微妙な10センチ。〜最終〜
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#591 [あき]
あの時、彼女が言った《大丈夫よ》は、これも意味する。

首切りになんてさせない…大丈夫よ。
担当は続けてもらう…大丈夫よ。
これからも変わらず…大丈夫よ。

勿論、今の私があるのは、私の上司、フロア責任者である彼女が、あの夜、あの日、どれだけ守ってくれたのか。
そしてまた、莫大な負債を背負った私の生活を、どれだけ気にしてくれているのか。
わかっていた。
彼女には、感謝してもしきれない。

だけど
彼女のこの大丈夫よが。私はまた苦しめる原因でもある事に、彼女は気付いてはいなかった。

⏰:09/10/07 00:44 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#592 [あき]
もう、残業組が数名残るフロアで、新たに与えられた案件の書類に目を通す。
これなら、あと数時間もあれば、片付きそうだ。
私は、んーっと伸びをして、廊下に出た。
あの錠剤が効いているのか、今はとても気分が楽。
暗闇の中、廊下の片隅に置かれた淡い光に誘われて、ポケットからコインを入れた。
カタンと音がして、温かい珈琲が落ちてくる。取り出して、隣の扉を開け、隔離されたそのスペースで、煙草に火をつける。

⏰:09/10/07 00:49 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#593 [あき]
スイッチの入った機械に白い煙が吸い込まれていくのをぼうっと見つめる。甘い甘い珈琲をグビリと飲んで、ほっと息をつく。

(大丈夫…大丈夫…)

そう自分を励ましながら、くしゃりと煙草を押し消して窓から見える外のネオンを眺めてみる。キラキラ光るネオンは、何も変わってはいなかった。
もうしばらくしたら、この明かりも消えるだろう。そんな事を考えていると後ろで扉の開く音がした。

⏰:09/10/07 01:19 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#594 [あき]
『あ…お疲れ様です…』

『お疲れ。』

その人物を認識した途端、急激に体温が上がり、ばくばくと心臓が物凄い速さで打ち始め、胃がきゅっと音を鳴らした。

『…まだ残ってらしたんですね〃』

それでも、私は笑顔を作り、話かけた。

『まね。』

たった一言、そう返された事により、また更に胃がぎゅっと縮まる。そして目の前で、無言で煙草に火をつけた、彼女…
猛獣一号に。

怖い。やられる。

そう認識した。

⏰:09/10/07 01:26 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#595 [あき]
『……』
『……』

無言で気まずい空気。
じゃあと、私は会釈をしてノブに手をかけた。

『あのさ』

『はいっ…』


きた―…


『私が、あの時言った意味わかる?』

⏰:09/10/07 01:33 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#596 [あき]
『……はいっ。』

『なら、どうして、仕事受けてんの?』

彼女は、冷静に。
冷酷な事を言う。

『…すみません。』

『なに?借金背負ったから、仕事くれって言ってるわけ?』

『…いえ…。そんな事は…』

『だったら何?やっぱり媚び売ってるわけ?』


やっぱり…って何だよ…。

⏰:09/10/07 01:36 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#597 [あき]
『まさかっ。』

『あらそうなんだっ。若いのに、ここまで、スピードで来たしね。てっきりそうかと〃』


冷酷に微笑む彼女。

『……』

『なんだか、○×地方のイケメンとも付き合ってんだって?』

『……いえ…』

『もう社内中広まってるよ?』


そんな訳ない。
ただ、脅されているだけ。

⏰:09/10/07 01:39 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#598 [あき]
『…だから、どうして辞めないの?この仕事より、他の仕事の方が給料いいよね?』

『……』

『何にこだわってるわけ?』

『…この仕事が、ただ好きだから…ですかね。』

『…好きじゃ借金返せないよ?まっ。勝手にすれば、いいけど、ただ立場わきまえてもらわなきゃ困るわ。いい?二度と新しい担当受けんじゃないよ?』

そう言って、彼女は荒々しく煙草を押し消して、荒々しく部屋を出て行った。

⏰:09/10/07 01:44 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#599 [あき]
バタンと閉まる扉の音が、ガツンと頭に響き、内蔵をギューっと痛くした。

『…勝手な事言ってんじゃないよっ。
ふざけんなっ…
あんたには関係ない話じゃん…
そんな性格だから、仕事貰えないんだっつーの…』

と、そう呟いてみた。
本当は、正面切って言ってやりたい。
言われっぱなしは悔しい。
だけど、そんな事したら、私はますます、この場所にいられなくなる。必死に震える拳を握りしめる。
すると、ズキンズキン打ち響く頭痛に、ぎりぎり痛みだす胃。更には顔面がピクピクとつり始め、ずきずきと骨が軋みだし。

『いた…いたたたた……』

私は、その場にうずくまり、動けなくなった―…

⏰:09/10/07 01:53 📱:W64S 🆔:qvWtMHFU


#600 [あき]
――
―――
――――

薬品の匂い。
ぼうっと目を開けた。
うっすらと見える天井に、細く長い管が繋がれている私の腕。
ポタリポタリとリズムを刻みながら、透明の液体が私の体に流れていた。

『……すみません。』

隣に立つ白衣の天使に声をかけた。
白衣の天使は、にっこり微笑むと、頷いた。

⏰:09/10/08 17:42 📱:W64S 🆔:haJuWVKA


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