Castaway-2nd battle-
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#91 [◆vzApYZDoz6]

パンデモの端に位置する修練場に、集落内には絶対に存在しない、車が停めてあった。

修練場を囲む崖沿いに止められた、大きめのワゴン車。その車内。
スモークが貼られた後部座席の窓から、男が1人、回復していくパンデモの日光を眺めていた。
その隣であぐらをかいて目を閉じる、もう1人に向かって話しかける。

「トビーちゃん、うまーくやったじゃねぇのぉ」
「…日光…風…例外、設定調節…固定…」

陽気な声の男からトビーと呼ばれた人間は、男か女かはよく分からない。
と言うのも、髪が長すぎて顔が見えず、声も男か女か釈然としないものだからだ。

⏰:08/04/08 22:53 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#92 [◆vzApYZDoz6]
ちょうど貞子のような風貌のトビーは目を閉じたまま、しばらく呟き続けていた。

「…電波……う…ん…調節が難しい…」
「なーに、いい感じだったさぁ。しばらくここでゆーっくりしときなぁ」

そう言って男は、ダッシュボードから煙草を取り出し上着のポケットに入れていく。
携行する煙草は20箱、1カートン。
ポケットにぎゅうぎゅうに煙草を詰め終わると、最後に手元にあるハンチング帽を被って車のドアを開けた。

「さぁーて、それじゃあちょっくら行ってきますかねぇ」

トビーに向かって、ヒラヒラと陽気に手を振る。
その男の名はロモといった。

⏰:08/04/08 22:54 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#93 [◆vzApYZDoz6]
「…もう、行くの…?」
「連中、もう着く頃だろ? 大丈夫さぁ。何か欲しいもんあるか?」
「…オレンジジュース…」
「そんなんでいいのかぁ? よーし、探してきてやるよ」

ロモがトビーの頭を撫で付け、車のドアを閉める。
去っていくロモを見送ってから、トビーはノートパソコンを立ち上げた。
連絡用のメールアドレス宛に『第1段階完了。ロモ、任務開始』と書いたメールを送り、ノートパソコンを閉じた。

窓から外の景色を眺める。
太陽の光は車内に射し込んでくるし、外の木々は風で揺れている。

自分のスキルがうまく発動していることを、トビーは実感した。

⏰:08/04/08 22:55 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#94 [◆vzApYZDoz6]

トビーのスキル、それは『マイルーム』。結界内の空間を自分の『部屋』とする能力。
部屋に入る権利を決めるのはトビーであり、例外設定さえしなければ太陽の光だろうが風だろうが、勝手に入ることは許されない。
その上、部屋の様子は外からは一切分からない。

つまり、結界で覆われ、トビーの『部屋』となったパンデモは、外界からのいかなる干渉も受け付けない。
パンデモで何が起きようとも、邪魔は一切入らない状態になった。

同時に、パンデモのはるか地下で蠢いていた大軍が、地上を目指して進行を開始する。

パンデモに、最初の危機が訪れようとしていた。


⏰:08/04/08 22:56 📱:P903i 🆔:VFpOknYA


#95 [◆vzApYZDoz6]



「ちっ…だめだ、繋がらないな。なんで急に通信切れたんだ?」

ロモがワゴン車を出てどこかへ向かったのと同時刻、バウンサー本部。

かつての仲間たちの墓参りを終えて帰ってきたハルキンが、突然交信が途切れて以来さっぱり応答しなくなった通信機をいじっていた。

それも、上半身裸の格好で。

「しかし通り雨だったとは…あのタイミングで降るとか空気読みすぎだぞ、雨の野郎」

わりと大きな声で独り言を呟きながら、まだしずくが滴っている髪を首にかけたタオルで無造作に拭き上げる。
どうやら、雨に濡れてしまったので1度シャワーを浴びたらしい。

⏰:08/04/11 22:22 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#96 [◆vzApYZDoz6]
最後にもう1度通信を試みてみるが、やはり応答はない。
ハルキンは諦めて受話器を置いた。

(…連中は確か、パンデモも狙うつもりだったな)

セリナとの会話を思い出す。
地球、そしてパンデモに既に刺客が向かっている、と忠告されたが、よくよく考えれば昔の仲間と言えどセリナは敵だ。

制圧する事をわざわざ伝えたのは自分への温情だろうが、それでも準備は万端整っていたと考えてもいい。

最悪、通信が途切れたあの瞬間に、通信機の向こうのバッシュが敵の手に掛かった可能性すらある。

(…俺も、今すぐに行くべきか…? だがそんなにすぐに制圧できるものか?)

⏰:08/04/11 22:22 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#97 [◆vzApYZDoz6]
通信が途絶えたあの瞬間にすでに制圧されていた、というのは最悪のケースではあるが、可能性は低い。
すでに敵の手が伸びておりバッシュがそれに気付かずやられたのだとしたら、通信が何もなくいきなり途絶えるのは不自然だった。
普通なら、物音や声などが聞こえていても、おかしくはない。

そしてなにより、パンデモには集落全体の動きを把握できるスキルを持つ、あるレンサーがいる。

それらを踏まえると、現段階ですでに敵の手に落ちているとは考えづらい。

通信が途絶えた理由は、単なる電波障害を除けば1つしか考えられなかった。

(──敵の結界、か…やはり動くべきだな)

⏰:08/04/11 22:23 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#98 [◆vzApYZDoz6]
考察にふけっていたハルキンが立ち上がった、ちょうどその時。
外から、聞き慣れた駆動音が耳に入ってきた。

「帰ってきたか。いいタイミングだな」

最初は小さな音だったそれは、徐々に大きくなっていく。
やがてバウンサー本部の前に、マフラーの排気音とけたたましいエンジン音を抱えた漆黒の巨人が膝をつく。

バイクから降りた5人が、エレベーターを上がりハルキンのいる部屋に入ってきた。
と同時に、ジェイト兄弟がすっとんきょうな声をあげる。

「ちょ…なんで裸なんだよ」
「俺の勝手だろう」
「いや関係ないし。とりあえず服着ようぜ」

⏰:08/04/11 22:24 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#99 [◆vzApYZDoz6]

「フォックスにオリオット、か…」
「敵と見て間違いないと思う。クルサも結局見つからなかったし、悪いことばかりだよ」

着替え、というより普通に服を着ていくハルキンに、ラスダンが基地跡での事のあらましを説明する。

ラスダンの話を聞くにつれ、パンデモ制圧の件は近いうちに間違いなく起こるだろうと確信する。
しかし、ハルキンにはもう1つ気になることが残っていた。

「こちらからは地球には行けないのか?」
「地球に? どういうこと?」
「実はな…かくかくじかじか」
「会長、それじゃ分からないよ」
「お前…もうちょっと空気読め」

⏰:08/04/11 22:24 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


#100 [◆vzApYZDoz6]

「地球とパンデモが?」
「ああ、すでに幾らかの刺客も放たれているらしい」

服を着おわり、今度はハルキンがセリナとの事を説明する立場に変わった。

「その話は信用できるの?」
「ああ……間違いないはずだ」
「うーん…新たな指揮官に、グラシアとセリナ、もしかしたら他にも…敵が増えてばっかりだ」

ラスダンが呻きながら苦笑いを浮かべる。
ハルキンは一呼吸置いて、顎をさすりながら再び話し出した。

「しかし参ったな…地球と往き来できるスキルを持つのはクルサだけだったよな?」
「いや、例の『ゲッター』も持ってたはずだよ」

⏰:08/04/11 22:25 📱:P903i 🆔:zCCoSRx2


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