微妙な10センチ。〜最終〜
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#61 [あき]
早々にチェックインを済ませると、会社から与えられた小さなシングル部屋に、私は荷物を置いた。
『一週間か…』
ここまで来て、まだ納得が出来ず、壁に挟まれ、圧迫感で立ち眩みがしそうな小さな部屋の中、ため息が漏れた。
ポケットから、携帯電話を取り出す。
『電波悪っっ!』
必死に、最後の短い一本がピコピコとついたり消えたりしている。
『致命的じゃない?』
何だか、とんでもない場所に一週間も閉じ込められた気分になった。
:09/07/10 02:22
:W65T
:VckcM2.Y
#62 [あき]
バックから、大切な携帯電話を取り出す。
やっぱり、こっちも、最後の短い一本が、せわしなくついたり消えたりしていた。
『ゃっぱりね…』
妙な諦めと
妙な納得。
思わず声が漏れた。
勿論、それは、この不安定な携帯電話の電波状況じゃない。
この不安定な私達自身の関係にだった…
:09/07/10 02:27
:W65T
:VckcM2.Y
#63 [あき]
―――――――
2日目の朝。
けだるさで目が覚める。
ビジネスホテルの朝食は、今の私には、食欲すらそそらない。
西条さんが迎えに来ると言った時刻の一時間前に無理やり目を開けた。
長い髪をガシガシと散りばめて、ドライヤーで引き伸ばす。
それを、手首にはめたゴムで一本に縛り付けて、くしゅくしゅっと丸めた。
手早く、後れ毛をまとめて、伸びすぎた前髪を、狭すぎるデコッパチの上でくるりと留めた。
:09/07/10 21:06
:W65T
:VckcM2.Y
#64 [あき]
そのまま、サブザブと顔を洗って、パシパシて化粧水を馴染ませる。
程よく浸透したら、今度は顔面ペインティングだ。
これは、たいした土台を持ち合わせていないので、20分もすれば、芸術作品は出来上がる。
昨夜、ハンガーにかけた衣類に再度、袖を通して、全身チェック。
最後に、スーツと髪のバランスを整えると。
……はい出来上がり。
叩き上げられて、押し付けられて、あれよあれよと、ここまで来てしまった。
三十路手前の女の姿。
:09/07/10 22:03
:W65T
:VckcM2.Y
#65 [あき]
そのまま、本日の任務に着く。ロビーに向かうと、約束の9時になる、15分前に西条さんが入って来るのが見えた。
私は珈琲を置くと、歩み寄って、本日一回目の営業スマイルを作り上げた。
『おはようございます〃』
私に気付いた、西条さんは、にこりと微笑んだ。
『おはようございます。お疲れは取れました?』
そう言った彼は、昨日とは、何だか、雰囲気が違う。
爽やかなブルーのシャツに身を包み、サングラスは透明のただの眼鏡に変わっていた。
『まぁ。〃』
こっちの方が似合うじゃん…。そう思っても言わない、結局、曖昧な返事で、その場を取り繕って、行きましょうか。と笑ってみせた。
:09/07/10 22:31
:W65T
:VckcM2.Y
#66 [あき]
詰め込みに詰め込まれた2日目スケジュール。
まさに時間に追われている感覚。
この現場が終われば、次の現場へと強制連行される。連行されるがままに、またひたすら営業スマイルを作り、ひたすら与えられた業務をこなす。
『もぉ無理ーっ!!』
休憩がてら立ち寄った緑の多い公園。
ベンチに、まさしく【大】の字になって、もたれかかって、ジリジリと上がる気温に叫ぶ。
『弁当食べる?』
そんな私に、いつの間にか用意してくれた、私の昼食。ただし弁当。
が手渡された。
:09/07/10 23:10
:W65T
:VckcM2.Y
#67 [あき]
『有難うございますっ〃』
食事イコール弁当。
この方程式が成り立つ場合。
だいたいが独り者。
この西条さんも例外ではないと、密かに確信した。
正直、私は惣菜弁当は苦手だけど、営業スマイルで、せっかくの好意を受け取った。
『隣、いいですか?』
顔に似合わず、妙な気遣いに、私は笑顔で、どうぞとベンチ脇に座り直す。
彼はガサガサと自分用の弁当を袋から取り出して、いただきますと、丁寧に、両手を合わせていた。
:09/07/11 22:51
:W65T
:mPQOWP3.
#68 [あき]
仕方なく、手渡された弁当を私も開けた。
見事な、ザッ幕の内。
取り揃えられた高カロリーかつ、カチカチのおかず達に、食欲を奪われる。
内心、げんなりしながら、パックの緑茶をちゅーちゅーと吸い込んだ。
吸い込みながら、チラリと隣を見ると、彼の口は、まるで、ブラックホールのように、次から次へと食べ物が吸い取られている。
よくもまぁ、この暑い中、この弁当を…
ちょっと笑える。
『食欲旺盛ですね…』
『ん?そうですか?』
『おいしい?』
『この弁当、なかなか美味いですよ〃』
『へーっ…』
:09/07/11 23:01
:W65T
:mPQOWP3.
#69 [あき]
初めててとも言える何気ない会話。隣の勢いに触発されて、一口、また一口とお弁当を食べる。たいして変わり映えのしない味だったけれど、なぜか美味しく感じた。
『ほんとですね〃』
『でしょ?〃』
突然、こんな所に飛ばされて、昨日会ったばかりのこの人と、なぜ、緑の豊かなこの公園で。木陰のベンチに座って、惣菜弁当を頬張っているのか。
なんだか、この滑稽さに笑いが込み上げた。
『ん?』
『いえ…〃』
気持ちいい風が、私達の間をすり抜ける。
ぐじぐじ悩んでる自分が馬鹿らしくなった。
西条 祐介。
彼の放つ風が、私を癒やしてくれた。
:09/07/11 23:30
:W65T
:mPQOWP3.
#70 [あき]
午後からの仕事もそつなくこなし…
というか、そもそも
まだまだ下っ端なのに、意に反して、現場を離れ知識だけを叩き込んでいる、しかも地方者の私より?
ベテランの粋に達するはずが、まだまだ現役で現場に立ち続けている、現地人の西条さんの方が
遥かに合理的かつ、スムーズかつ、何事にも詳しい訳で…
だけど、立場的には、私の方に権限がある訳で…
《…でいいですか?》
《…の方がいいと思いますが。どうしますか?》
私は結局、ただただ、言われる事に、うんうんと頷いているだけ。
彼に仕事をこなしてもらった。と言っても過言ではないのである。
そんな日中を過ごし、ホテルに戻ったのは、19時を回っていた。
:09/07/12 19:47
:W65T
:6jrEfyzs
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