微妙な10センチ。〜最終〜
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#472 [あき]
《…は?》

なおちゃんは、突然の泣いた女の私発言に、驚いた様だった。

『だからっ…わたしっ…どおしよう…ねぇっ…!!』

だけど、そんなの、私は関係ない。
安心して泣きじゃくりながら、必死に伝えようとする。

《…あきかよっ。なんだよ?どうした?》

あの声だ。
私が、大好きだった。
あの声…
安心する…
また涙が出てきた。


久しぶりの嬉し涙だった。

⏰:09/09/16 04:16 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#473 [あき]
久しぶりの電話なのに。何も聞かず、何も言わず、どうしたって聞いてくれた、なおちゃん。


『今、交番にいるのっ…
車上荒らしにあっちゃって…
仕事のカバン全部盗られちゃったのっ。
やばいよ…っ。
どおしよう…
会社の電話番号わかんないっ??
ねぇ…やばいよぉ…!』


《はぁ…?!んなの、俺が知るわけねーだろ。》

⏰:09/09/16 04:21 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#474 [あき]
『何で、知らないのよっ…!!使えねーっ…!とにかく、誰でもいいからっ、私繋がりの子の番号教えてっ!!』


泣きながら必死に訴える。
とにかく、一刻も早く何か打開策を見つけて、会社と連絡を取らなければならなかった。


《はぁ??…あ…ちょっと待ってろっ。》


そして、一件の携帯番号をメモした。

⏰:09/09/16 04:25 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#475 [あき]
メモを握りしめ、必死に冷静さを取り戻していく。

『携帯も盗られて…なおちゃんの名刺持ってたからっ…他の番号誰もわかんない…』

《俺の番号くらい、はいい加減覚えとけよっ。あほう》

優しいなおちゃんは、嫌味たっぷりに、そう言う。

『…とにかく、今は切るから。ありがとっ!』

そう言って一方的に私は電話を切った。

なおちゃんの嫌味は、やっぱり私の力の源なのかもしれない。
私は、この電話を切っ掛けに、冷静に電話を掛け続け、淡々と被害届けの手続きを進めていった。

⏰:09/09/16 04:38 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#476 [あき]
やっとの思いで繋がった、メガネインテリ女上司には、緊急事態に直ぐ様対応してくれた。上司に繋がった事で、また少しだけ冷静さを取り戻す。

この後、社内は、とんでもない大騒ぎになり、帰宅している社員には緊急招集が掛けられて、部署内がひっくり返る程の大惨事な事が簡単に想像できた。

そしてまた、この事態が終焉を迎えた時の私の行く末も見えた様な気がした。

盗られたバックには、一週間分の社の現金はもちろんの事。(※現地での必要経費の立替金)現金化すれば、いい値段で売れる代物。そして…なにより…
顧客データが数百件分の資料。
それら全てが入っていたのだ。

⏰:09/09/16 04:51 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#477 [あき]
もちろん、私の仕事担当柄、それらの事は全て上司も承知の上ではあるが。
一週間分を安易に持ち出した私の責任は大きかった。

更に、そんな莫大な物を持ち歩いている事に慣れてしまっていた私の少しの気の緩み。

たかが五分の気の緩み…

こんな事態を巻き起こしてしまったのだ。
今更ながら、会社に与える損害は計り知れない。

交番で、お巡りさんに質問されるがまま答えていく間。
淡々と被害届けの手続きが進む間。

頭の中は、後悔と絶望しか残らなかった…

⏰:09/09/16 04:56 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#478 [あき]
『で?後は?個人的な物もあるんじゃないかな?』

お巡りさんに聞かれて、はたと気付く。
そうだ。私自身の無くした物もある。

『…携帯と…化粧ポーチ…あともう一つ、薬とか入れてるポーチがあって…あとは……』

事細かく、どんなサイズだったのか、どんな色だったのか、何が入っていたのか、全て聞かれる。

あのバック一つの被害物品は、紙切れ四枚にも綴られた。

⏰:09/09/16 05:01 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#479 [あき]
薄っぺらい紙切れ四枚に、一つ一つサインをして、拇印を押す。

外の駐車場では、若いお巡りさんが二人掛かりで、まるでドラマで見たワンシーンのように、耳かきのような物で、私の壊された愛車の鍵穴と睨めっこしていた。

『バック…見つかりますか?』

『ん…どうだろうね。』

『犯人…捕まりますか?』

『…捕まえたいねっ。』

『そうですか…』


虚しい会話。

⏰:09/09/16 05:08 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#480 [あき]
結局、こんな事をしたって、盗られたバックを探してくれる訳でも、盗った犯人を捕まえてくれる訳でもない。
ただの形式で。
結局は泣き寝入りなのだ。
損害額は借金となり、どうせ、私はクビになる。
盗られたあのポーチだって。
あのポーチの中に入れてたあれだって…
私には、大切な思い出の品物ばかりだった。
私の宝物だった。
なおちゃんがくれたあの麻のストラップだって…無くなった。

『…犯人が憎い…』

ポツリと呟いて、今度は悔し涙が零れた。

⏰:09/09/16 05:13 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


#481 [あき]
『…気持ちはわかるよ。酷い事をしたもんだよね。』

お巡りさんは、そう言って、私の目を見つめた。

『…見るからに、会社の物だってわかるじゃんっ!…盗られた者の人生狂わせると思わないのかなっ…』

お巡りさんに、当たっても仕方のない事だとは解ってはいても、このやり場のない怒りをどこに持って行けばいいのか、わからなかった。

『そんな良心がある奴は、こんな犯罪をそもそもしないよ…。』

お巡りさんの言葉に、私は何も言えなかった。

⏰:09/09/16 05:19 📱:W64S 🆔:pph25.Ww


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