微妙な10センチ。〜最終〜
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#367 [あき]
二人でテーブルを片付け、静かな時間が流れる。
私は換気扇の下、カチリと火をつけた。フワリと煙が換気扇に吸い込まれていく。
ふと、リビングを見ると、さえちゃんは、彼に寄り添うように、ソファーにもたれて、テレビを見ながら温かい紅茶を飲んでいた。
『さえちゃん……』
『んー?』
彼女は、テレビから私に視線をくれる。
『……今幸せ…?』
私の全てを吸い込んでいく換気扇の下、煙草の火が、灰皿に落ちた。
:09/08/26 15:56
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#368 [あき]
彼女は、照れた様に微笑んだ。
『そだね…〃』
とても静かな時間だった。
じわりと胸が熱くなった。
『そっか…〃いいな…』
そう呟いた私に、彼女は、すっくと立ち上がり、私の傍へと歩み寄る。
慌てて、煙草を消して、換気扇を強にする。
こっち来たらダメだよと笑う私に、じゃここからねと言って、キッチンの入り口に立った。
彼女の目は真剣で、私は、ドキンとした。
:09/08/26 16:03
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#369 [あき]
『…あきは?幸せ?』
そう問う目を、私は直視できない。
『……ま…ね…』
ハハハと笑い、煙草をポケットにしまうと、彼女の横をすり抜けるように、キッチンを出た。
そんな私の背中に彼女は言った。
『ねぇ、その恋は、楽しい?』
どくんと胸が鳴った。
リビングに抜けようとした足が一瞬止まる。止まったけれど、後ろを振り返れなかったー…
:09/08/26 16:09
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#370 [あき]
苦笑いで、彼女を振り返る。
彼女の眼差しは、とても熱かった。
『今日、お昼に電話あった人でしょ?』
『…うん』
『…なおちゃんじゃないね?』
『…うん』
さえちゃんは、そっかと呟くと、二人掛けの小さなダイニングテーブルに座った。
促されるように私も座る。
テレビの音がやけに大きく聞こえた。
:09/08/26 16:21
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#371 [あき]
温かい紅茶を目の前に、私はポツリポツリと語り出しす。
なおちゃんと、いつしか、うまく行かなくなっていた事。
本当は凄く寂しかった事。
だけど素直に言えなかった事。
そんな時、出張先で、西条さんに出会った事。
とても楽しかった事。
とても救われた事。
心が傾いた事。
なおちゃんよりも、彼を選んだ事。
結果うまくいかなくなった仕事の事。
優しい彼の…強い一面。
戸惑いの日々。
言い出すと、何故かまた涙が出てきた。
彼を選んだあの日から、泣くまいと決めていた滴が、次から次へと溢れ出てきた。
:09/08/26 16:33
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#372 [あき]
しばらくの静寂の中。
彼女の視線は、どこか悲しそうだった。
『…その西条さんの事好きなの?』
静かにそう聞かれる。
しばらくの沈黙。
『……好きだよ。』
私は、そう言った。
そんな私に、彼女は小さく細く溜め息をついて言った。
『…自分を抑えてまで一緒にいたい相手なんだ…』
それには答えられなかった。
:09/08/26 16:54
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#373 [あき]
私はふっと笑って、席を立つ。
また換気扇の下、煙草に火をつけた。轟音の下、私の吐き出す煙がそれに吸い込まれていく。
彼女の言葉が胸をかきむしる。それを全て吸い込んで欲しかった。そんな私を彼女は、黙って見つめていた。
私達の間だけ、静かな時間が流れる。
ーブーン…ブーン…
そんな時、まさか、このタイミングでかと驚く程に、テーブルの上、置きっぱなしにしていた携帯電話が震える音が私達の間に響いた。時刻は日付も、もう数時間前に変わっていて、恐らく相手は…彼だ。あれ以降、何の連絡もしていない私への…怒りの電話だろう。煙草を消して、さえちゃんの横、置きっぱなしの携帯画面を見て彼女を見る。
彼女は、少し肩をすくめて頷いた。
:09/08/26 17:12
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#374 [あき]
ーピッ
『はいっ…うん…うん…うん…ごめんなさい…うん…うんっ…わかった…うん…そんなんじゃ…ううん…うん…そだね…うん…ごめんなさい…じゃぁ。はいっ…』
電話が切れる。
私は、大きく溜め息をついて、かなりご立腹だわと苦笑いで答える。
さえちゃんは、怒る意味がわかんないと、苦笑いをしながら、肩をすくめた。
『彼は私の事心配してくれてるのっ…〃』
『それ、心配じゃなくて、信用されてないって事でしょっ?』
『…不安がりなんだよ〃』
そう答えるしか出来ない。
彼女は、小さく首を横に振って、違う。とたった一言呟いた。
:09/08/26 17:22
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#375 [あき]
『さっきの電話で思えた。
あのね?好きな人からの電話って、もっと楽しいはずなのっ。嬉しいもんなの。
だからね、どうしても、表情に出ちゃうもんなのよ。
でも、あきは、お昼も、今も、ちっとも楽しそうじゃないっ。
その彼、あきの好い所、全部消してるじゃん。
電話してる、あきの顔。
怖いよ?鏡見てみ?
どう見ても、恋してる女の顔じゃない。
まだ、なおちゃんと電話してる時の方が喧嘩しながらも、楽しそうだったよ?
幸せそうだったよ?
幸せってそうゆうもんだよ?
作るもんじゃないの。
にじみ出るもんなの。
ねぇ…あき、このままじゃ、壊れちゃうよ?ねぇ?いいの?これでいいのっ?』
さえちゃんは涙ながらに、そう全身で伝えてくれた。
私は、何も言えなかったー…
:09/08/26 17:48
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#376 [あき]
自宅に戻ると、時刻は真夜中。
あと数時間で夜が明ける。
部屋に入り、暗闇の中、携帯電話を握る。
さすがに寝てるだろうと思った。起こしてしまう事もわかった。だけど、今、しない事により事態は悪化する事もわかっている。一息ついて深呼吸をして、私は発信ボタンを押した。
真夜中のコール。耳から全身に緊張が駆け抜ける。
数回のコールで彼は出た。
《もしもし。》
『あ…起こした?今、帰ってきたからっ。』
《……ほら、結局、朝じゃん。お前は、本当に約束を守れない女なんだなっ。》
恐らく、起きていた。
彼は怒りで起きていたんだ。
そして、こう言った。
:09/08/26 23:31
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