○アダムの唄○
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#1 [紫陽花]
こんにちは、紫陽花です

bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3531/
↑感想はこちらに(・⌒・)

※この作品は私の想像した架空の世界です。実際の歴史とは全く異なる解釈が多々ありますが、完全なフィクションとして割り切って考えていただけると嬉しいです。

⏰:08/07/22 23:44 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#2 [紫陽花]
神が作りし最初の子供
名前はアダム
神はアダムからイヴを作り
彼らに楽園を与え
さらにイヴとアダムから
数多の人類を創造させた

この物語は
アダムの血を引く少年と
アダムの意を記した
本を持つ少年の
長く終わりの見えない
螺旋の物語である

⏰:08/07/22 23:45 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#3 [紫陽花]
「俺の運命の歯車はあの日から壊れてだして、いや、動き出していたのかもしれない」

「君の名前はうらやましいよ。僕の名前なんて、てきとーにもほとがあるからね」

「これ以上仲間が死ぬのなんて見たくないの!!だから……お願い!!!!」

「前に進め!!お前にはこの世界を救う義務があるんだ!!!!!」

「私達のために死んでください……」

―――アダムの唄―――

⏰:08/07/22 23:46 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#4 [紫陽花]



1頁《始まりの時》


⏰:08/07/22 23:46 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#5 [紫陽花]
「貴方を殺させていただきます。……地球の未来のためにね」

そう言って黒スーツの男は胸の内ポケットから拳銃を取り出した。黒々と鈍い光を放つソレのは言うまでもなく少年の頭へとねらいを定め、運命を握る人差し指から引き金が引かれるのを今か今かと待ち望む。

――10分前――

毎日30度をこす真夏日をむかえ、照りつける太陽は容赦なくアスファルトを焦していた。ゆらゆらと地面から空へと立ち上る蜃気楼は照り返しという名で太陽とともに熱の二重奏を生みだす。

⏰:08/07/22 23:47 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#6 [紫陽花]
そんな昼過ぎの一番太陽が猛威を振るう炎天下の中で人々は日傘、サングラスを愛用し、通り過ぎる人からは日やけどめと化粧品、香水の混ざり合った、決していい匂いといえない香りが漂っていた。


「君が、宇峰央里くんだね」

そんな天然サウナのような街中で一人の男は一人の少年を呼び止めた。

⏰:08/07/22 23:48 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#7 [紫陽花]
男は黒いスーツに黒いネクタイ、黒いサングラス。
サングラスのせいで年齢や表情すらも分からないが男はこの真夏日の中で汗一つかかず真っ直ぐに少年の方を向き、口元にはうっすらと笑みをこぼしている。

まるで長年探していたものを見つけたような、心からの安堵感を感じさせる笑み。

⏰:08/07/22 23:49 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#8 [紫陽花]
黒スーツの男とは対照的に名前を呼ばれた「宇峰央里」という学校帰りなのだろう、少年は白いシャツに、黒い学生服のズボン姿。
今時の学生には珍しく髪の毛はワックスによりツンツンに逆立っておらず微かに感じる夏風に髪が揺られ涼しさを生み出している。

左肩に鞄を引っ掛け、右手にはどこかの人気ブランドのロゴの入った白地のタオルを握っていた。

どこからどう見ても、ただの学生にしか見えない。

⏰:08/07/22 23:50 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#9 [紫陽花]
早速訂正

×「宇峰央里」という学校帰りなのだろう

○「宇峰央里」は学校帰りなのだろう

⏰:08/07/22 23:52 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#10 [紫陽花]
「そうですけど。……おじさん誰?」

頬を伝う汗を拭いながら少し挑発するように央里は問う。

“……コイツ、このくそ暑い中汗一つかいてねぇよ”

央里の瞳はしっかりと男をとらえ、相手が何者なのかを知ろうと元々つり上がった目を更に細くし警戒心を露わにする。

⏰:08/07/23 23:45 📱:F905i 🆔:CeS8fKDc


#11 [紫陽花]
央里と黒スーツとの距離は2〜3メートル。黒スーツは央里の質問に答えるわけでもなく、右足を一歩前に進めた。

「ずっと君を捜していたんだよ。いや〜長かった。これで僕の仕事も終わりだ」

両手を横に広げ、満足そうに男は央里に向かってさらに足を進める。

⏰:08/07/23 23:46 📱:F905i 🆔:CeS8fKDc


#12 [紫陽花]
「ちょっと!!俺の質問に答える気ないの?」

それでも男はゆっくりと、一歩また一歩と央里に近づく。二人の距離は確実に縮まってきた。

端から見ればこの炎天下に両手を広げ少年に歩み寄る男なんて気持ち悪すぎるだろう。

それに依然として男の口元には笑みがこぼれ、表情の分からない顔でも歓喜していることぐらい読み取れる。

⏰:08/07/24 21:45 📱:F905i 🆔:QCllXyKU


#13 [紫陽花]
央里は瞬時に黒スーツの男から視線をはずし相手に背を向ける形で歩き出した。

“コイツ……なんかやばい”

央里の第六感がそう告げる。

相手に背を向けるのは危険かもしれないがここは、逃げるのが一番だ。




「待てよ」

⏰:08/07/24 21:46 📱:F905i 🆔:QCllXyKU


#14 [紫陽花]
央里が背を向けた瞬間、男は再び彼を呼び止めた。
ただ先ほどと違って男の呼び声が酷く冷たい。この暑い熱の世界の中で、この声だけが氷のように冷たく、鋭い氷柱となって央里の行く手を阻む。


央里の足は動かなくなった。いや、正しくは動けなくなったのだ。その場の空気がピンと張りつめる。そう、切れる前の糸のようにキリキリと引っ張られ、一瞬でも気を抜けばすべてが切れてしまうようなプレッシャーを、央里はたったあの一言で感じていた。

⏰:08/07/24 21:47 📱:F905i 🆔:QCllXyKU


#15 [紫陽花]
行き交う人たちは楽しそうにおしゃべりを続け、外は暑いねと、愚痴をこぼす。だが呼び止められた央里には周りを気にする余裕なんてもはや残されていなかった。

スーツの男に呼び止められ、先ほどの威勢の良さとは反対に央里は汗すらも拭うことも出来ず、膝は小刻みに揺れる。

⏰:08/07/25 23:11 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#16 [紫陽花]
あの男は何者なのか?

分かっていることはただ一つ。央里の体から発せられている、
“アイツには近づくな”

という危険信号だけ。
そして逃げられないと分かった今、相手に背中を向けたままというのは自殺行為に値する。

央里は意を決して勢いよく後ろを振り向き再び黒スーツの男に視点を会わせた。
が、央里の瞳には両手を広げた変な男が映るのではなく、驚きのものが映し出された。

⏰:08/07/25 23:12 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#17 [紫陽花]
「動かないでください」

黒スーツの男の広げられた両手はいつの間にか胸ポケットへと滑り込み、あるものを掴みだしていた。そしてソレは、しっかりと央里の頭にねらいを定める。

「おじさん……ここ日本だよ?物騒じゃないのかなぁ」

スーツの男に握られていたソレとは、拳銃。央里の顔は恐怖にゆがみ、恐怖と不安の混じり合った汗はゆっくりと頬を伝って顎先から地面へとたれ落ちる。

⏰:08/07/25 23:13 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#18 [紫陽花]
行き交う人々は最初こそドラマか何かの撮影だと思い込み通り過ぎ去っていったが、どうにもカメラが見あたらない、と騒ぎ出していた。

“本当にあの少年は殺されるのではないか”と。

そして一人の女性が鞄から携帯電話を取り出し、隣にいた男性の後ろに隠れるように電話をかけ始めた。

⏰:08/07/25 23:14 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#19 [紫陽花]
ちょうど黒スーツの男の後ろ側に位置して女性は電話をかけたため、スーツの男には死角となってそれは見えない。

“このまま、時間を稼いでれば警察が……”

男は依然として銃口を央里の頭にあて引き金に左人差し指を掛けている。央里の視野の真ん中には銃口と黒スーツの男を、端っこの方ではしっかりと女性をとらえ、瞬きさえも忘れて双方に気を配る。



「はい、早く来てください!!」

⏰:08/07/25 23:15 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#20 [紫陽花]
女性は電話をし終え口元に添えていた右手を央里の方へ向け小さくガッツポーズをする。
さながら、後少し踏ん張れとエールでも送っているのだろう。
央里は横目でソレを確認する。

“あと少し……”

央里に希望の光が射し込んできた。
その光はすぐに消えてしまいそうなほどか細いものだが、今の追いつめられた央里の精神には十分な支えとなった。

⏰:08/07/25 23:16 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#21 [紫陽花]
しかし、いくら希望の光が射そうともこの炎天下の中の危機的状況は変わらない。
変わったことと言えば野次馬が増えてきたことぐらいである。
しばらくの間、央里は黒スーツの男を見つめ、黒スーツの男も央里を見つめる。

この時央里は1分、いや、1秒をとても長く感じていた。
そんな央里にとって、今の状況は耐え難く、なかなか進まない。

⏰:08/07/25 23:17 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#22 [紫陽花]
「誰かが警察を呼んだみたいですね。サイレンが聞こえます。まあ、貴方を殺した代償として私が牢屋に入るぐらいなら安いものですけど……」

不意に男が口を開いた。独り言にも近いその口調は、どこか満足げで、もしかしたら捕まるかもしれないというこの状況下には不釣り合いなほど弾んでいた。

⏰:08/07/25 23:19 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#23 [紫陽花]
「はは……おじさん、シャレになんねーよ」

“こりゃ、マズいな……。警察を待ってらんねーみたいだ”


スーツの男は央里をこの人だかりの中で殺すことに怯えるわけでもなく、むしろ名誉に近いものを感じているようだ。
その証拠に、サイレンがだんだんと近づいてきても、物怖じせず、ずっしりと拳銃を構えている。

⏰:08/07/25 23:20 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#24 [紫陽花]
“くそっ!!!逃げるしか……ないな!!”

そう思うのと、央里の体が動くのは同時だった。
右足に力を入れて右に駆け出す。もちろん黒スーツの男から視線は外していない。
それに続いて銃を構えていた男も右側へ腕を旋回させ――…

パンッッッ!!

打った。
弾丸は央里の左足元に着弾し、ガキンと鈍い音を鳴らす。

⏰:08/07/27 00:11 📱:F905i 🆔:8Tr2lYKI


#25 [紫陽花]
「キャ――――!!」

女性の叫び声が聞こえ、それを合図に人々は急に騒ぎ出し、狂ったようにその場から走り去った。

「逃がしません……」


黒スーツの男は首をキョロキョロと振り央里の姿を探すが、突然の銃声で人が波のように逃げ出したため姿を追うことは不可能に近いことは目に見えていた。

⏰:08/07/27 00:12 📱:F905i 🆔:8Tr2lYKI


#26 [紫陽花]
それに耳を澄ませばサイレンがだんだん近づいてくるのがわかる。

「チッ……」

スーツの男は舌打ちに近いものを発して、騒ぎ立てる人混みの中へ影のように静かに姿をくらました。

⏰:08/07/27 00:13 📱:F905i 🆔:8Tr2lYKI


#27 [紫陽花]
―――――――………

―――――………

「あ――!!死ぬかと思った……俺が何したってんだよ!!!!!」

無事に人混みに紛れ逃げることが出来た央里は家の近くの道を歩いていた。
全力疾走して逃げたのだ、央里は肩で息をし、呼吸も荒々しい。
拭っても拭っても、額から、頬から、背中から汗が噴き出し薄っぺらいシャツを濡らしていく。

⏰:08/07/28 00:16 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#28 [紫陽花]
「とりあえず、帰るか」

そう呟いて央里は夕日の沈む方へとまた足を進めた。

―――――――………

―――――………

「ただいまー」

「あら、お帰り。おうちゃん」

ここは、結構な金持ちたちが住む住宅地の一角であり、同時に央里とその家族の住む一軒家のある場所だ。
周りはアスファルトでできた家々が立ち並び、個々の持つ庭の季節にあわせた花々が凛々と咲き誇っている。

⏰:08/07/28 00:17 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#29 [紫陽花]
>>28 訂正
× 周りはアスファルトで
○ 周りはコンクリートで


なんてミスだ……

⏰:08/07/28 00:19 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#30 [紫陽花]
「おうちゃんって呼ぶなよ、お袋」

「え〜いいじゃない」

央里の母、真紀は台所で夕飯のカレーを作りながら、息子をからかうようにケタケタと笑いながら答えた。

カレーの少し辛い臭いの充満した台所で、笑う度に小刻みに揺れるショートカットが真紀が央里に背を向けていても、からかうことを心から楽しんでいる様子を連想させる。

⏰:08/07/28 00:19 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#31 [紫陽花]
「それより、おうちゃん。病院行ってきた?今日は検査の日でしょ」

靴を脱ぎ、靴下までも脱いでいた央里の動きが一瞬止まる。

「い、いや……行こうとしたんだけど「ふ〜ん。行こうとしただけなんだ」

まさに蛇に睨まれた蛙。央里は目を泳がせ、背を向けている真紀に苦笑いをする。

⏰:08/07/28 00:21 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#32 [紫陽花]
「大変だったんだよ!!ホントに色々あって……」

そこまで言って央里は口を閉じた。

“殺されそうになったなんて言えるかよ……”

親にこれ以上、心配をかけたくない。それが央里の本心だった。

「あんたね――…」

はぁ、と真紀は大きなため息を吐く。

⏰:08/07/28 00:23 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#33 [紫陽花]
央里は半年に一度、病院へ通っている。
生まれた時から肋骨が一本欠けており、それを不思議に思った医者は半年に一度病院へ来てレントゲンを撮るように央里の両親に話していた。

「まぁいいわ……着替えてきなさい。すぐ夕飯にするから」

「……おう」

央里は煮え切らない表情で台所を通り抜け自分の部屋へと進んだ。

「ついにあの子もアイツらに見つかってしまったのね……」

央里のいなくなった台所で真紀は呟いた。
その顔はどこか悲しげで、やりきれない、といったものだった。

⏰:08/07/28 00:24 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#34 [紫陽花]
感想板
bbs1.ryne.jp/r.php/novel/3531/

三人称で話を進めるのは初めてなので、意見・感想をお聞きしたいです!!⌒・))

⏰:08/07/28 00:28 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#35 [紫陽花]



2頁
《必然の出会い、そして…》


⏰:08/07/30 07:24 📱:F905i 🆔:SKCDtYyY


#36 [紫陽花]
――――翌日――――

央里はいつものように教室にいた。まるで昨日の黒スーツの男が夢であったかのように、央里の周りは時を刻んでいる。


「ねぇ、ねぇ。今日転校生来るんだってぇ〜」
「マジ!?男!?女!?」
「かっこいいといいなぁ〜」
「あっ!!2組の矢田君たち、別れたらしいよ〜」
「マジで〜!?」

クラスの女子の関心はつねに噂や人の恋愛について。

⏰:08/07/30 07:25 📱:F905i 🆔:SKCDtYyY


#37 [紫陽花]
「誰からその情報仕入れたんだか……」

群れる女子たちを横目に央里は昨日のことを考えていた。

“なんで俺が……?”

“そもそもアイツは誰だ?”

そんなことを考えているうちに学校内にはHRを始めるチャイムが響き渡り始めた。

⏰:08/07/30 07:26 📱:F905i 🆔:SKCDtYyY


#38 [紫陽花]
「ほら――。席付け〜」

チャイムと同時に央里のクラスの担任である中島が声を張り上げながら教室に入る。
体育教師である彼は、いつもナイキのTシャツを愛用し、短パンにサンダルといったラフな格好で教壇に立つ。

「え〜、今日は転校生を紹介する。喜べ女子ぃ!!転校生は男だ〜!!」

次の瞬間、一斉に女子の声は黄色く、そして1オクターブ高くなる。

⏰:08/07/30 23:37 📱:F905i 🆔:SKCDtYyY


#39 [紫陽花]
「じゃあ、入ってこい」

そして、中島はドアのところに立っているのであろう転校生に声をかけた。

そして、転校生は躊躇いながらも中島の隣、すなわち教壇の前に立つ。

彼の髪は少しワックスを使って流れを作っており、ほかの学生と比べれば髪の色が薄い。
それに、少したれ目な瞳の色も黒ではなく茶色。
加えて肌の色も白いため貧弱そうなイメージを与えそうだが、決して細いわけではなく、しなやかな体つきと言った方がしっくりくる。

⏰:08/07/30 23:38 📱:F905i 🆔:SKCDtYyY


#40 [紫陽花]
「野胡瀬 傳(のこせ つたえ)です。よろしく……」

傳はニコニコと愛想を振りまくような自己紹介はせず、他人に興味は無いといったように人を拒絶するような態度で淡々と、自己紹介した。

“無愛想な奴……でも、女子がほっとかないタイプだな”

傳が中島の指定した席に座る姿を横目に、央里はまたも昨日のことに意識を引き戻した。

⏰:08/07/30 23:40 📱:F905i 🆔:SKCDtYyY


#41 [紫陽花]
一方、席に着いた瞬間からありきたりな質問を投げかけられている傳はどうしようもない苛立ちを感じていた。
傳は席の周りをぐるりと生徒に囲まれ、まったく身動きがとれない。

「野胡瀬君アドレス教えて!!」
「傳って呼んでいいか?」
「野胡瀬、部活は何に入る?」

そんな質問に傳は

「あぁ……」
「うん……」
「別に……」

と、単文かつ素っ気なく答えていく。

⏰:08/08/01 23:51 📱:F905i 🆔:csJNuxtY


#42 [紫陽花]
「や〜ん。野胡瀬君ってクール!!でもそこがカッコイイー!!!」

決してしゃべりが上手いわけでも愛想を振りまいているわけでもないのに、一部の女子の間で早くもファンクラブができそうなほど、野胡瀬 傳という人物はたった何分間かでこのクラスの人々を魅了した。


たった一人、央里を除いては。

⏰:08/08/01 23:53 📱:F905i 🆔:csJNuxtY


#43 [紫陽花]
央里は一時の好奇心で群がるのはあまり好きではない。
そのため傳の周りに群をなす女子や、傳にいろいろと質問を投げかける男子の中に央里の姿はなかった。

「なぁ。あの端の席でぼーっとしてる奴、だれ……?」

傳は隣にいた女子に問う。

ちょっとした人だかりの出来ているこの場で、野次馬精神も見せずに物思いに耽ってるなんて珍しい奴だ。

⏰:08/08/01 23:54 📱:F905i 🆔:csJNuxtY


#44 [紫陽花]
「あぁ〜、宇峰君ね。端にいるのは宇峰 央里君よ。彼、1人が好きみたい」

“宇峰央里……うみね……おうり……!!!!”

次の瞬間、まるで何かを思い出したような、驚きの表情へと傳の顔は一変した。

「アイツが……!!」

これまでクラスの生徒からの質問さえも無関心に返事をしていた傳が初めて見せた驚きと好奇心の目に、質問を受けた女子は目を見張る。

⏰:08/08/01 23:56 📱:F905i 🆔:csJNuxtY


#45 [紫陽花]
「なに?知り合いとか?」
「……いや、違う。」

やはり生徒からの質問に素っ気なく答える傳を見て、女子は
「そう、なの?」と言い残して疑問の残る頭のまま友達の元へ去っていった。

「アイツがアダムの……」

小さく漏らした傳の声と、不敵に笑う彼の口元に誰一人として気付く者はいなかった。

⏰:08/08/01 23:57 📱:F905i 🆔:csJNuxtY


#46 [紫陽花]
――――――…………

―――――………

「で、何でお前が横にいるわけ?」

央里は嫌みったらしそうに視線を右に振る。

「別にいいじゃん……帰る方向が一緒なだけだよ……」

揺れる電車の中、央里の右隣には今日転校して来た傳の姿があった。

どうやら央里と傳の家の方向が一緒らしく、偶然同じ車両に乗り合わせることになったのだ。

⏰:08/08/01 23:58 📱:F905i 🆔:csJNuxtY


#47 [紫陽花]
「ただでさえ帰宅ラッシュで人が多いってのに……転校生まで一緒かよ」

央里は吊革に右手を乗せ、ぶら下がるような形で愚痴をこぼす。

「……着いたみたいだけど」

電車は央里の住む町へと停車した。
ドアが開いた瞬間、冷房の効いた車内へ一気に手を伸ばす熱風は、外と中の気温差を十分に体感させる。
そして、央里と傳は隣に並ぶ形で駅の外へと出た。

⏰:08/08/03 01:47 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#48 [紫陽花]
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……」

「なんだよ、たった一日でクラスの人気者になった転校生」

大きな道路沿いを歩いていたときに傳は央里に話しかけた。

「そーいう言い方やめてよ……君の『央里』って名前、誰がつけた……?」

傳は興味深そうに問う。

⏰:08/08/03 01:48 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#49 [紫陽花]
「名前?たしか親父がつけたって言ってたよーな……」

眉間にしわを寄せて考え込む央里の隣で、傳が小さく

「やっぱり……」

と言った。もちろん央里には聞き取れないほどの小声で。

「あとさ、女の子から聞いたんだけどあんた一人が好きなわけ……?」

⏰:08/08/03 01:49 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#50 [紫陽花]
「はぁ!?何でお前にそんなこと言わなきゃ「見つけた……」

央里と傳が口論していると、背後から聞き覚えのある冷たい声がした。

「おまえ!!」

央里の表情が一気に固くなる。
そう、背後から声をかけたのは昨日央里の命を狙った、黒スーツの男だった。

⏰:08/08/03 01:50 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#51 [紫陽花]
「この前は逃げられちゃったんだよね〜だから今回はすぐに殺してあげるから♪」

今回も楽しそうに『殺してやる』と宣言する。

「おい、アイツやべーから逃げるぞ!!」

央里は小声で傳に話しかける。そう易々と逃げられるわけ無いと思っていたが、ここで転校生まで危険にさらすわけにはいかない。

央里の背中をいやな汗がつたう。

⏰:08/08/03 01:52 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#52 [紫陽花]
「君はもう“ネイク”からも狙われているのか……」

傳はやれやれといったように、がっくりと肩を落とす。

「おっ!!央里君の隣にいるのは野胡瀬族の傳君じゃないか!!!いや〜ここで会えるなんて、君たちもかなり切羽詰まってるみたいだね」

やはり男は傳にでさえ楽しそうに話した。
黒スーツの男には喜怒哀楽の喜しか感情がないのか?
央里がそんな疑問を抱くほどにスーツの男の声は弾んでいた。

⏰:08/08/03 01:54 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#53 [紫陽花]
「って、お前アイツと知り合い?」

央里は驚きを隠せなかった。
二度も自分を殺そうとしている奴と、今日転校してきたばかりの奴が知り合いだったなんて偶然なのだろうか。

「知り合いじゃないよ……正しくは敵さ……」

そういい残すと傳は右肩に背負っていた鞄をドスっと地面におろし、何やらごそごそと探し始めた。

⏰:08/08/03 01:56 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#54 [紫陽花]
「あった……」

傳が取り出したのは一冊の古びた本。
本の厚さは3センチほどもあり、辞書の厚みをなくしA4サイズまで引き延ばしたような形をしている。
所々紙が剥げ、茶色く変色している表紙には「アダムの唄」と書かれていた。

⏰:08/08/03 01:57 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#55 [紫陽花]
「こんな時に読書かよ!!」

央里は怒ったように傳を睨む。それに対して、傳は少し驚いたように央里を見てこう言った。

「君は“アダムの唄”についても知らないのか……」

はぁ、とため息を付きながら傳は立ち上がる。

「さて、“ネイク”の使者さんは、これを知ってるよね……?」

⏰:08/08/03 23:37 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#56 [紫陽花]
強がってはいるが央里の膝が震えていると気付いていた傳は本を左手に持ち、傳は央里をかばうような形で一歩前に進む。

その傳の表情には余裕さえ感じられた。

「知っているも何も、我々の道標だよ、ソレは」

“ネイク”の使者である黒スーツの男は以前にもましてニタニタと気味の悪い笑みを浮かべていた。
少なくも、傳の後ろに隠れるように立っている央里にはそう見えた。

⏰:08/08/03 23:39 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#57 [紫陽花]
「じゃあ、この本の裏技知ってる……?」

傳は、まるで悪戯を仕掛けた子供のようにニヤっと笑ったあと右手に持つ“アダムの唄”に視点を落としペラペラとページをめくっていった。

「裏技って?」

央里は一歩前にでている傳に問う。

「ねぇ、央里はここから逃げたい……?」

⏰:08/08/03 23:40 📱:F905i 🆔:zJcFs6SU


#58 [紫陽花]
「あ?そりゃ、逃げたいに決まってんだろ!!って、俺の質問はスルーか!?」

「じゃあ、ここから逃げたいって強く願ってて……」

訳が分からなかった。それでも央里は傳の言葉に圧倒され意識を集中するしかなかった。

「話し合いは終わったかね?」
黒スーツの男はニヤニヤと笑みを絶やさず笑いかけた。

⏰:08/08/04 23:56 📱:F905i 🆔:FvnuzxKY


#59 [紫陽花]
「まあね。央里、この本に手を当てて……」

「お、おう」

不安げな表情で央里は右手を本に添えた。
すると、古びた本から無数の光の泡が飛び出し二人の周りを覆っていく。

「な……!!」

ニヤニヤ顔のスーツの男もこの時ばかりは驚愕の表情を表した。

小さなピンポン球のような泡から、ソフトボール大の泡まで、様々な形の泡が本から溢れ出す。
もう央里たちの姿は見えないほどに泡は彼らを包み込んだ。

⏰:08/08/04 23:57 📱:F905i 🆔:FvnuzxKY


#60 [紫陽花]
その中心部あたりから傳の声が響きわたった。

「ばいばいネイクの使者さん。言っとくけど、僕は君達を絶対に止めるから……」

その声には先ほどまでの興味のなさそうなものとは違い、覇気のある意志を固めた力強さを思わせる。

そして、ヒュッと風が吹いたと思うと二人を包んでいた泡たちはシャボン玉のように風に吹かれ空へと消えた。

泡がなくなった後の場所には二人が立っているわけでもなく、夕焼けに照らされるアスファルトだけが残っていた。

⏰:08/08/04 23:58 📱:F905i 🆔:FvnuzxKY


#61 [紫陽花]
――――――………

―――――……

「おいッッッ!!お前はマジシャンか!?てか、ここどこだよ!?」

「もう、騒がしいなぁ。君が逃げたいって言ったから僕は手を貸しただけなのに……ここは君んちの近くさ……」

「それに普通、本から泡が出てくるか!?何の仕掛けがあんだよ?」

「あれは普通の本じゃないんだよ……」

⏰:08/08/06 20:38 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#62 [紫陽花]
体に付いた小さな泡たちを片手で払いのけながら央里は口をとがらせた。

二人が口論になりかけたところで傳が「後で詳しく説明するから……」と、うなだれながら言ったのでその場は治まった。

「……分かったよ。絶対あの本のにタネを教えてもらうからな!!それとアイツから逃げられたことには、感謝してるから……」

央里の頬は照れからなのか、夕日のせいなのか、少し紅くなっていた。

⏰:08/08/06 20:40 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#63 [紫陽花]
「そりゃ良かった……」

傳も少し垂れた目で央里に笑いかけた。

「じゃあ、俺帰るし」

央里は足下にあった鞄を肩にひっかけ周りを見渡す。

“本当に家の近くだ……アレ?俺アイツに家の場所教えたっけ?アレ?”

⏰:08/08/06 20:40 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#64 [紫陽花]
央里の頭上にハテナマークが飛び交う。
ソレを見ていた傳は少し口元を緩ませ、すかさず一言付け加えた。

「僕、今日から真紀さんと衛さんの家にお世話になるから…「はぁぁぁああああ!?」

静かな夕暮れの中央里の叫び声だけがこだました。

衛とは央里の父である。
傳が真紀と衛の名前を口に出したことにも驚いたが、それ以上に“お世話になるから”の言葉に反応を見せた。

⏰:08/08/06 20:42 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#65 [紫陽花]
「おまッッッ!!なんで!?」
「そんなに僕と居られるのが嬉しいの?」
「そーじゃなくて!!俺んちに泊まるのかよ!?」
「うん」
「はぁああ!?訳わかんね!!」

央里は両手を頭に当て自分の髪の毛をグシャグシャに引っ掻き回した。
まるで悪い夢でも見ているように。

⏰:08/08/06 20:44 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#66 [紫陽花]
「別にいいじゃん。これの秘密知りたいんでしょ……?」

傳は鞄の中からチラリと覗くアダムの唄を指差す。

「ま、まぁ」

「じゃあ、立ち話もなんだし帰ろうか……」

「お、おう」

すっかり傳のペースにはまってしまった央里は渋々、傳を家へと案内した。

⏰:08/08/06 20:45 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#67 [紫陽花]
―――――――………

―――――………

「はい、はい。その通りでございます。すいません。本当に申し訳ありません」

ある薄暗い廃屋の中で黒スーツの男は携帯の向こう側の相手に謝罪の言葉を並べていた。
額にはうっすら汗。
スーツの男は最後まで相手に敬意を払いながら電話を切った。

「もう私に“次”は無いみたいですね……」

スーツの男は廃屋の窓から、沈みかける夕日を見てつぶやいた。

⏰:08/08/06 20:46 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#68 [紫陽花]



3頁
《真実という現実》


⏰:08/08/06 20:48 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#69 [紫陽花]
―――――――………

―――――……

「お〜か〜え〜り〜」

玄関の扉を開けるとリビングから母・真紀の声が玄関まで響いてきた。

「ただいま〜……お袋、お客さんだよ」

央里は傳の方をチラリと見て露骨に嫌そうな顔をしてから真紀に傳の存在を知らせた。

⏰:08/08/06 20:49 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#70 [紫陽花]
「あらあら、もしかして傳君?」

エプロンで手を振きながらひょっこりと真紀は現れた。
夕食の準備をしていたのだろう、リビングからは以前と同じようにカレーの匂いが漂ってくる。

「はい。すいませんが、今日はお世話になります……」

傳は深々と頭を下げ真紀に挨拶をする。
その姿を見た央里は
“なにいい子ぶってんだよ!!”
と、またも唇の端をピクピクとひきつらせ露骨に怪訝そうな顔をした。

⏰:08/08/06 20:51 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#71 [紫陽花]
「まぁまぁ、礼儀正しい子ね。話は聞いてるわよ。さぁ、上がって……って鍋火にかけっぱなしだったわ!!」

真紀は傳に得意の凛々とした笑顔で微笑む暇もなくバタバタとリビングへと舞い戻った。

「央里のお袋さん、元気な人だね……」

「まぁな」

央里は少し呆れながら真紀の元気さを肯定して、「でも自慢のお袋だよ」と付け足した。

⏰:08/08/06 20:52 📱:F905i 🆔:Zot1GjyU


#72 [紫陽花]
――――――………

―――――……


「ちょ、お前どんだけカレー好きだよ」

央里は隣に座り黙々とカレーを食べる傳を見ながら呟いた。

「激ウマ……」

食べる手を休めずに傳は感嘆の声を漏らす。ちなみに今食べてるカレーは大盛で3杯目。

⏰:08/08/08 00:25 📱:F905i 🆔:vLwGHzXU


#73 [紫陽花]
「カレーは世界で一番美味しいですよね。真紀さんのカレー本当に美味しいです……」

「あらあら、美味しいって言ってくれるなんて母さん嬉しい〜!!おかわりいかが?」

「すいません。頂きます……」

そして傳は4杯目に突入した。

「遠慮ってものを知れよ」

「カレーは僕の大好物なんだよ……」

深いため息をはきながら、もういいやと言うように央里は首を振った。

⏰:08/08/08 00:26 📱:F905i 🆔:vLwGHzXU


#74 [紫陽花]
「おうちゃんも食べれるときに食べときなさい。腹が減っては戦は出来ぬってね!!」

「はぁ?戦ってなんだよ。戦って」

渋々、央里は傳や真紀に突っかかることを止め一口一口ゆっくりとカレーを頬張った。
甘口のはずのカレーが口の中をピリピリと刺激する。

⏰:08/08/08 00:27 📱:F905i 🆔:vLwGHzXU


#75 [紫陽花]
「ただいま〜!!あれ、兄ちゃんのお友達さん?」

母譲りの元気な声で帰宅したのは、央里の弟である榎久(カク)だった。

切れ長の目を持つ央里とは反対にクリクリとした瞳を持ち、それと同時に、野球部でもある榎久は頭もクリクリの坊主である。

「まぁ、友達……かな」

制服のままに駆け寄ってきた榎久の頭を撫でながら苦笑いで傳のことを説明する。

央里にとって榎久は、いや、榎久のクリクリ坊主頭は癒しそのものであった。

⏰:08/08/08 00:28 📱:F905i 🆔:vLwGHzXU


#76 [紫陽花]
「かくちゃん〜ご飯食べる前は手洗いうがいでしょ。いい子なんだから早く手洗っといで」

榎久の分のカレーをつぎながら真紀は指示を出す。

「あ〜い!!ったくもう、すぐ子供扱いするんだから」

プリプリと不満を漏らしながら榎久は洗面所へと姿を消した。

⏰:08/08/08 00:31 📱:F905i 🆔:vLwGHzXU


#77 [紫陽花]
「弟さん……?」

今まで4杯目のカレーにラストスパートをかけていた傳が、榎久の向かった洗面所へと目線だけ動かし口を開いた。

「あぁ、坊主可愛いだろ?」

ニカっと笑う央里を横目に、傳はカレーに最後のラストスパートをかけていた。

⏰:08/08/08 00:32 📱:F905i 🆔:vLwGHzXU


#78 [紫陽花]
―――――………

――――……

「なぁ、そろそろアダムの何とかって本の秘密教えてくれよ!!」

「ダメ!!まだ衛さんが帰ってきてない……」

「親父になんの関係があんだよ〜」

央里と傳は、もう3回ほどこの会話を繰り返していた。

⏰:08/08/09 23:43 📱:F905i 🆔:zljB7mjM


#79 [紫陽花]
家族そろうまでアダムの唄の話をしないなんて絶対におかしい。
家族会議でもしなければならないのか?

央里の本に対する疑問は更なる疑問を招き、考えれば考えるほど謎は深まるばかりだった。

「ただ〜いま〜「親父だ!!」

やはり一番早く衛の帰りに気付いたのは央里である。

ちょうどいいタイミングで風呂に入っていた榎久も風呂から上がり、真紀も食器をなおし終え、衛もリビングへと姿を現した。

⏰:08/08/09 23:45 📱:F905i 🆔:zljB7mjM


#80 [紫陽花]
衛はカッターシャツのボタンをニ三個外し、右手に持ったタオルで額を拭く。
かけていた黒縁のめがねを取り、汗でくっついた前髪をかきあげると央里とそっくりな切れ長の瞳が現れた。

そして衛の少し出っ張り始めたお腹が、どこか憎めないコロコロとした優しい印象を与える。

⏰:08/08/11 21:42 📱:F905i 🆔:hqB5Bdl.


#81 [紫陽花]
「おっ!!野胡瀬 傳君かね?」

「おじゃましてます。あの、央里にあのことを……」

「分かってる。俺は口べたなんでね。君から話してほしい」


衛の言葉を聞いた瞬間、傳の表情は不安と困惑の混じった不可解なものとなっていた。

“こんな傳見たことない……”

⏰:08/08/11 21:43 📱:F905i 🆔:hqB5Bdl.


#82 [紫陽花]
会ってまだ数時間しかたっていないが、こんなに不安げな表情をする傳がおかしく思えた。

黒スーツの男から逃げたときのあの傳の余裕が今では懐かしい。

「なにビビってんだよ!!あの本ってそんなに大事なわけ?」

「本も大事だけど、一番大切なのは君なんだよ……」

「はぁ?」

頭がついていかない。
衛も真紀も真剣な表情で央里を見つめている。

⏰:08/08/11 21:44 📱:F905i 🆔:hqB5Bdl.


#83 [紫陽花]
「訳分かんないから!!俺がどうしたの?」

本の秘密なんてどうでもよかった。
一人だけ話について行けていない自分が歯がゆい、それだけだった。

「央里分かったから。とりあえず、座ろう」

衛の提案で木で出来たクリーム色の四人掛けのテーブルに座る。

⏰:08/08/11 21:44 📱:F905i 🆔:hqB5Bdl.


#84 [紫陽花]
央里の正面に傳。
央里の左隣に衛。
そして衛の正面に真紀が座る。
榎久はどこからかもってきたパイプ椅子の背もたれをこちら側に向け、もたれ掛かるように座った。

そしてテーブルの上には“アダムの唄”が置かれている。

⏰:08/08/11 21:45 📱:F905i 🆔:hqB5Bdl.


#85 [紫陽花]
「じゃあ、まずはこの“アダムの唄”から説明しようかな……」

傳は古びた本を指差しながら央里を見た。

「この本は、人類の祖先であるアダムの残した未来なんだ……」


神が作りし最初の子供。
名前はアダム。
神はアダムの肋骨からイヴを作り彼らに楽園を与え、さらにイヴとアダムから数多の人類を創造させた。

⏰:08/08/14 01:17 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#86 [紫陽花]
それから二人は知恵の実、まぁ林檎を食べてしまい楽園から地球へと追放されてしまったんだけど……。

「ここまでは大体知ってるよね?」

コクコクと央里は頷いた。
そして早く続きを話してくれと言わんばかりに傳を見つめる。

「楽園を追放された時にアダムはとんでもない罪を犯した……」

⏰:08/08/14 01:18 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#87 [紫陽花]
知恵の実を食べ、邪悪な知識までも手に入れてしまっていたアダムは、地球に追放される日に神様の日記を盗もうとしたんだ。

それもただの日記じゃなくて、未来のことを記した神のみぞ知る地球の未来予想日記を。

「分かった!!それがこの本なんだろ?」

央里は勝ち誇ったように“アダムの唄”を指差す。
だが、否定するように傳は首を横に振った。

「相手は神様だよ?人間が太刀打ちできるはずがなかった……」

⏰:08/08/14 01:19 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#88 [紫陽花]
盗むところを神に目撃されたアダムは急いでイヴのもとへ走り出し、逃げようとした。

だけど神は神力と呼ばれる不思議な力を持っていたから、逃げるアダムを追いかけながら日記を燃やそうとしたんだ。

邪悪な知識を手に入れてしまったアダムに渡すぐらいなら燃やしちゃえと思ったんだろうね。

「ちょ、神様どんだけ短気……」

「それだけこの本は大切なものだったってこと……」

⏰:08/08/14 01:20 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#89 [紫陽花]
日記にはこれから地球にどんなことが起こるかが事細かに記されていたからね。

今から地球に降り立つ自分たちに神の日記さえあれば、どんな天災も回避できる。

アダムはそう考えたんだよ。

まぁ、神は日記を燃やすことに成功したんだけど、アダムは神と同じぐらい頭のキレる奴だった。

その証拠に神に本を燃やされる寸前に2〜3頁を素早く破り地球へと持ち去った。

⏰:08/08/14 01:22 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#90 [紫陽花]
「それが“アダムの唄”の元となるものだよ……」

真夏の夜、宇峰家には傳の声だけが響き渡っていた。
誰一人と口を開くものはおらず、傳の話に耳を傾ける。

そして傳の話はまだ続く。

「地球に降りたったアダムは盗んだ日記を元に、ある一冊の本を作った……」

その本には原本である神の未来予想日記に似た、数々の予言が記された。

⏰:08/08/14 01:23 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#91 [紫陽花]
まぁ、アダムも神様の子である以上、未来を推測または予測するぐらいの能力は持っていたみたいだから。

「神の未来予想日記の切れ端から作られた本が、この“アダムの唄”なんだ……!!」

話し終えた傳は央里の瞳を見ながら、事前に真紀に出されていた水を一口のんだ。

⏰:08/08/14 01:24 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#92 [紫陽花]
“おいおい、突拍子すぎだろ……”

たった5分程度話を聞いただけなのに、央里はまるで映画を見た後のような気だるさを感じていた。

この古びた本にこんな過去が隠されていたなんて……。

最初はただのタネも仕掛けもあるおかしな本とばかり思っていた。

興味本位で話を聞いたものの、この本の壮大な過去に見合うほどの反応をどうやって見せたらよいのか分からない。

⏰:08/08/14 01:25 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#93 [紫陽花]
「なぁ、これ……って、本当に全部事実だよな?」

何も言わず傳は頷いた。

「その証拠に、ここを見て……」

傳は“アダムの唄”の表紙をめくり、1頁目を央里に見せた。
茶色く変色した紙に黒いインクで書かれたような文字が記されている。

「なんだこれ?日本語でもないし英語でもない……」

薄い茶色の紙の上には子供の落書きのような、何かの記号のような、不思議な“形”をしたものが書かれていた。

⏰:08/08/14 23:06 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#94 [紫陽花]
「これはイルドュラス文字といって、神の住む世界で使われていたと言われる文字だよ……」

央里が物珍しそうにイルドュラス文字を眺めた後、ピクッと何かに気付いたように頭を上げた。

「なぁ、お前はこれが読めんの?」

「僕はこの文字をひらがなを学ぶ前に覚えさせられたんだ。だから読むことが出来るよ……」

文字を学んだ日々が懐かしいとでもいうように、どこか穏やかな優しい口調で答えた。

⏰:08/08/14 23:06 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#95 [紫陽花]
「そして、ここにはこう書いてある。『私たちの子孫はやがて地中から生活に変化をもたらす油を手に入れるだろう』ってね……」

「油?……まさか油って!?」

「そう。今の僕たちの生活を支えている“石油”を表している……」

もちろん何万年、何億年前に石油の存在を知る者などいない。

なのに“アダムの唄”は、はっきりと石油について予言を記している。
これは神とアダムの予言の力の証拠だ。
他にも色々な予言が書かれててあるよ。

そしてまた傳は1頁めくった。

⏰:08/08/14 23:08 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#96 [紫陽花]
「ここからまた予言が始まるんだけど「ちょっと待て」

さらに説明を続けようとする傳の言葉を央里が遮った。
傳は突然の言葉に驚いたように央里を見る。

「なぁ、大事なことを忘れてたけど、その神様の日記と俺がなんで関係あんだよ?」

神だの予言だの自分には全く関係ないファンタジーなことばかり話されてもピンとこない。

それによく考えてみれば、何故自分のことから、こんなに話が肥大しているのかも分からない。

⏰:08/08/14 23:09 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#97 [紫陽花]
「そのことは父さんから話そう」

今まで沈黙を守っていた衛が急にしゃべりだした。

「衛さん……」

「説明ありがとう。でも、ここからは宇峰の問題だからね。ちょっとだけ口を挟ませてもらうよ」

そして衛は顔だけを隣にいる央里に向け、ニヤリと笑って

「ちょっと長くなるけど集中しろよ」

そう忠告した。

⏰:08/08/14 23:12 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#98 [紫陽花]
アダムは人間だ。
だからいずれ死を迎える。

そこら辺のことを考えてアダムはイヴと共に、生きているうちに沢山の子孫を残していった。

といっても、せいぜい10人程度だったらしいが……。

たが、そこで大事なことはアダムたちが子を作ったってことじゃない。

その子孫たちにアダムの素晴らしい才能が分け与えられたってことだ。

⏰:08/08/14 23:13 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#99 [紫陽花]
アダムは唯一の神から生まれた人間。
だから神も自分の持つ才能を全てとはいかないが、数多く与えた。

「は?才能って?」

黙って話を聞いていた央里だが思わず疑問を口に出していた。

「ん〜……例えばクラスに一人は、ずば抜けて足の速い人いるでだろ?その人はアダムの『俊足の才』を持ってるんだよ」

頭のいい人は『勉学の才』
話が上手い人は『話術の才』
とか色々才の種類はある。

そして必ず一人一つ才を受け継ぐようにアダムの血のシステムが、我々の体の中には造られているんだ。

⏰:08/08/14 23:14 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#100 [紫陽花]
「じゃあさ、俺にもその才ってのがあんの?」

「もちろんさ!!」

得意そうに衛は断言した。
切れ長の目を不自然なぐらい少し垂らしながらではあったが。

だが、そんな衛を横目に見ながら央里は一瞬真紀の瞳が悲しげに曇ったことを見逃さなかった。

「じゃあ聞くけど、お袋。俺の才って何なの?」

⏰:08/08/14 23:18 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


#101 [紫陽花]
父親譲りの切れ長の細い目を少しつり上げて央里は問う。

真紀は下唇を軽く噛み、いつもはクリクリと可愛らしく動いている瞳をギュッと瞑り、ゆっくりと重い口を開いた。

「央里、あなたの才は……」

真紀は今にも泣きそうな顔で央里を見つめる。

たった数秒の躊躇いが央里を何故か不安にさせた。

“なに躊躇ってんだよ!?”

そしてまたも数秒躊躇ってから真紀は意を決したように前を、央里を見据え叫んだ。

「あなたの才は……『運命を変える才』なのよ……!!」

⏰:08/08/14 23:23 📱:F905i 🆔:Ex7GHojw


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