冷たい彼女
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#340 [ゆーちん]
「うん。今日はチョコ渡す相手がいないってピリピリしてた。恋人がいる奴は誰ふり構わず殴り倒してやるーって叫んでたもん。」
「ハハッ。何だそりゃ。」
千夏が暴れるところを想像すると、俺にも笑みが零れた。
「で?恋人のいる幸せな心さんは、なんで泣きそうな顔してんのさ。」
「んー…。」
:08/12/12 23:10 :SH901iC :ufvbrGno
#341 [ゆーちん]
俺の濁る笑顔を見て、美帆は言った。
「うちおいで。」
俺を抜かして美帆は前をスタスタと歩き始めた。
俺は何も言わずに美帆の後ろをついてった。
「やべー、菊地家とか久しぶりだわ。」
「小学生のころは毎日来てたのにね。中学上がって、心に彼女ができて、それから全然来なくなった。」
:08/12/12 23:10 :SH901iC :ufvbrGno
#342 [ゆーちん]
「そうだっけ。でもその彼女とは、すーぐ別れちゃったよ。」
「初めての彼女できたってあんな喜んでたのにね。」
「そうだねー。」
懐かしい過去は溜め息が出るくらい背伸びするのに必死だった。
:08/12/12 23:11 :SH901iC :ufvbrGno
#343 [ゆーちん]
カッコつけてた中1の俺。
カッコつけるのに疲れてきた中2の俺。
カッコつけるのを辞めた中3の今の俺。
子供のままなら、素直に寂しいって言えてたんだ。
もっと大人だったら、凜の未来に入り込む勇気を持てたんだ。
:08/12/12 23:12 :SH901iC :ufvbrGno
#344 [ゆーちん]
どっちにしろ成長したのかしてないのかわからない自分に嫌気がさす。
「お邪魔します。」
菊地家は何も変わっていなかった。
小学生の頃、よく来た菊地家のままだった。
「心ちゃん!久しぶり〜。」
美帆の母ちゃんは笑って出迎えてくれた。
:08/12/12 23:12 :SH901iC :ufvbrGno
#345 [ゆーちん]
「こりゃまた色気のない部屋だな〜。」
「は?黙れって。」
ジャマイカちっくな美帆の部屋。
この部屋だけは、いつの間にかガラリと変わってしまっていた。
「あぁ〜。」
溜め息が混ざった声でベットにダイブすると『遠慮ってものを知らないんですか?』と美帆に文句を言われた。
:08/12/12 23:13 :SH901iC :ufvbrGno
#346 [ゆーちん]
今さら遠慮も糞もねぇよ。
美帆は小さなソファーに座って、俺に聞いた。
「凜と何あったの?」
いきなりですか…。
いや、別に世間話するつもりもないんだけどね。
俺は思い切って美帆に全てを話してみた。
:08/12/12 23:13 :SH901iC :ufvbrGno
#347 []
ええおお
:08/12/12 23:36 :W45T :vPlfI7z6
#348 []
:08/12/12 23:37 :W45T :vPlfI7z6
#349 [我輩は匿名である]
アンカあるっつの
:08/12/13 00:52 :F01A :3VvYcdSU
#350 []
長くて見えないのI
:08/12/13 00:59 :W45T :JMGXsVVg
#351 [ナイト]
:08/12/13 01:48 :SH903i :GS9ms8SM
#352 [我輩は匿名である]
:08/12/13 08:15 :N905imyu :kTKoX66M
#353 [ゆーちん]
●○●○●○●
すみません
昨日いきなり携帯の調子が悪くなっちゃって更新できませんでした
次からアンカーは50区切りでしますね
すみません
●○●○●○●
:08/12/13 16:17 :SH901iC :1vm0Oe8g
#354 [ゆーちん]
包み隠さず、全てを相談した。
『島を出てく。』って言われて何にも言えなかった事。
寂しいとか、行くなって言ってくれないの?って凜に聞かれて…何にも言えなかった事。
それは凜が決めた将来を惑わせるのが嫌だから何も言わないんだって事。
本当は行くなって、寂しいって、言いたい事。
:08/12/13 16:19 :SH901iC :1vm0Oe8g
#355 [ゆーちん]
美帆はずっと『うん。』とか『それで?』とか、所々に相槌を入れながら聞いてくれた。
「どうしていいかわかんねぇんだわ。」
そんな相槌しか打たなかった美帆は、いきなり強い目で問い掛けた。
:08/12/13 16:20 :SH901iC :1vm0Oe8g
#356 [ゆーちん]
「心の考えてるのもあながち間違ってないよ。凜の事を考えてあげてるのって凄い良い事だもん。でもさ!」
美帆は一呼吸置いてから言った。
「うちらまだ中学生だよ?」
当たり前の言葉を、すごく真剣に言った美帆から、目が離せられなかった。
:08/12/13 16:20 :SH901iC :1vm0Oe8g
#357 [ゆーちん]
「将来の事もいいけど、大事なのは今じゃん。何カッコつけてんの。あの凜に、寂しいとか行くなって言って欲しかったって言われたんだよ?情けなくないの?」
情けないよ。
そんなのわかってる。
「でもさ…」
:08/12/13 16:21 :SH901iC :1vm0Oe8g
#358 [ゆーちん]
「でもって何?中学生らしい恋愛すればいいじゃん。大人ぶるのは外見だけで充分だよ。所詮、中身はまだ15のガキなんだから思った事を素直に伝えればいいんだって。いつからそんな臆病になっちゃったの?」
美帆の言葉に殴られた俺。
何も言えなかった。
:08/12/13 16:22 :SH901iC :1vm0Oe8g
#359 [ゆーちん]
「寂しいって思ってるなら、寂しいって言えばいいじゃん。心は凜の素直なところを好きになったんでしょ?だったら心も、素直なところを好きになってもらわないと。」
「…ごもっとも。」
:08/12/13 16:23 :SH901iC :1vm0Oe8g
#360 [ゆーちん]
何を恐れていたのだろう。
俺が好きなのは凜ちゃん。
凜に寂しい思いをさせて、何が凜の将来の邪魔をしたくないだよ。
カッコつけてただけ。
知ってる。
「美帆。」
「何。」
「ほんっとありがと。お前に殴られて目が覚めた。」
:08/12/13 16:24 :SH901iC :1vm0Oe8g
#361 [ゆーちん]
「殴った覚えないし。」
「とにかくサンキュな!」
「単純でバカなのが心なんだから、変にカッコつけなくていいんだよ。凜はそんなバカな心が好きなんだから。」
「おい、こら、美帆。そんな嬉しい言葉をサラッと言うな。泣きそうだ。」
:08/12/13 16:24 :SH901iC :1vm0Oe8g
#362 [ゆーちん]
美帆は『やっぱバカだ。』と笑ってから、俺の背中を手の平で叩いた。
叩いたっつーか殴った。
すげぇ痛かったもん。
喝ってやつだな。
効いたぞ!
お前の喝。
菊地家から、可愛い袋を持って飛び出した。
:08/12/13 16:25 :SH901iC :1vm0Oe8g
#363 [ゆーちん]
真っ暗になってしまった道を俺は走った。
冷たい風が俺の顔を引き攣らせていた。
「こんばんは!」
杉浦家の玄関を開けるやいなや、俺は居間にいるじいちゃんばあちゃんに『凜ちゃんいる?』と聞いた。
「部屋だよ。」
「お邪魔するね!」
「あぁ…うん。」
:08/12/13 16:26 :SH901iC :1vm0Oe8g
#364 [ゆーちん]
突然の来客にも驚かず、じいちゃんばあちゃんはテレビを見ていた。
俺は階段を上り、ノックもせずに凜の部屋に入った。
「…心。」
じいちゃんばあちゃんとは違い、凜はすごく驚いていた。
温かい部屋の中は、冷えた体を一気に暖めてくれた。
:08/12/13 16:27 :SH901iC :1vm0Oe8g
#365 [ゆーちん]
「寂しいから行かないで!」
「…。」
俺の言った意味がすぐにわかったらしく、凜は切なげな顔をした。
「ごめんね。カッコつけて、わざと言わなかったんだ。凜ちゃんの将来の邪魔したくなくて寂しいとか行かないでって言わなかったの。」
:08/12/13 16:28 :SH901iC :1vm0Oe8g
#366 [ゆーちん]
凜は眉を下げたまま笑った。
「何でカッコなんかつけんの。私はバカな心が好きなのに。」
美帆から聞いてた言葉は、凜から聞くとまた一味違った嬉しさが込み上げた。
凜は立ち上がり、俺の傍に来て、指先で鼻を触った。
:08/12/13 16:29 :SH901iC :1vm0Oe8g
#367 [ゆーちん]
「こんな風に鼻真っ赤にして、いきなり部屋に上がり込んでくる心が好きなんだよ。」
体は勝手に動いてた。
小さな凜を抱きしめると、すっげぇ温かかった。
「好き過ぎて泣きそう。」
「泣いていいよ。」
そう言ってくれたけど、凜の許可が降りる前に涙は零れていたのは…内緒にしておこう。
:08/12/13 16:29 :SH901iC :1vm0Oe8g
#368 [ゆーちん]
「おいてきぼりにされた時、マジで別れちゃうのかと思った。」
「それは私のセリフ。引き止めてくんないし、心の気持ちは冷めたんだって悲しくなった。」
「冷めるわけないから。」
「そりゃどーも。」
初めてキスした時のように、唇が触れた瞬間から俺の涙は止まった。
:08/12/13 16:33 :SH901iC :1vm0Oe8g
#369 [ゆーちん]
「私が出てったら寂しい?」
「寂しい。」
「行かないで欲しい?」
「行かないで。」
「本音?」
「うん。」
「ふーん。」
でも凜は行っちゃうんだ。
泣いても喚いても、それは変えられない。
:08/12/13 16:34 :SH901iC :1vm0Oe8g
#370 [ゆーちん]
「愛されてるって知りたかったの。寂しいから行くなって言ってもらえると、安心して行けるから。」
「ごめんね。」
「もう大丈夫。泣いてる心見て安心しない方がおかしいもん。」
「愛してるよ?」
「…知ってる。」
「凜ちゃんは?」
:08/12/13 16:35 :SH901iC :1vm0Oe8g
#371 [ゆーちん]
「さぁ、どうだろ。秘密。」
こうやってすぐに茶を濁すところも好き。
照れ屋なのか冷たいのかわかんないけど、そこが好き。
「一人暮らしは寂しいから、頻繁に現れてね?」
「毎日現れる予定だけど。」
「それは迷惑だから嫌。」
ほら、俺はそういうとこが好きなんだ。
:08/12/13 16:35 :SH901iC :1vm0Oe8g
#372 [ゆーちん]
バレンタインに互いの気持ちがわかってよかった。
だって、その約2週間後の今日には中学校を卒業だもん。
早かったな。
この3年間。
つーか、この1年間もかなり早かった。
凜が来てから毎日毎日、24時間じゃ足りないくらい充実していた。
:08/12/13 16:38 :SH901iC :1vm0Oe8g
#373 [ゆーちん]
辛い事もあったけど、楽しい事の方が多かったな。
…なんて考えていると卒業式は終わっていた。
香奈、澪、大輝は笑えるぐらい泣いていた。
美帆や千夏、ほとんどの奴は感動でチラリと涙を見せたり目を潤ませていた。
俺もその一人。
:08/12/13 16:39 :SH901iC :1vm0Oe8g
#374 [ゆーちん]
泣かない奴もいる。
それが凜。
強い目で、ずっと前を見ていた。
卒業式でも泣かない凜はかっこよくて、何だかちょっと寂しかった。
「今日が最後の下校かぁ〜。」
「…そうだね。」
卒業式は午前中に終わり、昼からトメ食堂で打ち上げ。
だからこれが最後の下校。
:08/12/13 16:40 :SH901iC :1vm0Oe8g
#375 [ゆーちん]
「最後ぐらい手ぇ繋いでいい?」
「…いいよ。」
差し出された小さな手を握り、寄り添った凜と同じ歩幅でゆっくりと歩いた。
「泣いてなかったね。」
「え?」
「式。やっぱ1年足らずじゃ思い入れ無いか。」
:08/12/13 16:41 :SH901iC :1vm0Oe8g
#376 [ゆーちん]
一緒に過ごした1年間。
離ればなれになる友達。
後輩たちとの別れ。
やっぱそれなりに俺は寂しくて、泣けたんだ。
「そうじゃないよ。」
「…ん?」
「ココロの中では泣いてた。表面で泣かなかったのは、ちゃんと目に焼き付けたかったから。」
:08/12/13 16:42 :SH901iC :1vm0Oe8g
#377 [ゆーちん]
凜の冷たかった手が、俺の温もりを受け継いで、どんどん暖まって来た。
「この中学校の事ほとんど何にも知らないまま卒業もやだなって思って、せめて卒業式って行事だけでもココロに焼き付けないと、って。こういう考えって変?」
:08/12/13 16:42 :SH901iC :1vm0Oe8g
#378 [ゆーちん]
ちっとも変じゃない。
凜ちゃんらしい考えだと思う。
やっぱりカッコイイよ。
「俺はいい彼女を捕まえたなぁ〜。」
「…フフッ。何だそれ。」
「いい男にはいい女。」
「いい男?どこよ、それ。」
「…泣いちゃうぞぉ。」
:08/12/13 16:43 :SH901iC :1vm0Oe8g
#379 [ゆーちん]
「まだ泣く気?式であんなに泣いてたくせに。」
「香奈や大輝よりマシだっつーの!」
笑い声を響かせながら最後の下校が終わった。
後でまた会えるし、一緒に手を繋いで歩く事もできる。
でも制服を着て【下校】するのは、これが最後なんだ。
寂しい。
:08/12/13 16:45 :SH901iC :1vm0Oe8g
#380 [ゆーちん]
杉浦家を後にし、のんびり歩いて江森家に到着。
「ただいま〜。」
玄関のドアを開けた直後だった。
「心!」
振り向くと、息の上がった凜がいた。
「えっ、どうしたの。」
「忘れてた!」
「え?」
:08/12/13 16:48 :SH901iC :1vm0Oe8g
#381 [ゆーちん]
「…写真。」
凜の手にはカメラが握られていた。
小さく笑った凜の息は、もう元に戻っている。
「写真?」
「制服着るの最後だよ。記念に撮ろう?二人でなんか滅多に撮らないし。」
凜の嬉しい誘いは、断るという選択肢なんてない。
:08/12/13 16:49 :SH901iC :1vm0Oe8g
#382 [ゆーちん]
開いたままのドアから、家の中に向かって俺は叫んだ。
「母ちゃーん!ちょっと来て!」
「えー、何?」
卒業式後の母ちゃんは、まだ着替えもせずに、ちょっと着飾ったままの格好だった。
「写真撮って。」
「写真?」
:08/12/13 16:49 :SH901iC :1vm0Oe8g
#383 [ゆーちん]
外に出てくると、母ちゃんに気付いた凜は笑顔で頭を下げた。
「あぁ、凜ちゃん!」
「こんにちは。」
「写真って凜ちゃんと?」
母ちゃんの質問に俺は低い声で答えた。
「こういう写真は普通、校門前で撮るんだけどなぁ。」
:08/12/13 16:50 :SH901iC :1vm0Oe8g
#384 [ゆーちん]
母ちゃんは場所に文句があるらしく、なかなかシャッターを押してくれなかった。
「海をバックにしようよ。」
凜の提案に母ちゃんは食いつき、ほんの数歩だけ歩いて、俺らの背景を海と決めた。
「うん。今日は天気いいから海も良い感じだわ。」
「んじゃ撮って。」
「…はい、ポーズ。」
:08/12/13 16:51 :SH901iC :1vm0Oe8g
#385 [ゆーちん]
カメラが光る。
ボタン一つで何十年も先まで思い出が作られるのは、本当すげぇ話だよな。
「もう一枚ね。」
ポーズを変えて、もう一枚。
「はい、OK!」
「ありがとうございます。」
2枚を撮り終えた母ちゃんは言った。
:08/12/13 16:52 :SH901iC :1vm0Oe8g
#386 [ゆーちん]
「心、撮って。」
「は?」
「私だって凜ちゃんと撮りたいもん!」
「何でさ?」
「記念よ!」
隣に彼氏の母親を迎えた凜は戸惑っていたが、すぐにいつもの笑顔を咲かせた。
「はい、ポーズ。」
撮り終えると、今度は凜。
:08/12/13 16:53 :SH901iC :1vm0Oe8g
#387 [ゆーちん]
「親子で撮ったげるね。」
俺は反対した。
だけど女2人に無理矢理立たされて、強引ながらも笑顔を咲かせて、母息子という珍しいショットもおさめた。
「んじゃ凜ちゃん送ってくるわ。」
「いいよ。私が勝手に来たんだし一人で帰る。」
:08/12/13 16:53 :SH901iC :1vm0Oe8g
#388 [ゆーちん]
凜は珍しく遠慮した。
それを見ていた母ちゃんは俺の頭を叩いてきた。
「バカ!」
「痛っ!」
「彼女を送っていかない男なんか、男じゃないね。」
「送っていかないなんて言ってないじゃん!」
「凜ちゃんも!遠慮なんかしないでいいのよ。こんなバカ息子でいいなら、いつでもコキ使ってちょうだい。」
:08/12/13 16:54 :SH901iC :1vm0Oe8g
#389 [ゆーちん]
「あっ…はい。」
さすがの凜もうちの母ちゃんのパワフルさには慣れていなくて、圧倒されていたみたいだった。
「じゃあ凜ちゃん行こう。」
「あ、うん。ありがと。」
:08/12/13 16:55 :SH901iC :1vm0Oe8g
#390 [ゆーちん]
母ちゃんにわざわざお礼を言ってから、凜は俺の隣まで追い付いて来た。
「ごめんね。うっさい母ちゃんで。」
「ううん。私、おばさん好きだよ。」
「そういえば凜ちゃんの両親、式に来なかったね。」
「うん。忙しいんだって。」
:08/12/13 16:55 :SH901iC :1vm0Oe8g
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