微妙な10センチ。〜最終〜
最新 最初 全 
#531 [あき]
匿名さん。ありがとう!
――――――――
『なんで辞めないの?』
今突然に、そう言われた言葉を、私はかみ砕き理解するのに、少しの時間を要した。
『…え…?』
『おかしいでしょ。』
『……』
あの事件の翌日から一週間。
予定通り任せられた大役を何とか果たして、出社。後処理的デスクワークに追われ、一息着いたお昼過ぎ。
偶然にも出くわした同部署先輩に…突然にそう言われた。
:09/10/02 23:50
:W64S
:oKiBhd.g
#532 [あき]
『聞いたけどっ。大変な事しでかしたみたいじゃん』
ついさっき、廊下でバッタリと出くわした彼女。すれ違い様、会釈をする私を呼び止めてそう言った。
『…はい。ご迷惑おかけしました…』
私は、頭を下げる。
もっぱら部署内、いや、社内で、あの事件の話は出回っていて。
私は、頭を下げる。
事情を聞かれる度に、同じ話を何度も繰り返し、頭を下げた。
そして、また彼女もそう声をかけてきたのだ。私は立ち止まり、頭を下げた。
そして、たった今の発言に繋がる。
:09/10/02 23:56
:W64S
:oKiBhd.g
#533 [あき]
『…けっこうな損害でしょ?』
『…まだ正式な金額は割り出されてないんですけど。恐らくは。』
盗まれたのは、現金はもちろん。
売れば、いい値がつく代物に。
顧客の個人データ。
その他諸々は、金額で換算すると、おそらくは、とんでもない金額になるだろう。
もちろん、そこには、紛失さた事により、再度、集め直した経費も含まれる。
単純計算しただけで、私の給料では追いつかない位の損害額、経費だった。
:09/10/03 00:04
:W64S
:NSE6Ond6
#534 [あき]
『…ならさぁ。かなりの迷惑かけたのはわかるよね?』
『…はい。』
『なのに、どうしてまだいるの?』
『……』
『辞めないの?普通は、辞めるよね?』
『……すみません。』
彼女は、私を見つめる。その冷たい目に私は恐怖を覚え、ただ俯き、頭を垂れた。
:09/10/03 00:07
:W64S
:NSE6Ond6
#535 [あき]
『…どうして、あの仕事行ってんの?どうして、まだ来てんの?どうして仕事が決まってんの?』
『…すみません…』
私は、何度も頭を下げた。
確かに、あの事件の翌日。
変わる事なく、私は大役の案件を任された。
外されるのは覚悟していたが、何故か私がそのまま担当したのだ。
それどころか、その案件が一段落ついた今も、他にも抱えていた担当、案件、一向に外されず気配もなく。
私は、相変わらず毎日出社しては、与えられた仕事を、何とかこなす日々だった。
私自身が戸惑いの日々だったのだから、この質問は致し方ない事だろう。
:09/10/03 00:15
:W64S
:NSE6Ond6
#536 [あき]
『…正式な損害額が出るまでは処分は保留って事だと思うんです。私も、その覚悟はしてます。』
恐る恐る目を見つめ、相変わらずの冷たい目に、そう返事する事で、古の場をやり過ごそうとそう思った。
『ふーん…』
その覚悟とは、もちろん、責任問題による…依願退職と名のつく首切りだ。
『…それまでは任された仕事は最後までやり遂げるつもりです。』
:09/10/03 00:23
:W64S
:NSE6Ond6
#537 [あき]
『あっそう…。でもさ、普通は!担当辞退するよね?今のこの状況ならさ。』
念を押すようにそう言う彼女に、私は、ようやく、彼女の本来の目的を理解をする。
『…そうですね…申し訳ないです。それも考えておきます…』
彼女は、当たり前でしょうと最後に言い残し、冷たい目のまま、去って言った。
その背中に、お疲れ様でしたと挨拶を投げ掛けた。
廊下を曲がり、部署内へと消えた彼女。
その途端に全身の力が抜けて、へなへなと廊下に座り込む。
だけど、廊下を歩く彼女のヒールの音がいつまでも耳にこびりついて、握り拳に力が入っていた。
:09/10/03 00:32
:W64S
:NSE6Ond6
#538 [あき]
この大不況。
勿論、私達の業界にも、その煽りは的目で。
年々、私達の仕事は減り続けた。
この業界の私が就いた専門職種。
給与体形は、どこでも同じだろう。
基本給の上に、担当案件一本につき、それぞれ成功報酬。
その他諸々の手当が計算される。
一本単価は微々たる物でも、一ヶ月間積み重ねればなんとやら…。
月々の収入には、かなり影響する。
安月給の私達には、担当案件の数が命取りになるのだ。
それだ。
彼女はそれを言っている。
:09/10/03 00:51
:W64S
:NSE6Ond6
#539 [あき]
世の中、弱肉強食だ。
これは、動物界だけの話ではなく。
人間の世界にも当てはまる。
強き者が生き残り
弱き者は食われて、散る。
私は、牙を向けられたのだ。
餌が豊富にあった草原は、日照り続きで食料は年々減っていった。
空腹に我慢が出来なくなった動物達は。
仲良く暮らしてきた仲間ですら、牙をむき出し…弱き仲間を食う。
:09/10/03 17:42
:W64S
:NSE6Ond6
#540 [あき]
今、牙を向けられたのは私。
草原を取り仕切ってきた強者王者が。
次に餌を求めて目をつけたのは…
傷を追い、血を流しながら小さく丸まり洞穴で生死をさ迷う弱った仲間。
それに、ここぞとばかりに牙を向けたのだ。
…
……
今度は私が喰われるんだ。
そう直感した。
ある日突然、王者に食い付かれ。
逃げるヒマも反撃する間もなく…
喰われて散った仲間達。
皆の顔が浮かんだ…
:09/10/03 17:54
:W64S
:NSE6Ond6
★コメント★
←次 | 前→
トピック
C-BoX E194.194