微妙な10センチ。〜最終〜
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#370 [あき]
苦笑いで、彼女を振り返る。
彼女の眼差しは、とても熱かった。

『今日、お昼に電話あった人でしょ?』

『…うん』

『…なおちゃんじゃないね?』

『…うん』

さえちゃんは、そっかと呟くと、二人掛けの小さなダイニングテーブルに座った。
促されるように私も座る。
テレビの音がやけに大きく聞こえた。

⏰:09/08/26 16:21 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#371 [あき]
温かい紅茶を目の前に、私はポツリポツリと語り出しす。

なおちゃんと、いつしか、うまく行かなくなっていた事。
本当は凄く寂しかった事。
だけど素直に言えなかった事。
そんな時、出張先で、西条さんに出会った事。
とても楽しかった事。
とても救われた事。
心が傾いた事。
なおちゃんよりも、彼を選んだ事。
結果うまくいかなくなった仕事の事。
優しい彼の…強い一面。
戸惑いの日々。

言い出すと、何故かまた涙が出てきた。
彼を選んだあの日から、泣くまいと決めていた滴が、次から次へと溢れ出てきた。

⏰:09/08/26 16:33 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#372 [あき]
しばらくの静寂の中。
彼女の視線は、どこか悲しそうだった。

『…その西条さんの事好きなの?』

静かにそう聞かれる。
しばらくの沈黙。

『……好きだよ。』

私は、そう言った。
そんな私に、彼女は小さく細く溜め息をついて言った。

『…自分を抑えてまで一緒にいたい相手なんだ…』

それには答えられなかった。

⏰:09/08/26 16:54 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#373 [あき]
私はふっと笑って、席を立つ。
また換気扇の下、煙草に火をつけた。轟音の下、私の吐き出す煙がそれに吸い込まれていく。
彼女の言葉が胸をかきむしる。それを全て吸い込んで欲しかった。そんな私を彼女は、黙って見つめていた。
私達の間だけ、静かな時間が流れる。
ーブーン…ブーン…
そんな時、まさか、このタイミングでかと驚く程に、テーブルの上、置きっぱなしにしていた携帯電話が震える音が私達の間に響いた。時刻は日付も、もう数時間前に変わっていて、恐らく相手は…彼だ。あれ以降、何の連絡もしていない私への…怒りの電話だろう。煙草を消して、さえちゃんの横、置きっぱなしの携帯画面を見て彼女を見る。
彼女は、少し肩をすくめて頷いた。

⏰:09/08/26 17:12 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#374 [あき]
ーピッ
『はいっ…うん…うん…うん…ごめんなさい…うん…うんっ…わかった…うん…そんなんじゃ…ううん…うん…そだね…うん…ごめんなさい…じゃぁ。はいっ…』

電話が切れる。

私は、大きく溜め息をついて、かなりご立腹だわと苦笑いで答える。
さえちゃんは、怒る意味がわかんないと、苦笑いをしながら、肩をすくめた。

『彼は私の事心配してくれてるのっ…〃』

『それ、心配じゃなくて、信用されてないって事でしょっ?』

『…不安がりなんだよ〃』


そう答えるしか出来ない。
彼女は、小さく首を横に振って、違う。とたった一言呟いた。

⏰:09/08/26 17:22 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#375 [あき]
『さっきの電話で思えた。
あのね?好きな人からの電話って、もっと楽しいはずなのっ。嬉しいもんなの。
だからね、どうしても、表情に出ちゃうもんなのよ。
でも、あきは、お昼も、今も、ちっとも楽しそうじゃないっ。
その彼、あきの好い所、全部消してるじゃん。
電話してる、あきの顔。
怖いよ?鏡見てみ?
どう見ても、恋してる女の顔じゃない。
まだ、なおちゃんと電話してる時の方が喧嘩しながらも、楽しそうだったよ?
幸せそうだったよ?
幸せってそうゆうもんだよ?
作るもんじゃないの。
にじみ出るもんなの。
ねぇ…あき、このままじゃ、壊れちゃうよ?ねぇ?いいの?これでいいのっ?』

さえちゃんは涙ながらに、そう全身で伝えてくれた。
私は、何も言えなかったー…

⏰:09/08/26 17:48 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#376 [あき]
自宅に戻ると、時刻は真夜中。
あと数時間で夜が明ける。
部屋に入り、暗闇の中、携帯電話を握る。
さすがに寝てるだろうと思った。起こしてしまう事もわかった。だけど、今、しない事により事態は悪化する事もわかっている。一息ついて深呼吸をして、私は発信ボタンを押した。
真夜中のコール。耳から全身に緊張が駆け抜ける。
数回のコールで彼は出た。

《もしもし。》

『あ…起こした?今、帰ってきたからっ。』

《……ほら、結局、朝じゃん。お前は、本当に約束を守れない女なんだなっ。》

恐らく、起きていた。
彼は怒りで起きていたんだ。
そして、こう言った。

⏰:09/08/26 23:31 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#377 [あき]
『…ごめんなさい…。楽しくって…つい…』

《…朝帰りはしないって言ったろ?》

『…うん…でもっ…久しぶりに会った友達で…』

《待ってる俺の事考えた事ある?どんな気持ちだったのか、わかってんのかよっ!!》


泣きたくなった。
もう疲れた。
そう言いたくなった。

あなたは、私から何もかもを奪うの…?

⏰:09/08/26 23:36 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#378 [あき]
《なんも連絡してこないでっ!!何考えてんだよっ!!》


やってんじゃん…
毎日、毎日…
起きたよ。
今から仕事行くよ。
今昼休みだよ。
今休憩だよ。
今終わったよ。
今から帰るよ。
今着いたよ。

一生懸命やってんじゃんっ…。

前から言ってたじゃん。
久しぶりに会うんだって。
楽しみなんだって。
大好きなんだって。
そう言ってたじゃん…

どうして?
どうして、わかってくれないの…?

⏰:09/08/26 23:45 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


#379 [あき]
『…もうヤだ…もういい…』

一気に涙が溢れた。
さえちゃんに言われた言葉が、胸を駆け巡る。

『もう、こんなのヤダよ…西条さん、毎日イライラしてるじゃん…』

《もういいって何だよっ!!イライラさせてんのは誰だっ!!》

彼は電話の向こうで怒鳴った。

『…大きな声出さないでよ…もうやだよ…もういい…』

嫌だ。
あんなに優しかった西条さん。そんな彼の、あの姿はもうない。私と一緒にいると、怒りに満ちる。それも悲しかった。

⏰:09/08/26 23:52 📱:W65T 🆔:7GfJ8U0o


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