Castaway-2nd battle-
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#41 [◆vzApYZDoz6]
もう少しで逃げられる、というところでハルキンを海に突き落とした少女。
人生で最初にハルキンを裏切った人。その直後に追手に撃たれて死んだ人。
一緒に逃げる、という約束を破った人。
ハルキン「生きていたら俺の嫁さんにでも…なってないかな」
あまり思い出したくない思い出だ。
無理やり振り払って、再び景色を眺めた。
最近は思い出すことも無かったのに急に思い出したのは何故か。
長いこと墓標に訪れなかった自分に対する、仲間達の悪戯だろうか。
ハルキン「…さっさと帰るか」
また来るから夢には出てくんなよ、と心の中で呟きながら、ゆっくりと立ち上がった。
:08/03/01 00:10 :P903i :F11dzLbg
#42 [◆vzApYZDoz6]
伸びをして隣に目をやる。
犬と言うにはあまりに大きすぎる愛犬スティーブが、気持ち良さそうに眠っていた。
体毛は全身薄い紫。気が立っている訳でもないのに普段から少し逆立っている。
体長はハルキンより遥かに大きく、足を折って寝ているというのに背中の位置がハルキンより高い。
もはやそれは犬というより毛皮を纏った恐竜だが、寝ている表情は何とも犬らしい。
起こすのも可哀想かな、と思いハルキンが再び座ろうとした、その時。
スティーブが弾かれるように飛び起きた。
姿勢を低くしていっそう毛を逆立たせ、ハルキンを挟んだ向こう側を睨み付ける。
:08/03/01 00:11 :P903i :F11dzLbg
#43 [◆vzApYZDoz6]
ハルキン「どうした?」
ハルキンがスティーブに向き合う。低い唸り声を上げるその表情は、まさに野生の獣。
その巨体も相まって、普通の人間なら一目散に逃げ出しそうな恐ろしい雰囲気を放ちながら、頻りに何かを睨んでいた。
しかし、睨まれている何かは逃げなかった。
そして、スティーブの視線をハルキンが辿る前に、静かに口を開いた。
「…元気にしているようだな、ハルキン・イリサウス」
高く透き通った、だがしかし芯のあるしっかりとした声。
そして不意に呼ばれた自分のフルネーム。
驚いて振り返ると、少し離れた木の影に、声の主が立っていた。
:08/03/01 00:13 :P903i :F11dzLbg
#44 [◆vzApYZDoz6]
体に脹らみのある、女性的なシルエット。
顔は陰になってよく見えないが、そのシルエットは自分の事を、知る人は少ないフルネームで呼んだ。
ハルキンはまだ物心がつくかつかないかという頃に、事故で両親を無くした。
身寄りも無かったために孤児院に預けられ、そしてすぐに研究所に連れていかれた。
孤児院の人は自分のフルネームは知らない。研究所の人間は研究者も集められた子供も殺された。
今生きている者で自分のフルネームを知る者は、せいぜい内藤ぐらいだ。その内藤は今、地球にいる。
つまり、ディフェレスに自分のフルネームを知る人間は、1人としていない筈だ。
:08/03/01 00:14 :P903i :F11dzLbg
#45 [◆vzApYZDoz6]
もはや最後に口にしたのはいつか思い出せないフルネームだが、昔は確かに知る者はいた。
今生きている者以外でフルネームを知っているとすれば――
ハルキン(――7人の失敗作?いや、確かに死んだ筈だ。だがこの懐かしさは…)
「…どうした?声を聞かせてくれ」
そう言って陰から出てきた女は、初めて見る顔だった。
だが、その顔に懐かしさがこみ上げてくる。
その容姿が、忘れずにいた記憶に訴えかけてくる。
その女の髪は青かった。否、それは黒すぎる黒髪。
あまりに黒く美しいストレートヘアーは、黒すぎて青く見えた。
:08/03/01 00:16 :P903i :F11dzLbg
#46 [◆vzApYZDoz6]
そして、細身ではあるが1流アスリートのように鍛え上げられた無駄のない身体。
もし生きていれば、目の前の女に似て、尚且つ自分のフルネームを知る者を、ハルキンはたった1人だけ知っている。
ハルキン「……セリナ…?」
セリナ「憶えていてくれたか。大きくなったな…って私が言うのも変か」
セリナが人差し指で頬を掻きながら小さく笑う。
その動作も、小さな笑い声も、昔研究所で共に過ごしたあの少女を連想させた。
ハルキン「…いや違う。セリナ・リアリエト・ミルヴァーナは、間違いなく俺の目の前で撃たれて死んだ…俺は疲れているのか?それともまた死んだ仲間の悪戯か?」
:08/03/01 00:16 :P903i :F11dzLbg
#47 [◆vzApYZDoz6]
セリナ「撃たれたさ。撃たれたけど、死にはしなかった。実験と訓練のせいか、紙一重で急所を避けてしまったから…」
そう言ってセリナは着ている服のボタンを外した。
はだけた胸にいくつか傷痕がある。心臓のそば、気管支や肺の隙間。
恐らく身体中にあるであろうその傷は、確かに銃による物にも見えた。
ハルキン「急所を避けて『しまった』…?」
セリナ「そう。生き延びてしまった。だがこうしてまた会えたのは幸運なのかもな。…会わない方が、良いのだろうけど」
つい数分前に昔の事、彼女の事を思い出したのは、仲間の悪戯ではなく仲間の予兆だったのか。
:08/03/01 00:18 :P903i :F11dzLbg
#48 [◆vzApYZDoz6]
ハルキンにとっては、この再会は嬉しかった。
しかし、さっきまで晴れていた空が雨を降らせた。
それは幸運ではない。そう天が言ってるかのように。
ハルキン「…本当に…セリナなのか?」
セリナ「うん?もう昔みたいに呼んではくれないのか?」
ハルキン「この歳で『セリナお姉ちゃん』は恥ずかしいからな。…生きていたのは良かったが、なぜ会いに?」
セリナ「良かった、か…そうでもないがな。…お前に謝りたかった」
ハルキン「謝りたかった?」
セリナ「お前を海に突き落とした。あの冷たいローシャの海に、な。…私はお前を裏切ったんだ。死んだと思っていた…ごめんな、ハルキン」
:08/03/03 04:43 :P903i :zBYy/l0.
#49 [◆vzApYZDoz6]
そんな事か。
なぜあの時自分を突き落としたのか、そんな事もうとっくに分かっている。
あの時海に逃がしてもらえなければ、撃たれて死んでいたのは自分だろうから。
そして、目の前の女性はやはり本物のセリナだ。
ハルキンが知る『セリナお姉ちゃん』なら、どんな理由があるにせよハルキンを海に突き落とした事をすごく悔いていた筈だから。
十数年ぶりに出会った彼女は、連れられた研究所で優しくしてくれたセリナのままだった。
ハルキン「…よせよ。俺を助けるためにやったんだろう?恨んじゃいないさ、むしろ感謝している」
:08/03/05 03:38 :P903i :/Un8CKCQ
#50 [◆vzApYZDoz6]
セリナ「だけど、お前は私と逃げたかったんだろう?一緒に逃げて、どこか静かなところでお姉ちゃんと2人で平和に暮らすんだ、と幼いお前は言っていた」
ハルキン「……よしてくれ、恥ずかしい」
確かにそうしたいと本気で思っていたし、口に出して言った記憶もある。
だからこそ、自分を助けるためだと分かっていても、突き落とされた事に裏切られた感があったのも事実だ。
一緒に居たのは研究所で過ごした時だけの短い期間だったが、セリナは他の誰よりも自分を理解してくれているのだろう。
2人の様子を見ていたスティーブが警戒を解き、雨に濡れた体を豪快に身震いさせた。
:08/03/05 03:39 :P903i :/Un8CKCQ
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