微妙な10センチ。〜最終〜
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#567 [あき]
【ほーか。】
即座に返事が返ってくる。何の言葉もない。
たった一文字。
もう少し、何か言葉は無いものなのかと、少々落ち込むけれど。
なのになんだか、ほっとする。
【ほーよ。ただ、損害額は返済だって。】
直ぐ様、返事。
【いくら?】
珍しく、何度も返事が返ってくる。
しかもクエスチョンマークまでついて。
私は、さっき言われたばかりの損害額を画面に綴る。
私の給料では、到底払えない額。
結局、給料天引きの月賦払いにサインした、その金額を打ち込んで送信した。
:09/10/05 00:08
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#568 [あき]
その金額に、彼もさすがに驚いたのか、少しの間があく。
冷やかしかよと諦めて、よいしょと立ち上がり、トイレの扉を開きかけたその時、また返事が返ってきた。
【払えるのか?】
まさかの言葉に再び、トイレに戻り私は画面に文字を打ち込んだ。
【払えるわけないじゃん。当分ただ働きだなっ。】
私らしく。
私らしい言葉で。
そう伝えた。
:09/10/05 00:13
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#569 [あき]
そう返事を打ち込む事で、今度こそ返事は返ってこないと思った。
彼はいつも、一方的にメールを打ち切る。
彼いわく、返信の内容に自分が納得したら、返事するのが面倒らしい。なんとも自己中であるが、メールの相手が私であると、その自己中っぷりは、見事なまでに実行される。
彼との間で何通もメールをやり取りした覚えはこの数年。
いや、再会してから?一度たりとも無い。
パタンと携帯を閉じて私は、再びトイレの扉をあけた。
やっぱり返事は返ってこなかった。
:09/10/05 00:18
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#570 [あき]
デスクに戻り、今日の仕事の書類に目を通す。お気に入りのボールペンを取り出して、ファイルを開いた。
ここには、私の苦労の結晶が集結している。
ふと感じる。
与えられた仕事。
任された担当。
責任あるエリア。
全て、私の手の中に戻ってきた。
もう、取り上げられるかもしれないという不安も。
失なうかもしれないという恐怖も。
…無くなった。
また込み上げる気持ちをぐっと押し込む。
保証されたのだ。
私は、続けられる。
この大好きで大切なこの仕事を。
続けていいのだ。
会社からは
そう保証された。
:09/10/05 00:27
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#571 [あき]
ボールペンを握りしめ、書類に目を通す。
これから、私は誰よりも一本でも多く仕事をこなし、誰よりも長く働かなければならない。でないと、いつまでたってもただ働きだ。
決まってしまったものは仕方ない。
ただ、がむしゃらに働くのみなのだ。
気合いを入れて、デスクに向かった瞬間。
デスクの片隅でお気に入りのキャラクターが、大切そうに抱えてくれている携帯電話が震えた。
【無理するなよ。】
このタイミングで。
この言葉は卑怯過ぎだ。
いつも、なおちゃんはタイミングが悪すぎるんだから…
また泣けてくるじゃん。
:09/10/05 00:34
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#572 [あき]
周りの目を盗み、画面に文字を綴った。
再び込み上げる感情を押し込みながら、画面に精一杯の強がりを打ち込む。
【だけど、働かないと借金返せないもんね。】
送信する事数秒でまた返事。
今日のなおちゃんはえらくマメだ。
気持ちが悪い。
【なら頑張りな。骨は拾ってやる。】
思わず笑った。
思わず笑って…
…泣けた。
【心配してくれてありがとう。】
その返事を最後に、なおちゃんの返事は、返って来なくなった。
:09/10/05 00:50
:W64S
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#573 [あき]
だけど、世の中は、そんなに巧くは出来ていない。
忘れてた訳じゃない。
処分保留になった時点で。
辞めないと決めた時点で。
覚悟は決めていた。
負けない。そう決めた。
だけど
思いの外…
敵は強く。
また陰湿だった。
じわじわと、私の精神を痛めつけ続けた…
:09/10/05 03:43
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#574 [あき]
――――
(きたっ…いたたたたっ…)
最近は、もうどこが痛いのか、どうして痛いのかすら分からない。
ただ、痛みから逃げる為に愛飲しているその白く小さな錠剤。
最近では、役に立たないみたいで。
束の間痛みから解放してくれるけれど、たった数時間で、今度は痛みを倍増させて、また襲ってくる。
最近は唸るような激痛で、動けなる事もしばしば。
私は、まるで、サプリメントのように小さな白い錠剤を愛飲し続け、日々を過ごしている。
:09/10/05 03:55
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#575 [あき]
『またっ。…いい加減に病院に行きなさい!』
あの悪夢の大手ドラッグストアのライバル店。家から数キロ離れた、ドラッグストアに、立ち寄り、いつもの鎮痛剤を手に取った。
慌てたように、私の横に、ここの薬剤師が飛んで来る。
余りにも通い詰めた為、最近では、めっきり仲良しだ。
『だって忙しくて行けないしっ。てか、これより強くて即効性のある鎮痛剤あります?これも、もうあまり効かなくなっちゃって…〃』
あっけらかんと答える私に、少し頭の薄い中年薬剤師は、首を横に振った。
:09/10/05 04:02
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#576 [あき]
『あんたねぇ…もう中毒になってる!』
手に取ったいつもの鎮痛剤を、おじさん薬剤師は呆れた顔で言う。
『飲み方がおかしいと思うよ?買いに来る頻度が異常だ。いい加減にしないと、倒れるよ?売りたくない。』
奪いわれた、鎮痛剤をおじさん薬剤師は、しっかりと握りしめた。
『…わかったから。休みが出来たら病院に行く。でも…今は行けないのっ。だけど、痛くなったら仕事になんないから、持ってないと不安なんだって〃』
おじさんから強引に奪い返すと、私はレジへと向かう。アルバイトのお姉ちゃんが、薬剤師の顔を伺うように、機械に通した。その姿に気付かないふりをしながら、ここはもうダメだと。そう感じた。
:09/10/05 04:14
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