微妙な10センチ。〜最終〜
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#317 [あき]
その小さな四角い箱を開けると、心臓が止まるんじゃないかと思う程、私の胸はどくんと鳴った。
『これ…』
『…それも気に入ったからっ。』
『嘘だっ…』
思わず声を上げた。
そこには、小さな花をモチーフにした、煌びやかな指輪が私を見つめていたのだ。
:09/08/15 04:15
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#318 [あき]
どうしてっ?
いらないって意志表示したのにっ?
いつの間にっ?
頭は混乱に混乱を招く。
彼は、そんな私に気づきもしないで、ネックレスを手に取ると、私の髪をかきあげる。
されるがまま、座っていると、彼の細く長い指が、私のうなじで細やかに動き、それは長い髪と一緒に、首元に舞い降りた。
『似合うよっ〃』
太陽の光にあたりより一層に輝き、それを見て彼はそう微笑んだ。
:09/08/15 04:23
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#319 [あき]
『はいっ。次、手貸して』
私は右手を差し出した。
『…こっちなんだ。』
差し出した右手を見つめ、彼が呟いた。
『あ…ごめんなさい。入るかなぁっ〃』
ドキリとして、直ぐに左手を差し出す。そして咄嗟の言い訳で、その場を取り繕った。
二人が見つめる中、指輪は、スルスルと、呆気なく薬指に入る。
『おっ!入った〃うん。これも似合うね〃』
わかってた。
だから、出さなかったのに。
右手と左手。
薬指のサイズが同じな事をこれほど複雑な心境になった事はなかった。
:09/08/17 00:10
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#320 [あき]
ショーウインドの中、ライトを浴びて光っていたそれは、太陽の光を浴びて、本来の輝きを取り戻したかのように、嬉しそうに光る。
私にはとても眩しくて見れなかった。
『…私には派手じゃないかな?〃』
『そっか?いいじゃんっ。』
『そう?…ありがとっ。』
キラキラと光るそれを私は照れ笑いと称した笑みでかえす。
『大切につけさせて頂きます〃』
『よしっ。』
そして微笑み差し出された西条さんの右手に、キラリと光る指輪がはめられた左手を差し出し微笑んだ。
:09/08/17 00:21
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#321 [あき]
じっとりとした風が私達の間をすり抜けて、また厚い雲が、空を覆いだす頃、鉄の塊が駅へと入ってくる。いつの間にか増えた人が一斉に動き出したと同時に、別れを惜しむ人で、入り口付近が混雑した。スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…
:09/08/17 00:39
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#322 [あき]
スーツ姿のサラリーマンは迷惑そうな顔を向けながら、急ぎ足で次々に乗り込んでいく。私もまた、その迷惑そうな顔を向けられながら、ありきたりの言葉を交わし、いつまでも離れない手を握り、うんうんと返事しながら微笑む。
もう待てないぞと、最後の発車音がホームに鳴り響いて、私達の間に隔てられるドアがプシューと音を立て閉まった。
西条さんは、ドアの向こう側、手を挙げまたねと言って、私は大きく頷き、手を振る。
塊が動き出して、彼は遠く離れた向こう側へと帰って行った。
ある休日の昼下がり。
私達は、二度目の再会を終わらせて。
私は自分自身の何かを終わらせたー…
:09/08/17 00:40
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#323 [あき]
愛車に乗り込み、ルームミラーで、ついさっき、つけてもらった首にかかったそれを見た。
自分が選んだ?だけあって、シンプルかつキラリと光るそれは可愛い代物。
だけど…正直気分は複雑。
(…今からの時期は苦手なんだよねっ…)
そう。私は突然の雨に降られる季節や、汗ばむ季節になると貴金属は一切しない。
雨に打たれたり、汗をかいた時に、あのアクセサリーがまとわりつく感が、とてもとてもとてもとても!!!気持ちがわるいのだ。(※かなり、しつこく声を大にして言わさせて頂きたい。)だけど、つけてもらった数分後に外すのは、やはりいくら何でも、申し訳ない。
それに…
やっぱり
なおちゃんネックレス。
小さなお土産屋に売っていた、真っ青な石のあのネックレス。
あのネックレスを外して、これをつけてしまった首には。
やっぱり多少の違和感と、言いようのない寂しさがあった。
:09/08/17 01:00
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#324 [あき]
鍵をさし車が唸る。
ハンドルを握る手を見る。
また指輪がきらりと光った。
(…つけちゃった…)
指輪を持っていない。
これは嘘じゃない。
私は、思春期を迎えた頃から自分の手が大嫌いだった。
父親に似てしまったこの手は、女の子らしさのかけらもなく、指は太く短いし、指先なんて丸くて平べったい。爪なんて弱くもろい性質で伸ばせた試しがない。だから、指輪なんて手が強調されるようなものなんて恐れ多い。マニキュアすら塗った事がないのだ。
そりゃ、一応女だし?憧れたりはしたけれど。
過去にも、一度たりともねだった事はなかった。
:09/08/17 01:14
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#325 [あき]
手、そして指は私の最大のコンプレックスだったのだ。
私が一生に一度だけ
唯一つけるとするならば。
それは。結婚指輪。その指輪しかしないと心に決めていた。
自分の左手薬指を見つめても、初めての指輪は、やっぱり女心をくすぐった。仲間入りをしたようで、嬉しかった。
だけど、やっぱり…
《あきが、俺を認めさせたら。よくやったって言わせたら…指輪買ってやるよっ!!》
はるか遥か、遠い昔。
酔っ払ったなおちゃんが
言ったあの言葉。(※一編参照)嬉しかった思い出。
果たせそうにない言葉。
それが胸に響いていた。
:09/08/17 01:26
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#326 [あき]
この指輪は私の決意だ。
私が西条さんのものになったという証。
未来を掴むんだと決めた。
だから、なおちゃんを…諦める。あの日、そう決意した、その証なのだ。
そっと指輪に触れてみる。
そして、私は前を見据えて強くハンドルを握った。
車を静かに発進させて、ゆっくりと前へ動かす。
駐車場を出て、流れゆく景色の中、私はただ車を前へと動かせた。ただ、ただ前進させたのだ。
そう決めたんだ。
自分で決めた…
何度も、そう言い聞かせながら、愛車を前へと進めていた…
:09/08/17 01:42
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