微妙な10センチ。〜最終〜
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#581 [あき]
仕方なく、私は場所を変えた。
そう。それが、さっきのドラッグストア。
初めて会った時。
あのおじさん薬剤師は、常備している薬が効かなくなったと説明すると、この運命的な錠剤を教えてくれる。
なにやら、他の錠剤とは成分が違うと言いながら、飲み方には注意してくれと。
そう一言添えて、私に差し出した。
いざ、飲んでみると他の錠剤より少し大粒で飲み辛かったそれは、面白いくらいに、即座に私から苦痛を取り除いてくれた。
よくテレビで聞く台詞。
スーッと痛みが引く。

まさしく、こんな感じ。

⏰:09/10/06 18:53 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#582 [あき]
やっと出会えたと思った。
しかし、さすがに私も成分が違うだの、少し大粒だの、少々お高めだので…始めは躊躇した。

けれど、時間が経つにつれ、痛みは増すばかりで、気付けばもう頭痛どころか、胃痛。胃痛どころか、あっち。あっちどころか、こっち。
とまぁ、その名の通り、あっちこっちに激痛を覚え始めた私の体。
その度に万能なこの錠剤ちゃんは、痛みを緩和し続けてくれた。
だけど、そうなってくると、たった一箱、24錠では追いつかない。

わかっていた…
飲み過ぎだって…

だけど、唸るような痛みには耐えられなかった。

⏰:09/10/06 19:09 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#583 [あき]
―――――――

『…ゲホッ…』

今日もまた、痛みに耐え兼ねて、トイレに走る。
そして、痛みに悲鳴を上げている私の体は、胃袋の中の全てを吐き出した。
吐き出したそれを涙眼で見て、思わず声が漏れた。

『…あちゃ…』

吐き出した液体が赤く染まっている。
それを見ない事にして、ふらふらと立ち上がり私はフロアに戻った。

⏰:09/10/06 19:14 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#584 [あき]
『どこ行ってたの!?早く済ませてよねっ!お昼行けないじゃないっ!』

『はいっ…。先にどうぞっ〃残りは、私がやっておきますからっ。』

『ったく…無理なら、担当外してもらえばっ!?』

『ははは…〃頑張りますっ。』

相変わらず、大御所達の愛の鞭は集中的に私に降り注ぐ。
そして、事ある毎に意味ありげな言葉を投げつけられる。
気付かないフリをしていても。
辞めろ、辞めろ、と目が私を睨み付続けていた。

⏰:09/10/06 19:21 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#585 [あき]
ふと、デスクの上、携帯電話がチカチカと光っている。
目を盗み、確認ボタンを押す。

【いい加減にしろよなっ!!昨日も今日も連絡取れないじゃないか!】

丁度、彼にしてみれば、朝の休憩時間。
怒りに満ちた文章に、私は指を動かす。

【ゴメンなさい。昨日は疲れて寝てしまってた。今朝は早かったから起こしたら悪いと思って。今日は会社にいるから、電話出来ないかも。】

⏰:09/10/06 19:25 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#586 [あき]
すると、直ぐ様携帯電話が震えた。

【何度もちゃんとしろって言ってるだろ!お前は約束も守れないのかっ!待つ身にもなれ!少しは俺の気持ちも考えろ!】

…まただ。

そう感じたけれど。
私はまた、周囲の目を盗み指を動かす。

【ごめんなさい。今、仕事中だから。また今夜電話します。】

パタンと携帯を閉じて、与えられた仕事に向かう。
きゅっと縮み、じんじんしくしくと胃が鳴っていた。

⏰:09/10/06 19:30 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#587 [あき]
昨夜、深夜に帰宅し泥の様に眠った。

今朝起きると、もう今や麻痺してしまったけれど、不在着信数は、数十件にも及び、私の所在を確かめる受信メールもまた数十件に及んでいた。
それらを無言で消去すると、言い返す気力すらないまま、また早朝の電車に揺られ、ここに来たのだ。

昨日から、彼の言葉に何の反応もしていないんだから、こうなる事は見えていた。

⏰:09/10/06 19:35 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#588 [あき]
(…だめだ…気持ち悪い…)

立ち上がり、フロアを抜ける。不思議に思われないよう。
自然に…自然に…。
廊下挟んだ向こう。
周囲を見渡し誰もいない事を確認してトイレに入る。
そしてまた苦痛を吐き出した。
もう吐き出す固形物なんてないけれど。
それでも、苦痛を吐き出し続けた。
吐き出した後は、そのまま隣の給湯室に入り、ポケットから錠剤を取り出しては、大量の水を飲み干す。

今朝は、いつもより増して頻度が高かった。

⏰:09/10/06 19:43 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#589 [あき]
そして、とうとう吐き出した苦痛が赤く染まる様になってしまったのだ。
だけど、私は、二度目もその赤い液体をじっと眺め、見なかった事にしようと、水と共に流した。
昔、聞いた事がある。
吐血には二種類あって、真っ赤なら大丈夫。どす黒かったら危険。
その時は、そうなんだと妙に納得して、良い事聞いたと得した気分になったもんだけど、どの基準で、真っ赤なのかどす黒いのかを聞くのを忘れていたのを今更ながらに気付く。
仕方がないので、今のは真っ赤だと自分に言い聞かせた。

⏰:09/10/06 19:52 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


#590 [あき]
時刻は、淡々と過ぎて、今日もまた夕刻になる。それでも、私は相変わらずデスクに広がる書類達と睨めっこ。

『あきっ!こっも出来る?』

突然に、デスク横に立ちはだかる女上司。
手には、新たな書類。
その一枚を眺めて直ぐ様返事した。

『あっ…はいっ。これなら、なんとか…』

『よしっ〃じゃ、あきに任せた。あんたは、ガンガン働いてもらわないとねーっ』

女上司は満足そうな笑みで、また束になったファイルをどかりと置く。

『頑張りますっ〃』

そしてまた今日も残業が決定。

⏰:09/10/06 23:18 📱:W64S 🆔:FhOlVLWI


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