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#529 [我輩は匿名である]
僕は呼びかける

「聡子…聡子聞いてくれよ?…」

彼女は黙っている

僕のことなど完全に無視だ

当然っちゃ当然か

僕が悪いんだから

「アドレスも連絡先も…相手からの履歴も消した…もう電話もメールもしないし、外で会ったりなんか絶対にしないから」

それでも、彼女の瞳の色は少しも変わらない

許す気などない…その決意に満ちた目だ

彼女がこういう目をしている時は絶対にテコでも折れない

何日でも僕を“シカト”し続ける

「許してくれ…本当に心から反省しているんだ」

彼女の髪の毛が一房、ふわりと揺れた

あ……嗤っているのかい?


>>530(僕の彼女2/3)に続く...

⏰:08/12/02 10:07 📱:PC 🆔:☆☆☆


#530 [我輩は匿名である]
「聡子ごめんよ…許す気になったのか?」

でも彼女は何も言わず、ただ妬まし気な目で僕を睨め付けるばかり

彼女が何を考えているのか

僕にはとんと理解できない

浮気のことがばれて、今朝家を追い出されたかと思えば、急に呼び出して「話し合いたい」だなんて…

嗤っているように見えた彼女の表情は、いつもどおりのポーカーフェイスに戻っていた

ふと、僕は気付いた

目の端に映る、ひらひらと風にゆられるカーテン

12月のこの時期にカーテンを開けっ放しにするなんて、と僕は窓を閉めに窓際に歩み寄った

「…閉めるよ」

キィキィ音をたてながら、窓を閉めた

いい加減、建て付けが悪くなったな…修理屋にでも見て貰うか

ぼんやり考えながら、僕は彼女の方に向き直った

どれだけ時間がかかっても構わない

彼女を説得しなければ…


>>531(僕の彼女3/3)に続く...

⏰:08/12/02 10:18 📱:PC 🆔:☆☆☆


#531 [我輩は匿名である]
「許す気なんてないわ」

ずっと黙っていたのに、彼女が口を開いた

やはり許せないか…当然だ… 僕はすっかり彼女を説得する気が失せてしまい、その場で項垂れた…これでもう、終わりなのか、と―

「だからアナタも、もう観念して」

次の瞬間、右の前頭部に激しい衝撃 何かがあたったような…続けざまに数回の衝撃の後、僕はその場に倒れ込んだ

意識を失う直前、僕の目に飛び込んできたのは、鎌を左手に持った女の姿
それは“彼女”ではない、別の女。彼女はまだ椅子に座ったまま、変わらぬ瞳で僕を睨んでいる

「………お前……………なんで……」

僕のつぶやきをかき消すように、最期の一撃が僕の頭めがけて振り下ろされた

女はしばらくそのままボンヤリと立っていたが、ハッと気がついたようにその鎌を、座っている“彼女”に無理矢理握らせた

死後硬直が始まっている“彼女”の手は固かったが…

「…これでよかったのよね?聡子さん」

女はそれだけ言い残すと、ゆっくりと部屋を出て、それきり二度と戻らなかった。

⏰:08/12/02 10:46 📱:PC 🆔:☆☆☆


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