微妙な10センチ。〜最終〜
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#627 [あき]
じゃあねと電話を切って、廊下を進み与えられた消毒薬の匂いがするシーツに体を沈める。
白衣の天使が点けた枕元で淡く光る豆電球。
真っ白な天井を赤く染めていた。
まるで、私の心。
私の心はだらだらといつまでも血を流していた。
:09/10/17 23:17
:W64S
:e8FuzoDQ
#628 [あき]
――――――
《こっち来るんだよな?》
『それはいずれ、話が決まればであって、今すぐには無理だってば!』
《じゃぁ、それはいつだよ!?
早くそんな仕事辞めろって言ってるだろ?》
『そんなに簡単に出来る訳ないよ。
大変な事なんだよ?
どうしてわかってくれないの?』
《わからないのは、あきだろっ!!
もういいよっ!!好きにしろっ!!》
―――
また切られた。
一方的に。
今夜もまた。
もうウンザリ―…
:09/10/17 23:29
:W64S
:e8FuzoDQ
#629 [あき]
西条さんは
私が大切に守ってきた。大切で大好きで…
日々奮闘しながらも、誇りとプライドを持って、プロ意識で、ここまで這い上がってきた私の仕事を
【そんな仕事】
と言うようになった。
【そんな仕事】と言われる度に私の心は血を流す。
彼が何か言葉を発する度に、私の心は真っ赤な血を流した。
:09/10/17 23:35
:W64S
:e8FuzoDQ
#630 [あき]
退院してすぐ、彼は更により一層強く私を求めた。
首から名札ぶら下げて、スーツで全国各地を飛び回り、ポケットに入れた携帯電話が、ひきりなしに鳴る。
そんな私よりも。
大きな社屋で、与えられたデスクから発信される大量の書類を握りフロアを駆け抜ける。
そんな私よりも。
彼の住む街で、彼の住む家で、彼の帰りを健気に待つ【あき】でいる事を求めた。
:09/10/17 23:46
:W64S
:e8FuzoDQ
#631 [あき]
『貴方が、そっちで生きてきて作り上げた生活があるように、私にも18歳から過ごしてきて作り上げた生活があるの!』
《そんな事はわかってる!!》
『わかってないっ!!来いって言うのは簡単じゃんよっ!!言われてる方は、はいそうですか。じゃ行きます。で済む話じゃないんだってば!』
《そんな事言ってたら、いつまでも来れんだろうがっ!!》
『だから、待ってって言ってるじゃんかっ!どうして、直ぐに答えを欲しがるのよっ!!』
:09/10/17 23:56
:W64S
:e8FuzoDQ
#632 [あき]
《お前が、フラフラしてるからだろう!?》
『またそれ?私が何をしたって言うのよっ?毎日会社と家の往復だけじゃん!!』
《そうゆう意味じゃねーわっ!!》
『いい加減下らない妄想やめてよ!!妄想されて、毎日毎日怒鳴られて…たまんない!!
私にだって、仕事があって、付き合いがあるの!』
《ほらなっ!結局それだ!!付き合い付き合いって、チャラチャラしてるだろーがっ!それが気にいらねーって言ってるんだろ!!》
:09/10/18 00:03
:W64S
:.KfgSycM
#633 [あき]
西条さんは、もう歯止めが利かなくなっていた。
私の周囲に存在する、全ての異性に、嫉妬し、怒りに満ちた。
異性の友人なんて持っての他で。
相手がたとえ、ただの仕事仲間であったとしても、それが、たとえ父親程のオジサンでも、お爺さん程の還暦を過ぎた人でも。
許さなかった。
いや、許せないみたいだった。
今夜もまた、発端はそこだった。
:09/10/18 00:10
:W64S
:.KfgSycM
#634 [あき]
今夜、私はまた彼の逆鱗に触れたのだ。
些細な事だった。
街で偶然に出会した、取引先の課長さん。
推定年齢45歳。勿論妻子持ち。
仕事上よく顔を会わす、慣れたおじ様だ。
出会したからには、無視する訳にも行かず、私から声を掛けた。
軽い挨拶が、話は盛り上がり、一杯どうだと社交事例。
相手は取引先の課長さん。自分から声を掛けておいて、断る訳にも行かず、私は付いていった。
二時間ばかり、私は席を共にして、帰路についた。
:09/10/18 00:20
:W64S
:.KfgSycM
#635 [あき]
勿論、私にとって、この席は【会社人の付き合い】であり【個人の付き合い】ではない。
今後付き合っていく上での、互いの利益を考えての席なのだ。
二時間ばかし、ビールを飲み、焼鳥と数本つまみながら、世間話の中に仕事話を挟みつつ、円滑な関係を作り上げ、それではまた、と別れたのだ。
恐らく、今後、この課長と顔を合わした際には、スムーズに事が運ぶだろう。
この前はどうもなんて言いながら、焼き鳥美味しかったですなんて言いながら…
仕事はスムーズに終えられる。
:09/10/18 00:30
:W64S
:.KfgSycM
#636 [あき]
そう、そこには私情的感情は一切、蟻の脳みそ…いや、ミジンコの脳みそサイズもない。
確かに?
年功序列?
男女差別?
ビール一杯と、焼き鳥数本。
ご馳走にはなったけれど。
強いて言うならば、接待である。
【付き合い】
の何物でもない。
:09/10/18 00:34
:W64S
:.KfgSycM
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