微妙な10センチ。〜最終〜
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#161 [あき]
――――――
一カ月振りに立つこの場所は、何も変わってはいない。忙しそうに行き交う人々。ロータリーをせわしなく出入りする車達。
あの駅ビル前、噴水のふちに座ると、数週間前、届いたチケットを眺める。
なにをしてんだろう…
そう思った。
先程届いた西条さんからのメールに、あと15分程で着くと書かれていた。
道が混んでいたらしい。
あと15分…
あと15分で
私達の何かが変わる。
頑なに守り続けた
仕事仲間
その枠から、あと15分で外れるのだ。
:09/07/31 18:57
:W65T
:ZWrhOOXQ
#162 [あき]
噴水を見つめながら、行き交う人々を、ただ漠然と眺めていると、携帯が鳴った。
ーピッ
『はい?』
《どこにいるのっ?》
なんだか、相手は急いでいるようだった。
『え…噴水の前ですけど…?着きました?』
《ちょ…〃どうして、そんな所にいんだよっ。早くっ!こっち来てっ!!急げっ!ぢゃなっ!》
『へっ?はっ…はいっ〃』
:09/07/31 19:01
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#163 [あき]
慌てて、ロータリーへと向かう。
ジメジメとした暑さの中、人の流れに逆らいながら、相変わらず重すぎる荷物と、高めのヒールが、私の体力を著しく消耗させた。
反対側、あのターミナルに出てみると、赤い大きな四駆車の前にウロウロと落ち着きのない人を確認した。
サラリと着流したポロシャツから伸びた長い手と、履き古したデニムをまとう長い足。
アイロンのきちんとかかったシャツに、ラインの伸びたズボン姿からは、やはり変わるけれど。
タバコを吸う姿は変わらなかった。
:09/07/31 19:08
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#164 [あき]
『あのっ!お…お待たせしましたぁ〃』
著しく体力を消耗した私は、息も切れ切れでやっとの声を出し、汗ばんだ体で、久しぶりの対面を果たす。優雅に颯爽と現れるつもりだったのに、悲しいったりゃありゃしないよ。
『うすっ〃久しぶりっ!てか、早く乗ってっ!』
また軽々と荷物をトランクに詰め込むと、彼は運転席へと回った。慣れたように、ひょいと乗り込む。
『は…はいぃぃ…〃』
ちび助の私には、大きな四駆車を乗るのに、これまた一苦労だ。
最近お気に入りの高いヒールを履いてきた事すら、悲しくなってきた。
:09/07/31 19:13
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#165 [あき]
『ちょ…〃本当に、届かないの?』
『ご…ごめんなさいっ〃こんなに大きな四駆なんて初めてで。慣れてないんですっ〃あはは…〃』
ちび助は、一生懸命手を伸ばし、ドアの上についた手すりに捕まる。必死に体を引き上げて、助手席に乗り込もうとした。
彼は、驚きそして笑いながら、持って。と手を伸ばした。
助手席にへばりつくように、なんとか体を乗せ込んだちび助が、その手に捕まると、ひょいと体を引き上げてくれた。
『あは〃ありがとうございました…〃』
もう最悪。
:09/07/31 19:20
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#166 [あき]
『これっ。なんて車?』
『ん?○×って言うんだよ。』
車にさっぱりな私には、彼が教えてくれた名前なんて全く皆目覚えられなかった。
だけど、初めて聞いた名前には違いなかった。
『日本車?』
『右ハンドルだけど、一応外車になるかな〃』
『へぇ…〃』
外車って…
外車もベ○ツ、B○Wくらいしかわかんない。
結局、
あれっしょ?
高級車っしょ?
この人。
金持ちなの??
まさか…
ん???
んっ…???
:09/07/31 19:29
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#167 [あき]
『この車、でかいから、あそこ停めると邪魔になるんだよね〃急がせて悪かったね。』
『いえ…』
確かにでかい。
デカすぎる。
なおちゃんなんて、車持ってないんだから…
なおちゃんの愛車だった箱型普通車君は、今は私の相棒。
あの愛車君を、手放したくないけど、手放さなきゃいけなくなったくらい貧乏なんだから。
だから情けをかけて、私が引き取ったの。
愛車を失った彼は仕事用にともらった軽四をぷいぷい言わせてるんだから。
私がいると、当たり前のように、過去の相棒、今や私の相棒君を愛おしそうに、乗り回すんだから。
貧乏なんだから…
:09/07/31 19:37
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#168 [あき]
あの時とは、まるで違う。
爽快に流れる景色を高い視線から眺めてながら、ちらりと確認。
飾りも匂いも何もない、ラジオがBGMの小さな車に、小さく折りたたまれた長い足は、統一感溢れる備品で、いい匂いと、オシャレな音楽が流れる広々とした車にすらりと伸びていた。
『オシャレさんなんですねっ』
『そう?』
はにかんで笑う彼が、大人に見えた。
:09/07/31 19:45
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#169 [あき]
『遠い所、お疲れ様でしたっ〃』
『またまたお迎えご苦労様ですっ。』
『では、今日はどこから行きますか?』
『お任せしますっ。』
『わかりました。じゃ、ルートは任せて下さいっ。ただ、最終判断は、あなたの仕事ですっ。』
『了解っ!』
『では、本日も1日宜しくお願いします〃』
『宜しくお願いしまーすっ。』
私達は、顔を見合わせて、プッと吹き出す。
そして、はははと声を出して笑った。
:09/07/31 19:58
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#170 [あき]
その日。西条さんは、地方物の私に、沢山の感動と感激を与えてくれた。
一カ月前に来た時は、何にもない田舎だと思ったこの場所は。
本当は、とても海が綺麗で、人が暖かくて、美味しい食べ物で溢れる所だった。
『綺麗だねぇ〃』
そう笑う私の横に寄り添い、この景色の説明をしてくれた。
『これ美味しいっ!〃』
そうはしゃぐ私に、好きなだけ追加しな?と笑いながら言った。
車に乗れば、暑くない?寒くない?
階段になれば、手を差し出した。
大丈夫と、はにかみ笑う私に、彼はふっと微笑んで、黙って肩を差し出した。
:09/07/31 20:10
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