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#47 [蜜月◆oycAM.aIfI]
―U―
次の日、全ての授業が終わると、あたしは走って屋上に向かった。
昨日の夜は、あの女の子の夢を見なかった。
もしかしたら、夢が何か過去につながるヒントを示してくれるかもしれないと期待していたけれど、現実はそう上手くいかないものだ。
屋上に来たのは、自分を戒めるため。
最初に過去と向き合うと決めた場所に来れば、心を強く持てると思ったから。
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:08/04/03 16:48
:SH903i
:RM1EQ/SI
#48 [蜜月◆oycAM.aIfI]
マフラーもコートも教室に置いてきてしまったから、屋上に出た途端体が震えた。
それでもあたしは足を進め、柵の手前に立った。
あたしが過去を置いてきてしまった、あの町の方を眺めてみる。
――あの女の子は誰? あたしはどうして記憶を閉じ込めたの?
「……絶対に思い出してやる」
一人そう呟いて、あたしは屋上を後にした。
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:08/04/03 16:49
:SH903i
:RM1EQ/SI
#49 [蜜月◆oycAM.aIfI]
教室に戻ると、昨日と同じようにサトルが待っていた。
「ユキ、行こう」
サトルはあたしの心が読めるのだろうか?
なんて、非現実的なことを考えてしまうほど、サトルはいつでもあたしの求めている言葉をくれる。
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:08/04/03 19:51
:SH903i
:RM1EQ/SI
#50 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ありがとう、サトル。行こう」
サトルは、何故感謝されたのか解らない、という様子で首を傾げている。
そんなサトルの手を引いて、あたしは探している何かがあるはずの場所に向かった。
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:08/04/03 19:52
:SH903i
:RM1EQ/SI
#51 [蜜月◆oycAM.aIfI]
T小学校に一番近い駅まで、あたしたちは電車で約一時間かけてやってきた。
サトルは終始ニコニコしっぱなしで、中山先生との思い出話をたくさんしてくれた。
駅から小学校まで歩いている今も、早く会いたいのだろう、今にも走り出しそうなくらいだ。
「サトルは中山先生がほんとに好きなんだね」
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:08/04/03 19:53
:SH903i
:RM1EQ/SI
#52 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルは、あたしがほとんど呆れ気味に発した言葉への返事の代わりに、いきなり走り出した。
「ちょっと、どうしたの?」
慌てて追いかけると、サトルは『T町立T小学校』と書かれた門の前で手を振っている。
――ここが、あたしの通った小学校……?
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:08/04/03 19:53
:SH903i
:RM1EQ/SI
#53 [蜜月◆oycAM.aIfI]
見たことがあるはずの建物を前にしても、やはりあたしの頭は何の反応も起こさなかった。
「あれ? あそこにいるの、中山先生だよ! ねえ、ユキ!」
あたしがサトルの立っている場所に近づくと、彼はまた走り出した。
「せんせえーーっ! 中山先生! 久しぶりー!」
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:08/04/03 19:54
:SH903i
:RM1EQ/SI
#54 [蜜月◆oycAM.aIfI]
サトルの走っていく先には、花壇の花に水をやる手を止めてこちらを振り返った人物がいた。
白髪混じりの長い髪を頭の後ろでひっつめて、ベージュのロングスカートをはいたふくよかな女性……中山先生だ。
先生はこちらから走ってくるのがサトルだと気付いたのか、手にしていたホースを地面に置いてあたしたちの方に近づいて来た。
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:08/04/03 23:57
:SH903i
:RM1EQ/SI
#55 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「サトルくん……?」
「サトルだよおー! 先生久しぶり! 元気!? ユキも一緒なんだよ、ほら!」
サトルのテンションは最高潮に達してしまったようだった。
身振り手振り全開で、普段から高い声のトーンも一層高くなり、うるさいくらいだ。
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:08/04/03 23:58
:SH903i
:RM1EQ/SI
#56 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「中山先生、お久しぶりです」
とあたしがお辞儀すると先生は、驚いた、と言わんばかりにあたしとサトルへ交互に目を向けた。
「サトルくんに、ユキちゃんも……、久しぶりねえ。二人は相変わらず仲良しなのね」
そう言って笑う先生は、昔と変わらず優しい雰囲気をまとっている。
あたしは先生を前にしてなぜか焦ってしまい、普通なら昔の思い出話をしたりするはずなのに、唐突に用件を切り出してしまった。
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:08/04/04 00:06
:SH903i
:h9h3B4Yg
#57 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「先生、久しぶりに会っていきなりこんな話するのおかしいんですけど、あたしの昔の話聞かせて欲しいんです」
あたしがそう言い切ると、先生は驚く訳でもなく、あたしの眼をじっと見つめた。
その顔には、悲しみなのか哀(あわ)れみなのか、それとももっと別のものか……あたしには区別が付かない感情が表れている。
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:08/04/04 00:10
:SH903i
:h9h3B4Yg
#58 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしも何も言わず、先生の眼をじっと見つめ返す。
ここで拒否されれば、もう過去につながる道は無いかもしれない。
けれどここは、先生の判断に委ねたかった。
永遠にも思えた一瞬の後、先生の口から予想外の言葉が発せられた。
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:08/04/04 02:07
:SH903i
:h9h3B4Yg
#59 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「待っていたわ、ユキちゃん」
――え……?
「あなたがいつか来るだろうと思っていたの。ユキちゃんの聞きたいこと……私が話さなきゃいけないと思っていたことと同じはずよ」
――そうか。先生は知っていたんだ。
あたしの知らないあたしの過去を。
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:08/04/04 02:08
:SH903i
:h9h3B4Yg
#60 [蜜月◆oycAM.aIfI]
遂にこの時が来てしまった。
思っていたよりも随分と早い。ここで昔の自分との対面を迎えてしまうのか?
正直、あたしはまだ完全に腹をくくり切っていなかった。
――待って、本当にいいの?
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:08/04/04 02:09
:SH903i
:h9h3B4Yg
#61 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ああ、また揺らぎ始めた。
揺れる……揺れる心……ほどける決意……あたし……
頭の中で幾つもの感情がぐるぐると巡る。
ふと目線を上げると、先生の優しい眼差しとぶつかった。
あたしを急かすこともなく、ただその優しい瞳で見つめてくれている。
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:08/04/04 02:10
:SH903i
:h9h3B4Yg
#62 [蜜月◆oycAM.aIfI]
顔を横に向けると、サトルもあたしを見ていた。
サトルの瞳は先生のそれとは違い、不安、心配、疑問、のようなものが入り混じっているかに見えた。
それぞれの顔はもちろん違うが、その表情にはひとつ共通するものがあった。
それは、あたしへの愛情。
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:08/04/04 02:11
:SH903i
:h9h3B4Yg
#63 [蜜月◆oycAM.aIfI]
愛されてると言い切るなんて、自意識過剰だと自分でも思う。
けれど二人の目からは、溢れるくらいの愛が、あたしに向けて注がれていた。
なんて幸せなことだろう。
二人だけじゃない、あたしには両親もいる。
無償の愛を、見返りを求めることのない愛情をくれる人が、こんなにもいるのだ。
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:08/04/04 02:14
:SH903i
:h9h3B4Yg
#64 [蜜月◆oycAM.aIfI]
きっと彼らは、どんなあたしも受け入れてくれるに違いない。
守られている……そう感じた。
――もう大丈夫。
「先生。……教えてください」
あたしの答えを聞くと、先生は穏やかに微笑み、あたしたちを校舎の中へと案内してくれた。
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:08/04/04 02:15
:SH903i
:h9h3B4Yg
#65 [蜜月◆oycAM.aIfI]
通されたのは、社会科準備室。
普段あまり使われていないのだろう、そこら中に散乱している大きな地図やプリントの束には埃が積もっている。
真ん中の机だけは、辛うじてきれいに掃除されているようだ。
先生は、あたしとサトルに折りたたみ式のパイプ椅子に座るように勧め、お茶を煎れてくれた。
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:08/04/04 02:20
:SH903i
:h9h3B4Yg
#66 [蜜月◆oycAM.aIfI]
その間、あたしとサトルは言葉を交わさなかった。
椅子に座ってもサトルはキョロキョロと室内を見回していたが、あたしに気を遣ってくれているのか話し掛けてくることは無かった。
あたしはというと、先生の口から何が話されるのかという不安で頭がいっぱいだった。
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:08/04/04 02:21
:SH903i
:h9h3B4Yg
#67 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしたちの前に煎れたてのお茶が出されると、ようやく先生も椅子に座った。
「さあ、ゆっくり話しましょうか」
そう言って、あたしとサトルの正面に座った先生は自分の前に置いたお茶に口をつける。
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:08/04/05 00:22
:SH903i
:Ltba8Hdw
#68 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは、何をどこから聞けば良いのか解らず、口をつぐんでしまった。
そんなあたしに気付いたのか、先生はゆっくりと話し始めた。
「ユキちゃんが向こうの小学校に転校して来たのは、確か……三年生の時だったかしらね? すぐにサトルくんとも、クラスのみんなとも仲良くなって、先生安心したのよ」
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:08/04/05 00:23
:SH903i
:Ltba8Hdw
#69 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あの頃のことを思い浮かべているような先生の柔らかい表情につられて、あたしも懐かしい気持ちになっていた。
先生やサトルがあたしを気遣ってくれたから、すぐに普通の生活に戻れたのだと、あたしは二人に感謝している。
先生は一旦言葉を切ると、真剣な顔であたしの目を見つめた。
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:08/04/05 00:23
:SH903i
:Ltba8Hdw
#70 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「私は、ユキちゃんの身に起きたことを全て知ってる訳ではないの。それでも、私が知っていることは全て伝えるべきだと思ってる。お母様とお父様は、何も話してくれなかったのね?」
先生の言葉が、核心に触れた。
あたしは思わず目を逸らし、息を一つ吐いて背筋を伸ばす。
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:08/04/05 00:24
:SH903i
:Ltba8Hdw
#71 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「はい。父と母は、……昔の話をしたがらないんです。何年か前まではあたしも知りたかったから、聞いてみたりしてたんですけど……今はもうあたしから聞くこともありません。きっと父と母は、あたしのことが心配なんだと思います。
……あたしが今こうやって昔のことを調べてること、父と母は何も知りません。もうこれ以上心配かけたくないから……黙ってるつもりです」
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:08/04/05 00:25
:SH903i
:Ltba8Hdw
#72 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは途切れ途切れになりながらも、心の内を吐き出した。
伏せていた目を上げて先生の方を見ると、やはりまだ真剣な顔をしている。
いつでも優しく笑っていた中山先生の顔に笑顔が無い。
それだけであたしは、とてつもない不安に襲われた。
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:08/04/05 00:25
:SH903i
:Ltba8Hdw
#73 [蜜月◆oycAM.aIfI]
きっとあたしの顔が強張っていたのだろう。
先生は表情をふっと柔らげて、微笑んでくれた。
「そう……ユキちゃんはすごく大きな決断をしたのね。やっぱり立派になったわ」
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:08/04/05 00:26
:SH903i
:Ltba8Hdw
#74 [蜜月◆oycAM.aIfI]
嬉しそうにそう言ってくれる先生を見て、あたしはなんだかほっとした。と同時に、少し照れ臭くなってサトルの方を見た。
サトルはやっぱり心配そうな瞳でこちらを見ていたので、あたしはにこっと笑いかけた。
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:08/04/05 01:47
:SH903i
:Ltba8Hdw
#75 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしも、先生があたしにしてくれたように、サトルを安心させたかったのだ。
サトルの顔がほころんだのを確認して、あたしは再び先生に目を戻した。
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:08/04/05 01:48
:SH903i
:Ltba8Hdw
#76 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「先生の話をする前に、ユキちゃんが知っていることを話してくれるかしら?」
あたしは先生にそう言われて、悩んでしまった。
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:08/04/05 03:55
:SH903i
:Ltba8Hdw
#77 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「知ってることって言っても……入院してから半年で意識を取り戻して、それから三ヶ月ぐらいで退院して転校した……ぐらいしか解らないんです」
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:08/04/06 00:35
:SH903i
:Q83A9i1s
#78 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしは、何か他に思い出せることは無いかと頭をフル回転させたけれど、記憶の壁はやはり厚く、突き破ることは出来なかった。
なんだか、自分で自分が情けなかった。
授業中先生に当てられた時に、簡単な問題で正解はわかっているはずなのに答えられない、そんな気分だった。
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:08/04/06 00:36
:SH903i
:Q83A9i1s
#79 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「そう……あれから何も思い出さなかったのね」
「あれから……?」
先生の言葉の意味が解らなくて、思わず聞き返すあたし。
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:08/04/06 00:36
:SH903i
:Q83A9i1s
#80 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユキちゃんが転校してくることが決まった時、お父様とお母様から説明を受けたの。九ヶ月ほど入院していて、それまでの記憶が一切無い、って」
言われてみて納得した。
記憶喪失の生徒を、何も聞かずに受け入れる学校などないだろう。
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:08/04/06 00:37
:SH903i
:Q83A9i1s
#81 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「お医者様からは、後々記憶が戻ることがあるかもしれないと言われたそうなの。
ご両親は、ユキちゃんの記憶が戻ることを望んではいなかったようだけど……。思い出してしまうと、ユキちゃんはきっと自分を責めてしまうから。そうおっしゃったの」
――あたしが自分を責める?
あたし……あたしは、何をしてしまったの?
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:08/04/06 00:38
:SH903i
:Q83A9i1s
#82 [蜜月◆oycAM.aIfI]
椅子に座っているはずなのに、あたしの視界がグラグラと揺れ出した。
あたしは被害者だと、今の今までそう思っていたけれど……。
それは間違いだったのだろうか。
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:08/04/06 00:38
:SH903i
:Q83A9i1s
#83 [蜜月◆oycAM.aIfI]
気が付くと、あたしは両手で顔を覆ったままテーブルに伏せていた。
手の平を映しているはずのあたしの目は、しかし、何も見えていなかった。
手の甲に触れている机の表面が、なぜかとても冷たく感じる。
混乱と不安と疑問が押し寄せ、溺れてしまいそうだ。
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:08/04/06 03:15
:SH903i
:Q83A9i1s
#84 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしが溺れまいと感情の波の中であがいていると、何か温かいものがあたしの手に触れた。
「大丈夫? しっかりしてよ。ユキは何にも悪いことしてないよ、絶対」
サトルの手だった。
:08/04/06 03:16
:SH903i
:Q83A9i1s
#85 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの両手を掴んで、顔を上げさせる。
真っ直ぐで澱みのない彼の瞳があたしの目を射る。それに堪えられず、あたしは視線を逸らしてしまった。
「でも……」
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:08/04/06 03:17
:SH903i
:Q83A9i1s
#86 [蜜月◆oycAM.aIfI]
自分で自分が解らないということは、こういうことなのだ。
今初めて気付いた。
もしかしたら、あたしが記憶を無くした八年間の中で、誰かを傷つけていたかもしれないのだ。
急に自分が怖くなった。
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:08/04/06 23:27
:SH903i
:Q83A9i1s
#87 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「大丈夫だよ! ユキは間違ったことなんか絶対しないもん!」
「サトル……」
視界が歪み、ぼやける。
あたしの目に、じわじわと涙が溜まっていた。
自分で自分を信じることさえ出来ないあたしを、サトルはまるごと信じてくれているのだ。
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:08/04/06 23:27
:SH903i
:Q83A9i1s
#88 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ユキちゃん。あなたのお母様とお父様は、ユキちゃんは優し過ぎるから自分を責めてしまう、っておっしゃったのよ」
先生は、サトルが掴んでいるあたしの手の上に、自分の手を置いた。
――温かい……。
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:08/04/06 23:28
:SH903i
:Q83A9i1s
#89 [蜜月◆oycAM.aIfI]
先生の優しさが形になって、あたしの手を包み込んでいるようだった。
「ユキちゃん、よく聞いてね。いい?」
いつの間にか、あたしの腕を掴んでいたサトルの手は離れ、あたしは両手を握られながら先生と向かい合う形になっていた。
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:08/04/06 23:29
:SH903i
:Q83A9i1s
#90 [蜜月◆oycAM.aIfI]
今、先生は、きっと一番大事なことを言おうとしている。
真っ直ぐこちらに向けられた先生の眼から、あたしはそれを感じ取り、自分の気持ちを精一杯落ち着かせた。
目を閉じて、呼吸を整える。
「はい、先生」
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:08/04/06 23:29
:SH903i
:Q83A9i1s
#91 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしが答えると、先生の口元に少しだけ笑みが戻った。
先生は、少し微笑んだその優しい表情のまま、あたしに告げた。
「あなたには、――――」
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:08/04/06 23:32
:SH903i
:Q83A9i1s
#92 [蜜月◆oycAM.aIfI]
それを聞いた瞬間、鈍器で頭を殴られたような衝撃を受け、目の前が真っ白になった。
先生の言葉が頭の中で何度も何度も再生される。
その後ろで、まるで耳元で鳴っているのかと思うほど、心臓の音が大きく響く。
だんだん息がし辛くなって、あたしの喉が音を立て始めた。
座っているのか、立っているのかさえわからない。
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:08/04/07 21:56
:SH903i
:H4NZ7Jvc
#93 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ぼやけた視界に映った先生とサトルの口が動いているけれど、一向に声は聞こえてこない。
あたしは世界から断絶された。
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:08/04/07 21:57
:SH903i
:H4NZ7Jvc
#94 [蜜月◆oycAM.aIfI]
帰りの電車の中。ちょうど帰宅ラッシュに重なってしまい、車内はかなり混雑している。
先生の口から知らされた事実は、あたしの予想を遥かに越えたものであり、それと同時に、あたしが知っているはずの事実だった。
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:08/04/07 21:58
:SH903i
:H4NZ7Jvc
#95 [蜜月◆oycAM.aIfI]
ドアの横にもたれかかっていたあたしは、サトルが一緒なのも忘れて、先生の言葉を思い返すという行為に没頭していた。
その言葉は、容易にあたしを混乱させるものだった。
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:08/04/07 22:00
:SH903i
:H4NZ7Jvc
#96 [蜜月◆oycAM.aIfI]
先生から知らされた事実、それは――。
『あなたには、妹さんがいたらしいの』
――まさか?
そんなこと、お母さんもお父さんも一言も言わなかった!
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:08/04/07 22:02
:SH903i
:H4NZ7Jvc
#97 [蜜月◆oycAM.aIfI]
先生は、パニックを起こしたあたしの肩をしっかりと支えながら説明してくれた。
先生も何があったか詳しくは聞いていなかったみたいだけれど、あたしとあたしの妹は何か事件に巻き込まれたらしい。
それがあたしの記憶喪失を引き起こした原因のようだ。
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:08/04/07 22:04
:SH903i
:H4NZ7Jvc
#98 [蜜月◆oycAM.aIfI]
そして、あたしだけが父と母の元に帰って来た。
……あたし一人だけが。
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:08/04/07 22:05
:SH903i
:H4NZ7Jvc
#99 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしの怪我の程度から見ても、妹の生存の可能性は低いとされ、捜索はすぐに打ち切られたらしい。
父と母は、あたしに妹がいたことは本人には言わないでくれ、と先生方にお願いした。
そして両親は妹に関する全てを封印し、三人家族として暮らしていくことにしたのだという。
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:08/04/08 00:19
:SH903i
:U9CTaOi2
#100 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――妹……あたしに妹がいたなんて?
信じられない……。
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:08/04/08 00:19
:SH903i
:U9CTaOi2
#101 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あたしが意識を取り戻した時、それまでの記憶は失っていたけれど、両親のことはしっかり覚えていた。
父と母とどうやって暮らしてきたかは忘れてしまっていたが、目の前にいる二人は間違いなく自分の両親だと認識していた。
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:08/04/08 00:21
:SH903i
:U9CTaOi2
#102 [蜜月◆oycAM.aIfI]
もし、妹と四人で生活していたのなら、何故あたしの頭から妹だけがすっぽりと抜け落ちているのか。
それを考えると、何か不思議な力の存在を感じた。
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:08/04/08 00:23
:SH903i
:U9CTaOi2
#103 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――一体何が……?
あたしと妹に何があったの?
妹は……? 妹はどうして戻らなかったの?
ああ……思い出せない。
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:08/04/08 00:23
:SH903i
:U9CTaOi2
#104 [蜜月◆oycAM.aIfI]
先生はあたしたち家族について話し終えると、自分が知っていることはこれだけだと言って、あたしを落ち着かせる為に温かいお茶を煎れなおしてくれた。
気持ちが十分に落ち着く前に空が暗くなって来たので、あたしは呆然としたまま小学校を後にした。
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:08/04/08 23:11
:SH903i
:U9CTaOi2
#105 [蜜月◆oycAM.aIfI]
帰りがけ、先生がサトルに「ユキちゃんをお願いね」と言っているのが聞こえたが、あたしの頭の中を通り過ぎていった。
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:08/04/08 23:12
:SH903i
:U9CTaOi2
#106 [蜜月◆oycAM.aIfI]
電車の揺れに身を任せていると、急にサトルに手を引っ張っられて、降りるべき駅に着いたことに気付いた。
駅構内の人込みの中、サトルに手を引かれて歩く。
サトルの背中しか見ていなかったあたしは、すれ違う人に何度もぶつかり、その度にあたしの腕を掴むサトルの手に力が入る。
昔、ショッピングセンターで迷子になった時のことを思い出した。
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:08/04/08 23:13
:SH903i
:U9CTaOi2
#107 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――あの時と同じだ。
あたしはあの時のまま……一人では何も出来ない、弱いままだ。
でもサトルは違う。
前を向いてずんずん進んでいくサトルの表情は見えないけれど、後ろ姿だけで解る。
サトルは……逞しくなった。
.
:08/04/08 23:14
:SH903i
:U9CTaOi2
#108 [蜜月◆oycAM.aIfI]
あの時も強いと思ったけれど、今のサトルには“強い”よりも、“逞しい”という言葉が似合う。
こんな面倒なことに巻き込んだあたしを、サトルは気遣い、支え、信じてくれる。
それを無駄にはしたくない。
サトルが信じていてくれる間は、あたしは何も諦めない。
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:08/04/08 23:14
:SH903i
:U9CTaOi2
#109 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――でも……サトルは今、何を考えているんだろう?
「ねえ、サトル」
駅から家に向かう道の途中で、あたしは声をかけた。
あたしの手を引いて前を歩いていたサトルが、立ち止まると同時にくるっと振り向いた。
.
:08/04/08 23:15
:SH903i
:U9CTaOi2
#110 [蜜月◆oycAM.aIfI]
振り向いたサトルの表情は、……笑顔だった。
いつもの、人懐っこい子犬のような笑顔。
「なあに?」
見慣れた笑顔が目の前にあった。
きっとサトルは、心配そうな、困ったような顔をしているんだろうと、あたしは思っていたのに。
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:08/04/08 23:16
:SH903i
:U9CTaOi2
#111 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「ふふっ、……あっはっははは!」
急におかしくなってきて、あたしは吹き出してしまった。
あたしは何を心配してたんだろう?
何も心配することなんか無いじゃない!
まだ笑っているあたしを、サトルは不思議そうな顔をして見ている。
.
:08/04/08 23:17
:SH903i
:U9CTaOi2
#112 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「何でもない!」
あたしはそう言って、今度は逆にサトルの手を引っ張って歩き出した。
「なにー? 一人で笑ってずるーい! 何が面白いの? 僕にも教えてよ!」
サトルがいつものようにギャーギャーと騒ぎ始めた。
あたしはそれがなんだか嬉しくて、「秘密だよ」とだけ言って歩き続けた。
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:08/04/08 23:17
:SH903i
:U9CTaOi2
#113 [蜜月◆oycAM.aIfI]
家に着く頃には太陽は沈み切って、立ち並ぶ街灯や看板の明かりが道を照らしていた。
あたしは別れ際、帰り道の間に考えていたことをサトルに伝えた。
「明日ね、図書館に行こうと思ってるんだけど。……一緒に来てくれないかな?」
街灯の光で、二つの影が地面に伸びている。
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:08/04/09 01:01
:SH903i
:APNEtQ/Q
#114 [蜜月◆oycAM.aIfI]
明日は土曜で学校は休みだ。
あたしは、記憶喪失の原因になった事件のことを調べようと思っていた。
「珍しいね!」
目を真ん丸にして、嬉しそうにサトルがそう言ったけれど、あたしは何のことか解らない。
「ユキが僕についてきてなんて、今まで言ったことないよね」
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#115 [蜜月◆oycAM.aIfI]
――そうか、あたしが頼まなくてもサトルがいつもついてきてくれるからだ。
気がつかなかった。
あたしが一緒に居て欲しい時、何も言わなくてもサトルは来てくれてたんだ。
サトルは、どうしてあたしの気持ちが解るんだろう?
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#116 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「え、ユキ? ちょっとっ……どうしたの? ごめん、何か嫌だった?」
気がつくと、あたしの目から涙が一筋流れていた。
「ち、違うのっ……ごめんね、サトル。嫌なことなんか無いんだけど……」
自分でも驚きながら、溢れる涙を拭い、サトルに無理矢理作った笑顔を見せた。
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#117 [蜜月◆oycAM.aIfI]
多分この涙は、自分の不甲斐なさに対するものだと思う。
サトルがいつでもあたしを見てくれていたことに今更気付いた自分が、情けなかった。
「図書館一緒に行くから、だから泣かないで?」
そんなことで泣かないよ。
サトルの心配そうな顔がおかしくて、あたしは自然と笑顔になっていた。
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#118 [蜜月◆oycAM.aIfI]
「うん、ごめんね。ありがと! じゃあ、明日ね」
あたしの笑った顔を見て安心したのか、サトルも笑顔で手をブンブンと振りながら帰って行った。
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