微妙な10センチ。〜最終〜
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#571 [あき]
ボールペンを握りしめ、書類に目を通す。
これから、私は誰よりも一本でも多く仕事をこなし、誰よりも長く働かなければならない。でないと、いつまでたってもただ働きだ。
決まってしまったものは仕方ない。
ただ、がむしゃらに働くのみなのだ。
気合いを入れて、デスクに向かった瞬間。
デスクの片隅でお気に入りのキャラクターが、大切そうに抱えてくれている携帯電話が震えた。
【無理するなよ。】
このタイミングで。
この言葉は卑怯過ぎだ。
いつも、なおちゃんはタイミングが悪すぎるんだから…
また泣けてくるじゃん。
:09/10/05 00:34
:W64S
:e7EPmjxo
#572 [あき]
周りの目を盗み、画面に文字を綴った。
再び込み上げる感情を押し込みながら、画面に精一杯の強がりを打ち込む。
【だけど、働かないと借金返せないもんね。】
送信する事数秒でまた返事。
今日のなおちゃんはえらくマメだ。
気持ちが悪い。
【なら頑張りな。骨は拾ってやる。】
思わず笑った。
思わず笑って…
…泣けた。
【心配してくれてありがとう。】
その返事を最後に、なおちゃんの返事は、返って来なくなった。
:09/10/05 00:50
:W64S
:e7EPmjxo
#573 [あき]
だけど、世の中は、そんなに巧くは出来ていない。
忘れてた訳じゃない。
処分保留になった時点で。
辞めないと決めた時点で。
覚悟は決めていた。
負けない。そう決めた。
だけど
思いの外…
敵は強く。
また陰湿だった。
じわじわと、私の精神を痛めつけ続けた…
:09/10/05 03:43
:W64S
:e7EPmjxo
#574 [あき]
――――
(きたっ…いたたたたっ…)
最近は、もうどこが痛いのか、どうして痛いのかすら分からない。
ただ、痛みから逃げる為に愛飲しているその白く小さな錠剤。
最近では、役に立たないみたいで。
束の間痛みから解放してくれるけれど、たった数時間で、今度は痛みを倍増させて、また襲ってくる。
最近は唸るような激痛で、動けなる事もしばしば。
私は、まるで、サプリメントのように小さな白い錠剤を愛飲し続け、日々を過ごしている。
:09/10/05 03:55
:W64S
:e7EPmjxo
#575 [あき]
『またっ。…いい加減に病院に行きなさい!』
あの悪夢の大手ドラッグストアのライバル店。家から数キロ離れた、ドラッグストアに、立ち寄り、いつもの鎮痛剤を手に取った。
慌てたように、私の横に、ここの薬剤師が飛んで来る。
余りにも通い詰めた為、最近では、めっきり仲良しだ。
『だって忙しくて行けないしっ。てか、これより強くて即効性のある鎮痛剤あります?これも、もうあまり効かなくなっちゃって…〃』
あっけらかんと答える私に、少し頭の薄い中年薬剤師は、首を横に振った。
:09/10/05 04:02
:W64S
:e7EPmjxo
#576 [あき]
『あんたねぇ…もう中毒になってる!』
手に取ったいつもの鎮痛剤を、おじさん薬剤師は呆れた顔で言う。
『飲み方がおかしいと思うよ?買いに来る頻度が異常だ。いい加減にしないと、倒れるよ?売りたくない。』
奪いわれた、鎮痛剤をおじさん薬剤師は、しっかりと握りしめた。
『…わかったから。休みが出来たら病院に行く。でも…今は行けないのっ。だけど、痛くなったら仕事になんないから、持ってないと不安なんだって〃』
おじさんから強引に奪い返すと、私はレジへと向かう。アルバイトのお姉ちゃんが、薬剤師の顔を伺うように、機械に通した。その姿に気付かないふりをしながら、ここはもうダメだと。そう感じた。
:09/10/05 04:14
:W64S
:e7EPmjxo
#577 [あき]
車に飛び乗り、逃げるように、駐車場を抜け出た。
(中毒…か…〃)
確かに、あの薬剤師の言う通りだった。
初めて、あのおじさんと会話した時に勧められた、薬局で扱う中で一番強いと言われたこの錠剤。なんだか成分が、普通の鎮痛剤とは違うらしい。
裏面には
【一回一錠。一日二回が目安。六時間以上あけて下さい】
と書かれたその錠剤をおじさんは、飲み方には気をつけてと、念を押して、渡してきたのだ。
飲んでみると確かに、効能は今まで出会ったどの鎮痛剤よりも抜群で、私とは相性ばっちりだった。
:09/10/05 04:29
:W64S
:e7EPmjxo
#578 [あき]
その相性ばっちりの、麗しの鎮痛剤。
最近では、三日に一回。24錠入のそれを買いに来ている。
余りにも効能が良すぎて。
初めては守っていたそれも。
二錠、三錠…少しづつ量は増え。
六時間…五時間…少しづつ間隔は短くなった。
そして、今や私はまるでサプリメントのように飲み干しているのだ。
勿論、痛みを抑えたいからであって、決してサプリメントにしている訳ではないけれど、自分でも自覚していた。
:09/10/05 04:30
:W64S
:e7EPmjxo
#579 [あき]
初めは頭痛だけだった。これは持病。
わかっていた。
頻度が増すにつれ、仕事を抜け出し、一度病院にも行った。
安全で、かつ的確な処方された頭痛薬。
いつもの様に常備薬と、いざという時の頓服。一週間分のそれらを手にしたけれど、この二種類は、あっと言う間に無くなった。
それでも、治まる気配のない頭痛に、仕方なく、また抜け出し病院に行く。
更に強い薬が処方された。
だけど、また処方された一週間を、あっという間に飲み干した。
もう、付き合いきれないと思った。
そう何度も何度も、抜け出せない。
:09/10/06 18:38
:W64S
:FhOlVLWI
#580 [あき]
本来なら通院すべき事なのかもしれないが、たかが頭痛。
病院に行く事をやめた。
そして通勤路にある、小さな薬局へと入ったのが…今の始まり。
その時、薬剤師に勧められ手にした鎮痛剤は全く効力を示さず、簡単に飲み干した。
二度目…三度目…通い続け、これなら、これは、と飲み続けたが、全く効力を示さなかった。
四度目にして、そこの薬剤師は、私に薬を渡さなくなった。
同じ台詞。
《貴女の体は病院に行って根本から治さないと駄目だ。》
:09/10/06 18:45
:W64S
:FhOlVLWI
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