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#590 [青の中の家(1/3)◆WHAzwTTDUw]
家が激しく揺れ動くせいで目が覚めた。地震だ。
部屋は真っ暗だったが、ぼんやりとしていた目がだんだんと冴えてきて、激しく揺れ動く電気のスイッチの紐を見る事ができた。震度五、あるいは六かもしれない。とにかく、強烈な揺れだった。
揺れが収束する。妻がいなくてよかったと、私は思った。妻はひどく地震に弱い。震度三程度でもこの世の終わりかと思うほど、あたふたとする。何故そんなに地震を恐れるかというと、阪神・淡路大震災を体験しているからだ。あれが妻に強烈なトラウマを与えるきっかけとなった。
妻は訳あって実家に帰っている。私の家は東京にあるから、もしかすると微弱な地震が届いたかもしれない。しかし、まあ震度五、六の地震を味わうよりかはいいだろう。
私はベッドを降りて、居間に向かった。テーブルの上に置かれたリモコンを持ち、スイッチを押した。しかし、テレビは点かなかった。沈黙を保ち続けた。
どうやら停電したらしい。まあ、結構な揺れだったので、停電になってもおかしくないと、私は思った。
私は寝室に行き、布団にくるまった。眠るのにそう時間はかからなかった。
:12/02/19 19:03 :biblio :.BF1/ONc
#591 [青の中の家(2/3)◆WHAzwTTDUw]
目覚まし時計が泣き叫ぶ赤ん坊のようにけたたましく鳴り響いた。私はベッドから降りて、部屋の隅に置かれた目覚まし時計を止めた。ベッドの側に置かない理由は、手の届く場所に置いておくと、止めてからまた眠ってしまう事があるからである。
私は顔を洗おうと洗面所に行った。洗面所の窓からは明るい日差しが差し込んでいた。蛇口を捻った。しかし、水は出てはこなかった。まさか夜中の地震で断水してしまったのだろうか?
私は薄暗い居間に行き、電気のスイッチを押した。電気は点かなかった。まだ停電しているようだ。
私は窓を開け、シャッターを開けた。その時、驚きの光景が目に入った。空だ。青空が広がっていた。雲も漂っている。手を伸ばせば届きそうだ。家々や電柱、道路の姿はない。夏だというのに外気は上空にいるせいでひんやりとしていた。
私は下を覗いた。ミニチュアより遥かに小さい都市が広がっていた。
まだ夢でも見ているのだろうか。私は一度頭を引っ込め、目を閉じて深呼吸をした。そして、目を開けた。目先には水色の空がどこまでも広がり、綿菓子のような雲が所々浮かんでいた。
:12/02/19 19:03 :biblio :.BF1/ONc
#592 [青の中の家(3/3)◆WHAzwTTDUw]
一体何が起きたのだろう。何故家が浮いているんだ。理解の範疇(はんちゅう)を超えてる。
私は居間に置いていた携帯電話を取り、開いた。画面の左上には圏外の文字。無理だとわかってはいたが、妻宛に助けを求めるメールを作成し、送信を試みた。やはり送信に失敗した。
どうしたらいいのだろう。地上の人間は気付くだろうか? 家は点にしか見えないんじゃないか? 飛行機が通れば気づいてくれるかもしれない。いや、気づかない。旅客機は遥か上を飛んでいる。窓の外は零度近くだろうから、現在の位置は富士山の山頂かちょっと上といった所だろう。それならヘリコプターの飛行範囲内だ。
誰かが発見してくれるさ。私はポジティブに考えた。
腹が減ったのでパンを食べ、オレンジジュースを飲んだ。小便はトイレにした。
家は上昇を続けていた。何故なら外気が明らかに冷たくなっているからだ。私はシャッターを閉め、押し入れから毛布を取り出し、布団にくるまった。あまりの寒さに縮みあがり、ガクガクと震えていた。歯が音を立てる。
昼頃になると酸素が薄くなり始めた。苦しい。家の上昇は止まらない。私は酸素を激しく欲求した。
そして、遂に身体は体温を失った。
:12/02/19 19:04 :biblio :.BF1/ONc
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