微妙な10センチ。〜最終〜
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#681 [あき]
『…結婚…言われてる。こっちに来いって。』
『へぇ。』
『…それだけ?』
『世の中には物好きがいるもんだな。』
『…で…ですよねーっ?!〃』
なおちゃんの奏でるメロディが、胸に刺さる。
この、メロディ。
私達が毎日のように一緒にいた頃。
あの、なおちゃんの小さな城で、暇潰しに二人で見たあの古い映画。
さほど興味無かった映画だったのに。
エンディングには、二人で感動してて。
二人でちょっと泣いてて。
最近、熱心に練習しているメロディなんだよね。
:09/10/27 02:33
:W64S
:ZHpiXnGs
#682 [あき]
練習してる事には気付いていたけれど、空気を変えたくて、私は明るく言った。
『それ、あれじゃん?』
『そう、それ。』
そして、自分達の今の会話に違和感を感じ、数秒の沈黙の後、二人で目を合わせた。
『てかさ、私達今の会話成り立ったんだよね?〃』
『成り立ったのが、悔しいな〃』
二人で笑った。
:09/10/27 02:46
:W64S
:ZHpiXnGs
#683 [あき]
そんな空間がやっぱり心地好くて、なのに、こんなに心地好い空間を、私は掴めなかった…掴んでいられなかった。
自ら手放した。
なのに
止めて欲しくて。
まだ、微かに希望や期待なんかして。
どこまで、自分勝手な女なんだ―…
:09/10/27 03:04
:W64S
:ZHpiXnGs
#684 [あき]
なおちゃんの目を見ていられなかった。
上半身をゴロンと横たえたソファーの上。
下ろした足をプラプラさせながら、古ぼけたなおちゃんの部屋の空を見上げる。
『………』
『………』
妙な沈黙。
静かに流れる、新しいメロディ。
この曲も知っている。
なおちゃんの指から
完璧に弾きこなされる美しいメロディに、私は無言で耳を傾けた。
:09/10/27 03:14
:W64S
:ZHpiXnGs
#685 [あき]
よく弾いてくれるこのメロディ。
私が好きな曲としてなおちゃんは記憶している。
だけど…
本当は違う。
なおちゃんは知らない真実。
あれは再会した直後。
まだ、私が夜の世界に生きていた頃。
学力に弱い私はもっぱら邦楽派。
洋楽なんて、何言ってるのかサッパリわかりません!的ノリだったあの頃。
当時お気に入りだったアーティストがカヴァーをしていた洋楽アーティストのある一曲。
:09/10/27 03:37
:W64S
:ZHpiXnGs
#686 [あき]
その日、お店に顔を出してくれたなおちゃん。閉店までいたもんだから、ついでだと送った私の車内。
ドキドキの車内。
偶然にも、その一曲が流れた。
《おっ!いい曲聞いてる…って、カヴァーかよっ!原曲聞けよ〃俺、この曲好きなんだ。》
彼の好きな物は、何だって好きになりたかった。私は、その夜、原曲とやらを必死に調べた。それは、当時、名前も聞いた事のない知らない国のチンプンカンプンアーティスト。
:09/10/27 03:47
:W64S
:ZHpiXnGs
#687 [あき]
普段行かない洋楽アーティストコーナーで、全く知らない世界に呆然と立ち尽くし、めっぽう横文字に弱い私は、訳がわからなくなり、勢い余って、そのアーティストを、いっさいがっさい大人買いしてやった。
そして、携帯電話の着信音。当時、じわじわと流行りだした着信コール。全て設定を変える見事な馬鹿っぷり。
だけど、人間の記憶というのは、時に簡単にすり替えられる。
なおちゃんが好きだと言ったアーティストは。
いつしか、私も好きな曲として新たに、なおちゃんの記憶に埋め込まれてしまったのだ。
それが真実―…〃
:09/10/27 04:09
:W64S
:ZHpiXnGs
#688 [あき]
『久しぶりに、あれ聞きたいな!!』
『ああっ?あれ、コード難しいんだよ。』
『いいじゃん!練習〃練習!』
そんな想い出の詰まったメロディは、今の私には聞けない。
明るく、あっけらかんと、何事もないように,[あれ]と違う曲をリクエストしてみる。
なおちゃんもまた[あれ]は難しいんだと、ぶう垂れながら、ペラペラとページを捲った。
なおちゃんが鼻歌まじりに歌うこの曲。
私が、一番大好きな曲。
:09/10/28 04:08
:W64S
:RO.QxrWQ
#689 [あき]
昔も今も変わらず着信音に設定しているあの曲よりも、他のどんな曲よりも。
私には、この曲が一番大切で。
一番好きだなんて、なおちゃんは知らない。
騙されてやんのっ。
……
………
そりゃそうでしょ。
なおちゃんが、耳にする事はないんだから。
:09/10/28 04:15
:W64S
:RO.QxrWQ
#690 [あき]
初めてこの曲を聞いたのは、私達にとっては、大人になって二人きりで過ごす初めての夜だった。
切っ掛けは、何がどうなってそうなったのか、未だ思い出せない程、私の記憶は、ぶっ飛んでいるが。
なおちゃんと二人、カラオケ店にいた。
恐らく、店の後。
酔いに任せて、流行りの歌を唄いまくる私にしぶしぶ付き合って(いたと思われる)なおちゃん。
飽きた私は強引にマイクを渡した。
《俺、洋楽しか知らなぞ。》《いーから歌って!!》
確かそんな会話をした覚えがある。
これまたしぶしぶ(のはず)入力して流れ出したのは、優しいバラード。そして意味の解らない歌詞。
だけど、それに乗っかるように正しい音程で響くなおちゃんの歌声がそこにあった。
その声は
とっても綺麗で
とっても優しくて。
私の心を突き抜けた。
:09/10/28 04:30
:W64S
:RO.QxrWQ
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