よすが
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#37 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
女性がまだ信用しきっていない様子なので、あたしは急いで学生証を出した。
それを受け取った女性は、窓口の向こう側にあるパソコンに何やらカチャカチャと打ち込んでいく。

「確かに十年前に転入されてますね。その前の小学校は、T町のT小学校です」

「ありがとうございます!」

学生証を返してもらい、サトルを連れて校舎を出た。

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⏰:08/04/03 12:58 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#38 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「中山先生、ユキの前の学校にいるんだ!」

サトルはブランコをこぎながら嬉しそうに笑った。

あたしが中山先生に担任してもらった次の年、先生はサトルのクラスを受け持っていたから、サトルも中山先生が好きなのだ。

「ユキ、行くよね? 僕も一緒に行く! いいでしょ?」
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⏰:08/04/03 16:35 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#39 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うん、もちろん。でも今日はもう遅いから行けないよ。T町まで電車で一時間はかかるし」

もう辺りは夕暮れに染まり、あたしたちのいる校庭は夕日に照らされて眩しかった。

「明日、学校終わってから行こう」
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⏰:08/04/03 16:37 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#40 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしはサトルにそう言いながら、自分自身に言い聞かせていたのかもしれない。
家に帰って父と母の顔を見たら、過去を知るのがもっと怖くなってしまうような気がした。


だから、自分の決心が鈍らないように。

もし心が揺らいだとしても、きっとサトルが背中を押してくれると信じて。

――明日、行こう。


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⏰:08/04/03 16:38 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#41 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

家に帰ると、母が夕飯を用意しているところだった。

「おかえり、ユキ。遅かったじゃない」

「ただいま。サトルとちょっと話してたんだ。着替えたら手伝うね」

あたしはなるべくいつも通りに振る舞おうとした。
でも、母の顔を真っ直ぐ見られない。
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⏰:08/04/03 16:38 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#42 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
――ごめん、お母さん。あたし、過去を知りたいんだ。

けれどそれは、今が大切じゃないということではない。
今あるこの家族や友達は何があろうとなくしたくない。

――でもあたしは、あたし自身をもっと理解したい。全てを知りたいんだ。
あたしには、その権利があるはず。

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⏰:08/04/03 16:40 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#43 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「いいわよ、もう出来上がってるから。手洗ってきなさい」

その優しい母の声に、決意がほどけそうになる。
うん、とだけ答えて、自分の部屋へ向かう。

――決めたんだから。決めたんでしょ。

自分に言い聞かせる。

――迷わないって決めたんだから。
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⏰:08/04/03 16:41 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#44 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしのために、父と母は二人で創ってきた人生の一部を捨ててくれた。
大切な思い出や、毎年祝いたい記念日もあっただろう。
それを、あたしは潰してしまったのだ。

そんな二人に逆らうように、あたしは過去に縋(すが)りつく。
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⏰:08/04/03 16:42 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#45 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれど、あたしが八年間の記憶を思い出せば、父と母の八年間も取り戻せるのだ。
二人には、人生に影をつくって欲しくない。最初から最後まで、輝くほど幸せな人生を送って欲しい。

そのためにも、あたしはどんなに無様(ぶざま)だろうと、どれだけ辛い思いをしようと、なりふり構わず過去に縋りつこう。

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⏰:08/04/03 16:44 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


#46 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
着替えながら、ほどけそうになった決意をきつく結び直していると、父の声がした。

「あれ、ユキは? まだ帰ってないのか?」

部屋を出て父に声をかける。

「いるよー! おかえり、お父さん」

父と母、二人の顔を見て、改めて思った。
絶対に二人には、心配も迷惑もかけない。

自分で自分の過去にけりをつけるんだ。


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⏰:08/04/03 16:45 📱:SH903i 🆔:RM1EQ/SI


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