ダイスキ。

俺はとりあえずカズキとやらが分からなくて、ちょろっと走りながら様子を見る。

トシが今ドリブルをしながら敵ﾁｰﾑの二人を抜かし‥ﾉｰﾙｯｸﾊﾟｽを鮮やかにする。

(トシ‥やっぱうま!!)

さすが経験者といわんばかりのプレーに、体育ﾚﾍﾞﾙで大人げないと思いつつも感動してしまった。

負けじと俺も走り出す。

トシがﾊﾟｽをして味方がトシにまた集める。

あっという間に敵ゴール前まで攻め切るたのもしい味方。

次々と切り抜け‥
そしてとうとうトシが弾丸のようなシュートを放った。

「おー!!入っ‥‥

え!!??」

ゴール右下に突き刺さるように見えたボールが何かによって阻まれた。

味方も敵もびっくりとして口を開ける。

‥ポールじゃなくて‥足!?

あまりにその飛び出した足が唐突過ぎて、何が何だか分からなかった。

(あそこ誰もいなかったのに‥!!)

驚きながら飛び出した足の持ち主を見る。

そいつはついさっき飛び込んだはずなのに、平気でひょこっと立ち上がり‥

零れてころころと転がるボールへ駆け出した。

味方も慌てて駆け出す。

そいつが先にボールへたどり着き―‥

まずｽﾗｲﾃﾞｨﾝｸﾞしようとする俺のﾁｰﾑの奴らをひょいっとジャンプでかわす。

そして着地した瞬間、そいつは‥風のように駆け出した。

“こいつがカズキか”
一瞬でわかった。

あまりにも速く、上手く、強くドリブルを始めたから。

そいつは次々と猛スピードで走り寄ってくる。

上がっていた奴らは皆、トシも含めて抜かされ、残る砦は‥自陣にいた俺とキーパーの前島のみ。

(うわっきたっー!!)

焦る俺。

―‥しかし、信じられないほどに速くて、上手いドリブルをするそいつに

気付いたらあっさりと抜かれていた―‥

‥そして前島も。

抜かれた後慌てて振り向くと
回転がかったボールがシューシューと音をたて、ゴールネットに突き刺さっていた。

立ち尽くす前島と俺。

サッカーが上手いなんてもんじゃない‥天才だよ‥

ゴールを決め、早くもガッツポーズをするそいつを見て震えずにはいられなかった。

皆同じ事を思っていたに違いない。

呆然としていたから。

(プロ並みじゃん‥)

素人目に見ても明らかに違うオーラがそいつには漂っている。

敵ﾁｰﾑは歓声をあげながらそいつの元へかけよった。

トシまでも。

トシはそいつの元に駆け寄ると笑いながら何かを言った。

味方ﾁｰﾑの皆もその塊へじりじりと近づく。

俺らは華麗過ぎるプレーに魅せられたファンのように‥顔を綻ばせながらそいつを囲んだ。

「カズッこれ体育なのに本気出し過ぎ～!!」

「トシが先に本気だしたからだろ!!それにッいくら体育でも‥サッカーなら全力出す!!」

“カズキ”は笑いながら言った。

体育なのに‥ってさっきまでは思ってたけど、、

この発言が凄く格好良く聞こえた。