微妙な10センチ。〜最終〜
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#517 [あき]
『……クビだろうなぁ……。』

自然と漏れたその言葉に涙が溢れてきた。

『そーかもな。』

おちゃんはたった一言そう言った。

『…クビになる前に、辞めっかな…』

また涙が溢れてくる。
自分の馬鹿さ加減に
悔しかった。
悲しかった。

『ふーん。』

なおちゃんは、また何も言わなかった。

妙な慰めも、妙な励ましも何もなかった。
だけど。私の言葉を全て飲み込んでくれ。
ただ、ただ傍にいてくれた。

⏰:09/09/28 18:44 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#518 [あき]
そのまま、何時間。
二人で過ごしたんだろう。ただ、私はソファーに横たわり、時折呟くように言葉を発して涙を流した。そしてそんな些細な呟きに、慰めも励ましもないただ単調な返事を繰り返すなおちゃん。そんな彼から久しぶりに言葉が発っせられる。

『てか、もう朝ですけど…?』

カーテンの隙間から、光が指してきて、蝉がミンミンと煩くなった。また今日も蒸し暑くなりそうだと予感させた。カーテンの隙間の外を眺めるように私は答えた。

『みたいだねー…』

私には、熱い釜にふつふつと沸き上がり、地獄への門番が、ニコニコしながら私を迎え入れているような…地獄への入口が開いた。そんな景色だった。

⏰:09/09/28 18:55 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#519 [あき]
なおちゃんは、んーと背伸びをして、ソファーから立ち上がった。

『俺帰るぞっ。』

なおちゃんが帰る。
無性に寂しくなった。
だけど、そこは言えないし、気分はそれどころじゃない。

私は立ち上がる所か、返事する気力すら失われて、片手を上げてピコピコと返事をした。


『ったく…シャキッとせんかいっ!!』

⏰:09/09/28 19:08 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#520 [あき]
突然そう言って、私の片腕を引っ張り上げる。引っ張り上げられた腕の拍子に私はくるりとソファーに座った。

『ちょっと!痛いしっ…!やめてよっ。』

私は、腕を振り払って、またソファーに横たわる。

『おいっ。ったく…でぶでぶしやがって…〃』

なおちゃんは、そんな私になにやら言葉を間違いながら笑っていた。

『…でぶでぶじゃなくて、ゴロゴロでしょ…間違ってますから…』

相変わらずの口の悪さに、言い返す気力すら奪われた。

⏰:09/09/28 19:15 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#521 [あき]
『でぶーっとして、本当見苦しいぞっ。』

『……うっせ。どうせ、デブですからっ…。』

そんな私に、なおちゃんは、よくわかってるじゃないかと、何やら勝手に満足をして、ふむふむと納得をした。

『ほれっ!いい加減に起きろ!仕事行けっ!』

そして、私の背中をパチンと叩く。
その力は、かなり本気なのか、叩かれた背中はヒリヒリした。

『痛いっ!!』

⏰:09/09/28 19:19 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#522 [あき]
『…いつまで、ぐじぐじ言ってんだよっ。』

今になってヒリヒリした背中が熱を帯びて暖かさを感じる。

『…わかってるよ…』

ソファーに座り、立ち上がったままの彼を見上げる。
泣きすぎて、化粧もぐちゃぐちゃで、目も顔もパンパンに腫れて、もう、見るも不様なぶさいくな顔。
鼻水ですらズルズルになった私の姿。
そんな私の目をまっすぐに見つめ言った。


それは、私が欲しかった。

全ての言葉が詰まっていた何よりの言葉。

⏰:09/09/28 19:35 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#523 [あき]
『まぁ、こんな事でクビになんて、ならんとは思うけど。もし、クビになったら…次の面倒くらい見てやっから。
だから…安心しろ。
行ってこいっ。』

そう言って、なおちゃんは、じゃあな。ブサイクちゃんと言ってリビングを後にした。
私は突然の言葉に、うんうんと返事をしながら、溢れる涙が止められなかった。
ガチャリと玄関が閉まる音がして。
その音に、私は言いそびれた言葉を言う。

『…ありがとうね…なおちゃん。助かった…』

⏰:09/09/28 19:50 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#524 [あき]
私は、顔をバシャバシャと洗って、真新しいスーツに袖を通し、玄関を飛び出す。

胸に響く彼の言葉。
『大丈夫だ』
『安心しろ』

この二言が流れ続けた私の涙をピタリと止め、彼の温もりが支えとなってくれていた。

⏰:09/09/28 19:58 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#525 [あき]
ただ、なおちゃんが傍にいてくれるだけで。
私は救われる。
他の誰でもない。
なおちゃんなんだ。
誰も変わりは出来ないんだ。

どんなに心細くても。
どんなに悲しくても。
どんなに不安でも。
彼が傍にいてくれるだけで。
私は、それだけで、安心した。

そして…彼の言葉ひとつで、私は強くなれる。

どうして。
私は、なおちゃんじゃなくて。
西条さんを選んだんだろう…。

⏰:09/09/28 20:06 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


#526 [あき]
重い気分の中、私は会社の重い重い扉を開いた。昨夜の緊急招集の慌ただしさが、まだ残る社内に、数名の上司が残っていた。

社内の空気が、ピシリと走り、そして上司達の視線が私に突き刺さる。
真っ直ぐに所長のデスク前へと向かい、頭を下げた。

『…この度は申し訳ございませんでした。』

頭を下げ、泣いてはいけないと自分に言い聞かせ、ただひたすら頭を下げた。

⏰:09/09/28 20:10 📱:W64S 🆔:AzvUcxQs


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