我輩は匿名である]
久しぶりに本人巡回
:23/11/01 22:43 :Android :tGoPrgzQ
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