よすが
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#450 [蜜月◆oycAM.aIfI]

まとめ続き

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⏰:08/06/08 00:27 📱:SH903i 🆔:aqXUJcpA


#451 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
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歩道の端に植えられた桜は蕾を膨らませ、その下を歩く全ての人に春めいた空気を味わわせる。
あたしとサトルはバスに乗って街の端にあるマンションに向かっていた。
バス亭からマンションへと続く歩道には間隔を開けて桜の木が植えてあり、枝の間をくぐりぬけて落ちてくる太陽の光が時折あたしの目を眩ませる。

マンションまでは歩いて約二十分。ちょうど半分くらいまで来たところで、あたしは歩きながらセーラー服の上に着ていた黒いカーディガンを脱いだ。
もう、冬は終わったようだ。
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⏰:08/06/12 05:10 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#452 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そしてそれと同時に、ハナを苦しめていた悲劇も終わりを迎えた。

「やっぱりまだ家には戻らないって?」

ふいにサトルがそう尋ねる。
ヒラヒラと桜の花びらがあたしの目の前を横切った。それを目で追いながらあたしは答える。

「うん、まだ……。でも体は良くなってるし、食事の間ぐらいなら一緒に過ごせるようになったし、もうすぐだよ」
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⏰:08/06/12 05:11 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#453 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
風を受けながら地面に落ちてゆく花びらから視線を外し、サトルに笑顔を見せる。

「そっか。なら良かった!」

嬉しそうに表情を崩したサトルは軽い足取りで桜を見上げながら歩いてゆく。
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⏰:08/06/12 05:11 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#454 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
悲劇は終わった。
けれど、なにもかもが元通り、という訳にはいかない。
ハナの心に深く刻まれた精神的な苦しみは今も彼女を攻め続けている。
あたしはその傷を塞ごうと、ハナの元に通い詰めた。

ハナの中に残った傷はこの数ヶ月で随分癒えたけれど、時折傷口を広げては血を流し、ハナを苦しませる。
あの犯人の男が、今もなおハナを苦しませているのだ。
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⏰:08/06/12 05:12 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#455 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
あたしとサトルが十年振りにハナと再会を果たしたあの時、犯人の男はいなかった。
あの場所にいなかったのでは無く、既にこの世にいなかった。

ハナの言うところによると、男は自分の過ちを悔い、自ら命を絶ったようだ。
しかも、ハナの目の前で。
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⏰:08/06/12 05:13 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#456 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
そのことを話した時のハナの様子は、まるで愛した相手がこの世から去ってしまったかというほどに落胆し、絶望し、哀しんでいた。
あたしが両親の元に帰ってから四年ほど後のことらしい。
その四年間で、ハナとあの男の間には他人が踏み入ることの出来ない繋がりが生まれていたのだろう。
四年も一緒に暮らせば誰だってそうなるのかもしれない。
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⏰:08/06/12 05:14 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#457 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれどあたしはやっぱりあの男を許せなかった。
いくらハナがあの男を慕っていたとしても、ハナをここまで苦しませている原因なのだから。

それに、苦しいのはハナだけではない。
父も、ハナと同じか、それ以上に苦しみ悲しんでいるのだ。

ハナは父という人間にあの男の影を見る。
共通するのは、大人で、男で、父親だということ。ただそれだけ。
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⏰:08/06/12 05:14 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#458 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
けれど、ハナは父を前にすると苦痛を感じてしまうのだ。
彼女は、犯人の男を憎んでいるつもりも恨んでいるつもりも、ましてや恐怖を感じているつもりもない。
そして彼女自身は自分の父とともに過ごしたいと望んでいるのに、心に残された傷痕が悲鳴をあげて暴れ出す。

長い間共に生活し、そのせいで心の表面は犯人の男を受け入れた。
しかし奥深く、心の深層では男に恐怖を感じているのだ。
そしてその恐怖の対象に、父も入れられてしまった。
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⏰:08/06/12 05:15 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#459 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
父の悲しみは深く、あたしや母にもそれを埋めることは出来なかった。
そしてまたハナ自身も、会いたいのに会えない、自分の感情と苦しみの板挟みに哀しんでいた。

しかしここ数日の間に、ハナは父と会話し、お茶を飲み、食事をともにするところまで回復していた。
あたしは今希望を掴んでいる。また家族四人揃って一緒に暮らせる希望を。



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⏰:08/06/12 05:16 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#460 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
サトルがドアの横のチャイムを鳴らすと、パタパタとスリッパの音が聞こえ、ドアが開かれた。

「お帰り」

「ただいま!」

ハナの出迎えにまずサトルが答えてドアをくぐる。
あたしもそれに続き、今ハナが一人で暮らしている部屋に入る。
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⏰:08/06/12 05:16 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#461 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ただいま。これ、スーパーで買って来たよ。足りないものある?」

一人で暮らしていると言っても、今のハナは一人で外出もままならない。
生活費は両親に出してもらっていて、必要なものがあるとあたしが学校帰りに買って届ける。
初めは母が届けていたけれど、いつの間にか毎日来ているあたしが届けるようになっていた。

「ありがと。……シャンプーと、歯磨粉と……洗剤。うん、大丈夫、完璧だよ」
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⏰:08/06/12 05:17 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#462 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
今日もハナの笑顔が見られた。
十年間見ることが出来なかった笑顔を、これから先少しでも多く見ていたい。
あたしはそう思っている。

マンションは五階建てで、ハナは最上階の部屋を使っていた。
ワンルームキッチン付きのあまり広くはない部屋だけれど、荷物が少ないせいか狭くも感じない。
ベッドと、小さなテーブルと小さな引き出し式の棚。その上に電話機があり、洋服なんかはクローゼットにしまってある。
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⏰:08/06/12 05:17 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#463 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「今日は僕が話したげる! ……ユキの失敗話、聞きたい?」

サトルはベッドにもたれながら、隣に座るハナに顔を向けた。

あたしたちはあの時の約束通り十年間を分かち合うべく、この部屋に来ては自分たちの今までに起きたいろいろな話を教え合った。
サトルが来た時はいつも、彼があたしの笑い話や失敗話を披露してくれるのだけれど、あたしは毎回必ず恥ずかしい思いをさせられる。
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⏰:08/06/12 05:18 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#464 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「もういいよ〜あたしの変な話は……あ、サトルの話にしない?」

あたしは仕返しにサトルの恥ずかしい話をしてやろうとハナにニヤリと笑いかけた。
選択を迫られたハナは、あたしとサトルの顔を見比べながら悩んでいる。
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⏰:08/06/12 05:19 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#465 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「うーん……どっちも聞きたい!」

まるでサトルのようなハナの答えに、あたしたちは小さなテーブルを囲んで笑いあう。

「じゃあ僕からね! あのねーユキが高校に入学した時に……」
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⏰:08/06/12 05:19 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#466 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 

あたしとサトルがお互いの暴露話を次々と繰り出しあたしたちは小さな部屋の中笑い転げていた。
そんな状態に一区切りついた時、ハナがおずおずと切り出す。

「あのね、昨日思い出したことがあるんだ……あの人が死んだ時のこと考えてたら」

さっきまで笑いが溢れていた空気が急にピン、と張り詰めた。
ハナは特に辛そうにするでもなく、必死に記憶を手繰り寄せているようだ。
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⏰:08/06/12 05:20 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#467 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
「ハナ、無理しないで」

失った記憶を取り戻すのがどれほど難しいか。あたしはよく知っている。
けれどあたしの心配をよそに、ハナは俯き気味に語り始めた。

「いつだったかはっきり覚えてないけど……多分あの人が死んですぐだと思う。あたし、一度家に帰ったの」
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⏰:08/06/12 05:20 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#468 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
手に持つマグカップに落としていた視線を瞬時にハナへ向ける。
あたしの記憶にそんな出来事は無い。
あたしが驚きに固まっている中、ハナは言葉を続ける。

「でも……そこにいたのは知らない人だった。門にかかった表札も、あたしの知らない名前だった。それで初めて引っ越したんだって知ったの」

――そっか。……前に住んでた家に行ったんだ。
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⏰:08/06/12 05:21 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#469 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
家族との再会を夢見て山を下り、懐かしい我が家へたどり着いたのに、それが叶わなかったハナを思うと胸が苦しくなった。
自分の顔が歪むのを止められなかった。
あたしが見つめるハナの顔は、歪んではいないけれど少し哀しさを含んでいた。

「それから電話帳でお父さんの名前を調べて、電話したの」

「え……」
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⏰:08/06/12 05:21 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


#470 [蜜月◆oycAM.aIfI]
 
電話? 家に?
じゃあハナはその後、父と母と連絡を取っていたのだろうか?
しかしあたしは全く知らない。
ハナがここに戻ってからも、そんな話は聞いていなかった。
驚きの目をサトルに投げかけると、サトルも「聞いていない」という風に首を振る。

「夜だった……お父さんが出たの。
引っ越したって何か事情があったのかと思ったから、自分だって言わないで、T小学校の同級生だって……」

「ハナ……っ」
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⏰:08/06/12 05:22 📱:SH903i 🆔:80/PBkxE


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