微妙な10センチ。〜最終〜
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#437 [あき]
西条さんは、いつも答えを欲しがった。
いつも、いつも、私に愛を求めた。
だけど、私はそれに答えられなかった。
馬鹿な私は、彼が求める答えを出せなかったし、彼が求める愛の形がわからなかった。
どうしたら、彼が納得するのか。
どうしたら、彼が落ち着いてくれるのか。
どうしたら、彼が私を信じてくれるのか。
いつもわからなかった。
答えれば、答える程、彼を傷付けてしまった。
これ以上彼を傷付けたくなかった。
だから、彼が求める答えがわからず、私は何も言えなくなってしまったのだ。
:09/09/15 04:39
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:QiLm6EsI
#438 [あき]
《…どうして黙る?……わかったよ…なら、その気がないのに、その気になるような事しといて、見事に、あきにハマってく俺を見て心の中で、笑ってたって事?》
また電話の向こうで、なんだか、声が聞こえる。さすがに、とても、酷い事を言われたような気がした。
自然と涙が溢れる。
溢れた涙が視界を現実に戻した。
突然泣き出したスーツ姿の若い女に周囲の人は驚いた顔で、私を見ている。
無邪気に母親にじゃれてた子供は、ピタリと固まり、私の顔を覗き込む。
そうだ。ここは新幹線ホームの待合室。
なのに涙が止まらなかった。
:09/09/15 04:49
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#439 [あき]
『……馬鹿にしないでよっ。』
私が吐き出した言葉は、彼の心には届かなかった。
《ならどうだって言うんだ!?好きも嫌いも言えないんだろ!?馬鹿にしてんのは、どっちだっ!》
隣に座るサラリーマン風のおじさんは、電話口から漏れる彼の怒りの声に、少し顔をしかめた。
静かに新聞を折りたたみ、私の顔をちらりと横目で確認する。
公共の場所での
若い男女の痴話喧嘩。
いい迷惑な話だ。
サラリーマンはそう目で訴えてきた。
:09/09/15 04:56
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:QiLm6EsI
#440 [あき]
『…とにかく、今は話できない。』
涙声が必死に彼を説得にかかる。
《…どうしてっ!》
『ホームにいるのっ…』
《だからっ!》
『…お願いだから、落ち着いてよ…』
周囲の人々は、やれやれと言った顔で、我関せずの体制に入った。
『…また帰ったら電話するから…』
:09/09/15 04:59
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#441 [あき]
《待てない。今、聞きたい。……その新幹線乗る前に、はっきり決めてくれっ。》
彼は、そう言う。
『…何を決めろって言うの?』
落ちた涙も乾き、静かに私は聞いた。
まさかの彼の言葉。
にまた時間が止まる。
《あきと、やり直したい。……あきは?》
:09/09/15 05:03
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#442 [あき]
『……ごめんなさい。』
そう言う事で、彼を傷付ける事はわかっていた。だけど、答えを出せない位なら、もうここで終わらせようと、そう思った。
私の気持ちは、そう判断した。
《…終わりって事なのか?》
『…それでいい…』
そう伝えた私に、彼は言葉を失っていた。
:09/09/15 05:09
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#443 [あき]
『遊びで付き合ってたつもりはなかったけど…貴方がそう思うなら、そう思ってくれていいから…もういいよ…だから西条さんが決めてくれたらいい。』
そう言った。
言ったら、また涙が溢れて来た。
この台詞も、この涙も卑怯だと思った。
だけど、本気でそう思ったし、涙は自然と溢れてくる。
この姿と言葉が
今の偽りのない
―私自身―
だった。
:09/09/15 05:21
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#444 [あき]
《俺に決めろって…どうゆう意味?》
『…散々酷い言葉言われて…やり直したいなんて言われて、はいわかりましたなんて言える訳ないよ。』
《……》
『酷い事言った事わかってるの?傷付いたんだよっ。私。』
《……》
『だから、それが私の答え。』
:09/09/15 05:29
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#445 [あき]
《…ごめん。悪かった…》
この言葉を切っ掛けに、壊れていた私達の時計はまた動き出した。
彼が私に向ける愛が本物なのかどうなのかは、わからないし
私が彼に向ける気持ちが、本気なのかどうなのか、まだわからない。
だけど彼は私を必要として、力付くで私を求めていたし。
私もまた、見えない未来よりも、見える未来に執着していた。
それを幸せだと、また錯覚してしまう。
だけど……
:09/09/15 05:51
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#446 [あき]
もう一つ。
止まっていた時計。
いや…
私が無理矢理に止めた、あの時計。
その時計が、この数日後に、動き出してしまう。
ただ、壊れた時計の修復に気を取られていた私は、動き出した、もう一つの時計に気付きもしなかった…
それがチクタクと、大きな音を立てて、西条さん以上に力強く動き出して。
私の時計を、人生を狂わせた…
:09/09/15 05:58
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