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#307 [[ぬくもりを(1/3)]あに]
彼女の温かさは、俺の日だまりだった。
もう何年前になろうか。
家族だと思っていた人々に捨てられ、路上をさ迷っていた。空腹や寒さ、淋しさなどから俺は野垂れ死ぬ寸前だっただろう。
今生きていられるのは偶然、本当に偶然、彼女に出会ったのだ。
彼女は俺に手を差し延べてくれた。
手は凄く温かかった。
彼女は俺に名を付けてくれ、毎日その名を呼んでくれる。俺は幸せだった。
彼女と共に朝を向かえ、彼女を見送り、帰ってくるまでそわそわと待ち、「ただいま」と笑顔で帰って来た彼女と共に過ごし共に寝る。
そんな変わらない日々を送っていた。
俺は幸せだった。
:08/04/26 21:55 :SH903i :Q/K8gp3M
#308 [[ぬくもりを(2/3)]あに]
彼女があまり外に出なくなった。
俺は一日中彼女といれて幸せだった。彼女の笑顔が減ってることにも気付かない程に。
彼女はあまりベットから下りなくなった。
俺は彼女の欲しい物を取ってあげることにした。彼女の役に立てて俺は幸せだった。
彼女は起き上がらなくなった。口から赤い液体を出すようになった。でも彼女は微笑みながら俺の名を呼ぶ。
頭を撫でてくれた手は以前より細くなっていたけど、温もりは変わらなかったから、俺は幸せだった。
:08/04/26 21:56 :SH903i :Q/K8gp3M
#309 [[ぬくもりを(3/3)]あに]
ある日、彼女は俺を呼んだ。聴覚の優れてる俺じゃなければわからない程か細い声で。
俺が傍に寄るといつも通り頭を撫でてくれた。その手は少し震えていた。
彼女はまた俺の名を呼んだ。するり、と頭から手が滑り落ちた。 彼女はぴくり、とも動かなくなった。
垂れている手にほお擦りしても、その手は何故か冷たくなっていた。
彼女の温もりが、消えた。
俺の日だまりが、消えた。
違うんだ、俺が彼女から温もりを奪いすぎてしまったんだ。 きっとそうだ。俺は彼女の脇に寝ころんだ。俺の温もりを彼女に。
そうすればきっと、
きっと、貴女は。
彼女の名を呼んだ。遠吠えが響いただけだった。
:08/04/26 21:58 :SH903i :Q/K8gp3M
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