Castaway-2nd battle-
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#121 [◆vzApYZDoz6]
─内藤の場合─
内藤や京介らが住む地球の1都市、歌箱市。
田舎ではないが決して都会でもないこの歌箱市の空は、まだ光化学スモッグに汚染されていない。
空はいつもよりも青く、暖かに晴れ渡っていた。
これを春の陽気と言うのだろうか。
「今日はいい天気だな…」
そんな空の下で、内藤は愛車の赤いRX−8を走らせていた。
特に何か用事があるわけではない。
ピカピカに磨き上げている愛車に乗ってドライブするのが、内藤の数少ない趣味のひとつだった。
内藤の乗った車はやがて、歌箱市を一望できる高台にたどり着いた。
:08/05/02 03:12 :P903i :ANkVv1PE
#122 [◆vzApYZDoz6]
高台にある寂れた公園でエンジンを停めて、車から降りる。
眼下には、どこにでもあるような平凡な街並みが広がっていた。
「…平凡で、平穏で…代わり映えのない日々。こういうのが幸せだと思える俺は、もう若くないのかもしれんなぁ」
ここから見える景色は別に感動的でもなんでもない。
だがそれがいい。
パンデモにいた頃は、平凡な街並みをいいと思うことはなかっただろう。
「そうだなぁ、例のアホ共と関わったせいで、若さというやつを失ってしまったかな…」
それなりに昔のことだが、まだ鮮明に覚えている。
平和だったパンデモに突然現れた無法者。
:08/05/02 03:12 :P903i :ANkVv1PE
#123 [◆vzApYZDoz6]
友を操られ、愛する者を拉致され、否応でも立ち向かわなければならなくなった。
ハルキンと知り合い、パンデモを出て、バウンサーとして活動するようになる。
敵が地球のレンサーを狙っているという情報を掴み、単身地球へ向かった。
この街へ来たのは、それが初めだ。
狙われていたのは高校生。
常時見張っておくために、教員になった。
そこで出会った狙われていたレンサーが、京介と藍だ。
「あいつらは俺の子供みたいな気がしてたなぁ。
もう完璧におっさんだな、俺は…いっそ子作りでもしてやろうか」
冗談っぽく言いながら自嘲ぎみに鼻で笑う。
:08/05/02 03:13 :P903i :ANkVv1PE
#124 [◆vzApYZDoz6]
「そういや…クルサはどうなったんだろうな」
敵に操られていたクルサだが、最終的には正気は取り戻している。
しかし、崩壊する要塞からハルキンとラスダンを助け、すぐに行方不明になっていた。
その後どうなったか気にはなっていたが、確かめようにも確かめられなかった。
「まぁ、いいか。漫喫に行くかな」
分からないことを考えても仕方がない。
さっさと思考を振り払い、内藤は愛車のドアを開けた。
にしても、パンデモにいた頃のことなど今は思い出す必要がない。
それなのに、なぜ今になって急に昔のことを思い出したのだろうか。
:08/05/02 03:13 :P903i :ANkVv1PE
#125 [◆vzApYZDoz6]
気が付けばもう夕方。
どうにも無駄に長い時間を公園で過ごしていたらしい。
これでは貴重な休日がもったいない。
そんなわけで漫画喫茶に向かっているわけだが、常識的に考えると漫画喫茶でも十分に休日を無駄にしているような気がする。
有紗といい内藤といい、パンデモ出身者はどうやら時間を伸び伸びと使うのが好きらしい。
ところでどうでもいいが、最近は風俗のお兄さん方が実によく頑張っている。
お気に入りの漫画喫茶に向かう途中の裏路地で、風俗の客引きにつかまった内藤はそんな感想を抱いた。
:08/05/02 03:14 :P903i :ANkVv1PE
#126 [◆vzApYZDoz6]
「ちょっとお兄さん、遊んでいかない?」
「ん? いや、漫喫行くんで」
「そんなこと言わずにさ〜。可愛いコいっぱいいるよ? 今なら女子十二おっぱい!」
「……8人いるってことか?」
「そうそう…いや違うよ、6人だ」
「4おっぱいも減っとるやないか! ぶち殺すぞ!!」
「ひっ、ひぃぃ!」
少し愉快な客引きを追い払い、内藤は再び歩き出す。
曲がりくねった裏路地を進み、表通りを横切る。
あと1つ曲がれば漫画喫茶へたどり着くというところで、不意に声をかけられた。
「幸せそうに過ごしてるじゃないか、バニッシ・ユーメント」
「!?」
:08/05/02 03:14 :P903i :ANkVv1PE
#127 [◆vzApYZDoz6]
慌てて振り返る。
裏路地の陰にある自販機にもたれかかるようにして、懐かしい人物が立っていた。
「いや…こっちでは内藤、だったよな」
「クルサ…!? お前生きていたのか…いや…」
少し混乱した頭を落ち着かせるように目頭を押さえ、再び目を開く。
しかし何度見ても、その姿に一瞬誰だか迷ってしまう。
実に半年ぶりだが、そこにいるのは紛れもなくクルサだ。
左腕から胸、首、左顔面に至るまで、すべてが金属に取って変わっているが。
それを見て苦い表情でうつむく内藤。
クルサも意識はあるらしいが、再会を喜ぶ雰囲気ではないのは明らかだった。
:08/05/02 03:15 :P903i :ANkVv1PE
#128 [◆vzApYZDoz6]
「お前…体を改造、されたのか」
「ああ。潰れたパーツを全部ね」
そう言いながら履いているズボンの裾をめくると、そこもやはり金属プレートでできていた。
内藤の顔がよりいっそう曇る。
「あまり罪悪感に浸らないでくれよ。バニッシは悪くない」
「だが…」
「今の僕にはあまり悠長に話してる時間が無いんだ。要件だけ幾つか手短に話すから、そのまま聞いてくれ」
内藤が小さく息をつく。
それを確認して、話し出した。
「まず、グラシアは生きている」
「…だろうな。お前が今そこにいる理由は、それ以外に見当たらない」
:08/05/02 03:16 :P903i :ANkVv1PE
#129 [◆vzApYZDoz6]
「そしてグラシアは組織を立て直し、諦めずお前らを狙ってる」
「それもまぁ…当たり前だろうな」
内藤が自嘲ぎみに笑った。
丘の公園で昔を思い出したのは、これの予兆だったのだろう。
「そして…連中は『SED』を持っている」
「なんだって!?」
うつ向いていた内藤が、今にもクルサに掴みかからんばかりに身を乗り出した。
「まだ万全じゃないグラシアに代わり、ウォルサーの新たな指揮官にヨシュアが着任した…と言えば分かるはず」
「ふん…とんだ厄介だな」
「ヨシュアは地球のレンサーをすべて狙っている。気を付けなよ」
「待て、お前はどうするんだ?」
:08/05/02 03:16 :P903i :ANkVv1PE
#130 [◆vzApYZDoz6]
「僕は命令を忠実に守るように改造されたから…今は命令が出てないだけさ。でもいつ出るかは分からない」
「それで『時間がない』か…」
「そういうわけだから、僕はもう行く。…そのうち戦うことになるかもしれない」
「…ま、覚悟はしとくさ」
:08/05/02 03:17 :P903i :ANkVv1PE
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