先輩と旅立ちの唄
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#620 [あかり]
私はその間、タクロウ先輩の姿を、意識して見ないようにした。
練習は一時間ほどで終わって、生徒は解散をした。
放課後、私は一人で学校の近くのコンビニに、お菓子を買いに行った。
日が暮れるのもすっかり早くなってきた。
駅に向かっている時だった。
:08/11/24 23:55 :SH705i :KS/NgqI2
#621 [あかり]
学校の目の前にある川沿いの道で、タクロウ先輩が一人、反対方向から歩いていた。
先輩は、紺のマフラーを首に巻いていた。
「あ…。」
先輩の姿に気づいた私は、無意識に声を出してしまい、その場で足を止めた。
先輩も私の目の前に立った。
:08/11/24 23:58 :SH705i :KS/NgqI2
#622 [あかり]
「あ…あのぅ…、
卒業、おめでとうございます…。」
社交辞令にと、こんな台詞を言った。
「ありがと。」
辺りが暗くてよく見えなかったけど、先輩が微笑んでるのが読み取れた。
「じゃ、また…。」
お辞儀をして、その場を後にしようとした。
「ああ…。」
先輩も、反対側から歩き始めた。
:08/11/25 00:04 :SH705i :JwgW5bj.
#623 [あかり]
そして、卒業式本番―
式は順調に行われていた。
卒業証書授与の時―
三年五組の担任の先生が、一人一人の生徒の名前を読み上げていた。
「…小松順也。」
:08/11/25 00:10 :SH705i :JwgW5bj.
#624 [あかり]
「あーいっ。」
タクロウ先輩と一番仲の良い順也先輩が、
真面目な式とはそぐわない、ひょうきんな返事をした。
静まり返った会場に、一瞬小さな笑いが起きた。
私もおかしくて、顔がニヤニヤしていた。
:08/11/25 00:13 :SH705i :JwgW5bj.
#625 [あかり]
「…塩見タクロウ。」
そして、タクロウ先輩の番が来た。
「はあぁぁいっっ!!」
先輩はこれでもかという大きな声で、起立をした。
クスクスクス…
順也先輩の時と同様、再び小さな笑いが起こった。
:08/11/25 00:15 :SH705i :JwgW5bj.
#626 [あかり]
私が好きだった時の先輩だ―
確かに、先輩はふざけることが多いし、下品なことばかりやってみせるし、
何でこんな人を好きになったんだろう?と思うこともあった。
でも確かに私は、そんな先輩に恋をしていて、憧れていた。
:08/11/25 00:19 :SH705i :JwgW5bj.
#627 [あかり]
私の目には、自然に涙が溜まっていた。
先輩に接触をしようと、あれこれ考えていた時のこと、
先輩と初めて会話した時のこと、
先輩をとにかく、追いかけていた日々。
今、私の視界には、ここから旅立とうとしている、先輩の姿しか見えていない。
:08/11/25 00:24 :SH705i :JwgW5bj.
#628 [あかり]
式最後の、卒業生退場の時―
パンパンパンパン…
在校生や先生たちで、拍手でその姿を見送る。
私は両手が痛くなる位、大きな拍手をした。
:08/11/25 00:32 :SH705i :JwgW5bj.
#629 [あかり]
そして、タクロウ先輩が起立をし、その場を立ち去ろうとした。
振り返った時、先輩は私の方を見ていた。
偶然なのか必然なのかは分からないが、私たちは、目が合った。
先輩はフッと視線を逸らし、会場を後にした。
:08/11/25 00:54 :SH705i :JwgW5bj.
#630 [あかり]
三年生全員が会場から姿を消した後、
二年生も、脚立イスを直したりした後、先生の指示で教室へと戻った。
各クラスのホームルーム中…
今頃、上の階にいる卒業生たちも、最後のホームルームを行っているだろう。
時々、上から拍手や歓声の音が聞こえた。
:08/11/25 01:22 :SH705i :JwgW5bj.
#631 [あかり]
「あかりちゃん。」
帰りの会が終わった後、いのちゃんが話し掛けにきた。
「三年生、個性的で面白い人が多かったから、何だかもういなくなるなんて、寂しいね。」
いのちゃんが窓の景色を見ながら、私に言った。
「うん…。」
:08/11/25 01:25 :SH705i :JwgW5bj.
#632 [あかり]
「あー!」
突然、いのちゃんが叫んだ。
「な、何、いのちゃん!?」
「あかりちゃん、カモノハシのキーホルダー、自分のかばんに着けてどうすんのよ!?」
いのちゃんが、机の横に掛けていた、私のかばんを指差しながら言った。
:08/11/25 01:29 :SH705i :JwgW5bj.
#633 [あかり]
「え?えっと…」
「これは塩見先輩にあげるものでしょ!?
自分のものにしちゃいけないじゃん!」
「タクロウ先輩のことは、竜樹くんに忘れるって言ったから…。」
「それとこれとは、話が別じゃない!?
あかりちゃんいつも言ってたじゃん、塩見先輩に『ありがとう』が言っていたって!」
:08/11/25 01:41 :SH705i :JwgW5bj.
#634 [あかり]
「塩見先輩とは、もう会えなくなるんだよ?
このままだと、後悔しちゃうんじゃない?」
「うっ、うん…。」
「あたし、塩見先輩のことが好きなあかりちゃんが、好きだったよ。
あの頃のあかりちゃんの為にも、ここは一つ、いい踏ん切りをつけようよ!」
:08/11/25 02:14 :SH705i :JwgW5bj.
#635 [あかり]
私といのちゃんは、一つ上の卒業生の階へと上がった。
私の右手には、カモノハシのキーホルダーが握られていた。
全クラスはまだ、ホームルームが行われているようで、
廊下は人っ子一人いなかった。
私たち二人は、三年五組の教室の前で立っていた。
:08/11/25 02:45 :SH705i :JwgW5bj.
#636 [あかり]
他の教室から、わらわらと卒業生が、廊下に出てきた。
「あ!あかりちゃん、ちょっと人捜ししていい?
三年五組はまだ終わってないみたいだし…」
「うんっ。」
私といのちゃんは、いのちゃんと同中だった先輩に声を掛け、少し談話をした。
:08/11/25 03:12 :SH705i :JwgW5bj.
#637 [あかり]
「あ!五組の方、終わったみたい!
もっかいあっち行こ!
じゃあ先輩…また!」
私といのちゃんは、再び五組の教室まで駆けていった。
廊下には人が密集してて、少し通りにくかった。
私たちは周りにいる人を避けながら足早に歩いた。
:08/11/25 03:18 :SH705i :JwgW5bj.
#638 [あかり]
「すみません!塩見タクロウ先輩いますか?」
私は五組の人らしき男の先輩に、声を掛けた。
「えっ?しおみんならさっき帰ったみたいだけど―…」
―
あまりに一瞬のことで、私は言葉が出なかった。
咄嗟に、いのちゃんを置いて、足は玄関の方へと向かっていった。
階段を四階分下り、室内スリッパのまま外を飛び出した。
:08/11/25 03:24 :SH705i :JwgW5bj.
#639 [あかり]
すると、昨日タクロウ先輩と会った川沿いの道に、彼の姿が―
息を切らしながら、先輩に追い付こうと、全速力で走った。
「し…塩見先輩っ!」
私の呼ぶ声に、先輩が振り返った。
:08/11/25 03:27 :SH705i :JwgW5bj.
#640 [あかり]
「こ、これ…。
お、遅くなったけど…修学旅行の…お土産…です…ハァハァ…。」
やっとの思いでいいながら、カモノハシのキーホルダーを目の前に出した。
「タハハ。またマイナーなのを買ったもんやな〜。」
私の手からキーホルダーを受け取った先輩は、まじまじと見つめながら言った。
:08/11/25 03:32 :SH705i :JwgW5bj.
#641 [あかり]
「塩見先輩…。
私、一年の頃から、先輩の生き方とか明るさに、ずっと憧れてて…
皆の中心、って感じだし…
本当すごいな、っていつも思ってて…。
先輩に、いつかこの気持ちを伝えたいな、って思ってて…
…私と出会ってくれて、本当にありがとうございます。」
:08/11/25 03:38 :SH705i :JwgW5bj.
#642 [あかり]
「俺なんかにそんなん思ってくれてても、しゃーねって!(笑)
でも、こちらこそわざわざありがとうな。」
「先輩、今年の春から東京行くんですよね?
色々あると思いますけど、先輩のパワーがあるなら乗り切れると思います!
私、こっちでずっと応援してますから!」
:08/11/25 03:43 :SH705i :JwgW5bj.
#643 [あかり]
「おう!それに俺には、コイツもいるしな。」
キーホルダーを見ながら、先輩が言った。
「先輩…。
またどこかで、お会いしましょうね。」
:08/11/25 03:48 :SH705i :JwgW5bj.
#644 [あかり]
数日後―
タクロウ先輩との、卒業式の日の出来事を、竜樹くんに話した。
「俺、前みたいにヤキモチなんか妬いたりしませんから。
それに、過去を無理に忘れさせようとする方が、間違ってますよね。
何か、あかり先輩が一つ前に進めたみたいで、俺も嬉しいです。」
:08/11/25 03:53 :SH705i :JwgW5bj.
#645 [あかり]
「ありがとう。
てか、『ありがとう』っていいよね。
沢山言ったり、言われたりする人生にしたいな。」
「…今度は先輩が最上級生っすね。
一年経った時、ここで旅立ちの唄を歌えるように。
また一緒に、歩き出しましょう。」
「うん。」
空を見上げた。
沢山の雲が、ゆたゆたと移動をしている。
文句なしの青空だった。
:08/11/25 04:00 :SH705i :JwgW5bj.
#646 [あかり]
ガタンゴトンガタンゴトン…。
私、木村あかり。
現在、高校三年生。
受験生という意識を少しずつ持ちながら、毎日学校に通っている。
去年仲良しだった、いのちゃんとは同じクラスで、
藍美とは別のクラスになったが、それでも変わらずに、二人との交流は保っている。
:08/11/25 04:05 :SH705i :JwgW5bj.
#647 [あかり]
幼なじみの翔馬とも、クラスは離れ離れになってしまったが、
私たち離島出資者が交通手段としている、船の中などで、しょっちゅう話したりしている。
後輩の怜香とも、毎日色んな話をして、地元にいる時よりも、仲が深まっていると思う。
:08/11/25 04:08 :SH705i :JwgW5bj.
#648 [あかり]
一つ年下の、彼氏の竜樹くんは、優しくて頼りがいのある人だ。
未だに所々、敬語で話すところが愛らしい。
―今、朝の通学電車に揺られながら、窓の景色を見ている。
:08/11/25 04:11 :SH705i :JwgW5bj.
#649 [あかり]
ふと、同じ車両に座っている一人の子に、目がいく。
というか、立っている私の目の前に、座っている。
同じ制服を着ており、表情の初々しさからして、きっと新一年生であるだろう。
今年の春から、毎日見るようになった。
私が電車に乗る時には、彼女は既に、この定位置に座っている。
:08/11/25 04:16 :SH705i :JwgW5bj.
#650 [あかり]
数日後―
彼女の隣に座った私。
お互い、目が合った。
「一年生?」
「はい。…先輩の方ですか?」
「私は三年だよ。」
こんなやり取りから、私たちの会話が弾んだ。
:08/11/25 04:18 :SH705i :JwgW5bj.
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