微妙な10センチ。〜最終〜
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#431 [あき]
改札を抜けて、ホームに立つ。ざわつく人達の中で、一人立っていると、何だか、三日間のざわついた心が、溶け込んで少しだけ晴れた気分になった。
もうここには来ないだろう。
西条さんが生きる街は、辛すぎる。
もう会わない方がいいんだ。
そんな事をふと感じる。
周囲を確認して、一番近い待合室に入り、腰を下ろした。
出張が多くなり、移動距離が長くなりだした頃、時間潰しの為と鞄に入れた小説を久しぶりに出して頁を開く。
久しぶりに読んだ話は数頁前に戻らないと、ちっとも理解できなかった。
:09/09/15 03:59
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#432 [あき]
数頁前に戻り、そうだったと、さぁこれからだと、やっと本の世界に集中しだした頃、とんだ邪魔者が入る。
私は、活字を目で追いながらポケットに手を突っ込み、震える携帯電話を取り出した。
画面を見て
バクンと胸が鳴った。
まさかと思った。
―西条さん―
画面に記された活字に、心臓が縮む。
しばらく見つめて、そっと通話ボタンを押した。
:09/09/15 04:04
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#433 [あき]
『…もしもしっ。お疲れ様ですっ。』
ついつい業界用語で挨拶をした。
《お疲れ様…。今、駅?》
『…はい。そーです。○×発ですから。』
《あー。そっか…》
ついつい敬語になる。
西条さんは、そんな私の言葉に、違和感なく話を進めていた。
:09/09/15 04:09
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#434 [あき]
《今、大丈夫か?》
『はい。どうかされました?』
《………んだよそれ。》
私のよそよそしい返しに、西条さんは、そう呟くと、何も言わなくなった。
また私は彼を傷付けたんだ。そう痛感する。
なのに、私は言葉を発する事も、この無言の電話を切る事も出来ずに、ただ携帯電話を耳に当て続けた。
当て続けて数分。
《あきは…俺との事どう思ってんの?》
思いもよらない言葉が私の耳を抜ける。
意識で
自分が今、あの温かいなまりのある方言で、そう言われている。
そう理解するのに数秒かかった。
:09/09/15 04:20
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#435 [あき]
『どうって……?』
一瞬にして、周囲の景色が白くなった。
誰の姿も目に入らない。ここが新幹線ホームの待合室だという事が、ウソのような感覚。
《……遊びだった?》
『……何を今更言ってんの?』
遊びか本気かなんてわからない。
ただ私は、あの時
西条さんとの未来を望んだだけだった。
終わりの来ない現実よりも、新しい未来を掴もうとしただけだった。
:09/09/15 04:28
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#436 [あき]
《……俺の事、好きだと思ってくれてた?》
『………』
《…遊びだったのか?》
『………』
《……何も答えてはくれないんだな。》
溜め息まじりに聞こえる彼の声に、答えられないんじゃない。
どう答えていいかわからなかった。
:09/09/15 04:33
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#437 [あき]
西条さんは、いつも答えを欲しがった。
いつも、いつも、私に愛を求めた。
だけど、私はそれに答えられなかった。
馬鹿な私は、彼が求める答えを出せなかったし、彼が求める愛の形がわからなかった。
どうしたら、彼が納得するのか。
どうしたら、彼が落ち着いてくれるのか。
どうしたら、彼が私を信じてくれるのか。
いつもわからなかった。
答えれば、答える程、彼を傷付けてしまった。
これ以上彼を傷付けたくなかった。
だから、彼が求める答えがわからず、私は何も言えなくなってしまったのだ。
:09/09/15 04:39
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#438 [あき]
《…どうして黙る?……わかったよ…なら、その気がないのに、その気になるような事しといて、見事に、あきにハマってく俺を見て心の中で、笑ってたって事?》
また電話の向こうで、なんだか、声が聞こえる。さすがに、とても、酷い事を言われたような気がした。
自然と涙が溢れる。
溢れた涙が視界を現実に戻した。
突然泣き出したスーツ姿の若い女に周囲の人は驚いた顔で、私を見ている。
無邪気に母親にじゃれてた子供は、ピタリと固まり、私の顔を覗き込む。
そうだ。ここは新幹線ホームの待合室。
なのに涙が止まらなかった。
:09/09/15 04:49
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#439 [あき]
『……馬鹿にしないでよっ。』
私が吐き出した言葉は、彼の心には届かなかった。
《ならどうだって言うんだ!?好きも嫌いも言えないんだろ!?馬鹿にしてんのは、どっちだっ!》
隣に座るサラリーマン風のおじさんは、電話口から漏れる彼の怒りの声に、少し顔をしかめた。
静かに新聞を折りたたみ、私の顔をちらりと横目で確認する。
公共の場所での
若い男女の痴話喧嘩。
いい迷惑な話だ。
サラリーマンはそう目で訴えてきた。
:09/09/15 04:56
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#440 [あき]
『…とにかく、今は話できない。』
涙声が必死に彼を説得にかかる。
《…どうしてっ!》
『ホームにいるのっ…』
《だからっ!》
『…お願いだから、落ち着いてよ…』
周囲の人々は、やれやれと言った顔で、我関せずの体制に入った。
『…また帰ったら電話するから…』
:09/09/15 04:59
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