微妙な10センチ。〜最終〜
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#587 [あき]
昨夜、深夜に帰宅し泥の様に眠った。
今朝起きると、もう今や麻痺してしまったけれど、不在着信数は、数十件にも及び、私の所在を確かめる受信メールもまた数十件に及んでいた。
それらを無言で消去すると、言い返す気力すらないまま、また早朝の電車に揺られ、ここに来たのだ。
昨日から、彼の言葉に何の反応もしていないんだから、こうなる事は見えていた。
:09/10/06 19:35
:W64S
:FhOlVLWI
#588 [あき]
(…だめだ…気持ち悪い…)
立ち上がり、フロアを抜ける。不思議に思われないよう。
自然に…自然に…。
廊下挟んだ向こう。
周囲を見渡し誰もいない事を確認してトイレに入る。
そしてまた苦痛を吐き出した。
もう吐き出す固形物なんてないけれど。
それでも、苦痛を吐き出し続けた。
吐き出した後は、そのまま隣の給湯室に入り、ポケットから錠剤を取り出しては、大量の水を飲み干す。
今朝は、いつもより増して頻度が高かった。
:09/10/06 19:43
:W64S
:FhOlVLWI
#589 [あき]
そして、とうとう吐き出した苦痛が赤く染まる様になってしまったのだ。
だけど、私は、二度目もその赤い液体をじっと眺め、見なかった事にしようと、水と共に流した。
昔、聞いた事がある。
吐血には二種類あって、真っ赤なら大丈夫。どす黒かったら危険。
その時は、そうなんだと妙に納得して、良い事聞いたと得した気分になったもんだけど、どの基準で、真っ赤なのかどす黒いのかを聞くのを忘れていたのを今更ながらに気付く。
仕方がないので、今のは真っ赤だと自分に言い聞かせた。
:09/10/06 19:52
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:FhOlVLWI
#590 [あき]
時刻は、淡々と過ぎて、今日もまた夕刻になる。それでも、私は相変わらずデスクに広がる書類達と睨めっこ。
『あきっ!こっも出来る?』
突然に、デスク横に立ちはだかる女上司。
手には、新たな書類。
その一枚を眺めて直ぐ様返事した。
『あっ…はいっ。これなら、なんとか…』
『よしっ〃じゃ、あきに任せた。あんたは、ガンガン働いてもらわないとねーっ』
女上司は満足そうな笑みで、また束になったファイルをどかりと置く。
『頑張りますっ〃』
そしてまた今日も残業が決定。
:09/10/06 23:18
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:FhOlVLWI
#591 [あき]
あの時、彼女が言った《大丈夫よ》は、これも意味する。
首切りになんてさせない…大丈夫よ。
担当は続けてもらう…大丈夫よ。
これからも変わらず…大丈夫よ。
勿論、今の私があるのは、私の上司、フロア責任者である彼女が、あの夜、あの日、どれだけ守ってくれたのか。
そしてまた、莫大な負債を背負った私の生活を、どれだけ気にしてくれているのか。
わかっていた。
彼女には、感謝してもしきれない。
だけど
彼女のこの大丈夫よが。私はまた苦しめる原因でもある事に、彼女は気付いてはいなかった。
:09/10/07 00:44
:W64S
:qvWtMHFU
#592 [あき]
もう、残業組が数名残るフロアで、新たに与えられた案件の書類に目を通す。
これなら、あと数時間もあれば、片付きそうだ。
私は、んーっと伸びをして、廊下に出た。
あの錠剤が効いているのか、今はとても気分が楽。
暗闇の中、廊下の片隅に置かれた淡い光に誘われて、ポケットからコインを入れた。
カタンと音がして、温かい珈琲が落ちてくる。取り出して、隣の扉を開け、隔離されたそのスペースで、煙草に火をつける。
:09/10/07 00:49
:W64S
:qvWtMHFU
#593 [あき]
スイッチの入った機械に白い煙が吸い込まれていくのをぼうっと見つめる。甘い甘い珈琲をグビリと飲んで、ほっと息をつく。
(大丈夫…大丈夫…)
そう自分を励ましながら、くしゃりと煙草を押し消して窓から見える外のネオンを眺めてみる。キラキラ光るネオンは、何も変わってはいなかった。
もうしばらくしたら、この明かりも消えるだろう。そんな事を考えていると後ろで扉の開く音がした。
:09/10/07 01:19
:W64S
:qvWtMHFU
#594 [あき]
『あ…お疲れ様です…』
『お疲れ。』
その人物を認識した途端、急激に体温が上がり、ばくばくと心臓が物凄い速さで打ち始め、胃がきゅっと音を鳴らした。
『…まだ残ってらしたんですね〃』
それでも、私は笑顔を作り、話かけた。
『まね。』
たった一言、そう返された事により、また更に胃がぎゅっと縮まる。そして目の前で、無言で煙草に火をつけた、彼女…
猛獣一号に。
怖い。やられる。
そう認識した。
:09/10/07 01:26
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:qvWtMHFU
#595 [あき]
『……』
『……』
無言で気まずい空気。
じゃあと、私は会釈をしてノブに手をかけた。
『あのさ』
『はいっ…』
きた―…
『私が、あの時言った意味わかる?』
:09/10/07 01:33
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#596 [あき]
『……はいっ。』
『なら、どうして、仕事受けてんの?』
彼女は、冷静に。
冷酷な事を言う。
『…すみません。』
『なに?借金背負ったから、仕事くれって言ってるわけ?』
『…いえ…。そんな事は…』
『だったら何?やっぱり媚び売ってるわけ?』
やっぱり…って何だよ…。
:09/10/07 01:36
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