冷たい彼女
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#333 [ゆーちん]
「島、出る事にした。」


海を見ながら凜が俺にそう言ったのは2月14日。


バレンタインデーのチョコをもらった直後だった。


「…そっか。」

「一人暮らしのマンションがC高に近いから、たぶんC高に行く。」

⏰:08/12/12 23:05 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#334 [ゆーちん]
「じゃあA高と近いから制服デートできるねぇ!」


俺は精一杯、応援の笑顔で振る舞った。


だけどその笑顔は、逆に凜を悲しませてしまった。


「…寂しいんだけど。」

「…。」


何も言えない。


「心は寂しくないの?私が島出てっても平気なの?」

⏰:08/12/12 23:06 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#335 [ゆーちん]
寂しいに決まってんじゃん。


平気な訳ないじゃん。


本当の事言えば、凜の考えを鈍らせてしまいそうで恐かったんだ。


だからって上手い嘘をつけるほど、俺はひねくれて育ってない。


「…行くなって言ってくんないの?」

「…。」


チョコレートを握る手に力が入る。

⏰:08/12/12 23:07 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#336 [ゆーちん]
「嘘でもいいから、引き止めるような言葉、聞きたかったんだけどな。」


凜はそう言って、俺の前を横切って行った。


嘘なんかつけるわけないじゃん。


一人きりになった海は、泣けてくるほど寒かった。

⏰:08/12/12 23:07 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#337 [ゆーちん]
凜に置き去られて正解だ。


でも何かショックでさ。


可愛らしいピンクの紙袋に入れてラッピングされていたチョコレートを持ちながら、島中を歩いていた。


あてもない。


自分の家に帰る気になれず、竜か大輝の家に行こうと思ったけど…辞めた。

⏰:08/12/12 23:08 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#338 [ゆーちん]
だからブラブラしてた。


「心?」


呼び止められて振り向くと、美帆がいた。


「おぉ、美帆。」

「何してんの、こんなとこで。家と真逆の方向じゃん。」

「放浪中。」

「そんな可愛い袋持って?」

「あぁ…うん。」

⏰:08/12/12 23:08 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#339 [ゆーちん]
美帆は何か感づいたらしく、ニヤッと笑った。


「凜と何かあったんだ。」

「…。」

「バレンタインの夜にこんな場所で、そんな暗い顔してるなんて千夏が知ったら怒るよ?」

「…千夏?」

⏰:08/12/12 23:09 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#340 [ゆーちん]
「うん。今日はチョコ渡す相手がいないってピリピリしてた。恋人がいる奴は誰ふり構わず殴り倒してやるーって叫んでたもん。」

「ハハッ。何だそりゃ。」


千夏が暴れるところを想像すると、俺にも笑みが零れた。


「で?恋人のいる幸せな心さんは、なんで泣きそうな顔してんのさ。」

「んー…。」

⏰:08/12/12 23:10 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#341 [ゆーちん]
俺の濁る笑顔を見て、美帆は言った。


「うちおいで。」


俺を抜かして美帆は前をスタスタと歩き始めた。


俺は何も言わずに美帆の後ろをついてった。


「やべー、菊地家とか久しぶりだわ。」

「小学生のころは毎日来てたのにね。中学上がって、心に彼女ができて、それから全然来なくなった。」

⏰:08/12/12 23:10 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#342 [ゆーちん]
「そうだっけ。でもその彼女とは、すーぐ別れちゃったよ。」

「初めての彼女できたってあんな喜んでたのにね。」

「そうだねー。」


懐かしい過去は溜め息が出るくらい背伸びするのに必死だった。

⏰:08/12/12 23:11 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#343 [ゆーちん]
カッコつけてた中1の俺。


カッコつけるのに疲れてきた中2の俺。


カッコつけるのを辞めた中3の今の俺。


子供のままなら、素直に寂しいって言えてたんだ。


もっと大人だったら、凜の未来に入り込む勇気を持てたんだ。

⏰:08/12/12 23:12 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#344 [ゆーちん]
どっちにしろ成長したのかしてないのかわからない自分に嫌気がさす。


「お邪魔します。」


菊地家は何も変わっていなかった。


小学生の頃、よく来た菊地家のままだった。


「心ちゃん!久しぶり〜。」


美帆の母ちゃんは笑って出迎えてくれた。

⏰:08/12/12 23:12 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#345 [ゆーちん]
「こりゃまた色気のない部屋だな〜。」

「は?黙れって。」


ジャマイカちっくな美帆の部屋。


この部屋だけは、いつの間にかガラリと変わってしまっていた。


「あぁ〜。」


溜め息が混ざった声でベットにダイブすると『遠慮ってものを知らないんですか?』と美帆に文句を言われた。

⏰:08/12/12 23:13 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#346 [ゆーちん]
今さら遠慮も糞もねぇよ。


美帆は小さなソファーに座って、俺に聞いた。


「凜と何あったの?」


いきなりですか…。


いや、別に世間話するつもりもないんだけどね。


俺は思い切って美帆に全てを話してみた。

⏰:08/12/12 23:13 📱:SH901iC 🆔:ufvbrGno


#347 []
ええおお

⏰:08/12/12 23:36 📱:W45T 🆔:vPlfI7z6


#348 []
>>1-50
>>51-100
>>101-150
>>151-200
>>201-250
>>251-300
>>301-350
>>351-400

⏰:08/12/12 23:37 📱:W45T 🆔:vPlfI7z6


#349 [我輩は匿名である]
アンカあるっつの

⏰:08/12/13 00:52 📱:F01A 🆔:3VvYcdSU


#350 []
長くて見えないのI

⏰:08/12/13 00:59 📱:W45T 🆔:JMGXsVVg


#351 [ナイト]
めちゃめちゃおもしろいです
はやく続きがみたい

⏰:08/12/13 01:48 📱:SH903i 🆔:GS9ms8SM


#352 [我輩は匿名である]
>>350
自己中なことしてんじゃねーよヴォケ

⏰:08/12/13 08:15 📱:N905imyu 🆔:kTKoX66M


#353 [ゆーちん]
●○●○●○●

すみません

昨日いきなり携帯の調子が悪くなっちゃって更新できませんでした

次からアンカーは50区切りでしますねすみません

●○●○●○●

⏰:08/12/13 16:17 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#354 [ゆーちん]
包み隠さず、全てを相談した。


『島を出てく。』って言われて何にも言えなかった事。


寂しいとか、行くなって言ってくれないの?って凜に聞かれて…何にも言えなかった事。


それは凜が決めた将来を惑わせるのが嫌だから何も言わないんだって事。


本当は行くなって、寂しいって、言いたい事。

⏰:08/12/13 16:19 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#355 [ゆーちん]
美帆はずっと『うん。』とか『それで?』とか、所々に相槌を入れながら聞いてくれた。


「どうしていいかわかんねぇんだわ。」


そんな相槌しか打たなかった美帆は、いきなり強い目で問い掛けた。

⏰:08/12/13 16:20 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#356 [ゆーちん]
「心の考えてるのもあながち間違ってないよ。凜の事を考えてあげてるのって凄い良い事だもん。でもさ!」


美帆は一呼吸置いてから言った。


「うちらまだ中学生だよ?」


当たり前の言葉を、すごく真剣に言った美帆から、目が離せられなかった。

⏰:08/12/13 16:20 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#357 [ゆーちん]
「将来の事もいいけど、大事なのは今じゃん。何カッコつけてんの。あの凜に、寂しいとか行くなって言って欲しかったって言われたんだよ?情けなくないの?」


情けないよ。


そんなのわかってる。


「でもさ…」

⏰:08/12/13 16:21 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#358 [ゆーちん]
「でもって何?中学生らしい恋愛すればいいじゃん。大人ぶるのは外見だけで充分だよ。所詮、中身はまだ15のガキなんだから思った事を素直に伝えればいいんだって。いつからそんな臆病になっちゃったの?」


美帆の言葉に殴られた俺。


何も言えなかった。

⏰:08/12/13 16:22 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#359 [ゆーちん]
「寂しいって思ってるなら、寂しいって言えばいいじゃん。心は凜の素直なところを好きになったんでしょ?だったら心も、素直なところを好きになってもらわないと。」

「…ごもっとも。」

⏰:08/12/13 16:23 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#360 [ゆーちん]
何を恐れていたのだろう。

俺が好きなのは凜ちゃん。


凜に寂しい思いをさせて、何が凜の将来の邪魔をしたくないだよ。


カッコつけてただけ。


知ってる。


「美帆。」

「何。」

「ほんっとありがと。お前に殴られて目が覚めた。」

⏰:08/12/13 16:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#361 [ゆーちん]
「殴った覚えないし。」

「とにかくサンキュな!」

「単純でバカなのが心なんだから、変にカッコつけなくていいんだよ。凜はそんなバカな心が好きなんだから。」

「おい、こら、美帆。そんな嬉しい言葉をサラッと言うな。泣きそうだ。」

⏰:08/12/13 16:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#362 [ゆーちん]
美帆は『やっぱバカだ。』と笑ってから、俺の背中を手の平で叩いた。


叩いたっつーか殴った。


すげぇ痛かったもん。


喝ってやつだな。


効いたぞ!


お前の喝。


菊地家から、可愛い袋を持って飛び出した。

⏰:08/12/13 16:25 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#363 [ゆーちん]
真っ暗になってしまった道を俺は走った。


冷たい風が俺の顔を引き攣らせていた。


「こんばんは!」


杉浦家の玄関を開けるやいなや、俺は居間にいるじいちゃんばあちゃんに『凜ちゃんいる?』と聞いた。


「部屋だよ。」

「お邪魔するね!」

「あぁ…うん。」

⏰:08/12/13 16:26 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#364 [ゆーちん]
突然の来客にも驚かず、じいちゃんばあちゃんはテレビを見ていた。


俺は階段を上り、ノックもせずに凜の部屋に入った。


「…心。」


じいちゃんばあちゃんとは違い、凜はすごく驚いていた。


温かい部屋の中は、冷えた体を一気に暖めてくれた。

⏰:08/12/13 16:27 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#365 [ゆーちん]
「寂しいから行かないで!」

「…。」


俺の言った意味がすぐにわかったらしく、凜は切なげな顔をした。


「ごめんね。カッコつけて、わざと言わなかったんだ。凜ちゃんの将来の邪魔したくなくて寂しいとか行かないでって言わなかったの。」

⏰:08/12/13 16:28 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#366 [ゆーちん]
凜は眉を下げたまま笑った。


「何でカッコなんかつけんの。私はバカな心が好きなのに。」


美帆から聞いてた言葉は、凜から聞くとまた一味違った嬉しさが込み上げた。


凜は立ち上がり、俺の傍に来て、指先で鼻を触った。

⏰:08/12/13 16:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#367 [ゆーちん]
「こんな風に鼻真っ赤にして、いきなり部屋に上がり込んでくる心が好きなんだよ。」


体は勝手に動いてた。


小さな凜を抱きしめると、すっげぇ温かかった。


「好き過ぎて泣きそう。」

「泣いていいよ。」


そう言ってくれたけど、凜の許可が降りる前に涙は零れていたのは…内緒にしておこう。

⏰:08/12/13 16:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#368 [ゆーちん]
「おいてきぼりにされた時、マジで別れちゃうのかと思った。」

「それは私のセリフ。引き止めてくんないし、心の気持ちは冷めたんだって悲しくなった。」

「冷めるわけないから。」

「そりゃどーも。」


初めてキスした時のように、唇が触れた瞬間から俺の涙は止まった。

⏰:08/12/13 16:33 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#369 [ゆーちん]
「私が出てったら寂しい?」

「寂しい。」

「行かないで欲しい?」

「行かないで。」

「本音?」

「うん。」

「ふーん。」


でも凜は行っちゃうんだ。


泣いても喚いても、それは変えられない。

⏰:08/12/13 16:34 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#370 [ゆーちん]
「愛されてるって知りたかったの。寂しいから行くなって言ってもらえると、安心して行けるから。」

「ごめんね。」

「もう大丈夫。泣いてる心見て安心しない方がおかしいもん。」

「愛してるよ?」

「…知ってる。」

「凜ちゃんは?」

⏰:08/12/13 16:35 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#371 [ゆーちん]
「さぁ、どうだろ。秘密。」


こうやってすぐに茶を濁すところも好き。


照れ屋なのか冷たいのかわかんないけど、そこが好き。


「一人暮らしは寂しいから、頻繁に現れてね?」

「毎日現れる予定だけど。」

「それは迷惑だから嫌。」


ほら、俺はそういうとこが好きなんだ。

⏰:08/12/13 16:35 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#372 [ゆーちん]
バレンタインに互いの気持ちがわかってよかった。


だって、その約2週間後の今日には中学校を卒業だもん。


早かったな。


この3年間。


つーか、この1年間もかなり早かった。


凜が来てから毎日毎日、24時間じゃ足りないくらい充実していた。

⏰:08/12/13 16:38 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#373 [ゆーちん]
辛い事もあったけど、楽しい事の方が多かったな。


…なんて考えていると卒業式は終わっていた。


香奈、澪、大輝は笑えるぐらい泣いていた。


美帆や千夏、ほとんどの奴は感動でチラリと涙を見せたり目を潤ませていた。


俺もその一人。

⏰:08/12/13 16:39 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#374 [ゆーちん]
泣かない奴もいる。


それが凜。


強い目で、ずっと前を見ていた。


卒業式でも泣かない凜はかっこよくて、何だかちょっと寂しかった。


「今日が最後の下校かぁ〜。」

「…そうだね。」


卒業式は午前中に終わり、昼からトメ食堂で打ち上げ。


だからこれが最後の下校。

⏰:08/12/13 16:40 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#375 [ゆーちん]
「最後ぐらい手ぇ繋いでいい?」

「…いいよ。」


差し出された小さな手を握り、寄り添った凜と同じ歩幅でゆっくりと歩いた。


「泣いてなかったね。」

「え?」

「式。やっぱ1年足らずじゃ思い入れ無いか。」

⏰:08/12/13 16:41 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#376 [ゆーちん]
一緒に過ごした1年間。


離ればなれになる友達。


後輩たちとの別れ。


やっぱそれなりに俺は寂しくて、泣けたんだ。


「そうじゃないよ。」

「…ん?」

「ココロの中では泣いてた。表面で泣かなかったのは、ちゃんと目に焼き付けたかったから。」

⏰:08/12/13 16:42 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#377 [ゆーちん]
凜の冷たかった手が、俺の温もりを受け継いで、どんどん暖まって来た。


「この中学校の事ほとんど何にも知らないまま卒業もやだなって思って、せめて卒業式って行事だけでもココロに焼き付けないと、って。こういう考えって変?」

⏰:08/12/13 16:42 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#378 [ゆーちん]
ちっとも変じゃない。


凜ちゃんらしい考えだと思う。


やっぱりカッコイイよ。


「俺はいい彼女を捕まえたなぁ〜。」

「…フフッ。何だそれ。」

「いい男にはいい女。」

「いい男?どこよ、それ。」

「…泣いちゃうぞぉ。」

⏰:08/12/13 16:43 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#379 [ゆーちん]
「まだ泣く気?式であんなに泣いてたくせに。」

「香奈や大輝よりマシだっつーの!」


笑い声を響かせながら最後の下校が終わった。


後でまた会えるし、一緒に手を繋いで歩く事もできる。


でも制服を着て【下校】するのは、これが最後なんだ。


寂しい。

⏰:08/12/13 16:45 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#380 [ゆーちん]
杉浦家を後にし、のんびり歩いて江森家に到着。


「ただいま〜。」


玄関のドアを開けた直後だった。


「心!」


振り向くと、息の上がった凜がいた。


「えっ、どうしたの。」

「忘れてた!」

「え?」

⏰:08/12/13 16:48 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#381 [ゆーちん]
「…写真。」


凜の手にはカメラが握られていた。


小さく笑った凜の息は、もう元に戻っている。


「写真?」

「制服着るの最後だよ。記念に撮ろう?二人でなんか滅多に撮らないし。」


凜の嬉しい誘いは、断るという選択肢なんてない。

⏰:08/12/13 16:49 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#382 [ゆーちん]
開いたままのドアから、家の中に向かって俺は叫んだ。


「母ちゃーん!ちょっと来て!」

「えー、何?」


卒業式後の母ちゃんは、まだ着替えもせずに、ちょっと着飾ったままの格好だった。


「写真撮って。」

「写真?」

⏰:08/12/13 16:49 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#383 [ゆーちん]
外に出てくると、母ちゃんに気付いた凜は笑顔で頭を下げた。


「あぁ、凜ちゃん!」

「こんにちは。」

「写真って凜ちゃんと?」


母ちゃんの質問に俺は低い声で答えた。


「こういう写真は普通、校門前で撮るんだけどなぁ。」

⏰:08/12/13 16:50 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#384 [ゆーちん]
母ちゃんは場所に文句があるらしく、なかなかシャッターを押してくれなかった。


「海をバックにしようよ。」


凜の提案に母ちゃんは食いつき、ほんの数歩だけ歩いて、俺らの背景を海と決めた。


「うん。今日は天気いいから海も良い感じだわ。」

「んじゃ撮って。」

「…はい、ポーズ。」

⏰:08/12/13 16:51 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#385 [ゆーちん]
カメラが光る。


ボタン一つで何十年も先まで思い出が作られるのは、本当すげぇ話だよな。


「もう一枚ね。」


ポーズを変えて、もう一枚。


「はい、OK!」

「ありがとうございます。」


2枚を撮り終えた母ちゃんは言った。

⏰:08/12/13 16:52 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#386 [ゆーちん]
「心、撮って。」

「は?」

「私だって凜ちゃんと撮りたいもん!」

「何でさ?」

「記念よ!」


隣に彼氏の母親を迎えた凜は戸惑っていたが、すぐにいつもの笑顔を咲かせた。


「はい、ポーズ。」


撮り終えると、今度は凜。

⏰:08/12/13 16:53 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#387 [ゆーちん]
「親子で撮ったげるね。」


俺は反対した。


だけど女2人に無理矢理立たされて、強引ながらも笑顔を咲かせて、母息子という珍しいショットもおさめた。


「んじゃ凜ちゃん送ってくるわ。」

「いいよ。私が勝手に来たんだし一人で帰る。」

⏰:08/12/13 16:53 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#388 [ゆーちん]
凜は珍しく遠慮した。


それを見ていた母ちゃんは俺の頭を叩いてきた。


「バカ!」

「痛っ!」

「彼女を送っていかない男なんか、男じゃないね。」

「送っていかないなんて言ってないじゃん!」

「凜ちゃんも!遠慮なんかしないでいいのよ。こんなバカ息子でいいなら、いつでもコキ使ってちょうだい。」

⏰:08/12/13 16:54 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#389 [ゆーちん]
「あっ…はい。」


さすがの凜もうちの母ちゃんのパワフルさには慣れていなくて、圧倒されていたみたいだった。


「じゃあ凜ちゃん行こう。」

「あ、うん。ありがと。」

⏰:08/12/13 16:55 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#390 [ゆーちん]
母ちゃんにわざわざお礼を言ってから、凜は俺の隣まで追い付いて来た。


「ごめんね。うっさい母ちゃんで。」

「ううん。私、おばさん好きだよ。」

「そういえば凜ちゃんの両親、式に来なかったね。」

「うん。忙しいんだって。」

⏰:08/12/13 16:55 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#391 [ゆーちん]
「寂しいでしょ?」

「別に。おじいちゃん達が来てくれたもん。」


本当は寂しいに決まってる。


これは俺みたいにカッコつけてるんじゃない。


納得した上での寂しさだったんだろう。


凜は俺より、うんと大人だ。

⏰:08/12/13 16:56 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#392 [ゆーちん]
●○●○●○●

更新STOP

>>2

●○●○●○●

⏰:08/12/13 16:56 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#393 [ゆーちん]
●○●○●○●

やっぱり後少しだけ
更新します

●○●○●○●

⏰:08/12/13 17:03 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#394 [ゆーちん]
杉浦家に凜を送り届け、30分後にまた迎えに来ると告げてから自分ん家に戻った。


「心。」

「んー?」


母ちゃんはやっと着替えたらしく、いつもの楽そうな格好だった。


「凜ちゃん、C高だっけ?」

「うん。C高の近くのマンションで一人暮らしだって。」

「…寂しくなるね。」

⏰:08/12/13 17:04 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#395 [ゆーちん]
「寂しいよー。」


照れてしまい、ちょっとふざけながら答えたけど、マジで寂しいよ。


凜が越して来てから、毎日一緒だった。


こんなに長く付き合う人は始めてだし、マジで感じてんだよ。


運命ってやつ。

⏰:08/12/13 17:04 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#396 [ゆーちん]
だから余計に寂しいんだ。


「遠距離はね、相手を信じていれば大丈夫なもんだから。」

「何を知ったような口叩いてんのさ。」

「知ってるもん。」

「はぁ?」

「父ちゃんと遠距離恋愛だったのよ?」


始めて聞く両親の恋愛話。

⏰:08/12/13 17:05 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#397 [ゆーちん]
別に聞きたくないんですけど、まぁ…遠距離恋愛者の先輩ですから?


ちょっと耳を傾けてみようかな、と。


「あんたはまだマシじゃない。フェリーで行けば会えるんだし。私は新幹線使わないと、ここまで来れなかったんだから!」

⏰:08/12/13 17:06 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#398 [名無し]
>>44-100

⏰:08/12/13 17:09 📱:W51T 🆔:☆☆☆


#399 [ゆーちん]
少々怒り気味だった母ちゃん。


そんなもん、今さら俺に文句言われてもねぇ。


「2回ぐらい別れたのかな。でも父ちゃんは私しかいないって〜。」


怒ってたんじゃねぇのかよ。


思い出し笑いしてるし。

⏰:08/12/13 17:20 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#400 [ゆーちん]
少女みたいに嬉しそうな顔をした母親なんか見たくないんですけど。


「浮気は?」

「は?」

「父ちゃん浮気とかしなかったの?」

「さぁ?してたんじゃない。知らない。」


シラッと答えた母ちゃん。


怪獣百面相だな。

⏰:08/12/13 17:21 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#401 [ゆーちん]
「問い詰めたりしなかったの?」

「しない。いちいち疑う為に顔を合わせてる訳じゃないもん。」

「ふーん。」

「まぁ、浮気の1つや2つ、男の特権だよ。私はココロが広いの。その前に大事なこともあるでしょ?」

「…何?」

「父ちゃん、信じてたし。」

⏰:08/12/13 17:22 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#402 [ゆーちん]
その言葉があまりにもずっしり胸に響いた。


「束縛もなかったよ。今の若い子はどうして束縛とかするのかな。理解できないわ。」

「何で?」

「束縛は相手を信じてないからするものだし。」

⏰:08/12/13 17:23 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#403 [ゆーちん]
まただ。


母ちゃんの言葉は、えらく重みがあった。


「でもたまには束縛って言うか、わがまま言ってあげないと悲しむ子もいるみたいだけどね。放っておかれてるって勘違いするみたいだし。」

⏰:08/12/13 17:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#404 [ゆーちん]
「40手前になっても恋愛ごとは詳しいんですね。」

「当たり前よ!恋愛は人生の永遠のテーマだもん。」


こういう母親だから、いつも自分の息子の恋愛に首を突っ込んでくんだな。

⏰:08/12/13 17:25 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#405 [ゆーちん]
テーマとか、別に勝手に決めてもらってもいいんだけど、俺にあんまり危害加えないで欲しいという本音は…今日は言わないでおこう。


だって今日は、案外、タメになる言葉聞けたし。


母ちゃんもたまには役立つじゃん。


信じるっていう大切さ、かなりわかった気がする。

⏰:08/12/13 17:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#406 [ゆーちん]
礼も何も言わずに、俺は部屋に戻り、制服を脱いだ。


3年間ご苦労だった、我が制服。


私服に着替えてから時計を見た。


どうやら、母ちゃんの話を20分も聞いていたらしく、そろそろ凜を迎えに行く時間となっていた。

⏰:08/12/13 17:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#407 [ゆーちん]
もう一度、居間に行くと母ちゃんは昼ご飯を食べていた。


「貧相な昼飯だな。俺ら今からトメ食堂で美味いもん食って来るわ。」

「あっそ。そりゃようございますね。」

「こんな貧相な昼飯の為に遠恋してたわけじゃないのにーって後悔してる?」

⏰:08/12/13 17:30 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#408 [ゆーちん]
「…全然。こんな貧相な昼飯を食べる事ができる幸せがあるから遠恋しててよかったって思える。」


ちょっと感動した。


母ちゃんにとって、父ちゃんとの日々は何1つ後悔していなくて、俺もそんな風に凜との未来を夢見たいって思えた。

⏰:08/12/13 17:31 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#409 [ゆーちん]
「はぁ…。俺も結婚してぇ。」

「何言ってんのよ。あと10年は許さないからね。」

「…いってきます。」

「あいよ。」


先10年は結婚の許可が降りなかった俺は、杉浦家に向かった。


出迎えてくれたじいちゃんが『卒業おめでとう。』と言ってくれた。

⏰:08/12/13 17:32 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#410 [ゆーちん]
『ありがとう!』なんて話していると、凜が二階から降りて来た。


「仲良しだなぁ、お前ら。」

「心がまとわり付いてるだけ。それじゃあいってきます。」


あんな冷たい事言っといて、トメ食堂まで手を繋いで歩いてくれた凜。


可愛い彼女。

⏰:08/12/13 17:33 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#411 [ゆーちん]
「25歳になった時、貧相な昼飯食べながら、俺との恋愛は後悔はなかったって思えるようになっててね。」

「…ごめん。話が見えない。」

「いいの。こっちの話。」

「独り言なら一人のときに言ってよね。」

「…はい。」

⏰:08/12/13 17:33 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#412 [ゆーちん]
トメ食堂につくと、みんなから『やっと来た!』とか『遅い。』とヤジを飛ばされながら出迎えてもらった。


「凜はこっちー!」


香奈が手招きするテーブルに連れて行かれた凜。


「心はこっち来るなよ。」


そう言った竜の隣に座った俺。

⏰:08/12/13 17:35 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#413 [ゆーちん]
しばらくすると全員が集まったらしく、1番前にトメばあちゃんが立った。


背が小さいのでコンテナの上に登って、トメばあちゃんは話し出した。


「これから、笑って泣いて怒って哀しんで、人生の壁にぶちあたる。そんな時はドーンと素直にぶちあたれ。ぶちあたって怪我したら、いつでも島に帰ってこい。ばあちゃんはここにいる。白飯と豚汁と漬物くらいなら食わせてやる。」

⏰:08/12/13 17:36 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#414 [ゆーちん]
帰る場所があるって、こういう事なんだ。


トメばあちゃんの激励はみんなのココロを打っただろう。

⏰:08/12/13 17:37 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#415 [ゆーちん]
「悔いのない人生を送れ。15の子供達の旅に幸あれ。中学卒業おめでとう。はい、かんぱーい!」


トメばあちゃんのシンプルな言葉のあと、みんなも『乾杯!』と続いた。


宴の始まり。


毎年、中学の卒業式のあとはトメ食堂で打ち上げがある。

⏰:08/12/13 17:37 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#416 [ゆーちん]
それがこの島の伝統みたいなもん。


だからこの日ばかりはトメ食堂は貸し切り休業だ。


去年も、一昨年も、そのまた前の卒業生もトメばあちゃんの激励を受けて旅立ったり成長したり。


俺らも明日からその中の1人になるんだ。

⏰:08/12/13 17:39 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#417 [ゆーちん]
●○●○●○●

STOPします

>>2

●○●○●○●

⏰:08/12/13 17:39 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#418 [ゆーちん]
夕方5時まで食って騒いで盛り上がった。


「はーい、お開き!」


トメばあちゃんの声1つで5時になると例外なしに追い出される。


30人が食堂前に出る。


一気に辺りが賑やかになった。


「そんじゃあみんな、またな!」

「バイバーイ。」

⏰:08/12/13 23:11 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#419 [ゆーちん]
みんなそれぞれ散って行く。


凜も美穂や千夏、澪たちとバイバイしていた。


「心。」


香奈は肩越しに俺の名前を呼んだ。


「ん?」

「海行こうぜぇ。」

「賛成。」


近くにいた竜と大輝も賛成。

⏰:08/12/13 23:12 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#420 [ゆーちん]
4人で凜を呼びに行き、俺らは海に向かった。


3年生の後半からは5人でいることがほとんどだった。


きっかけは文化祭と修学旅行。


そういえば修学旅行で撮った写真、早く焼き増ししてんくんねぇかな。


まだ貰ってないのがたくさんある。

⏰:08/12/13 23:13 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#421 [ゆーちん]
でもまぁいつでも貰えるか。


俺ら、たぶんこれからもずっとツルんでいくんだろうし。


海につくと男3人はダッシュした。


寒い潮風が髪を乱した。


靴のまま海の水を踏む。


テンションが上がった。

⏰:08/12/13 23:14 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#422 [ゆーちん]
冷たいだの、やめろだの、たくさん騒いだ。


めちゃくちゃ青春だよ。


薄暗くなった海辺は影が砂浜へと伸びていて、とても印象深い1シーン。


「香奈!」

「ん?」

「この海の向こうにいる本島の彼氏に一言ぉ〜!」


こんなフリ、いつもの香奈なら絶対ノッてくれない。


だけど今日は違った。

⏰:08/12/13 23:14 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#423 [ゆーちん]
今日は特別な日だから、大輝のリクエストにすんなり答えた。


「世界1好きぃーっ!」


香奈の叫びに続いて、大輝も海に向かって叫んだ。


「宝くじが当たりますよーにぃーっ!」

⏰:08/12/13 23:15 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#424 [ゆーちん]
「アハハッ。彼女に向けてじゃねぇのかよ。」

「ただの願望。」

「んじゃ俺も。」


竜も叫んだ。


「将来、子供は3人欲しいぞぉーっ!」


4人で大笑いした。


顔に似合わず、そんな可愛い願いを叫ぶもんだから。

⏰:08/12/13 23:16 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#425 [ゆーちん]
「ギャハハハ!」

「父親キャラでもないくせに。」

「あ?文句あんのかよ。俺は子沢山な家族を夢見てんだよ。」


照れもせずに、向井竜はやりきった感たっぷりで潮風に髪を揺らされていた。


「次、凜か心。」

「んじゃ俺〜。」

⏰:08/12/13 23:16 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#426 [ゆーちん]
腹いっぱい息を吸い込んでいると、大輝は隣で呟いた。


「愛してるよ凜ちゃーん、とかなら別に聞きたくないから。」

「ゲホッ!」

「あら、図星?」

「何でわかんの!」


焦っていると竜までもが、

「そんな愛の言葉は二人っきりのときに囁いてやれ。。」

と文句をつけに来た。


急遽、発言、変更。

⏰:08/12/13 23:17 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#427 [ゆーちん]
考えに考えて結局は、

「いつか江森凜になってねーっ!」

というプロポーズのような言葉。


「うっわ、タチ悪いっつーの。」

「ガッカリだね。」

「2人、うるさい!さぁ凜ちゃんの返事は?」

⏰:08/12/13 23:18 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#428 [ゆーちん]
香奈が笑う隣で、凜は叫んだ。


「やーだよっ!」


その返事に竜と大輝と香奈は大笑いしていた。


「はい、心くん残念でした!」

「ギャハハハ、玉砕!」

「プロポーズ失敗だよ!」


凜も一緒に笑ってた。


「泣いてもいいですかーっ!」

⏰:08/12/13 23:19 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#429 [ゆーちん]
「ダメ!」

「泣くな、玉砕男!」

「アハハハッ!」


これでいい。


凜に断られようがバカにされようが、みんなが笑っていられるなら、それでいい。


いつか笑えないほどカッコいいプロポーズすっから、凜ちゃん待っててよ?

⏰:08/12/13 23:20 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#430 [ゆーちん]
ひたすら海で騒いだ後、辺りが真っ暗になって来たので解散。


またな、って言ってバイバイした。


俺は凜を送って行く。


手を繋ぎながら。


「寒い〜。凜ちゃんの手、暖かい。」

「水なんか触ってるからだよ。」


俺の冷たい手を、凜の小さな暖かい手が包んでくれていた。

⏰:08/12/13 23:20 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#431 [ゆーちん]
「あ、心?」

「はぁい?」

「卒業祝いあげる。」

「ん?卒業祝い?」

「…はい。」


目の前に差し出されたのは、鍵。


「鍵?」

「春から私が住む部屋の鍵。あげる。」

⏰:08/12/13 23:21 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#432 [ゆーちん]
冷たい金属が、せっかく凜のおかげで温もりかけていた俺の手に触れた。


「えっ、つーか、これっていわゆる…」

「合い鍵だよー。無くすなよー。」

「ちょっと待って。マジだめだって。」


立ち止まってしまった俺。


凜は笑っていた。


「何がダメ?そんな泣いてちゃ、私が泣かせたみたいに思われるじゃん。」

⏰:08/12/13 23:22 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#433 [ゆーちん]
「凜ちゃんが泣かせたんだよ…。」

「覚えがないなぁ?」

「…ありがと。本当、嬉しい。」


凜が俺の顔を覗き込みながら言った。


「私も嬉しい。鍵一つで泣いてくれるなんてさ。」

⏰:08/12/13 23:22 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#434 [ゆーちん]
凜の笑顔。


凜の手の温もり。


凜の言葉。


そして、鍵の冷たさ。


距離が何だよ。


そんなの、同じ海の上じゃん。


寂しいなんて言ってらんない。


こうやって、いつでも会える機会を与えてくれたんだから、悲しんでちゃバチが当たる。

⏰:08/12/13 23:23 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#435 [ゆーちん]
「引っ越しの日、笑顔で見送ってあげられる気がする。」

「それはよかった。みんなの前で泣かれちゃたまんないもん。」

「寂しくなったら、これでいつでも会いに行っていい?」

「その為の合い鍵なんだけど。」

⏰:08/12/13 23:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#436 [ゆーちん]
「凜ちゃんも寂しくなったら、すぐに俺んち来るんだよ?うち、鍵はいつでも開いてるから。」

「アハハッ。知ってる。」


暗くなった道で、軽くキスをした。


軽くだったのに、どんどん止まらなくなった。


「私も卒業祝いちょうだいよ。」

「何も持ってないんだけど。」

⏰:08/12/13 23:24 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#437 [ゆーちん]
「…心が欲しい、っていうリクエストは却下される?」


こうやって、大人っぽい色気を出す凜は本当に同じ歳なのか不思議に思う。


あんな言葉、反則でしょ。


「凜ちゃんち行っていい?」

「…いいよ。」

⏰:08/12/13 23:25 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#438 [ゆーちん]
杉浦家まで凜の手を引っ張って走った。


凜は『走らなくても私、逃げないよ。』って笑ってた。


何だかおかしくて、二人で大笑いしながら走った。


「ただいま〜。」


居間にいるじいちゃんばあちゃんに顔を見せてから、凜の部屋に直行した。

⏰:08/12/13 23:26 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#439 [ゆーちん]
「心ってポーカーフェ‥」


最後まで言い終わる前に俺は凜の言葉を邪魔した。


怖いくらい凜が好き。


怖いくらい凜の匂いが好き。


そんな事思ってると、止まったはずのものが滲んで来た。


唇を離した凜が笑った。

⏰:08/12/13 23:26 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#440 [ゆーちん]
「何でそんな泣き虫なの?」

「知らない。」

「何で今、泣いてんの?」

「幸せだから。怖いくらい。」


俺の頬を撫でる凜の手は小さくて温かかった。


「私は最悪だよ。」

「何で?」

「泣き虫が…移ったから。」

⏰:08/12/13 23:27 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#441 [ゆーちん]
始めて見た凜の涙は、不謹慎ながらも綺麗だと思った。


「何で凜ちゃんまで泣くのさ。」

「幸せなの。怖いくらい。」


男と女が抱きしめ合いながら泣いた、卒業式の夜。


いつもと違う、ロマンチックな夜だった。


SEXだって、ロマンチック。

⏰:08/12/13 23:28 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#442 [ゆーちん]
俺の彼女は冷たいよ。


でもさ、そのぶん温かいところに触れたら、普通の数倍嬉しいんだ。


素っ気ないし、笑わない。


でもそんな彼女だからこそ、笑ったり泣いてくれたりすると、幸せを感じられんだよね。

⏰:08/12/13 23:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#443 [ゆーちん]
まだまだ子供な考えかもしんないけど、俺、絶対に【杉浦凜】を【江森凜】にすっからな!


「あ、さっきのプロポーズの返事。」

「嫌なんでしょ?もう聞きたくな‥」

「考えといてあげるね。」

⏰:08/12/13 23:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


#444 [ゆーちん]
母ちゃん。


結婚10年早いって言ったけど…俺、案外早く嫁を貰えるかも?


END

⏰:08/12/13 23:29 📱:SH901iC 🆔:1vm0Oe8g


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