○アダムの唄○
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#35 [紫陽花]
:08/07/30 07:24
:F905i
:SKCDtYyY
#36 [紫陽花]
――――翌日――――
央里はいつものように教室にいた。まるで昨日の黒スーツの男が夢であったかのように、央里の周りは時を刻んでいる。
「ねぇ、ねぇ。今日転校生来るんだってぇ〜」
「マジ!?男!?女!?」
「かっこいいといいなぁ〜」
「あっ!!2組の矢田君たち、別れたらしいよ〜」
「マジで〜!?」
クラスの女子の関心はつねに噂や人の恋愛について。
:08/07/30 07:25
:F905i
:SKCDtYyY
#37 [紫陽花]
「誰からその情報仕入れたんだか……」
群れる女子たちを横目に央里は昨日のことを考えていた。
“なんで俺が……?”
“そもそもアイツは誰だ?”
そんなことを考えているうちに学校内にはHRを始めるチャイムが響き渡り始めた。
:08/07/30 07:26
:F905i
:SKCDtYyY
#38 [紫陽花]
「ほら――。席付け〜」
チャイムと同時に央里のクラスの担任である中島が声を張り上げながら教室に入る。
体育教師である彼は、いつもナイキのTシャツを愛用し、短パンにサンダルといったラフな格好で教壇に立つ。
「え〜、今日は転校生を紹介する。喜べ女子ぃ!!転校生は男だ〜!!」
次の瞬間、一斉に女子の声は黄色く、そして1オクターブ高くなる。
:08/07/30 23:37
:F905i
:SKCDtYyY
#39 [紫陽花]
「じゃあ、入ってこい」
そして、中島はドアのところに立っているのであろう転校生に声をかけた。
そして、転校生は躊躇いながらも中島の隣、すなわち教壇の前に立つ。
彼の髪は少しワックスを使って流れを作っており、ほかの学生と比べれば髪の色が薄い。
それに、少したれ目な瞳の色も黒ではなく茶色。
加えて肌の色も白いため貧弱そうなイメージを与えそうだが、決して細いわけではなく、しなやかな体つきと言った方がしっくりくる。
:08/07/30 23:38
:F905i
:SKCDtYyY
#40 [紫陽花]
「野胡瀬 傳(のこせ つたえ)です。よろしく……」
傳はニコニコと愛想を振りまくような自己紹介はせず、他人に興味は無いといったように人を拒絶するような態度で淡々と、自己紹介した。
“無愛想な奴……でも、女子がほっとかないタイプだな”
傳が中島の指定した席に座る姿を横目に、央里はまたも昨日のことに意識を引き戻した。
:08/07/30 23:40
:F905i
:SKCDtYyY
#41 [紫陽花]
一方、席に着いた瞬間からありきたりな質問を投げかけられている傳はどうしようもない苛立ちを感じていた。
傳は席の周りをぐるりと生徒に囲まれ、まったく身動きがとれない。
「野胡瀬君アドレス教えて!!」
「傳って呼んでいいか?」
「野胡瀬、部活は何に入る?」
そんな質問に傳は
「あぁ……」
「うん……」
「別に……」
と、単文かつ素っ気なく答えていく。
:08/08/01 23:51
:F905i
:csJNuxtY
#42 [紫陽花]
「や〜ん。野胡瀬君ってクール!!でもそこがカッコイイー!!!」
決してしゃべりが上手いわけでも愛想を振りまいているわけでもないのに、一部の女子の間で早くもファンクラブができそうなほど、野胡瀬 傳という人物はたった何分間かでこのクラスの人々を魅了した。
たった一人、央里を除いては。
:08/08/01 23:53
:F905i
:csJNuxtY
#43 [紫陽花]
央里は一時の好奇心で群がるのはあまり好きではない。
そのため傳の周りに群をなす女子や、傳にいろいろと質問を投げかける男子の中に央里の姿はなかった。
「なぁ。あの端の席でぼーっとしてる奴、だれ……?」
傳は隣にいた女子に問う。
ちょっとした人だかりの出来ているこの場で、野次馬精神も見せずに物思いに耽ってるなんて珍しい奴だ。
:08/08/01 23:54
:F905i
:csJNuxtY
#44 [紫陽花]
「あぁ〜、宇峰君ね。端にいるのは宇峰 央里君よ。彼、1人が好きみたい」
“宇峰央里……うみね……おうり……!!!!”
次の瞬間、まるで何かを思い出したような、驚きの表情へと傳の顔は一変した。
「アイツが……!!」
これまでクラスの生徒からの質問さえも無関心に返事をしていた傳が初めて見せた驚きと好奇心の目に、質問を受けた女子は目を見張る。
:08/08/01 23:56
:F905i
:csJNuxtY
#45 [紫陽花]
「なに?知り合いとか?」
「……いや、違う。」
やはり生徒からの質問に素っ気なく答える傳を見て、女子は
「そう、なの?」と言い残して疑問の残る頭のまま友達の元へ去っていった。
「アイツがアダムの……」
小さく漏らした傳の声と、不敵に笑う彼の口元に誰一人として気付く者はいなかった。
:08/08/01 23:57
:F905i
:csJNuxtY
#46 [紫陽花]
――――――…………
―――――………
「で、何でお前が横にいるわけ?」
央里は嫌みったらしそうに視線を右に振る。
「別にいいじゃん……帰る方向が一緒なだけだよ……」
揺れる電車の中、央里の右隣には今日転校して来た傳の姿があった。
どうやら央里と傳の家の方向が一緒らしく、偶然同じ車両に乗り合わせることになったのだ。
:08/08/01 23:58
:F905i
:csJNuxtY
#47 [紫陽花]
「ただでさえ帰宅ラッシュで人が多いってのに……転校生まで一緒かよ」
央里は吊革に右手を乗せ、ぶら下がるような形で愚痴をこぼす。
「……着いたみたいだけど」
電車は央里の住む町へと停車した。
ドアが開いた瞬間、冷房の効いた車内へ一気に手を伸ばす熱風は、外と中の気温差を十分に体感させる。
そして、央里と傳は隣に並ぶ形で駅の外へと出た。
:08/08/03 01:47
:F905i
:zJcFs6SU
#48 [紫陽花]
「ねぇ、ちょっと聞きたいんだけど……」
「なんだよ、たった一日でクラスの人気者になった転校生」
大きな道路沿いを歩いていたときに傳は央里に話しかけた。
「そーいう言い方やめてよ……君の『央里』って名前、誰がつけた……?」
傳は興味深そうに問う。
:08/08/03 01:48
:F905i
:zJcFs6SU
#49 [紫陽花]
「名前?たしか親父がつけたって言ってたよーな……」
眉間にしわを寄せて考え込む央里の隣で、傳が小さく
「やっぱり……」
と言った。もちろん央里には聞き取れないほどの小声で。
「あとさ、女の子から聞いたんだけどあんた一人が好きなわけ……?」
:08/08/03 01:49
:F905i
:zJcFs6SU
#50 [紫陽花]
「はぁ!?何でお前にそんなこと言わなきゃ「見つけた……」
央里と傳が口論していると、背後から聞き覚えのある冷たい声がした。
「おまえ!!」
央里の表情が一気に固くなる。
そう、背後から声をかけたのは昨日央里の命を狙った、黒スーツの男だった。
:08/08/03 01:50
:F905i
:zJcFs6SU
#51 [紫陽花]
「この前は逃げられちゃったんだよね〜だから今回はすぐに殺してあげるから♪」
今回も楽しそうに『殺してやる』と宣言する。
「おい、アイツやべーから逃げるぞ!!」
央里は小声で傳に話しかける。そう易々と逃げられるわけ無いと思っていたが、ここで転校生まで危険にさらすわけにはいかない。
央里の背中をいやな汗がつたう。
:08/08/03 01:52
:F905i
:zJcFs6SU
#52 [紫陽花]
「君はもう“ネイク”からも狙われているのか……」
傳はやれやれといったように、がっくりと肩を落とす。
「おっ!!央里君の隣にいるのは野胡瀬族の傳君じゃないか!!!いや〜ここで会えるなんて、君たちもかなり切羽詰まってるみたいだね」
やはり男は傳にでさえ楽しそうに話した。
黒スーツの男には喜怒哀楽の喜しか感情がないのか?
央里がそんな疑問を抱くほどにスーツの男の声は弾んでいた。
:08/08/03 01:54
:F905i
:zJcFs6SU
#53 [紫陽花]
「って、お前アイツと知り合い?」
央里は驚きを隠せなかった。
二度も自分を殺そうとしている奴と、今日転校してきたばかりの奴が知り合いだったなんて偶然なのだろうか。
「知り合いじゃないよ……正しくは敵さ……」
そういい残すと傳は右肩に背負っていた鞄をドスっと地面におろし、何やらごそごそと探し始めた。
:08/08/03 01:56
:F905i
:zJcFs6SU
#54 [紫陽花]
「あった……」
傳が取り出したのは一冊の古びた本。
本の厚さは3センチほどもあり、辞書の厚みをなくしA4サイズまで引き延ばしたような形をしている。
所々紙が剥げ、茶色く変色している表紙には「アダムの唄」と書かれていた。
:08/08/03 01:57
:F905i
:zJcFs6SU
#55 [紫陽花]
「こんな時に読書かよ!!」
央里は怒ったように傳を睨む。それに対して、傳は少し驚いたように央里を見てこう言った。
「君は“アダムの唄”についても知らないのか……」
はぁ、とため息を付きながら傳は立ち上がる。
「さて、“ネイク”の使者さんは、これを知ってるよね……?」
:08/08/03 23:37
:F905i
:zJcFs6SU
#56 [紫陽花]
強がってはいるが央里の膝が震えていると気付いていた傳は本を左手に持ち、傳は央里をかばうような形で一歩前に進む。
その傳の表情には余裕さえ感じられた。
「知っているも何も、我々の道標だよ、ソレは」
“ネイク”の使者である黒スーツの男は以前にもましてニタニタと気味の悪い笑みを浮かべていた。
少なくも、傳の後ろに隠れるように立っている央里にはそう見えた。
:08/08/03 23:39
:F905i
:zJcFs6SU
#57 [紫陽花]
「じゃあ、この本の裏技知ってる……?」
傳は、まるで悪戯を仕掛けた子供のようにニヤっと笑ったあと右手に持つ“アダムの唄”に視点を落としペラペラとページをめくっていった。
「裏技って?」
央里は一歩前にでている傳に問う。
「ねぇ、央里はここから逃げたい……?」
:08/08/03 23:40
:F905i
:zJcFs6SU
#58 [紫陽花]
「あ?そりゃ、逃げたいに決まってんだろ!!って、俺の質問はスルーか!?」
「じゃあ、ここから逃げたいって強く願ってて……」
訳が分からなかった。それでも央里は傳の言葉に圧倒され意識を集中するしかなかった。
「話し合いは終わったかね?」
黒スーツの男はニヤニヤと笑みを絶やさず笑いかけた。
:08/08/04 23:56
:F905i
:FvnuzxKY
#59 [紫陽花]
「まあね。央里、この本に手を当てて……」
「お、おう」
不安げな表情で央里は右手を本に添えた。
すると、古びた本から無数の光の泡が飛び出し二人の周りを覆っていく。
「な……!!」
ニヤニヤ顔のスーツの男もこの時ばかりは驚愕の表情を表した。
小さなピンポン球のような泡から、ソフトボール大の泡まで、様々な形の泡が本から溢れ出す。
もう央里たちの姿は見えないほどに泡は彼らを包み込んだ。
:08/08/04 23:57
:F905i
:FvnuzxKY
#60 [紫陽花]
その中心部あたりから傳の声が響きわたった。
「ばいばいネイクの使者さん。言っとくけど、僕は君達を絶対に止めるから……」
その声には先ほどまでの興味のなさそうなものとは違い、覇気のある意志を固めた力強さを思わせる。
そして、ヒュッと風が吹いたと思うと二人を包んでいた泡たちはシャボン玉のように風に吹かれ空へと消えた。
泡がなくなった後の場所には二人が立っているわけでもなく、夕焼けに照らされるアスファルトだけが残っていた。
:08/08/04 23:58
:F905i
:FvnuzxKY
#61 [紫陽花]
――――――………
―――――……
「おいッッッ!!お前はマジシャンか!?てか、ここどこだよ!?」
「もう、騒がしいなぁ。君が逃げたいって言ったから僕は手を貸しただけなのに……ここは君んちの近くさ……」
「それに普通、本から泡が出てくるか!?何の仕掛けがあんだよ?」
「あれは普通の本じゃないんだよ……」
:08/08/06 20:38
:F905i
:Zot1GjyU
#62 [紫陽花]
体に付いた小さな泡たちを片手で払いのけながら央里は口をとがらせた。
二人が口論になりかけたところで傳が「後で詳しく説明するから……」と、うなだれながら言ったのでその場は治まった。
「……分かったよ。絶対あの本のにタネを教えてもらうからな!!それとアイツから逃げられたことには、感謝してるから……」
央里の頬は照れからなのか、夕日のせいなのか、少し紅くなっていた。
:08/08/06 20:40
:F905i
:Zot1GjyU
#63 [紫陽花]
「そりゃ良かった……」
傳も少し垂れた目で央里に笑いかけた。
「じゃあ、俺帰るし」
央里は足下にあった鞄を肩にひっかけ周りを見渡す。
“本当に家の近くだ……アレ?俺アイツに家の場所教えたっけ?アレ?”
:08/08/06 20:40
:F905i
:Zot1GjyU
#64 [紫陽花]
央里の頭上にハテナマークが飛び交う。
ソレを見ていた傳は少し口元を緩ませ、すかさず一言付け加えた。
「僕、今日から真紀さんと衛さんの家にお世話になるから…「はぁぁぁああああ!?」
静かな夕暮れの中央里の叫び声だけがこだました。
衛とは央里の父である。
傳が真紀と衛の名前を口に出したことにも驚いたが、それ以上に“お世話になるから”の言葉に反応を見せた。
:08/08/06 20:42
:F905i
:Zot1GjyU
#65 [紫陽花]
「おまッッッ!!なんで!?」
「そんなに僕と居られるのが嬉しいの?」
「そーじゃなくて!!俺んちに泊まるのかよ!?」
「うん」
「はぁああ!?訳わかんね!!」
央里は両手を頭に当て自分の髪の毛をグシャグシャに引っ掻き回した。
まるで悪い夢でも見ているように。
:08/08/06 20:44
:F905i
:Zot1GjyU
#66 [紫陽花]
「別にいいじゃん。これの秘密知りたいんでしょ……?」
傳は鞄の中からチラリと覗くアダムの唄を指差す。
「ま、まぁ」
「じゃあ、立ち話もなんだし帰ろうか……」
「お、おう」
すっかり傳のペースにはまってしまった央里は渋々、傳を家へと案内した。
:08/08/06 20:45
:F905i
:Zot1GjyU
#67 [紫陽花]
―――――――………
―――――………
「はい、はい。その通りでございます。すいません。本当に申し訳ありません」
ある薄暗い廃屋の中で黒スーツの男は携帯の向こう側の相手に謝罪の言葉を並べていた。
額にはうっすら汗。
スーツの男は最後まで相手に敬意を払いながら電話を切った。
「もう私に“次”は無いみたいですね……」
スーツの男は廃屋の窓から、沈みかける夕日を見てつぶやいた。
:08/08/06 20:46
:F905i
:Zot1GjyU
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