○アダムの唄○
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#4 [紫陽花]



1頁《始まりの時》


⏰:08/07/22 23:46 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#5 [紫陽花]
「貴方を殺させていただきます。……地球の未来のためにね」

そう言って黒スーツの男は胸の内ポケットから拳銃を取り出した。黒々と鈍い光を放つソレのは言うまでもなく少年の頭へとねらいを定め、運命を握る人差し指から引き金が引かれるのを今か今かと待ち望む。

――10分前――

毎日30度をこす真夏日をむかえ、照りつける太陽は容赦なくアスファルトを焦していた。ゆらゆらと地面から空へと立ち上る蜃気楼は照り返しという名で太陽とともに熱の二重奏を生みだす。

⏰:08/07/22 23:47 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#6 [紫陽花]
そんな昼過ぎの一番太陽が猛威を振るう炎天下の中で人々は日傘、サングラスを愛用し、通り過ぎる人からは日やけどめと化粧品、香水の混ざり合った、決していい匂いといえない香りが漂っていた。


「君が、宇峰央里くんだね」

そんな天然サウナのような街中で一人の男は一人の少年を呼び止めた。

⏰:08/07/22 23:48 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#7 [紫陽花]
男は黒いスーツに黒いネクタイ、黒いサングラス。
サングラスのせいで年齢や表情すらも分からないが男はこの真夏日の中で汗一つかかず真っ直ぐに少年の方を向き、口元にはうっすらと笑みをこぼしている。

まるで長年探していたものを見つけたような、心からの安堵感を感じさせる笑み。

⏰:08/07/22 23:49 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#8 [紫陽花]
黒スーツの男とは対照的に名前を呼ばれた「宇峰央里」という学校帰りなのだろう、少年は白いシャツに、黒い学生服のズボン姿。
今時の学生には珍しく髪の毛はワックスによりツンツンに逆立っておらず微かに感じる夏風に髪が揺られ涼しさを生み出している。

左肩に鞄を引っ掛け、右手にはどこかの人気ブランドのロゴの入った白地のタオルを握っていた。

どこからどう見ても、ただの学生にしか見えない。

⏰:08/07/22 23:50 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#9 [紫陽花]
早速訂正

×「宇峰央里」という学校帰りなのだろう

○「宇峰央里」は学校帰りなのだろう

⏰:08/07/22 23:52 📱:F905i 🆔:TJhJF/NA


#10 [紫陽花]
「そうですけど。……おじさん誰?」

頬を伝う汗を拭いながら少し挑発するように央里は問う。

“……コイツ、このくそ暑い中汗一つかいてねぇよ”

央里の瞳はしっかりと男をとらえ、相手が何者なのかを知ろうと元々つり上がった目を更に細くし警戒心を露わにする。

⏰:08/07/23 23:45 📱:F905i 🆔:CeS8fKDc


#11 [紫陽花]
央里と黒スーツとの距離は2〜3メートル。黒スーツは央里の質問に答えるわけでもなく、右足を一歩前に進めた。

「ずっと君を捜していたんだよ。いや〜長かった。これで僕の仕事も終わりだ」

両手を横に広げ、満足そうに男は央里に向かってさらに足を進める。

⏰:08/07/23 23:46 📱:F905i 🆔:CeS8fKDc


#12 [紫陽花]
「ちょっと!!俺の質問に答える気ないの?」

それでも男はゆっくりと、一歩また一歩と央里に近づく。二人の距離は確実に縮まってきた。

端から見ればこの炎天下に両手を広げ少年に歩み寄る男なんて気持ち悪すぎるだろう。

それに依然として男の口元には笑みがこぼれ、表情の分からない顔でも歓喜していることぐらい読み取れる。

⏰:08/07/24 21:45 📱:F905i 🆔:QCllXyKU


#13 [紫陽花]
央里は瞬時に黒スーツの男から視線をはずし相手に背を向ける形で歩き出した。

“コイツ……なんかやばい”

央里の第六感がそう告げる。

相手に背を向けるのは危険かもしれないがここは、逃げるのが一番だ。




「待てよ」

⏰:08/07/24 21:46 📱:F905i 🆔:QCllXyKU


#14 [紫陽花]
央里が背を向けた瞬間、男は再び彼を呼び止めた。
ただ先ほどと違って男の呼び声が酷く冷たい。この暑い熱の世界の中で、この声だけが氷のように冷たく、鋭い氷柱となって央里の行く手を阻む。


央里の足は動かなくなった。いや、正しくは動けなくなったのだ。その場の空気がピンと張りつめる。そう、切れる前の糸のようにキリキリと引っ張られ、一瞬でも気を抜けばすべてが切れてしまうようなプレッシャーを、央里はたったあの一言で感じていた。

⏰:08/07/24 21:47 📱:F905i 🆔:QCllXyKU


#15 [紫陽花]
行き交う人たちは楽しそうにおしゃべりを続け、外は暑いねと、愚痴をこぼす。だが呼び止められた央里には周りを気にする余裕なんてもはや残されていなかった。

スーツの男に呼び止められ、先ほどの威勢の良さとは反対に央里は汗すらも拭うことも出来ず、膝は小刻みに揺れる。

⏰:08/07/25 23:11 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#16 [紫陽花]
あの男は何者なのか?

分かっていることはただ一つ。央里の体から発せられている、
“アイツには近づくな”

という危険信号だけ。
そして逃げられないと分かった今、相手に背中を向けたままというのは自殺行為に値する。

央里は意を決して勢いよく後ろを振り向き再び黒スーツの男に視点を会わせた。
が、央里の瞳には両手を広げた変な男が映るのではなく、驚きのものが映し出された。

⏰:08/07/25 23:12 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#17 [紫陽花]
「動かないでください」

黒スーツの男の広げられた両手はいつの間にか胸ポケットへと滑り込み、あるものを掴みだしていた。そしてソレは、しっかりと央里の頭にねらいを定める。

「おじさん……ここ日本だよ?物騒じゃないのかなぁ」

スーツの男に握られていたソレとは、拳銃。央里の顔は恐怖にゆがみ、恐怖と不安の混じり合った汗はゆっくりと頬を伝って顎先から地面へとたれ落ちる。

⏰:08/07/25 23:13 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#18 [紫陽花]
行き交う人々は最初こそドラマか何かの撮影だと思い込み通り過ぎ去っていったが、どうにもカメラが見あたらない、と騒ぎ出していた。

“本当にあの少年は殺されるのではないか”と。

そして一人の女性が鞄から携帯電話を取り出し、隣にいた男性の後ろに隠れるように電話をかけ始めた。

⏰:08/07/25 23:14 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#19 [紫陽花]
ちょうど黒スーツの男の後ろ側に位置して女性は電話をかけたため、スーツの男には死角となってそれは見えない。

“このまま、時間を稼いでれば警察が……”

男は依然として銃口を央里の頭にあて引き金に左人差し指を掛けている。央里の視野の真ん中には銃口と黒スーツの男を、端っこの方ではしっかりと女性をとらえ、瞬きさえも忘れて双方に気を配る。



「はい、早く来てください!!」

⏰:08/07/25 23:15 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#20 [紫陽花]
女性は電話をし終え口元に添えていた右手を央里の方へ向け小さくガッツポーズをする。
さながら、後少し踏ん張れとエールでも送っているのだろう。
央里は横目でソレを確認する。

“あと少し……”

央里に希望の光が射し込んできた。
その光はすぐに消えてしまいそうなほどか細いものだが、今の追いつめられた央里の精神には十分な支えとなった。

⏰:08/07/25 23:16 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#21 [紫陽花]
しかし、いくら希望の光が射そうともこの炎天下の中の危機的状況は変わらない。
変わったことと言えば野次馬が増えてきたことぐらいである。
しばらくの間、央里は黒スーツの男を見つめ、黒スーツの男も央里を見つめる。

この時央里は1分、いや、1秒をとても長く感じていた。
そんな央里にとって、今の状況は耐え難く、なかなか進まない。

⏰:08/07/25 23:17 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#22 [紫陽花]
「誰かが警察を呼んだみたいですね。サイレンが聞こえます。まあ、貴方を殺した代償として私が牢屋に入るぐらいなら安いものですけど……」

不意に男が口を開いた。独り言にも近いその口調は、どこか満足げで、もしかしたら捕まるかもしれないというこの状況下には不釣り合いなほど弾んでいた。

⏰:08/07/25 23:19 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#23 [紫陽花]
「はは……おじさん、シャレになんねーよ」

“こりゃ、マズいな……。警察を待ってらんねーみたいだ”


スーツの男は央里をこの人だかりの中で殺すことに怯えるわけでもなく、むしろ名誉に近いものを感じているようだ。
その証拠に、サイレンがだんだんと近づいてきても、物怖じせず、ずっしりと拳銃を構えている。

⏰:08/07/25 23:20 📱:F905i 🆔:Zi..nvuo


#24 [紫陽花]
“くそっ!!!逃げるしか……ないな!!”

そう思うのと、央里の体が動くのは同時だった。
右足に力を入れて右に駆け出す。もちろん黒スーツの男から視線は外していない。
それに続いて銃を構えていた男も右側へ腕を旋回させ――…

パンッッッ!!

打った。
弾丸は央里の左足元に着弾し、ガキンと鈍い音を鳴らす。

⏰:08/07/27 00:11 📱:F905i 🆔:8Tr2lYKI


#25 [紫陽花]
「キャ――――!!」

女性の叫び声が聞こえ、それを合図に人々は急に騒ぎ出し、狂ったようにその場から走り去った。

「逃がしません……」


黒スーツの男は首をキョロキョロと振り央里の姿を探すが、突然の銃声で人が波のように逃げ出したため姿を追うことは不可能に近いことは目に見えていた。

⏰:08/07/27 00:12 📱:F905i 🆔:8Tr2lYKI


#26 [紫陽花]
それに耳を澄ませばサイレンがだんだん近づいてくるのがわかる。

「チッ……」

スーツの男は舌打ちに近いものを発して、騒ぎ立てる人混みの中へ影のように静かに姿をくらました。

⏰:08/07/27 00:13 📱:F905i 🆔:8Tr2lYKI


#27 [紫陽花]
―――――――………

―――――………

「あ――!!死ぬかと思った……俺が何したってんだよ!!!!!」

無事に人混みに紛れ逃げることが出来た央里は家の近くの道を歩いていた。
全力疾走して逃げたのだ、央里は肩で息をし、呼吸も荒々しい。
拭っても拭っても、額から、頬から、背中から汗が噴き出し薄っぺらいシャツを濡らしていく。

⏰:08/07/28 00:16 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#28 [紫陽花]
「とりあえず、帰るか」

そう呟いて央里は夕日の沈む方へとまた足を進めた。

―――――――………

―――――………

「ただいまー」

「あら、お帰り。おうちゃん」

ここは、結構な金持ちたちが住む住宅地の一角であり、同時に央里とその家族の住む一軒家のある場所だ。
周りはアスファルトでできた家々が立ち並び、個々の持つ庭の季節にあわせた花々が凛々と咲き誇っている。

⏰:08/07/28 00:17 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#29 [紫陽花]
>>28 訂正
× 周りはアスファルトで
○ 周りはコンクリートで


なんてミスだ……

⏰:08/07/28 00:19 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#30 [紫陽花]
「おうちゃんって呼ぶなよ、お袋」

「え〜いいじゃない」

央里の母、真紀は台所で夕飯のカレーを作りながら、息子をからかうようにケタケタと笑いながら答えた。

カレーの少し辛い臭いの充満した台所で、笑う度に小刻みに揺れるショートカットが真紀が央里に背を向けていても、からかうことを心から楽しんでいる様子を連想させる。

⏰:08/07/28 00:19 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#31 [紫陽花]
「それより、おうちゃん。病院行ってきた?今日は検査の日でしょ」

靴を脱ぎ、靴下までも脱いでいた央里の動きが一瞬止まる。

「い、いや……行こうとしたんだけど「ふ〜ん。行こうとしただけなんだ」

まさに蛇に睨まれた蛙。央里は目を泳がせ、背を向けている真紀に苦笑いをする。

⏰:08/07/28 00:21 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#32 [紫陽花]
「大変だったんだよ!!ホントに色々あって……」

そこまで言って央里は口を閉じた。

“殺されそうになったなんて言えるかよ……”

親にこれ以上、心配をかけたくない。それが央里の本心だった。

「あんたね――…」

はぁ、と真紀は大きなため息を吐く。

⏰:08/07/28 00:23 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


#33 [紫陽花]
央里は半年に一度、病院へ通っている。
生まれた時から肋骨が一本欠けており、それを不思議に思った医者は半年に一度病院へ来てレントゲンを撮るように央里の両親に話していた。

「まぁいいわ……着替えてきなさい。すぐ夕飯にするから」

「……おう」

央里は煮え切らない表情で台所を通り抜け自分の部屋へと進んだ。

「ついにあの子もアイツらに見つかってしまったのね……」

央里のいなくなった台所で真紀は呟いた。
その顔はどこか悲しげで、やりきれない、といったものだった。

⏰:08/07/28 00:24 📱:F905i 🆔:RrJlWcGc


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