【コラボ企画】秋のラノベ祭り投下スレ【withイラスト板】
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#97 [紫陽花→渚坂 さいめ]
時は20XX年。
幻と言われていたドラゴンは、この世の支配者と言わんばかりに地に轟き、その生き血を啜った者は不死を得られるという不死鳥もその羽を華麗に揺らしながら空を舞う。
そんな風景が当たり前の世界で、一人の少年が一つの運命と出会う。
この物語は、私たちの知らないもう一つの世界の物語である。
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#98 [紫陽花→渚坂 さいめ]
―――――――…………
―――――………
ある、どんよりとした曇りの日の正午。
憂鬱に広がる曇り空と、その下に一面に広がる草むらが奏でるコントラストは、名もないドラゴン使いの少年の心を分けもなく曇らせていた。
「うぇー。今日も曇りかぁ……」
口をとがらせながらも、少年は思いっきり背伸びをする。
「疲れたなぁー。さぼちゃおっかなぁー……」
このまま倒れ込んで一日中、雲を眺めていたい。
そんな衝動に駆られるが、仕事を放棄するわけにはいかない。
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#99 [紫陽花→渚坂 さいめ]
ドラゴン使いと言っても彼は鑑賞用の小さなドラゴンの仕付け役。
ペットのようにドラゴンを飼うことが流行したこの世界では、彼のようなドラゴン使いが需要のあるものとなっていた。
何十匹の赤い小さなドラゴンたちが逃げないように注意しながら、少年は曇り空を見上げる。
「おい、お前!!」
湿っぽい風がゆったりと辺りを流れた時、空を眺めていた少年は一人の青年に呼び止められた。
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#100 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇ!?オイラのこと?」
不意に呼び止められた少年は不思議そうに首を右に傾ける。
それもそのはず。
さっきまでこの草原には自分とドラゴン達しかいなかったのだから。
首を傾げたときに茶色の髪の毛がふわりと揺れ、ビー玉のような澄んだ碧い目をパチパチさせる少年は森を駆け回る小動物のよう。
「そうだ。ここにお前以外に誰がいる」
少年より、はるかに背の高い青年は少年を見下ろしながら話す。
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#101 [紫陽花→渚坂 さいめ]
だが不思議なことに、服とも言えぬようなボロ布を身に纏っている少年とは打って変わって、背の高い青年はエプロン姿。
さらに左手には鍋つかみに、お玉。
奇妙な格好をした青年は一歩ずつ、少年の近くまで歩み寄る。
「あの……オイラになんのようですか?」
「うむ。特に用はないのだが、お前 名はなんと申す?」
青年 [jpg/24KB]
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#102 [紫陽花→渚坂 さいめ]
チラチラとドラゴンが逃げていないかを気にする少年を無視して、青年は左手に持っていたお玉を少年の目の前に突き出して問う。
「名前?オイラに名前なんて……。オイラはただの、しがないドラゴン使いですから」
困ったように笑う少年を見ながら青年は腕を組み、小さく“そうか”と呟いた。
「名が無いのならば、私がつけてやろう!!そうだなぁ……」
「うぇ!?そんな、オイラに名前なんてもったいないです!!」
慌ててあたふたと手を動かし、精一杯の遠慮を見せたものの、青年の思考は止まることを知らない。
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#103 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うーむ……レイン……よし!!今日からお前の名は『ブルー・レインウェル』だ!!」
“ブルー”とはお前の瞳の色から、“レインウェル”は『レイン』つまり、雨のように全てのモノを洗い流せるように、という意味だ。
そう言い切った後、青年は満足そうに鼻を鳴らす。
「ブルー・レインウェル……」
「なんだ、雨は嫌いか?」
自分に与えられた名前を噛みしめるように呟く少年に対し、不服でもあるのか、と言いたさげに青年は眉をひそめる。
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#104 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「い、いや!!雨は嫌いじゃないです。むしろ好きです!!」
「ならばレインよ、受け取るがいい。我ながら素晴らしいネーミングセンスだ」
またも満足げに鼻を鳴らし、青年は微笑んだ。
そして、最後に一言。
「神である俺様が名を与えたんだからな!!その名に恥じぬように生きるのだぞ」
「はい!!……って、え?」
:08/11/03 14:57 :F905i :WY17HTaw
#105 [紫陽花→渚坂 さいめ]
勢いよく返事をしたレインだったが、一つ彼の頭には疑問が生まれた。
「あなたって神様なんですか?」
「うむ。言ってなかったか?」
たとえドラゴンが轟こうとも、不死鳥が舞おうとも、神がこの地に降りたったというのは前代未聞の事態。
:08/11/03 14:57 :F905i :WY17HTaw
#106 [紫陽花→渚坂 さいめ]
「うぇ!!初めて神様見ちゃった……」
レインは碧い瞳をより一層大きく見開き、エプロン姿の青年を食い入るように見つめる。
「そう驚くでない。神などそこら辺にゴロゴロいる」
青年はフンと鼻を鳴らして、そっぽを向く。
「さて、無断で神界を抜けてきたからギードルの奴が怒って迎えにくるだろうな……」
曇り空を見上げフーっとため息吐き、お玉で頭を掻く青年の表情はその若さに似つかわしくないほど疲れ切ったものだった。
神とはそれほど神経を浪費する役割なのだろう。
:08/11/03 14:58 :F905i :WY17HTaw
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