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#126 [[手紙(1/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
“今日は同室のやつが持ってたトランプで遊んだよ。
トランプなんか二人とも久しぶりで、ババ抜きしか覚えてなくてさ。
二人じゃどっちがババ持ってるかすぐわかってしまうから、すぐ終わったけどね。
また明日手紙送るよ。”
 
俺は毎日手紙を書く。この部屋に来てから、この作業を欠かした日は一日も無い。
 
“今日は仕事がいつもより多くて、すごく疲れた。
でも心配しなくていいから。
毎日くたくたになるまで真面目に働いてるんだからさ。
また明日手紙送るよ。”
 
手紙の最後はいつも同じ。返事がなくても、この一文を書くことで、俺は書き続けていられるような気がする。
 
“今日、同室のやつがここを出たよ。またいつか会おうなんて言ったけど、あいつは忘れてしまうんだろうな。
良いやつだったんだ、すごく。
ちょっと淋しいよ。
また明日手紙送る。”
 
 
俺の母は、とても悲しいひとだった。
毎日毎日、旦那――つまり俺の父親だが――からひどい暴力を振るわれていた。
俺が生まれる前は、優しくて良い夫だったが、出産してから豹変したんだと、母の姉の伯母から聞いた。
母は、父を愛していたからなのか、警察に行く訳でもなく、ただ毎日怯えていた。母の傷やあざを見て、伯母が気付くまで何年間も一人で耐えていた。
俺は、父が母に対してそうなってしまったのは自分のせいだと思っていた。理由は解らないが、俺が産まれたせいで、父にとって何か気に入らないことが生じたのだろう。

⏰:08/03/08 01:18 📱:SH903i 🆔:7AUminCk


#127 [[手紙(2/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
“母さん今日も元気? 体の調子はどう? 俺は今日も元気に働いているよ。
今日、陶芸をしたんだ。俺が作った皿、宅急便で送るから見てくれよ。うまく造れなかったけど。
また明日手紙送るよ。”
 
俺はずっと、母に対して申し訳ないという気持ちで生きてきた。
そして、ここに来た。
母は俺がここに来たと知って、とても悲しんだようだった。精神的に弱ってしまって、今は入院している。
伯母が母の世話をしてくれていて、たまにここにも来てくれる。
伯母にも迷惑をかけてしまった。ここを出たら一生かけて恩返しをするつもりだ。
 
“俺の部屋に新しいやつが来た。
前のやつとは違って、あまり良いやつじゃなさそうだ。問題起こさなきゃいいんだけど。
また明日手紙送るよ。”
 
俺がここに来てもう八年経った。母ももう良い年だが、あと七年は会えない。心配だった。
親孝行出来る内に母のもとに戻りたいと思っていたら、嬉しい知らせが来た。
 
“母さん、俺、模範囚になれたよ。あと二年で出所できるらしいんだ。
母さん、もう少し待っててくれよな。外に出たら、働いて稼いで、おいしいものいっぱい食べに連れていくから。
じゃあ、また明日手紙送るよ。”

⏰:08/03/08 01:20 📱:SH903i 🆔:7AUminCk


#128 [[手紙(3/3)]蜜月◆oycAM.aIfI]
次の日、伯母さんが面会に来た。
昨日の手紙を読んで、入院中の母が初めて反応したというのだ。
母は今ほとんど話すこともなく、一日中寝て過ごすことが多いと聞いていたから、俺は母が俺の出所を喜んでくれたのだと思った。
そして伯母は、母からの返事を代筆したものを持ってきてくれた。
 
 
“どうしてあと二年で出所できるの? 懲役十五年でしょ? それでも足りないのに!
あなたは私の大切な人を奪ったのよ……
なのにトランプやら仕事やら毎日楽しそうに元気に過ごすなんて許せない。
出所しても私のところへは来ないでちょうだい。息子とも思ってませんから”
 
 
――これは……誰だ?
  まさか、そんな。
 
俺は、父が母を苦しめているのを幼い頃から目の当たりにしていた。
母が毎日怯えているのを見て、だんだんと父に憎しみを抱くようになっていた。
そして、殺した。
母を助けたい一心で、母に新しい人生を歩んで欲しくて、殺した。
 
――なのに……なのにどうして!
 
母が悲しんだのは俺が逮捕されたからではなく、父が死んだからだ、とだけ告げ、伯母は帰っていった。
 
 
そして俺は決意した。今度は他人の為ではなく、自分の為に……と。

⏰:08/03/08 01:28 📱:SH903i 🆔:7AUminCk


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