.。改]恋愛成就の洞窟で。.
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#101 [桔妁]
「わしの行きつけの遊郭の子じゃ-。今日は仕事が休みなようでね、連れてきた。」
「こんにちは、繭様。」
小さくお辞儀をするその子は、確かに、営業スマイルかもしれない。
「やだなぁ、繭でいいよ!…私、女の子の友達できるの初めてだから嬉しいなっ♪」
するとその子はにこりと笑ってくれた。次は自然な笑顔で。
:07/12/17 20:40 :SH903i :VoPBYhWg
#102 [桔妁]
「私、雪と申します。このような職についている故に、友が居なくて…私も、嬉しいです。」
「お雪、よかったなァ!繭はすごくやさしいぞ!!……と、今日は帰らねば…。」
さっき会ったばかりなのに、いきなり別れを言われた。
まだ天弥も居ないのに、この人は何をしに此処へ来たんだろうか…。
「ん?わしは今日、届けものをしただけじゃ。…じゃ、今から仕事だし、行く。」
:07/12/19 16:34 :SH903i :Anl.jzJU
#103 [桔妁]
「お届けもの?」
すると、なにやら頼仲はドキッとしている。私にばれてはいけなかったかのように。
「ま、まァそれは天弥に聞けばいい。わしらは行く!じゃあな!」
「あっ、では、また…」
私が首を傾けて考える間に、二人は出ていってしまった。
「何だ、あの人……まぁ、お雪と友達になれたし…ま、いっか-♪」
:07/12/19 16:39 :SH903i :Anl.jzJU
#104 [桔妁]
時計もない部屋の中、風もない村は、静かだった。
自分の心臓の音が聞こえる位…。
「天弥は何やってんだろ……遅いな-っ……」
退屈と空腹に痺れを切らした私は、外に出た。近くまで天弥をお迎えしようと思って。
――ガサガサッ
「はひ!?」
暗い道を歩いていると、いかにも…のような音がした。
:07/12/19 16:43 :SH903i :Anl.jzJU
#105 [桔妁]
「…だ、だれですかァ!!」
裏返った声で聞くと、帰って来た声の主は、意外な人だった。
「怪しいモンじゃね-よ。」
「…天、弥?」
「その声、繭!?ちょ、ま、お前、こっちにくるなよ!!」
「…?うん?」
立ちションでもしてるのかな…。そりゃあ見られたくもないでしょうが……
:07/12/19 16:46 :SH903i :Anl.jzJU
#106 [桔妁]
「なんで繭が此処に居るんだ?」
草村から出てきたのは、泥だらけの天弥。
「や、暇だったから天弥のお迎えを…ていうかなんで天弥は泥だら
「馬鹿!」
「は!?」
:07/12/19 16:48 :SH903i :Anl.jzJU
#107 [桔妁]
助けに来てやったのに馬鹿呼ばわりですか、私…
「夜道に女一人は危険だろ!?」
何を言い出すかこの男。…そりゃあ街灯もない暗い道だけど……そんな、馬鹿って…
「背ぇ低いから、説得力ない…。むしろ、天弥のほうが危ないよ?(笑」
思わず、(笑)を使ってしまうほど、にやけずにはいられなかった。
:07/12/19 16:52 :SH903i :Anl.jzJU
#108 [桔妁]
「そ-じゃね-よ……。ま、いいけどさ…んじゃ帰っか。」
何か、隠しているような気がした。女の勘ってやつでそれは不確かだけれども、そんな感じがした。
「…あ-あ……帰る帰るって…私達の帰るところって、どこなんだろう…」
不意に口をついて出た言葉は、夜の闇に溶けた。
冷たい木枯らしが吹いていた。
:07/12/22 23:01 :SH903i :o7i/uv3A
#109 [桔妁]
「…あ、そ-いえば…頼仲くんがお届け物を天弥に渡したらしいよね?あれ、何?」
夜道歩いている時に、先程のことを思い出した。
「ん?………あ、あれ…?あれ…まァ何でもいいじゃね-か!」
こいつ、また隠しているな……と、これも女の勘ですが…。
――繭が届け物の中身を知るのはこれから少し、先のこと…。
:07/12/22 23:08 :SH903i :o7i/uv3A
#110 [桔妁]
――約2週間後―
秋の紅葉は、本当にあっという間だった。
今は、どの葉も散ろうとしている。
そして繭のバイトの腕もあがって、さらに茶屋小町と呼ばれて、それはそれはモテていた。
「お繭、今晩一緒に町で呑まねェかい?」
:07/12/22 23:13 :SH903i :o7i/uv3A
#111 [桔妁]
「や、や…私のような身分では-…」
言い寄るのは親父ばかり…。かわすのにも一苦労と言ったところだ。
(どこの時代もおじさんってエロいなぁ…)
うまくかわしたつもりでも、ボディタッチしてくる客もいる。
お店間違えてるのではないでしょうか……
「ちょ、やめ
「オイコラそこのおじさん!!」
:07/12/22 23:16 :SH903i :o7i/uv3A
#112 [桔妁]
「なんだ餓鬼?」
「天弥…」
こんなとき、たまに天弥が来て救われる。
縋る目で天弥をみると、いつもなんだかんだ助けてくれる。
こういう優しさは好ポイントなのだけど。微妙に性悪なところは苛々する。
「助けてくれてありがとね!!んじゃ!あっちの旅人さん待たせてるから!」
「………。あぁ、うん。」
:07/12/22 23:20 :SH903i :o7i/uv3A
#113 [桔妁]
「…何、その微妙な反応は。」
「…いや、御礼に茶をいれたりとかねェのかなって。」
こういう、ちゃっかりした部分で、ポイントは下がる…。
やっぱり早川先輩以上はいないなぁ…。
「あとでいれてあげるよ…。…んじゃ、待ってて!」
呆れた笑顔を天弥に向けた後に、旅人の顔を見た。
「………!」
:07/12/22 23:23 :SH903i :o7i/uv3A
#114 [桔妁]
(早川先輩そっくり…!!)
居た、今ここで…早川先輩に並ぶ者が!!
「おおお待たせしました!…ええええと、お疲れでしょうから最中を添えさせてもらいました!よよ、よかったらどうぞ!!」
「?あ、あぁ有り難う。」
純粋に笑って下さるのも、早川先輩そっくりっ!!!
:07/12/24 11:14 :SH903i :8vB3PghU
#115 [桔妁]
「旅をしてるんですか?」
早速隣をキープ!!幸い、他のお客は居ない!(天弥は論外)
「あぁ。…江戸から少し、用があってな。…しかし、このような村にこんなに美しい娘が居るとは…中々だな。」
ちょ、早川先輩!(違う)今私を美人と言いましたァ!?
「けっ!どの辺が美人なんだかね-??」
こうなれば、そんな天弥の厭味も聞こえない。
:07/12/24 11:22 :SH903i :8vB3PghU
#116 [桔妁]
「しかし、本当に村娘も捨てたものではないよ…。今日の夜、どうだい?村のことを教えて欲しいんだ。」
「……………。」
天弥が二人の方を睨む中、繭はすごい笑顔で
「えぇ!!ははははい!是非!」
顔を赤らめ笑顔で言った。
「じゃあ、仕事が終わったら迎えにいくよ………」
天弥は、さらに睨んだ。…早川先輩似の男を。
:07/12/24 19:31 :SH903i :8vB3PghU
#117 [桔妁]
X'mas 番外編―第3.5章―
―チョコレートは
バレンタインだろ――
.
:07/12/24 19:36 :SH903i :8vB3PghU
#118 [桔妁]
「たるたるーるーるるー…♪」
訳の分からない歌を歌いながら、仕事が休みの天弥は家の掃除をしていた。
ちなみに、天弥の職が何かとはまだ明らかではない。決して作者がまだ考えていないからとか、そういうのでもない。←
「たるたるーん、るーん…ん?」
天弥の目に偶然繭の鞄が入りこんだ。そして、彼も悪気は無かったのだが…
:07/12/24 19:44 :SH903i :8vB3PghU
#119 [桔妁]
「…これ、あれか?けいたいでんわ……。」
中身を見てしまいました。しかも、携帯電話ときてしまえば、中々珍しいのであって…。
「おぉ-!!お父さんが持ってたなァ…。電源……ここか…あれ、付かない……あ、ついた!!!!!」
繭がやったときはつかなかったのに、ついたのだ。
「すげ……TV画面なんて何年振りだ…」
と、カレンダーをみると。
:07/12/24 19:52 :SH903i :8vB3PghU
#120 [桔妁]
「十一月三十日……」
もう、十二月になるのか、と思った。正確な日にちが分かるだけで、涙が出そうだ。
それと同時に十二月といえば。
「クリスマス…懐かしいな。」
という考えが浮かぶ訳で。
「繭にプレゼントでもあげようかな……」
なんて考えたのであった。
:07/12/24 19:57 :SH903i :8vB3PghU
#121 [桔妁]
と、そこに。
「そらやー!ばっちゃんから饅頭くすねてきたから食おう!!」
「…おぉ頼仲!いいところにやってきたじゃんか!!」
「は?」
――――
――
―
「わかった。つまり、おまいは繭に簪をあげたいというわけ。」
「そう!よろしくな!」
:07/12/24 20:01 :SH903i :8vB3PghU
#122 [桔妁]
仕事の都合上、さらに繭を何日も家に一人にするのは危険と考えたので、頼仲にお使いを頼むことにした。
「三日で帰るけ!」
「まじかよ。」
余りに早いなと思いながら、天弥は頼仲に手を振った。
「さァ、今日から日にちをきちんと数えなくちゃな…。」
――――
―
:07/12/24 20:04 :SH903i :8vB3PghU
#123 [桔妁]
三日後…。今日は十二月二日だ。
「……」
盛り上がった土の上で手を合わせる。
これは、仕事の"後片付け"だ。
と、草の外から人の影があった。
「誰ですかァ!!!」
裏返った声で、明らかにビビっていた。女か?
「怪しいモンじゃね-よ。」
そう言うと、返ってきたのは繭の声。
:07/12/24 20:10 :SH903i :8vB3PghU
#124 [桔妁]
「天、弥?」
まさか、こんな夜に迎えに来るなんて思わないから、動揺して、
さっき頼仲からもらった簪を胸元から落とすところだった。
しかも、この仕事が繭にばれるのは嫌だ。
さらに慌てた俺だった。
そんな俺の事を知りもしない繭だから。
「迎えにきたんだ」
なんて言われたら恥ずかしい。
:07/12/24 20:14 :SH903i :8vB3PghU
#125 [桔妁]
しかし、最近よくない噂の侍が居るようで、繭がよく無事だったと安心した。
だから叱ってやったのに。
天弥のほうが小さいから説得力が無いといわれた。
と、頼仲が女と家に来ていたようで。
あれほど言うなと言ったのに、繭に"お届け物"のことを喋ったようだ。
:07/12/24 20:17 :SH903i :8vB3PghU
#126 [桔妁]
しつこく聞いてくる繭。
まぁ、あとで分かるんだから…って言ったらお見通しか。
冷たい木枯らしが、吹いていた。
.
:07/12/24 20:19 :SH903i :8vB3PghU
#127 [桔妁]
その日の、夜の事だった。
「…何コレ?」
繭は俺に茶色い球体を渡してきた。
…イヤ、多分"アレ"ではないと思うが……
「コレなに?…やだなぁ!過去きて三年しか経ってないのに忘れちゃったの!?チョコボールだよ!!」
「は?……あ、あぁ!!」
:07/12/24 23:00 :SH903i :8vB3PghU
#128 [桔妁]
ようやく、わかった。
チョコボールといえば…あのキョロちゃんの、あれか。
銀のエンジェル、三つ集めたのに…過去来てパァだったんだ、そういえば。
「で、これがなんだっていうんだ?」
:07/12/25 00:00 :SH903i :ooso8LXg
#129 [桔妁]
「ん-…。勿体ないから、一人で食べようかと思ったんだけどね……。あげる、よ。」
繭がチョコボールを差し出す。
「?」
タダでくれるなんて、なんか繭には有り得ないと思い、不思議に思っていた。
「ほ、ほら、クリスマスだと思って!!今、もう少しで雪降りそうじゃん!ね?」
けど、何故か今日の繭は素直に受け取れたから、俺も素直に受け取った。
:07/12/25 00:06 :SH903i :ooso8LXg
#130 [桔妁]
「…あ、ありがと……」
チョコボールって、食べるのにこんなに緊張しただろうか…。
俺はゆっくり口に運んだ。
「……あ!!」
「!!?ななな何だよ!!」
食べようと思ったら、繭が大声あげるもんだから口ん中に落っことしてしまった!!
:07/12/25 00:08 :SH903i :ooso8LXg
#131 [桔妁]
「し、賞味期限…平気かナ?」
「え、」
冷や汗かいたふうに笑う繭は、なんか憎めないが…
腐ったチョコだったら…どーするんだよ俺!!
「あ、来年の一月まで平気だ!あははっ!!」
口の中のチョコボールのことを気にしていたら繭がいった。
「な、なんだよ……。…ていうか…なんで本当に俺にチョコボールなんか?」
:07/12/25 00:12 :SH903i :ooso8LXg
#132 [桔妁]
そこがやはり疑問だ。
誰より食い意地のはった女だから、絶対に有り得ないのに……
「ん?…本当にクリスマスプレゼントだよ!」
そういう繭を、今日は信じようと思う。
「でもさ、普通…チョコはバレンタインじゃねーの?」
そこで、俺がチョコボールを食べながら、そうやっていえば。
:07/12/25 00:16 :SH903i :ooso8LXg
#133 [桔妁]
「いいじゃん!…ほんと、有り難うのひとつくらい言ってくれればいいのにっ!!」
がみがみ言う繭が楽しくて仕方ない。
こいつにとって、家族や友達に会えないのは不幸なのだろうけど、俺は繭に会えて、今までの三年間の不幸な日々が変われたから幸せだ。
本当のクリスマスの日には、きちんとプレゼントをあげよう。少なくとも、俺と過去に居て、楽しいと思える日が、ひとつでも増えるように。
.
:07/12/25 00:21 :SH903i :ooso8LXg
#134 [桔妁]
―Side繭――
夕刻―――…。
「静かでつまらない……。」
床に座っている繭だが、自分の心臓の音が聞こえるくらい静かで、つまらない。
と、収納スペースに一際古い箱があるのに気がついた。
「…金めのものかな……。小判とかならもらっちゃおー…」
興味本位で、箱に手をかけて、中を見た。
:07/12/25 00:25 :SH903i :ooso8LXg
#135 [桔妁]
「?服??」
それは、小さめのTシャツと短パンだった。
恐らく、というか確信を持ち天弥のだろう。
そして箱の底に、紙が入っていた。
手紙のようだ。
「…旅行楽しんでいらっしゃい……、おばあちゃんの言う事を聞くのよ。寂しくなったら、電話するのよ。」
お母さんの字だろうか。愛情が滲み出ているようだ。
:07/12/25 00:29 :SH903i :ooso8LXg
#136 [桔妁]
慣れた慣れたと、天弥は言っているだろうけど。
「天弥だって…帰りたい、よね…」
三年間、どんな思いだったんだろう。知らない土地で一人きりで…。
「よしっ!!元気つけてやらなくっちゃね!!」
私は、隠し持っていたチョコボールを鞄から取り出した。
「現代の味を食べさせてやろうかな!!」
:07/12/25 00:31 :SH903i :ooso8LXg
#137 [桔妁]
そう、私だって寂しいけど。
天弥が居たからだいぶ違う。
そのへんは、私だって分かってるんだから。
少しでも、繭が来てくれてよかったよ俺。とか思ってくれたらいいなって。
だから、まぁ…
早川先輩よりは下だけどね、天弥だって幸せでいて欲しいなって思うわけです。
―――
―
.
:07/12/25 00:36 :SH903i :ooso8LXg
#138 [桔妁]
―
―
―
―
―
―
通じていないようで
通じている
そんなふたりの
冬の始まりは
なんとなく
暖かかった。―
―
―
―
―
―
:07/12/25 00:39 :SH903i :ooso8LXg
#139 [桔妁]
―第4章―
―新しい心の名前
さようなら古い心――
.
:07/12/25 00:41 :SH903i :ooso8LXg
#140 [桔妁]
「お疲れ様、今日はあがりでいいよ。」
この店の主人の言葉は決まって定刻に。
「有り難うございます!」
私は、いつもとはきっと違う明るい声で言う。
だって今日はデートなんだから!
「…て、あれれ…天弥?」
:07/12/25 01:40 :SH903i :ooso8LXg
#141 [桔妁]
岩影に、天弥が居た。
「趣味悪いなぁ-。デートののぞき見?」
「………行くのか、本当に?」
私の厭味を無視し、天弥は聞いてきた。なんか、この顔は母性本能をくすぐるというか…。
でも今日は外せない!!早川先輩似の人とのデートは!
:07/12/25 01:43 :SH903i :ooso8LXg
#142 [桔妁]
「行くよ?…ていうか…天弥は、ど-したのよ?こんな時間に…」
「…仕事。」
そっけなく答える天弥に多少の苛々を覚える。
「ああ、ふ-ん。……あ、あの人だ!…じゃあ行く…」
足を一歩進めようとすると、不意に天弥が着物の裾を掴んだ。
「…やめとけ。」
そう私には聞こえた。…だが振り払って歩いていった。
:07/12/25 01:48 :SH903i :ooso8LXg
#143 [桔妁]
「本当にいらしたのですね!」
「俺が契りを破るとでも思ったか。…では、行くか。乗れ。」
前方に、馬――…。
しかも白馬!!!
王子様ァ!!!!
「チッ………」
二人が乗り、そして走りだす馬を追う少年が居た事は、誰も知らない。
:07/12/25 01:54 :SH903i :ooso8LXg
#144 [桔妁]
「そらや-……あれ、居ないんか?」
同時刻。頼仲とお雪が家にやってきたが、二人は居ない。
「折角一緒に呑もうとしたのにのう…。」
「何処へ行かれたのでしょう?」
頼仲は、持ってきていた酒を少し呑み、言った。
「まぁ…仕事でもやっとるんだろうねぇ……」
:07/12/25 08:38 :SH903i :ooso8LXg
#145 [桔妁]
「…ここ、ですか?」
繭がついたのは、町はずれの小屋の中だ。
中には高級そうな着物や、金銀財宝が置いてある。
「あぁ、今の宿泊場所だ。さぁ、座れ。」
「あ、有り難うございます…」
微笑んでくれると、やはりカッコイイ。
:07/12/25 08:42 :SH903i :ooso8LXg
#146 [桔妁]
「茶屋の娘…名は何と?」
出された飲み物は、お酒のようだった。まだ未成年だけど…早川先輩が出してくれたのだから…と、ちびちび飲む。
「私は繭と申します……あの…貴方は…」
「俺か?ナギだ。…まぁ、流れ者だから……………て…………るん……」
あ、れ……?
繭の意識は遠退いていった。いつの間にか、ナギさんの声も聞こえない。お酒の飲み過ぎ、にしては少な過ぎる量だし……
そんなことを考えている間に、完全に意識がなくなった。
:07/12/25 12:55 :SH903i :ooso8LXg
#147 [桔妁]
:07/12/25 21:01 :SH903i :ooso8LXg
#148 [桔妁]
その頃…息を切らした天弥は町中に居た。
天弥の脚力は、並外れていた。だが、さすがに馬に追い付く事は不可能で…
「くそ…見失った……」
町に入った所で、馬を見失った。
「なんで繭を……………ん?」
急に、後ろから気配を感じた。
「天弥殿!!!!」
それはひとりの侍格好をした男だった。そして、天弥のよく知る人物…
「頼仲の兄上…?」
:07/12/25 21:18 :SH903i :ooso8LXg
#149 [桔妁]
頼仲とは打って変わった真面目な人柄の彼は、いつも何かと力になってくれる。
「弟から聞いたよ。今日"奴ら"が動いたんだって…。」
「…頼仲が?」
呼吸を直しながら俺は天弥は聞く。
「まぁ、正確には遊郭のお雪の客が漏らした話だが……今晩、娘を売って一儲けするらしい。」
娘…いわずと知れた、繭だろう。
「有り難うな…」
:07/12/25 21:31 :SH903i :ooso8LXg
#150 [桔妁]
場所の目星はついていた。
繭に出会ってしばらくのとき、村に現れた不貞な奴らの処理任務についた。
そのときに突き止めた場所は、町の端にある賭博場の地下だ。
取引はそこで行われるに違いない。待ち伏せればいいだろう。
「…じゃあ、俺は行く。」
そう頼仲の兄に別れを告げようとすると、彼は言った。
:07/12/25 21:37 :SH903i :ooso8LXg
#151 [桔妁]
「天弥殿は…変わったな。あの、繭殿のお陰だろうが……。余り、見失うなよ。」
それを聞いた天弥が、頼仲の兄の方を振り向いた時の眼は、冷えていた。とてもとても暗く…………。
年上の彼から見ても身震いをするような。
"これ"が天弥の職業なのだと、余計に実感させられる。
「……息を切らしていくな。負けるぞ。」
それだけを言うと、頼仲の兄は戻っていった。
:07/12/25 21:46 :SH903i :ooso8LXg
#152 [桔妁]
「………………。」
町の端の賭博場に急いだ。
まだ、間に合うか。奴らより先に繭を救わなくては。
過去世界での自分の苦しみを変えたのは繭だ。
いつの間にか、俺にとってかけがえのない人になった。
そう。とにかく、繭を…………
そんな気持ちとは裏腹に、冷酷な眼が言う。
:07/12/25 21:50 :SH903i :ooso8LXg
#153 [桔妁]
お前に幸せなどはない。
ささやかな自分の幸せさえも犠牲にしなくては、この職業はままならない。
でなければ、迷い死ぬ。
ただ頼まれた通りに、どんな奴らだろうと殺す…
それが"天弥"の新しい生き方であり、きれいごとに染まる事はもうできない、と。
過酷な生活の中で生き残るためには、リスクを背負わなくてはならないのだ、と。
:07/12/25 21:55 :SH903i :ooso8LXg
#154 [桔妁]
生活のために、ささいな幸せを、明け渡したのだ。
父も母も兄弟も友達も諦めた。
もう、自分が生きる事に全てを捧げようとした。
"神隠し"。
神がそう自分を定めたのは何故だろう。なぜ自分が。
通常の居るべき次元から離されて、そこに生きていたという跡を消された。
なら、ここで作ろう。自分は此処に居たのだと。
:07/12/25 22:03 :SH903i :ooso8LXg
#155 [桔妁]
たしかに自分は存在していたと、たくさんの魂にしらしめる。
間違いだ、分かっているのに。
過去に来た自分、此処に居る自分を認められない。
もはや自分が何なのかと、わからない。
だから、そうするしかない。
例え、嫌われても、かけがえのない者の前で血が舞おうとも。
:07/12/25 22:09 :SH903i :ooso8LXg
#156 [桔妁]
―――――
――
―
「……?」
ざわざわと、周りがうるさい。これが目が覚めた時の印象だ。
そして、暗い部屋のひんやりとした土の上に座っているような感覚で、なおかつ腕は縛られていた。
「なんでこんな…確か…」
そう、この場は間違いなく、天弥が読んだ場所である。
:07/12/25 22:40 :SH903i :ooso8LXg
#157 [桔妁]
「ナギさん……」
そうだ。ナギさんの小屋に入ったら…
意識がなくなったんだ…。
(腕が拘束されてるのは気分悪いなぁ…。
ていうかまさか……ナギさんが私を…?)
過去に来たんだから、ある程度の変な出来事は想定していたが…
:07/12/25 22:47 :SH903i :ooso8LXg
#158 [桔妁]
まさか、絶対いい人だと思ってた人がこんなことを……
っていうか結んで何しようとしてるの!?
繭が余裕をこいてめくるめく妄想をしていると、左側が明るくなった。
扉が開いたようだ。
:07/12/25 22:51 :SH903i :ooso8LXg
#159 [桔妁]
「目が、覚めたようだね?」
一瞬眩しくて分からなかったが、確かに早…じゃなくて、ナギさんだった。
「ナギさん、あのこれ…」
聞こうとした瞬間だった。
ナギさんの両脇から二人の男が現れた。
「出せ。」
二人の男に命じたナギさんは、一足先に部屋を出た。
:07/12/25 22:55 :SH903i :ooso8LXg
#160 [桔妁]
一抹の不安を感じずには……?
いいえ一抹なんて、そんな小さくない。
本能が、第六感が…?
分からないけれど。
私からは、汗が一滴垂れた。…じめじめした涼しい空間なのに……。
:07/12/25 22:58 :SH903i :ooso8LXg
#161 [桔妁]
部屋の外も、薄暗い部屋だった。…言うなれば地下室。
「今日、皆に集まっていただいたのは他でもない。」
二人の男に取り押さえられていた私には、いつの間にか猿轡がされていた。
つまり何も喋れず、何事かと聞く事もできない。
そのうちに、上擦った声のナギさんが話し始める。
「今日は、私自らが出向いて会得した代物だ。」
(何……?)
二人の男たちを見ると、ニヤッと笑っている。
:07/12/26 22:44 :SH903i :TpUAuREM
#162 [桔妁]
「さぁ、大判三枚との交換だ!」
(…大判三枚……?)
皆、一様に息を呑むのが聞こえた。
今まで意識に止めなかったが、部屋には所狭しと目つきの悪そうな男が居る。
(どういう、こと……)
拘束されて、訳のわからない所に連れられて、あやしいおじさん達が居るのだ。
いいところではないだろう。
:07/12/26 23:02 :SH903i :TpUAuREM
#163 [桔妁]
「せめて大判一枚にしておくれよ。高すぎだろうね。」
「いくらなんでも三枚は無理じゃろうね、遊女よりもお高いだろう。」
しばらく静かだった空間がざわめきだした。
と、同時に繭は状況も掴めてきた。
(売られようとしてる?)
そ、そんなの!冗談じゃないっ!!
繭は急にテンパり始めた。ものすごく、あがいた。
:07/12/26 23:07 :SH903i :TpUAuREM
#164 [桔妁]
「……ほう…あの女、まだ動く元気があると…。不良品だな…?」
ひとりの男が呟いた気がする。
と、同時に周りが値下げコールをしてきているではないか。
「ええい!仕方のない!!…大判一枚、小番三枚で手を打とう!!」
(は!!??ななナギさん!?)
:07/12/26 23:10 :SH903i :TpUAuREM
#165 [桔妁]
私が驚く間に、三人の男が前に出た。
…私を買おうとする奴か……。
「ほほう…久しい顔ぶれだな。」
ナギさんは三人を目下に見ながら言っていた。
ああ、こんな訳のわからない連中に売られてしまうんだ…。
さっき、天弥は行くなって言ってたっけ…。言う事を聞けばよかった……。
:07/12/26 23:15 :SH903i :TpUAuREM
#166 [桔妁]
今更になり、後悔が頭中を駆け巡った。
涙も出た。
甘く見た自分が馬鹿だったなと…。今更では遅いとも。
(天弥、呆れてるだろうな。…俺が折角忠告したのによー、とか言って……)
と、悟り始めた時であった。
:07/12/26 23:20 :SH903i :TpUAuREM
#167 [桔妁]
部屋の奥…(否、恐らく入口部分だろう)から、火の手が上がった。
「な、なんだ……!!」
ナギさんも想定外らしく、慌てふためいている。
そして入口の男達から、じわじわと焼かれていく。
逃げる者も居ない。
入口も出口も、あそこのみなのだということだろうか…。
「だ、誰だ!?役人か!?」
ナギさんがそう言う頃には、異臭が漂って、周りは火の海だった。
:07/12/26 23:24 :SH903i :TpUAuREM
#168 [桔妁]
煙が、苦しい…。
というより、意識がまた薄れていくような気持ちだ。
目がチカチカして、なおかつ室内温度が高くて、釜戸の中ってこんな感じなのか。
と、次の瞬間。
(………っ!?)
目の前に居たナギさんから、赤い液体――もとい、血が飛び散り、首が消えた…。
時代劇もびっくりである。そして後ろには人影。
こいつが切った事は明白だろう…。誰かは、判らないが。
:07/12/26 23:28 :SH903i :TpUAuREM
#169 [桔妁]
そして、びっしょびしょの布が被せられる。
………と、いう所から、繭の意識は途絶えた。
気付いた時には、見たことのない部屋に居た。
:07/12/26 23:31 :SH903i :TpUAuREM
#170 [桔妁]
「…頼仲ー。こい。」
ぼんやりした意識の中、知らない男の人が頼仲を呼んでいることだけが分かった。
しばらくすると、頼仲が私の顔を覗きこんでいる。
「繭!よかった!!生きとってくれた!!」
そんなことを、いいながら。
ああ、そっか…私――。
あの時の状況が私の中にあらわれた。
:07/12/26 23:35 :SH903i :TpUAuREM
#171 [桔妁]
「――…天弥は、?」
頼仲くんの前で、失礼だったろう。いきなり天弥とは。
ただ、謝りたかったからなんだけれども。
言う事きかなくて、ごめんて。
「そらやか?……あいつなら…ちょっと怪我をして休んじょるよ。」
「え?け、怪我??…それに私はどうやって頼仲くんの所に…」
:07/12/26 23:39 :SH903i :TpUAuREM
#172 [桔妁]
なんでも天弥は山菜採りの最中に、山から転がり落ちたらしい。
なので自宅療養中とのこと。
「…繭は……うちの前に倒れていたんよ。で、意識ないから預かったという訳じゃ。」
つまり、ここは頼仲くんの家ということか。
"誰か"が運んだのだろう。ナギさんの首を斬った"誰か"が。
:07/12/27 14:20 :SH903i :troNYYyc
#173 [桔妁]
「と、面倒見てくれてありがとう!!…じゃあ、天弥が心配だから行くね!」
こうしちゃあいられない。私は元気な訳だし、天弥の看病でもしなくては。
「平気なんか!?」
頼仲が繭の身体を支えようとする。だが、繭の足はしっかり地についている。
「うん!じゃあね-!」
外を見ると、町の中のようだ。これなら一人でも帰れる…………。
:07/12/27 14:24 :SH903i :troNYYyc
#174 [桔妁]
―――――
―
帰れる…………?
「そんな訳ないだろ-っ!!!」
町から村まで8キロあるのに、そんなにパパッと帰れる筈がないのだ。
「有り得ない-……。でももう5キロは歩いたよね…。」
そう、繭はがんばったつもりだった。だいぶ歩いたつもりだった……。
だが、実際は3キロしか進んでいなかった。
そろそろ途方に暮れる繭。
:07/12/27 14:29 :SH903i :troNYYyc
#175 [桔妁]
と、向かいから人が歩いて来るではないか。
「……お…天弥ぁ?」
しかも自宅療養中の天弥だ!
腕に箱を抱えながら歩いて……いや、走っている。
向こうも繭に気が付いたようで、さらに速く走ってきた。
:07/12/27 14:33 :SH903i :troNYYyc
#176 [桔妁]
「ま、繭かよ!!」
目を丸くして繭を見る天弥。
「や、ていうか…天弥、怪我は…?しかも服違うし、その箱は何…etc」
つっこみ満載の繭も、目を丸くしている。
:07/12/27 14:35 :SH903i :troNYYyc
#177 [カナ]
面白いです☆★
頑張って下さい
:07/12/30 22:40 :F703i :4Y81UAeU
#178 [桔妁]
カナさんありがとう!!
年末年始は忙しくて、あまり更新できないかもしれませんが、頑張ります
:07/12/31 14:04 :SH903i :ioR6Y8w2
#179 [桔妁]
「え、いや……これは…」
しどろまどろしているために、怪しい感じが滲み出ている。
「…まぁ、何があってもいいけど……凄い怪我じゃん!!なんで、休んでないのよ!!」
感情に任せて怒鳴る繭に、背中の筋が伸びる天弥。
だが、その後は微笑みが止まらない。
:07/12/31 14:12 :SH903i :ioR6Y8w2
#180 [桔妁]
「な、何!?笑わなくたって…」
「いや、はは…なんでもね-よ…あはは!」
折角怒ってやったのに笑われるなんて…。
なんかいつでも上に見られているようで腹が立つ…。
「じゃあ、俺これ届けるから行くな!」
:07/12/31 14:18 :SH903i :ioR6Y8w2
#181 [桔妁]
「ど、どさくさに紛れて逃げるつもり!?」
まだ喚く繭の横を風のように走って通り抜ける天弥。
「ちょ…待って、よっ!」
間一髪、横を過ぎ去る前に繭は天弥の腕を掴んだ。
「……痛いぃッ!!!!」
ゴトン、と天弥の腕から木箱が落ちた。
:07/12/31 14:27 :SH903i :ioR6Y8w2
#182 [桔妁]
「あ、ごめ…」
掴まれているのとは逆の手で、地面に爪を立てる天弥。
その痛さを物語るには十分だった。
そこから繭が視線を掴まれた腕に移すと、そこに巻いてあった包帯(真っ白でなくて黄ばんでいる)が、ひらひらと外れていった。
「あ……」
天弥がそう一声、発したときにはもう、繭は見てしまっていた。
:07/12/31 14:35 :SH903i :ioR6Y8w2
#183 [桔妁]
痛々しい、火傷を負った腕を。
(火傷…?嘘、だって天弥は山菜を………)
はっと、繭は思い出した。
いつだったか。頼仲と遊んだ日の帰り道に、盗賊が死んでいて、その先に刀を持った天弥がいて。
そのときも、天弥は"山菜採り"と言っていた、と。
:07/12/31 14:40 :SH903i :ioR6Y8w2
#184 [桔妁]
(じゃあ、まさか…天弥は嘘をつくときに"山菜採り"って言うんだとしたら……)
では、この火傷はつまり…
「いや、や…違くて…な…」
苦笑いで弁解する天弥の事を、繭の目にはどう映っただろうか。
「ナギさんを斬ったのも、何人の人も焼いたのも、私を助けたのも……天弥、?」
否、多分、何も見えてはいないだろう。だって繭の目は、水で滲んでいたのだから。
:07/12/31 14:46 :SH903i :ioR6Y8w2
#185 [桔妁]
それを、後から見る影があった。
頼仲の兄だ。
繭が家に辿り着けるか心配で、こっそり後をつけていたのだ。
「……繭殿に、気付かれてしまいましたか…。繭殿がどう心変わりしてしまうか…。天弥殿、残念だったな…」
ぽつりとつぶやいた頼仲の兄は、町の方に向くと歩きだした。
後ろに感じる空気は、耐えられるようなものではなかった。
:07/12/31 15:04 :SH903i :ioR6Y8w2
#186 [桔妁]
―第5章―
――見えなくて、大きくて
抱えきれない大切なもの。―
.
:07/12/31 15:09 :SH903i :ioR6Y8w2
#187 [桔妁]
「…繭が、おかしいんだ!」
ここは頼仲の家である。
そこに押しかけたのは、天弥だ。
雪降る中を走って来た天弥はあまりに寒々しく見えて、
普段は家に上がっても挨拶ひとつしない頼仲の兄が、今回ばかりは手ぬぐいを差し出してくれた。
「…で、繭がどうしたのじゃ。」
:07/12/31 15:18 :SH903i :ioR6Y8w2
#188 [桔妁]
「繭、なんか…寝てないみたいで……。体調が悪そうで…」
本気で心配しているようであったが、頼仲の兄がぽそりと言った。
「それは、天弥殿が殺し屋だってばれたから、だろう。」
「え、なんで頼弦(ヨシツル)がそんなこと言えるんだ?」
天弥は膝を抱えて、そこに頭を入れた。「兄上と呼びなさい」という頼仲の兄の声は、天弥に遠く聞こえた。
(…やっぱり、ばれたらやべーよな……。)
頭の中は数日前から、繭の潤んだ目の像を鮮明に映し出す。
:07/12/31 15:34 :SH903i :ioR6Y8w2
#189 [桔妁]
「………」
「……………すまん…」
頼弦が謝るが、空気はよどんだままだ。
「…や、でも!あれじゃ、そらやが言っていた"くらすめす"?のときに簪渡したら、機嫌もよくなるじゃろ?」
「…クリスマス、な。…でも、頼仲の言うことも一理あるかもしれねーな…」
天弥の目に、生気が戻りつつあった。
:07/12/31 15:47 :SH903i :ioR6Y8w2
#190 [桔妁]
来年もよろしくお願いします!!
紅白は見てませんでしたが
白組が勝ちましたね!!
私はよゐこの無人島SPを
見ていました!笑
本当、来年はさらに成長を
遂げて、皆様に小説を
お送りしたいと思います!
では、残り少し!!よいお年を!!
:07/12/31 23:46 :SH903i :ioR6Y8w2
#191 [桔妁]
――――
―
「あ、あの…ま繭―…繭…」
夕刻。数日前までは華のある話が舞っていたはずの夕食時だ。
近寄るだけでピリピリしそうな空気の中心に居る主に、天弥は話し掛ける。
だが、主である繭は目も合わせてくれようとしない。
「…ま、繭………」
と、急に繭が立ち上がった。
繭は、家を飛び出して、走っていった。
:08/01/01 02:07 :SH903i :a.l0GRvc
#192 [桔妁]
ただ一直線に、目指すのは崖の下へ――…。
降りしきる雪の寒さは、現代の北風よりも冷たく、身体に染みていった。
ひとつひとつの雪が、涙を流す言い訳となった。
だが、どの雪も繭の心にはかなわなかった。
:08/01/01 02:18 :SH903i :a.l0GRvc
#193 [桔妁]
気が付けば、正面が壁…。
そう、崖の下だ。
繭は、崖を素手の拳でなんども殴るようにしていた。
ここ数日、繭はあることを思っていた。
(天弥は、ここで私を救ってくれて…ご飯もくれたし、現代同士で仲良くしてくれた……。
野蛮な連中とかエロ親父からもかばってくれてた…
:08/01/01 02:24 :SH903i :a.l0GRvc
#194 [桔妁]
ただ、まさか人を殺すような人だとは思わなかった。
性悪なんだろうけど優しくて、どっか幼稚だけど暖かくて大きくて、そんな天弥が…。)
「……っ。…――帰してよぉ―。…いやだよいやだよ…私は、私は…」
そこへ、走って追い掛けた天弥の姿が崖の前に現れたが、繭の目に映る事はなく。
「いやだよ…。時代に流されて、人殺しになりさがるのは、嫌だよ……っ…。私も、変わる前に、帰してよ………!!」
天弥は、その場から動けなかった。
:08/01/01 02:30 :SH903i :a.l0GRvc
#195 [桔妁]
気が付いたときに繭は、頼仲の家に居た。
意識を失った訳ではなく、うっすらしか記憶にないだけで、声をあげて泣いていたようだ。
しかも家に頼仲は居なく、その兄だったのだから迷惑極まりないだろう。
「……あ、あの…なんかすみませんでした…頼弦さん…」
落ち着いた時の繭は、隣に居た頼弦に深く謝った。
:08/01/01 19:43 :SH903i :a.l0GRvc
#196 [桔妁]
「いや、いい…。だが、一言言わせてもらう…いいか?」
しゃくりがおさまり、自分の息遣いしか聞こえないことが少し恥ずかしいと思いながら、繭は頼弦の方を向き、頷いた。
「奴の…天弥殿の気持ちを、分かってやってはくれぬか…?
天弥殿は、生活のため、仕方なく…人斬りをしていたんだ。身寄りもなく、だからどうしようもなく…
幸せと引き換えにな…。」
:08/01/02 00:04 :SH903i :V3Yv/f4g
#197 [桔妁]
隙間風が余計に寂しさを煽った。
繭には、その意味がよくわからなかった。
「仕方ない……。…天弥殿―。」
頼弦は扉に向けて天弥を呼んだ。
すると、外から雪を被った天弥が現れた。
それと同時に少し吹雪が入って来て、その寒さが伝わった。
:08/01/02 17:02 :SH903i :V3Yv/f4g
#198 [桔妁]
「繭、っ…」
天弥は、繭の方に駆け寄った。
「俺、もう帰れないと思ったから……だからヤケになってた。
でも、もう…繭が来てからは…やめようと思って、上の方に言いにいったんだ…。
だけど、最後に極悪事件を任されて…。」
:08/01/02 17:08 :SH903i :V3Yv/f4g
#199 [桔妁]
「言い訳は、いらない!!」
繭は、一生懸命に話す天弥を蹴飛ばした。
と、天弥の胸元から布の包みが落ちた。――簪だ。
繭は静かに、胸元から落ちた物を拾った。
「あ、ごめ……これ、何―…?」
いつの間にか、頼弦は部屋から居なくなっていた。
:08/01/02 22:08 :SH903i :☆☆☆
#200 [桔妁]
「…や、これは、その……」
今出すべきではないことは承知であるそれは、繭の手へと渡り、布を開けられて、中身が見えてしまった。
「簪、何するつもりで…」
「いや、今日、現代でいうとクリスマスで…で…」
天弥は下を向いたまま答えた。
「つまり、クリプレ?……天弥が買ったの?」
:08/01/02 22:13 :SH903i :☆☆☆
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