微妙な10センチ。〜最終〜
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#601 [あき]
寝かされたベッドに、この感覚は久しぶりだなと、妙に冷静に考える。
天使に呼ばれたのか、推定年齢三十代後半。この業界では、まだまだ若手と呼ばれるんであろう医師は、寝かされた私の顔色を伺うと、カチカチとペンを鳴らながら丸い椅子に座った。
『よくもまぁ、こんななるまで我慢したもんだ〃相当痛かったでしょ?〃』
それはどこの部位を聞いてるんだろうか?
疑問点はあるけれど、まぁと微笑み頷く。
:09/10/08 18:08
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:haJuWVKA
#602 [あき]
『まっ。しばらく安静にして、それから治していこう。とにかく、この点滴が終わったら、病室案内してあげて下さい。』
爽やか医師は、何やらサラサラとサインをすると、この世界ではベテランだろうと思える、熟年白衣の天使に言った。
天使は、わかりましたと微笑むと、私に言う。
『これは、栄養剤だからっ、あと三十分で終わるからねっ。』
『はぁ…あのぉ?』
『んー?』
『いや、いいですっ…』
私の返事を待たず、強制的に病室に連れてかれる。
だけど、もういいやとそう諦めた。
いや…助かった。
そう思ったのかもしれない。
:09/10/08 18:15
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#603 [あき]
あの後、何とかデスクに戻り、ペンを握った。
一時間…
二時間…
途中、何度かあの大粒で即効性のある錠剤を飲んだ。
何度も飲んだ。
だけど、効力を示さず、それどころか、益々強くなる耐え難い激痛に加え、視界がくるくると回りだして、汗が吹き出てくる。
(だめだ…気持ち悪い……)
トイレに行こうと立ち上がったその時、数名残る残業組が、ざわめいた。
そして、気付けば私は救急車に乗せられていたのだった。
:09/10/08 19:02
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#604 [あき]
苦痛を、うわごとのように訴える私にすぐさま担架が用意され、夜間入口から私はここへ連れてこられた。
移動中も、車の揺れに耐えられず、何度も何度も嘔吐した。
やっと到着した頃には、もう私自身、唸るような頭痛と、唸るような胃痛。顔面が痙攣し、手足が痺れて、動く事すら出来なかった。
そして、寝かされた担架の上、ただひたすら痛みを訴え続け、抱えたトレーに嘔吐し続けたのだ。
:09/10/08 19:25
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#605 [あき]
そして、慌ただしく検査に検査を継ぎ、私は最終的に、点滴で落ち着いた。
少し前からここに寝かされていて。
痛みも気分も、今はなんて事はない。
なんなら、いつしか、ウトウトとしていた私は、疲れた体を心を無して眠りにつけて、なんだかすっきりしていたくらいだった。
:09/10/08 20:10
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#606 [あき]
『あの…電話したいんで、病室には自分で行けますから。〃』
もう消灯時間はとっくに過ぎた暗闇の廊下。
車椅子に乗せられ、病室に向かう途中。
ふと目に入った公衆電話に、思い出す。
白衣の天使は微笑んで、四階だと教えてくれた。
ロビーに移動して膝に置いたバックから、携帯電話を取り出し、ボタンを押す。
…―緊張する。
だけど、伝えなければいけない相手に、私はボタンを押した。
静かなフロアに、ドキドキと心臓の音が響くんじゃないかと思った。
:09/10/08 23:14
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#607 [あき]
数回のコールで相手に繋がった。
《…もしもし》
『あ…私ですっ。お疲れ様…』
明らかに不機嫌な声に、心臓がぎゅっと鳴る。それでも、平静さを装い言葉を続けた。
《今、何時!?何してたんだ?いい加減にしろ。バカにしてんのかっ!?》
『ごめん…えっと…』
怒りに満ちたその声に私は、言葉を探して、言葉を選んで、この現状を伝えた。
:09/10/08 23:19
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#608 [あき]
――
―――
《だから、前からそんな仕事辞めろって言ってるだろ。》
『だから…そんな簡単には…』
《何!?》
『ううん…。考えとくっ…』
《またそれかよ!考えとくじゃないだろ?たまには、俺の言う事を聞けよ!!》
『…はい。』
《とにかく、また電話しろ?俺、明日早いからっ。》
『…はい。お休みなさい。』
――
―――――
:09/10/08 23:25
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#609 [あき]
通話を終えると、また心臓がギューッと鳴った。だけど、また彼が眠ってくれた事により今夜は、もう電話がない事に安堵した。
西条さんは、今の私のこの状況をどう感じたのだろうか。
やり場のない感情。
確かに、入院したからと言ってすぐ来れる距離でもないし。
もし、彼と普通の距離で、その辺りにありふれたカップルだったとしても。この今、来られたからと言って私は、何も言えないだろう。
だけど、距離とかそんな事の前に、現状を知っても尚、言いたい事だけ言って最後に《寝るから》ってのはアリなのか?確かに、彼は仕事柄、ハンドルを握る。睡眠不足は大敵だ。だけど……
そう、ふと感じる。
:09/10/08 23:35
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:haJuWVKA
#610 [あき]
おまけに、またあの話。一方的に、かつ傲慢な彼の感情。
彼は、あの一件以来、私に強く退職を求めるようになった。
そんな思いをするくらいなら、退職して自分の住む街に来いと。
毎夜毎夜、そう言った。
住む場所はある。
もう仕事なんてしなくていい。
家にいればいい。
彼が私に求めたのは。
確実なる私という人間だった。
:09/10/08 23:45
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