微妙な10センチ。〜最終〜
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#537 [あき]
『あっそう…。でもさ、普通は!担当辞退するよね?今のこの状況ならさ。』

念を押すようにそう言う彼女に、私は、ようやく、彼女の本来の目的を理解をする。

『…そうですね…申し訳ないです。それも考えておきます…』

彼女は、当たり前でしょうと最後に言い残し、冷たい目のまま、去って言った。
その背中に、お疲れ様でしたと挨拶を投げ掛けた。
廊下を曲がり、部署内へと消えた彼女。
その途端に全身の力が抜けて、へなへなと廊下に座り込む。
だけど、廊下を歩く彼女のヒールの音がいつまでも耳にこびりついて、握り拳に力が入っていた。

⏰:09/10/03 00:32 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#538 [あき]
この大不況。
勿論、私達の業界にも、その煽りは的目で。
年々、私達の仕事は減り続けた。

この業界の私が就いた専門職種。
給与体形は、どこでも同じだろう。
基本給の上に、担当案件一本につき、それぞれ成功報酬。
その他諸々の手当が計算される。
一本単価は微々たる物でも、一ヶ月間積み重ねればなんとやら…。
月々の収入には、かなり影響する。
安月給の私達には、担当案件の数が命取りになるのだ。

それだ。
彼女はそれを言っている。

⏰:09/10/03 00:51 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#539 [あき]
世の中、弱肉強食だ。
これは、動物界だけの話ではなく。
人間の世界にも当てはまる。

強き者が生き残り
弱き者は食われて、散る。

私は、牙を向けられたのだ。

餌が豊富にあった草原は、日照り続きで食料は年々減っていった。
空腹に我慢が出来なくなった動物達は。
仲良く暮らしてきた仲間ですら、牙をむき出し…弱き仲間を食う。

⏰:09/10/03 17:42 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#540 [あき]
今、牙を向けられたのは私。
草原を取り仕切ってきた強者王者が。
次に餌を求めて目をつけたのは…

傷を追い、血を流しながら小さく丸まり洞穴で生死をさ迷う弱った仲間。

それに、ここぞとばかりに牙を向けたのだ。


……

今度は私が喰われるんだ。


そう直感した。

ある日突然、王者に食い付かれ。
逃げるヒマも反撃する間もなく…
喰われて散った仲間達。

皆の顔が浮かんだ…

⏰:09/10/03 17:54 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#541 [あき]
一息ついて、深呼吸して、扉の前に立つ。
窓ガラスの向こう。
皆が忙しそうにカチカチとパソコンと睨み合っていた。
ノブに手をかけて扉を開く。その扉はとても重かった。
静かに開いた扉。
一瞬、皆の視線が自分に向いた気がする。
びくりと体が強ばった。
それでも、私はデスクの間をすり抜けて、自分のデスクに座る。

カタカタカタカタ―…プルルプルルプルル―…

今まで何気なく聞いていた心地好い音。
それが今は
頭をガンガンと打ち付けていた。

⏰:09/10/03 21:22 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#542 [あき]
―――――

『それでね…今日…』

真新しい携帯に掛かってきた、日常的な夜の恒例西条さん電話。
私は、今日のあの出来事を伝えようとした。

いや、聞いて欲しかったのかもしれない。
何時間も前からタイミングを見計らっていた。
そして今。
一方的に話続ける彼の話の中で、やっと見つけ出したタイミング。
思い切って、切り出した。

⏰:09/10/03 21:36 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#543 [あき]
《んぁぁ?》

『今日、実はさ…』

《…あー!また明日俺、○×だしっ!》

『あ…そうなんだ!大変だねぇ〃』

西条さんは、私の声に返事をするや否や、被せるように、突然また自分の明日の仕事の話にすり替える。

いや、本人はすり替えたつもりはないんだろう。

いるよね?こうゆう人。基本、人の話聞かないってゆうか…。目に入ったもの。思い浮かんだもの。そのまま、突然に口に出す人。

彼もまたそのタイプだった。

⏰:09/10/03 21:39 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#544 [あき]
また私の話は腰を折られた形になり…
彼の話の聞き役に回る。

『そっか…大変だねっ…。』

《ったく!人使い荒いって思わないか?》

『あはは…そだね〃』

ねぇ。西条さん。
気付いてよ。
私のこの気持ち。

今、私ね。
大好きな仕事で
大失敗してさ。
すごく落ち込んでるの。すごく悲しいの。

聞いて欲しいんだ…
私の話を…

⏰:09/10/03 21:44 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#545 [あき]
《で?あきは?あれからどうなった?》

『あ…うん…。結構大変かもっ…。』


またこれも突然に、彼がそう言った言葉。
だけど、彼もまた、きちんと私の事を心配してくれている事が嬉しかった。

《話はついたの?》

『まだ…損害額が、まだ決まらないみたいでさ〃』

《そっか。》

⏰:09/10/03 21:47 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


#546 [あき]
《まぁ、仕方ないよな。じゃ、俺、そろそろ寝るわっ!》

『え…あ…うんっ。』

《あきも早く寝ろよ!携帯は耳元に置いとけよっ!》

『うん。わかってるって…』

《あきは、ほっといたらすぐ、遊びに行くから!あはは〃じゃ、また朝電話するなっ!おやすみ〃》

『うん。おやすみ。』


そう言って、一瞬にして電話は切れた。
私の話題は、たった三十秒。―仕方ない―
の一言で片付けられて。終わった。

⏰:09/10/03 21:53 📱:W64S 🆔:NSE6Ond6


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