よすが
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#910 [ん◇◇]
「はは、まぁ偶然だろ。俺は、あの人たちに会うつもりはないよ」

 三日という時間はあまりにも短く感じた。駅のホームで、帰りの新幹線がくるのを待ちながら、二人でココアを飲む。駅のなかは蒸し暑く、汗で肌はじっとりとぬれている。.......彼はもう二度とわたしには会ってくれないだろう。

⏰:22/10/26 05:30 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#911 [ん◇◇]
彼にとって、わたしなど憎むべき存在でしかないのだ。やがて新幹線が到着したことを知らせるアナウンスが流れた。



「梨菜、さよなら」



 そう言い残し彼の背中は人混みの中へ消えていった。目頭が熱くなり、涙が溢れてとまらなかった。

⏰:22/10/26 05:30 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#912 [ん◇◇]
「お兄ちゃん!」


 悲痛なわたしの叫び声は駅中に響いても彼のこころにとどくことはなかった。




 お兄ちゃん。
 どうか、幸せになって。

⏰:22/10/26 05:30 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#913 [ん◇◇]
いつか素敵な女性と結婚し、あなたが子供の頃夢見た理想の家庭を築いてください。家族というのは悪いもんじゃないんだってことをどうかあなたにだけは知ってほしいのです。



BLUE BIRD

Fin

⏰:22/10/26 05:30 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#914 [ん◇◇]
>>920-950

⏰:22/10/26 05:31 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#915 [ん◇◇]
>>950-980

⏰:22/10/26 05:31 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#916 [ん◇◇]
>>980-999

⏰:22/10/26 05:31 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#917 [ん◇◇]
>>>960-999

⏰:22/10/26 05:32 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#918 [ん◇◇]
>>960-999

⏰:22/10/26 05:32 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#919 [ん◇◇]
ギンリョウソウ

「お嬢様、次の連休はどこにお出かけしますか?」
「やはり花の都、パリなどはいかがですか?」
「もうすぐ涼しくなりますし、ここはひとつ暑い所はどうでしょう」
「じゃあ、ハワイなんて素敵じゃありません?」

 勝手に騒ぎだすメイド達。そんな彼女達に静かに微笑みかけ、着替えを手伝おうとする手を制するは、この館の主の娘だ。

⏰:22/10/26 10:11 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#920 [ん◇◇]
「いいえ。わたしはどこにも行きませんわ.......」

 彼女の名は、野々宮 椿(ののみや つばき)。十七歳になる高校生だ。ファッションデザイナーとして世界的に有名な椿の父は、男手ひとつで椿を育てた。父は常に椿の意見を尊重し、椿もそんな父が喜んでくれるなら、と、父の為に最善の道を選ぶ。そんな野々宮家にも、決まりがあった。

⏰:22/10/26 10:11 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#921 [ん◇◇]
“十七歳になれば、婚約者を見つけること”

「.......椿、そんな相手いるの?」

 幼なじみで親友の美希が、学校へ行く車の中で聞いてきた。椿は微笑みながらも少し困ったのかうつ向いた。

「いると.......言いますか、立候補して下さった方がいて.......」

⏰:22/10/26 10:12 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#922 [ん◇◇]
と、言いながらその人物を思い出す。初めてあったのは椿の誕生日パーティーだった。元々、からだが弱い彼女は、パーティーに疲れ、隅の方の椅子に座っていたのだった。父は心配しながらも、来てくれた客に挨拶をしなければと、椿をおいて人混みに紛れていった。それを見送り、うつ向いてからため息をそっと吐く。

⏰:22/10/26 10:12 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#923 [ん◇◇]
『きみが、椿お嬢さん?』

 爽やかな、甘い声だった。ゆっくりと顔をあげれば、同い年か、ひとつ上くらいの男性がにこりと笑って椿を見下ろしている。青っぽい黒髪が印象的で、椿はぼんやりとしながらも立ち上がり、ひとつ礼をした。

⏰:22/10/26 10:12 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#924 [ん◇◇]
『初めまして。ぼくは蒼野 要(あおの かなめ)って言います』

『野々宮椿です。本日は足を運んで頂きありがとうございます.......』

 青野要と名乗る男性は、にこにこしながら椿に握手を求める。差し出された手を遠慮しがちに出せば、しっかりと手を掴まれる。父以外の男性に手を握られるのに慣れていない椿は、困りながら顔を赤らめた。

⏰:22/10/26 10:12 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#925 [ん◇◇]
『良ければお話でもどうでしょう。きみとは一度ゆっくりと話してみたいと思ったんだ』

 そこで。彼はどこで聞いたのか、自分が婚約者になりたいと名乗りでたのだ。父も彼を気に入っている様子で、椿も、ならばと彼を婚約者としようと考えていたのだ。「でも.......」と椿は思う。

⏰:22/10/26 10:12 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#926 [ん◇◇]
「美希ちゃん、ギンリョウソウって.......ご存知ですか?」

 椿の話の続きを待っていた美希は眉を寄せた。

「ギンリョウソウ?初めて聞いたよ」



 それは。パーティーの後の事だった。たまたま青野要が携帯で話している所に居あわせた椿は、話を聞いてはいけないと、踵(きびす)をかえそうとした。

⏰:22/10/26 10:13 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#927 [ん◇◇]
『まるでギンリョウソウのような女の子だったよ』


 青野要は確かにそう言った。耳慣れないその単語に、椿は思わず足を止めた。

 ギンリョウソウ?


その単語を調べたくて、辞書を開いた。意味は<山奥の陰にしか咲かない半透明の白い花>.......などの意味が書かれていた。あまり良くない意味だというのは分かった。

⏰:22/10/26 10:13 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#928 [ん◇◇]
しかし、分からない。そんな少女を、何故彼は婚約者として名乗りをあげたのだろうか。それとも、何か別の意味が.......?



ギンリョウソウ

 第一話

 椿が通う学校はお嬢様が行くような学校ではない。

⏰:22/10/26 10:13 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#929 [ん◇◇]
美嘉と一緒の一般の学校だ。これは椿の希望で、父も快く許してくれた。むしろ美嘉がいてくれた方がありがたいと喜んでくれたのだった。

「あ、美嘉、椿。おはよう」

教室に入って、にっこり笑いながら挨拶したのは友人の神野 絵子(かんだえつ)だ。優しくいつも前向きな女の子だ。

「おはようございます.......」

⏰:22/10/26 10:14 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#930 [ん◇◇]
椿も微笑みかえす。

 しかし椿の頭の中は、青野要の事でいっぱいだった。

 青野 要。

 彼はデザイナー界の期待の新人なのだ。椿と同い年にも関わらず既に社長業を勤め、彼のデザインした服はパリコレなんかにも出される有名ブランドとなっている。その名もAKAと言うらしい。自分の名前がアオノ、だから逆のアカでブランド名をつけたらしい。

⏰:22/10/26 10:14 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#931 [ん◇◇]
容姿も爽やかで、人なつっこい笑顔が人を寄せ付ける。そんな女性にも困らなさそうな彼が、「ギンリョウソウ」と称している自分を好んだのか、椿はやっぱり分からないでいた。しかし、椿には薄々気づいている事もあったのだ。

⏰:22/10/26 10:15 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#932 [ん◇◇]
「ただいま戻りました」
「お帰りなさいませ、お嬢様」

迎えてくれるメイドや執事達に会釈して、椿は自室へと向かった。ベッドに腰掛け、深呼吸をする。なんだか熱っぽい気がする……。体のだるさを感じていると、ドアを誰かがノックした。返事をすると、ノックした人物が入ってきた。

⏰:22/10/26 10:15 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#933 [ん◇◇]
「あ、父様.......イタリアから帰ってらしたんですか。お帰りなさいませ」
「ただいま、椿。すまないがまた出かけなければならないのだ。その前に顔を見ておきたくてな」

柔らかく笑いながら、父は椿の髪を撫でる。椿はいつも自分を大事にしてくれる父が大好きだった。

⏰:22/10/26 10:15 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#934 [ん◇◇]
「それと、もうじき要君がくるらしいから、仲良くするんだよ」

そう言われて、椿は静かに微笑んで頷いた。そんな椿に、父は少し困った顔をした。

「椿、本当に要君が婚約者でいいのか?椿は私が彼を気に入ってるからそれでも良いと思ってるんじゃないのか?いいか、椿。一生一緒にいる人は、自分の心で決めなきゃならないよ?」

⏰:22/10/26 10:15 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#935 [ん◇◇]
真剣な顔で心配して言ってくれる父に、やはり椿は微笑んだ。

「大丈夫ですよ、父様.......」
「失礼します」

凛とした声が椿の部屋に響いた。入口を見れば、スーツ姿の要がいた。要はにこっと笑うと部屋の扉を閉め、こちらに歩いてくる。父はそんな要に向き直り笑いかける。

⏰:22/10/26 10:16 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#936 [ん◇◇]
「やあ要君。久しぶりだね。フランスはどうだった?」
「行く度に勉強させられますよ。僕はまだまだ未熟ですね」

「そうかい。向上心があって実にいい。では、邪魔者は退散しようかな」

そう言って、要を信じきっているのか、父は2人を残して出て行ってしまった。父が出て行く際に一礼して見送った要は椿に向き直る。笑いかけられた椿はベッドから立ち上がり要に頭を下げた。

⏰:22/10/26 10:16 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#937 [ん◇◇]
「お仕事ご苦労さまです、青野さま」
「青野さまだなんてよそよそしい。要と呼んでくれて構わないんだよ」

挨拶とでも言うように、要は椿の頬に軽くキスをした。戸惑いながらも微笑む椿。

「まだ、旦那さまではないので.......」
「でもなるのは決まってるんだ。別にいいじゃないか」

⏰:22/10/26 10:17 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#938 [ん◇◇]
そう言われても、なかなか呼べない椿だ。やはり微笑むしか出来ない椿の額に、要は手を当てる。

「君、熱がある?」
「.......さあ。分かりません。平熱は高い方なので」

「でも休んだ方がいいね。メイドさんを呼んでこよう」

スタスタと歩き、彼は部屋を出ていった。その姿を見ながら椿はふと思った。恋人が体調を崩したなら、まず自分自身がそばにいるものじゃないのだろうかと。

⏰:22/10/26 10:17 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#939 [ん◇◇]
しかし、すぐに、いいや、と首をふる。心配なら尚更誰かに言って医者を呼ぶのが先か.......と思い直す。残念ながら、椿は付き合った事がない。なので当然ながら、彼女は恋人同士はどのように接するものかなんて言うのは分からないのだ。仕方なく、寝巻きに着替える。するとまた扉をノックされた。入ってきたのはメイドと要だ。

⏰:22/10/26 10:18 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


#940 [ん◇◇]
「椿さま、担当医を呼びましょうか?」

「いえ、寝れば治ります。なので佐々木さんも青野さまも、うつらない内にお帰りなさいませ」


ちなみに佐々木とはメイドの名前である。

「君がそう言うなら言う事を聞こう。明日また来させてもらうよ。ではね」

⏰:22/10/26 10:18 📱:Android 🆔:AtV/.tU6


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