微妙な10センチ。〜最終〜
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#192 [あき]
私が知ってる慣れたメニュー。
どちらが会計をしても
どちらが買い出しに行っても。
《いつものね》
この言葉を言えば、必ず出てくるメニュー。
そして、ポテトを2つ、満足げに、平らげる私を
《あぁあ。またデブになるぞっ》
って笑いながら…
ハンバーガー2つ平らげる彼を
《このっメタボっ!》
って笑いながら…
必死に、チキンナゲットを取り合って。
マスタードソースを取り合って…
ぎゃーぎゃー喧嘩して…
私は、この場所を
そうやって過ごしてきた。
:09/08/06 05:25
:W65T
:kvYeBl/U
#193 [あき]
(ポテトも、ナゲットも…ないなぁ…てか、食べづら…)
私に微笑みかける西条さんに答えながら、私はそう感じざるを得なかった。
照り焼きソースって、けっこう食べづらいもんなんだ…マヨネーズやら、ソースやらが、垂れるんだ。
そんなの気にしてなかった。
《おいっ!ソースっ!》
《ん…?あっ〃落とした〃》
《ガキっ!》
『ぼちぼち出ようかっ。時間だね』
彼の言葉に、現実へと戻る。うんと頷き、二人並んで、店を出た。
:09/08/06 05:34
:W65T
:kvYeBl/U
#194 [あき]
二人並んで、駅を目指す。じりじりと差し込む日の中吹く、この生温い風は、雨が降る前兆。
おまけに昔、昔に怪我した右腕が、どくどくと脈打ちだす。
季節は梅雨入りだと、痛感させられた。
路地を抜けて、駅までの大通り。車がせわしなく行き交った。私の横をびゅんびゅんと先急ぐ車に、彼の長い手が、ふわりと伸びて、私の腰を掴む。引き寄せられるように、私は歩道側へと彼に並んだ。
『危なっかしいなぁ。〃』
『ごめんなさい〃ありがとっ。』
そして、伸ばされた彼の右手に、黙って左手を差し出した。
:09/08/06 22:30
:W65T
:kvYeBl/U
#195 [あき]
彼はその差し出した左手をしっかりと握って、はにかんで笑う。そして、雨、持つかなっなんて、恥ずかしそうに、プラプラと揺らした。私も、笑って答える。
駅のロータリーが見えてきた。数ヶ月前、私達が出会った場所で。昨日、私達が再会した場所。何も変わらない景色。
ただ、変わるのは
この場所で
スーツ姿の、よそよそしい挨拶をした私達が。
数ヶ月後には
こうして、手を繋いで歩いている事だけ。
:09/08/06 22:35
:W65T
:kvYeBl/U
#196 [あき]
チケットを買う私を、背中で待つ彼。
ビジネスマンや、親子連れ。ぱたぱたと手団扇で、蒸し暑さをしのぎながら、長蛇の列に、並んでいる。
ちらりと後ろを振り向くと、微笑む彼の隅に寂しさが伺えた。
見送る側の人って、こんな気持ちなんだ…
そう思ってみても、私の生活の場所はここではない。
帰る場所がある。
私の生きてきた全てが詰まったあの場所。
あの場所に帰らなきゃ。
私は、前を見据えて、列に並んだ。
:09/08/06 22:42
:W65T
:kvYeBl/U
#197 [あき]
流れゆく景色の中、私の中でも、この二日間の全てが走馬灯のように流れては消えた。
改札前。ぎりぎりまで、私の手を握っていた彼の温もりが、まだ左手に残っている。
《じゃぁ。気をつけて。》
《西条さんもっ。》
改札を抜ける私に、いつまでも手を振り続けてくれた。ふと窓の外を見ると、流れる景色の窓に水滴がついては、後ろに流れていた。
梅雨の雨だ。
私は静かに目を閉じて、現実へと戻って行った。
:09/08/06 22:49
:W65T
:kvYeBl/U
#198 [あき]
また慌ただしい日々が戻ってくる。
だけど…
この出逢いが
少しづつ
だけども
確実に
私の平凡で、平和で、平穏で…
だけど大切だった日々。
何十年もかけて
何年もかけて
積み重ねてきた
全てのものを。
壊していった―…
気付いた時には、本当に遅くて。
私に選択肢なんて残ってはいなかった。
:09/08/07 02:45
:W65T
:pu1DvuhY
#199 [あき]
―――――
『どうしてですかっ?これは、私の担当じゃ…もう準備だって…』
『とにかく、今回は外れてもらうから。後はそっちで話して。』
彼女は、私には目もくれず、書類をパンっと揃えると、席を立った。
高そうなスーツに身をまとい、高級腕時計をちらつかせて、釣りがねフレームの眼鏡をくいっと押し上げて、私の横をすり抜ける。この春から、私の直属上司になった。本社から来と言われる彼女は、いかにもやり手キャリアウーマンだった。
:09/08/07 02:52
:W65T
:pu1DvuhY
#200 [あき]
彼女の背中を見送りながら、呆然と立ち尽くす私の後ろに、まだまだ青い、何年も下。いわゆる、後輩と呼ばれる彼女が突っ立っている。
『あのぉ…』
『…あっ…ごめん。じゃ。引き続きしようか…。』
私は、振り返り彼女に笑顔を見せると、自分のデスクに戻る。かき集めた書類、資料を説明しながら、一枚ずつ、彼女に手渡す。彼女は必死にメモを取りながら、私の言葉に頷いた。
こんな、まだまだ青い彼女にこの案件を上手くまとめられるのか。
そう思っても、何も言えなかった…
:09/08/07 03:00
:W65T
:pu1DvuhY
#201 [あき]
この案件は、もう何年も私が担当してきた。
この地区だって、もう何回も足を運んだんだ。
勿論、ミスをした覚えはないし、トラブルだって起こした覚えはない。
なのに
突然に担当を外されたのは予想外の出来事だった。
今朝出社すると、なぜかそう決まっていた。
理由を聞いても他の仕事との兼ね合いだとしか言われなかった。
それ以上は、取り合ってはもらえなかった。
今更、そんな理由…
:09/08/07 03:07
:W65T
:pu1DvuhY
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